聖騎士様は転移乙女にキスしたい。

豆狸

文字の大きさ
14 / 51

14・力の応用

しおりを挟む
「どうぞー」
「お邪魔するにゃ」
「お邪魔しまーす」

 入ってきたのはパイチェ君とベティーナちゃんだった。
 ベティーナちゃんは十二歳だそうです。
 中学生くらいだと思ってたから、大体当たり。元の世界ではひとりっ子だったので、なんとなく妹ができたみたいで可愛い。

「まれ人様、昨日はありがとうございました」
「助かったのにゃ」
「お役に立てたなら良かったよ。ベティーナちゃん達こそ、魔獣の死骸を食べられるキノコにしてくれたんだよね。朝、スープに入ってたのがそうなのかな?」
「そうなんだにゃ」
「すごく美味しかったよ、ごちそう様」
「えへへ。あ、そうだ。これ、パイチェを助けてくれたお礼です」

 そう言って、ベティーナちゃんが一輪の花を差し出してくれた。

「本当はもっといっぱいあったら良かったんだけど、大暴走スタンピードのせいで森の花畑が滅茶苦茶になってて……この花、蜜がすごく出るんです。まれ人様は甘いものがお好きだって聞いたので、オヤツにどうぞ」
「そうなんだ。……うん、すごく蜜が出るんだね」

 さすが異世界の植物は違う。
 わたしがベティーナちゃんから受け取った花は、花弁の間から蜜を滴らせ始めた。こんなに蜜が取れるのなら甘味は結構豊富なのかな。
 ベティーナちゃんが複雑そうな顔で首を横に振る。

「まれ人様、普通はそこまで出ません」
「そうなの?」

 ルーカスさんが苦笑を漏らす。

「陽菜様の活性化は、花にも効くようですね」
「そ、そういうことですか!」

 無意識に力を注いでいたらしい。
 ルーカスさんが朝食の後で用意してくれたお茶の茶碗に花を挿した。
 お行儀が悪いけれど、指についた蜜は舐めとる。

「うふふ、美味しい。あ、せっかくいただいたのでルーカスさんも良かったら」
「ありがとうございます」

 茶碗に挿した花の蜜をどうぞ、というつもりだったのだけれど、ルーカスさんはわたしの手を取って指先を舐めた。

「本当だ。とても甘くて美味しいですね」
「ル、ルーカスさん!」

 ベティーナちゃんが顔を赤くする。

「まれ人様と聖騎士様は恋人同士なんですか?」
「ち、違うよ、ベティーナちゃん。わたしとルーカスさんは昨日会ったばかりなんだから」
「恋に時間は関係ないって聞きますよー」

 くっ。ベティーナちゃん(12)、さては恋に恋する年ごろだな!
 ルーカスさんも笑ってないで否定してくれればいいのに。

「ルーカスさんは純潔の誓いを立てた聖騎士だから恋したり結婚したりはしないんだよ。そうですよね、ルーカスさん」
「還俗すれば問題ありませんよ」
「そうなんですか」
「はい」
「……あ、いえ、そうだとしても今は聖騎士じゃないですか」
「そうですね」

 うーん。ルーカスさんの真意がわからない。
 いや、いきなり異世界に来て沈んでいるわたしを元気づけようとして、からかってくれてるだけだよね。
 力の検証にも付き合ってくれてるし、良い人なんだよねえ。ん? そうだ!

「ルーカスさん、これまでありがとうございました!」
「……はい?」
「わたしの力、人間相手でなくてもいいみたいなので、この後はこの花でします。蜜がいっぱい取れたら、この神殿の食卓も豊かになりますよね? ルーカスさんの回復魔導で治ったとはいえ、聖騎士のみなさんも美味しくて栄養のあるものを食べたほうがいいでしょう。……そんなには出ないと思いますが、厨房でお鍋を借りてきて試してみます」

 確か蜂蜜は栄養たっぷりのはずだ。
 雨水と合わせてお酒も造れるんだっけ。松葉を入れて炭酸水にしたりもできるはず。
 学校でレポート書いたときに調べたんだよね。

「お時間取らせてすみませんでした。本当にありがとうございます。ベティーナちゃん、厨房に付き合ってもらってもいい?」
「はーい! でもまれ人様なら、お鍋いっぱいに蜜を出せるんじゃないですか?」
「パイチェも蜜舐めたいのにゃ」
「……陽菜様」

 低い声でわたしの名前を呼んだルーカスさんが、溜息をつく。

「まれ人様の世界では珍しいものではないのだと思いますが、こちらでの甘味は貴重な資源です。花の蜜を増やすことができるなんて知られたら、すごく目立ちますよ?」
「あ……」
「目立っちゃダメなんですか?」
「パイチェにはわかるのにゃ。あの犬妖精クーシーを呪具にしたヤツのように、人間には悪いヤツがいるのにゃよ」

 うむむむむ。役に立つと目立たないが並び立たないよう。

「ですが、陽菜様がご自分の力を理解していないというのも問題ですね。ベティーナ殿にお鍋を借りてきてもらって検証はしましょう。陽菜様さえよろしければ、私達聖騎士団が持ってきたことにしますよ?」
「あ、そうしてもらえるとありがたいです。なんか……なにを考えてもルーカスさんにご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑なんかじゃないですよ」

 ルーカスさんの笑顔が辛い。
 ……さっき舐められたのって、その前にわたしが舐めてた指だから間接キス?
 いやいや、そんなこと考えても仕方がない。コロ太には顔中舐められてたんだから、気にしない気にしない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...