この愛は変わらない

豆狸

文字の大きさ
2 / 6

しおりを挟む
 エウジェニオ王太子殿下の手を振りほどいて逃げて、私は中庭の片隅で低木の陰に隠れました。
 幼いころ王宮へ来て、かくれんぼをしたときに何度か隠れたことがある場所です。
 あのときは殿下に見つけていただくのが楽しみでたまりませんでした。でも今は見つけられたくありません。どうせ殿下はマレディツィオーネと一緒に来るのです。

 吐き気がします。
 再構築のために王宮へ来てから、何度吐いたかしれません。たぶん一日に一回は吐いています。
 仲睦まじい殿下とマレディツィオーネを見ていると食欲も失せたので、最近はもう吐くものもありません。ごめんなさいと呟いて、低木の根元に胃液を吐きます。それでも吐き気は収まりません。

「……大丈夫、ジェラルディーナ」

 聞き覚えのある声に体が硬直します。
 ですが幸いなことに、声の主は殿下ではありませんでした。
 王子様に違いはないのですけれど、第一王子にして王太子のエウジェニオ殿下ではなく第二王子のアルトゥーロ殿下です。私達よりひとつ年下で、去年学園を卒業したとき私に求婚してくださいました。声だけでなくお顔もとてもエウジェニオ殿下に似てらっしゃるのですけれど、私は彼からの求婚をお断りしました。

 婚約破棄されようと、極悪非道の毒婦と罵られようと、私はエウジェニオ王太子殿下を愛しているのです。
 この愛は永遠に変わらないのです。……本当にそうでしょうか?
 母を愛していたはずの父がマレディツィオーネの母親を我が家に引き入れたように、幼いころから婚約者だった私をエウジェニオ殿下が罵ったように、愛など幻ではないのでしょうか。人の心は、人の想いは、簡単に移り変わるものではないのでしょうか。

 私の気持ちだって──

「っ! も、申し訳ございません、アルトゥーロ殿下。私……私、は」
「無理に話さなくていいよ」

 そう言って、アルトゥーロ殿下はハンカチを渡してくださいました。
 飽きもせず流れ落ちる涙を拭って気がつきます。

「これは……」
「ふふっ、気がついた? そうだよ。昔、兄上に贈るハンカチの練習で僕の名前を刺繍してくれたハンカチだよ」
「まだお持ちだったのですね」
「捨てるわけないじゃない。僕は君が好きなんだから」
「去年の求婚は……」
「ああ、ちゃんと断られたって理解してるし、無理矢理迫るつもりもないよ。ジェラルディーナの兄上を好きな気持ちが変わらないように、僕も君が好きなだけ。ありがたいことに、今のところ縁談もないしね」

 王家の次男でありながらアルトゥーロ殿下には婚約者がいらっしゃいません。
 幼いころ病弱だったため、成人するとは思われていなかったのです。

「……ありがとうございます……」
「え?」
「ふふっ。私なんかを好きだと言ってくださるのはアルトゥーロ殿下だけです。エウジェニオ王太子殿下はもちろん、実家の父にとっても私は不要な存在ですから」
「そうかな」
「不要どころか、今度こそ処刑されてしまうかもしれません。二年前、冤罪を晴らしていただいたのに申し訳ありません」
「え? なにがあったの? 僕はジェラルディーナと兄上のお茶会に混ぜてもらおうとして歩いてたとき、君を見つけただけなんだけど」

 少し悩んでから、私はその言葉を口にしました。

「……エウジェニオ王太子殿下のことを頭がおかしいと言ってしまいました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私、悪役令嬢に戻ります!

豆狸
恋愛
ざまぁだけのお話。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

泣き虫エリー

梅雨の人
恋愛
幼いころに父に教えてもらったおまじないを口ずさみ続ける泣き虫で寂しがり屋のエリー。 初恋相手のロニーと念願かなって気持ちを通じ合わせたのに、ある日ロニーは突然街を去ることになってしまった。 戻ってくるから待ってて、という言葉を残して。 そして年月が過ぎ、エリーが再び恋に落ちたのは…。 強く逞しくならざるを得なかったエリーを大きな愛が包み込みます。 「懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。」に出てきたエリーの物語をどうぞお楽しみください。

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

初恋の結末

夕鈴
恋愛
幼い頃から婚約していたアリストアとエドウィン。アリストアは最愛の婚約者と深い絆で結ばれ同じ道を歩くと信じていた。アリストアの描く未来が崩れ……。それぞれの初恋の結末を描く物語。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

処理中です...