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「あはは、そりゃいいや」
アルトゥーロ殿下は吹き出しました。
「なんの証拠もない証言を鵜呑みにして、十年来の婚約者との婚約を破棄した挙句冤罪で処刑しようとした兄上は、確かに頭がおかしいとしか言いようがないよね」
「おやめください。……私が悪いのです。平民の母親を持ち、身分が低く妃として迎え入れられないマレディツィオーネを愛妾にするため、形だけの王太子妃になれと言われたのにもかかわらず、いつもエウジェニオ殿下と一緒にいるあの子に嫉妬してしまったのですから」
「……ジェラルディーナ……」
アルトゥーロ殿下は、なぜかとても悲しそうな顔で私を見つめます。
「君はもう兄上から離れたほうが良い」
「そうですよね。形だけの王太子妃を置くよりも、どこかの貴族の家に養女に出すかして正式にマレディツィオーネを娶ったほうが……」
「それは無理だよ」
「どうしてですか? あの子にはいくつかの醜聞がありますが、それがあってもエウジェニオ殿下はマレディツィオーネを愛しているのですよ?」
「愛していても無理だよ。死人とは結婚出来ない」
「なにをおっしゃっているのです?」
首を傾げた私に、アルトゥーロ殿下は噛んで含めるようにおっしゃいます。
「あの女は死んだんだ。半年前、自分が煽った近衛騎士達の決闘に巻き込まれて。だから兄上は恥知らずにも、君に再構築を申し込んだんじゃないか」
「死んだ。……死んだ? マレディツィオーネが死んだ? 嘘。じゃあ王宮へ来てから私が見ていたのは……あはは、は、は」
どうやら頭がおかしいのは私のほうだったようです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
変わらないはずだった私の心は、とっくの昔に変わっていたようです。
私はもうエウジェニオ王太子殿下を愛していません。
それに気づきました。
これまでの私はそれに気づきたくなかったのでしょう。
人の心が変わるだなんて、自分の気持ちさえ変わるなんて気づいたら、マレディツィオーネの母親を選んだ父やマレディツィオーネを選んだ殿下を認めざるを得ません。
それは同時に、自分が愛されていないと受け入れることでもありました。愛されていないとわかっているつもりでいながら、心の底ではその事実を拒んでいたのです。
私は、父や殿下の心の隅に私への愛情が残っていると信じたかったのです。
人の心は、想いは変わらないと、愛は永遠なのだと言い聞かせて自分を慰めたかったのです。
けれど体は正直でした。マレディツィオーネの存在がもたらしていると思っていた吐き気は、愛していない殿下といることへの嫌悪から生じていたのです。
アルトゥーロ殿下は吹き出しました。
「なんの証拠もない証言を鵜呑みにして、十年来の婚約者との婚約を破棄した挙句冤罪で処刑しようとした兄上は、確かに頭がおかしいとしか言いようがないよね」
「おやめください。……私が悪いのです。平民の母親を持ち、身分が低く妃として迎え入れられないマレディツィオーネを愛妾にするため、形だけの王太子妃になれと言われたのにもかかわらず、いつもエウジェニオ殿下と一緒にいるあの子に嫉妬してしまったのですから」
「……ジェラルディーナ……」
アルトゥーロ殿下は、なぜかとても悲しそうな顔で私を見つめます。
「君はもう兄上から離れたほうが良い」
「そうですよね。形だけの王太子妃を置くよりも、どこかの貴族の家に養女に出すかして正式にマレディツィオーネを娶ったほうが……」
「それは無理だよ」
「どうしてですか? あの子にはいくつかの醜聞がありますが、それがあってもエウジェニオ殿下はマレディツィオーネを愛しているのですよ?」
「愛していても無理だよ。死人とは結婚出来ない」
「なにをおっしゃっているのです?」
首を傾げた私に、アルトゥーロ殿下は噛んで含めるようにおっしゃいます。
「あの女は死んだんだ。半年前、自分が煽った近衛騎士達の決闘に巻き込まれて。だから兄上は恥知らずにも、君に再構築を申し込んだんじゃないか」
「死んだ。……死んだ? マレディツィオーネが死んだ? 嘘。じゃあ王宮へ来てから私が見ていたのは……あはは、は、は」
どうやら頭がおかしいのは私のほうだったようです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
変わらないはずだった私の心は、とっくの昔に変わっていたようです。
私はもうエウジェニオ王太子殿下を愛していません。
それに気づきました。
これまでの私はそれに気づきたくなかったのでしょう。
人の心が変わるだなんて、自分の気持ちさえ変わるなんて気づいたら、マレディツィオーネの母親を選んだ父やマレディツィオーネを選んだ殿下を認めざるを得ません。
それは同時に、自分が愛されていないと受け入れることでもありました。愛されていないとわかっているつもりでいながら、心の底ではその事実を拒んでいたのです。
私は、父や殿下の心の隅に私への愛情が残っていると信じたかったのです。
人の心は、想いは変わらないと、愛は永遠なのだと言い聞かせて自分を慰めたかったのです。
けれど体は正直でした。マレディツィオーネの存在がもたらしていると思っていた吐き気は、愛していない殿下といることへの嫌悪から生じていたのです。
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