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最終話 愛するということ
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だけど、子どものことを思ったとき、私は愛されるために口を噤んで我慢することの無意味さに気づきました。
ポンテス伯爵家やペサーニャ侯爵家の領民を見捨てたと悪評を流されても、この腹の中の子が愛されず育ち、サラザール商会への人質として利用されることに比べたら大したことではありません。
跡取りに相応しくないとして追い出し、侯爵夫人として扱わなかったのはそちらのほうです。我が子を犠牲にしてまで、危害を加えてくる人々の尻拭いをするつもりはありません。
お腹の子はエンリケ様の子です。
妊娠が知られて出産すれば、当然ペサーニャ侯爵家の跡取りとして扱われます。
離縁出来ても連れて行くことは出来なくなります。母も、それでポンテス伯爵家から逃げられなかったのです。だから、知られる前に離縁しなくてはなりませんでした。
「どうしたの?」
下腹部を見つめる私に、ガウボンが尋ねてきます。
「……ペサーニャ侯爵家の跡取りとして生まれたほうが、この子は幸せだったかしら。私はこの子のためと言いながら、この子を不幸にしてしまったのかもしれません」
「身分が高ければ幸せってことじゃないと思うけどな。……嫉妬もあるけどさ、侯爵家のエンリケ坊っちゃんが、ミランダとミランダの子どもを大切にしてくれるとは思えないよ」
「そうですね。私もそう思います」
「俺さ、その子には感謝してるんだ」
「ガウボンがこの子に?」
「その子のおかげで、家や領民のことばかり考えて自分を不幸にしていたミランダが、やっと自分の幸せを考えてくれるようになったから」
「おかげ……」
そうですね。この子のために強くなったつもりでいましたが、この子のおかげで私は強くなれたのでしょう。
ガウボンとマリアは、ずっと私のことを心配してくれていました。
商人の家に生まれた平民の彼らは、家の雇用人のことを思いやらないわけではありませんけれど、貴族のように自分を犠牲にしてまで家や領地を守るという発想はありませんでした。
「ミランダが貴族としてゆとりのある生活をしていたのはサラザール商会の支援によるものだし、家臣は平民の娘って馬鹿にしてたし、領民は異母弟を苛めてるなんて噂を信じてミランダを嫌ってたし……なのに、犠牲になることだけ強要されるなんておかしいじゃん。ペサーニャ侯爵家だって、ミランダの持参金やサラザール商会からの支援金に見合う対応はしていなかった」
私もそう思いました。
サラザール商会の血族である私達は、きっと根っからの商人気質なのでしょう。
不良品は返品して、代金を返してもらわなくては納得出来ません。
「ミランダ。たぶんその子はミランダの愛だけで幸せだと思うけど、もし父親が欲しいって言い出したら、一番に俺が立候補するからね」
「ガウボン?」
「……ずっとミランダが好きだったんだ。女装して守りに来るくらいなんだから、わかるだろ? ミランダがエンリケ坊っちゃんに俺との仲を疑われたのは、夜会のときに迎えに行った俺が、ミランダへの想いを隠しきれていなかったからかもしれない。だったら……ごめん」
「気にしないで。でも父親候補のことは……この子次第ですわ」
私は下腹部を撫でました。
まだ子どもの動きは感じられません。お腹が大きくなって、妊娠に気づかれる前に離縁出来て、本当に良かったと思います。
さっきガウボンは私の愛がこの子を幸せにすると言ってくれたけれど、たぶんこの子のおかげで私のほうが幸せになるのでしょう。愛されたいと望むだけだった私に、愛することを教えてくれたのもこの子なのです。
ポンテス伯爵家やペサーニャ侯爵家の領民を見捨てたと悪評を流されても、この腹の中の子が愛されず育ち、サラザール商会への人質として利用されることに比べたら大したことではありません。
跡取りに相応しくないとして追い出し、侯爵夫人として扱わなかったのはそちらのほうです。我が子を犠牲にしてまで、危害を加えてくる人々の尻拭いをするつもりはありません。
お腹の子はエンリケ様の子です。
妊娠が知られて出産すれば、当然ペサーニャ侯爵家の跡取りとして扱われます。
離縁出来ても連れて行くことは出来なくなります。母も、それでポンテス伯爵家から逃げられなかったのです。だから、知られる前に離縁しなくてはなりませんでした。
「どうしたの?」
下腹部を見つめる私に、ガウボンが尋ねてきます。
「……ペサーニャ侯爵家の跡取りとして生まれたほうが、この子は幸せだったかしら。私はこの子のためと言いながら、この子を不幸にしてしまったのかもしれません」
「身分が高ければ幸せってことじゃないと思うけどな。……嫉妬もあるけどさ、侯爵家のエンリケ坊っちゃんが、ミランダとミランダの子どもを大切にしてくれるとは思えないよ」
「そうですね。私もそう思います」
「俺さ、その子には感謝してるんだ」
「ガウボンがこの子に?」
「その子のおかげで、家や領民のことばかり考えて自分を不幸にしていたミランダが、やっと自分の幸せを考えてくれるようになったから」
「おかげ……」
そうですね。この子のために強くなったつもりでいましたが、この子のおかげで私は強くなれたのでしょう。
ガウボンとマリアは、ずっと私のことを心配してくれていました。
商人の家に生まれた平民の彼らは、家の雇用人のことを思いやらないわけではありませんけれど、貴族のように自分を犠牲にしてまで家や領地を守るという発想はありませんでした。
「ミランダが貴族としてゆとりのある生活をしていたのはサラザール商会の支援によるものだし、家臣は平民の娘って馬鹿にしてたし、領民は異母弟を苛めてるなんて噂を信じてミランダを嫌ってたし……なのに、犠牲になることだけ強要されるなんておかしいじゃん。ペサーニャ侯爵家だって、ミランダの持参金やサラザール商会からの支援金に見合う対応はしていなかった」
私もそう思いました。
サラザール商会の血族である私達は、きっと根っからの商人気質なのでしょう。
不良品は返品して、代金を返してもらわなくては納得出来ません。
「ミランダ。たぶんその子はミランダの愛だけで幸せだと思うけど、もし父親が欲しいって言い出したら、一番に俺が立候補するからね」
「ガウボン?」
「……ずっとミランダが好きだったんだ。女装して守りに来るくらいなんだから、わかるだろ? ミランダがエンリケ坊っちゃんに俺との仲を疑われたのは、夜会のときに迎えに行った俺が、ミランダへの想いを隠しきれていなかったからかもしれない。だったら……ごめん」
「気にしないで。でも父親候補のことは……この子次第ですわ」
私は下腹部を撫でました。
まだ子どもの動きは感じられません。お腹が大きくなって、妊娠に気づかれる前に離縁出来て、本当に良かったと思います。
さっきガウボンは私の愛がこの子を幸せにすると言ってくれたけれど、たぶんこの子のおかげで私のほうが幸せになるのでしょう。愛されたいと望むだけだった私に、愛することを教えてくれたのもこの子なのです。
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URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/750518948
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