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38・キスの後で
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王宮の大広間に通じる扉が開いて、赤毛のコルネリウスさんが現れた。
抱き合うわたし達を見て、気まずそうな顔になる。
ルーカスさんも気づき、わたしを抱き締めて彼の視線から隠してくれた。……うん。たぶん呆けた顔してるから、ありがたいです。
「お邪魔、ですよね?」
「……構いません。なにかありましたか?」
「ナール卿とベトリューガー卿がお帰りになる時間です。予定通り俺とイェルクが護衛について送り届けたので良いですか?……すいません。わざわざ報告するほどのことじゃなかったですね」
「いいえ、報告は大切なことです。……ナール卿は私がお送りしましょう」
「え?」
目を丸くしたコルネリウスさんを置いて、ルーカスさんがわたしの耳元で囁く。
「……陽菜様、失礼いたしました」
「い、いいえ……」
「お体は大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫、だと思います」
本当は少しフラフラしていたが、そこまで甘えてはいけないと思った。
彼のキスの真意もわからない。
強い魔力は人間を酔わせると言われたことが頭に浮かぶ。ルーカスさんのキスはわたしの、まれ人の強い魔力に酔ったからだったんだろうか。そんなつもりはなかったけど、純潔の誓いを立てた聖騎士のルーカスさんを惑わせてしまったのかな。だとしたら、申し訳なくて泣きたくなる。
「大変申し訳ありませんが、この後のエスコートはコルネリウスに代わってもらっても良いでしょうか?」
「団長っ?」
わたしより先にコルネリウスさんが驚きの声を上げた。
「わたしは……いいです。ルーカスさんの良いようにしてください」
色の薄い青灰色の瞳がわたしを映す。
ルーカスさんは一瞬泣きそうな顔をした後で、コルネリウスさんに言った。
「コルネリウス、陽菜様を頼みます」
「え、え、正気ですか、団長っ!」
「……ナール卿にご相談しなくてはならないことがあるのです。陽菜様、本当に申し訳ありません」
「いいんです。今夜はありがとうございました。ルーカスさんと踊れて楽しかったです」
繰り返されたキスで力の抜けた体に気合を入れる。
顔にも力を入れなくちゃ。
ルーカスさんと別れた後でわたしの様子がおかしかったら、ルーカスさんに悪い評判が立つかもしれない。ルーカスさんは清廉潔白な聖騎士で、わたしにキスしたのは──たぶんまれ人の強い魔力に酔っただけなのに。
ルーカスさんはどこか儚げに微笑んで、わたしをコルネリウスさんに預けて大広間へ戻っていった。
「……まれ人様」
「はい」
「大広間に戻れますか?」
「わたし、体調悪そうですか?」
「体調が悪いというか……えっと……」
「ちょっと人混みに酔ってしまって。ルーカスさんはなにも悪くありません」
わたしとキスしたことが知られて、ルーカスさんが聖騎士を辞めさせられてはいけない。
「大広間へ戻ります。コルネリウスさん、ちょっとだけ手をお借りしていいですか」
「ちょっとだけと言わずにいくらでも。なんなら腕ごとお貸ししますよ」
おどけて言うコルネリウスさんにお礼を言って、わたしは大広間へ戻った。
もうルーカスさんの姿も、コルネリウスさんが言っていたナール卿とベトリューガー卿の姿もない。
「陽菜!」
ユーニウス殿下がわたしを見つけて嬉しそうな顔で近づいてくるけれど、今は話したくないな。
彼のせいにするつもりはないものの、彼といたらまた魔力がおかしくなるかもしれない。
ルーカスさんを惑わしたのは嫌だった。でもほかの人を惑わすのはもっと嫌だ。良くないことだとわかっていても、この唇に残るルーカスさんの感触は忘れたくない。
「「まれ人様!」」
ユーニウス殿下がわたしに接触する前にふたりの美女が現れた。
南のクティノス共和国から来た元首代理の鹿獣人さんの補佐官で、犬獣人のサヴィナさんと猫獣人カシアさんだ。
コルネリウスさんを見ると、どうしたものか、という感じで首を傾げられたので、自己判断で美女と会話することにする。尻尾もフサフサだしね。
抱き合うわたし達を見て、気まずそうな顔になる。
ルーカスさんも気づき、わたしを抱き締めて彼の視線から隠してくれた。……うん。たぶん呆けた顔してるから、ありがたいです。
「お邪魔、ですよね?」
「……構いません。なにかありましたか?」
「ナール卿とベトリューガー卿がお帰りになる時間です。予定通り俺とイェルクが護衛について送り届けたので良いですか?……すいません。わざわざ報告するほどのことじゃなかったですね」
「いいえ、報告は大切なことです。……ナール卿は私がお送りしましょう」
「え?」
目を丸くしたコルネリウスさんを置いて、ルーカスさんがわたしの耳元で囁く。
「……陽菜様、失礼いたしました」
「い、いいえ……」
「お体は大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫、だと思います」
本当は少しフラフラしていたが、そこまで甘えてはいけないと思った。
彼のキスの真意もわからない。
強い魔力は人間を酔わせると言われたことが頭に浮かぶ。ルーカスさんのキスはわたしの、まれ人の強い魔力に酔ったからだったんだろうか。そんなつもりはなかったけど、純潔の誓いを立てた聖騎士のルーカスさんを惑わせてしまったのかな。だとしたら、申し訳なくて泣きたくなる。
「大変申し訳ありませんが、この後のエスコートはコルネリウスに代わってもらっても良いでしょうか?」
「団長っ?」
わたしより先にコルネリウスさんが驚きの声を上げた。
「わたしは……いいです。ルーカスさんの良いようにしてください」
色の薄い青灰色の瞳がわたしを映す。
ルーカスさんは一瞬泣きそうな顔をした後で、コルネリウスさんに言った。
「コルネリウス、陽菜様を頼みます」
「え、え、正気ですか、団長っ!」
「……ナール卿にご相談しなくてはならないことがあるのです。陽菜様、本当に申し訳ありません」
「いいんです。今夜はありがとうございました。ルーカスさんと踊れて楽しかったです」
繰り返されたキスで力の抜けた体に気合を入れる。
顔にも力を入れなくちゃ。
ルーカスさんと別れた後でわたしの様子がおかしかったら、ルーカスさんに悪い評判が立つかもしれない。ルーカスさんは清廉潔白な聖騎士で、わたしにキスしたのは──たぶんまれ人の強い魔力に酔っただけなのに。
ルーカスさんはどこか儚げに微笑んで、わたしをコルネリウスさんに預けて大広間へ戻っていった。
「……まれ人様」
「はい」
「大広間に戻れますか?」
「わたし、体調悪そうですか?」
「体調が悪いというか……えっと……」
「ちょっと人混みに酔ってしまって。ルーカスさんはなにも悪くありません」
わたしとキスしたことが知られて、ルーカスさんが聖騎士を辞めさせられてはいけない。
「大広間へ戻ります。コルネリウスさん、ちょっとだけ手をお借りしていいですか」
「ちょっとだけと言わずにいくらでも。なんなら腕ごとお貸ししますよ」
おどけて言うコルネリウスさんにお礼を言って、わたしは大広間へ戻った。
もうルーカスさんの姿も、コルネリウスさんが言っていたナール卿とベトリューガー卿の姿もない。
「陽菜!」
ユーニウス殿下がわたしを見つけて嬉しそうな顔で近づいてくるけれど、今は話したくないな。
彼のせいにするつもりはないものの、彼といたらまた魔力がおかしくなるかもしれない。
ルーカスさんを惑わしたのは嫌だった。でもほかの人を惑わすのはもっと嫌だ。良くないことだとわかっていても、この唇に残るルーカスさんの感触は忘れたくない。
「「まれ人様!」」
ユーニウス殿下がわたしに接触する前にふたりの美女が現れた。
南のクティノス共和国から来た元首代理の鹿獣人さんの補佐官で、犬獣人のサヴィナさんと猫獣人カシアさんだ。
コルネリウスさんを見ると、どうしたものか、という感じで首を傾げられたので、自己判断で美女と会話することにする。尻尾もフサフサだしね。
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