9 / 10
第九話 蘇った記憶
しおりを挟む
「……ガウリエーレ……」
「思い出してくれたんだね、ヴィオレッタ」
ガウリエーレは、私の義弟は悲しげに微笑みました。
そうなのです。
ガウリエーレは私の義弟なのです。ロンバルディ伯爵家の跡取りにするために、父が分家から引き取って養子にした方なのです。
──幼いころ、確かに私達は婚約者でした。
私がロンバルディ伯爵家の跡取りで、彼は当主となった私に婿入りする予定だったのです。
でも父が私を不貞の子と罵り、お母様と一緒に家から追い出したときに婚約は解消されました。なぜかすぐに連れ戻された後は、私の婚約者は目の前で杖を持った青年ダミアーニ様になったのです。
アマート侯爵家へ嫁入りする私の代わりに、分家の人間だったガウリエーレが父の養子にされて義弟となりました。
「この声は……それに、ヴィオレッタだって?」
船着き場の男性と話していたダミアーニ様が振り返りました。
「ダミアーニ様……」
彼と見つめ合う私の肩を隣に立つガウリエーレが抱き寄せました。
ジータは怒りを抑えきれない顔をしてダミアーニ様を睨みつけています。
彼女がダミアーニ様を憎んでいるのは、それは──
「ああ、ヴィオレッタ探したよ。僕が悪かった。もう君を愛さないなんて言わない。初めから君を愛していれば……ロンバルディ伯爵?」
「……ガウリエーレ、手を離してください。私はダミアーニ様の婚約者です」
これまで感じていた不安の理由がわかりました。
私の婚約者はガウリエーレではないのです。父が、先代ロンバルディ伯爵がそれを決めたのです。
たとえ一度は婚約者だったことがあったとしても今は違うのです。彼を愛してはいけないのです。
「違う。ヴィオレッタは僕の婚約者だ。……アマート侯爵が結婚をした時点で、彼と君との婚約は解消されている」
「え?」
どういうことなのでしょう。
ダミアーニ様を見ると、怯えたような表情で視線を逸らします。
いいえ、そもそも私はどうして記憶を失ったのでしょう。なにがあったのでしょう。川遊びをしていて、はしゃぎ過ぎたわけではなさそうです。
「それは……僕がクリミナーレと結婚したのは、ヴィオレッタが彼女を花嫁として寄越したから……」
「私が? いくらダミアーニ様に愛されないとわかっていても、そんなことはしません。私は彼女と話し合って、彼女がダミアーニ様を愛しているのなら私は三年間の白い結婚の後で離縁すると……」
告げに行ったのです。そして、それから?
「この船着き場で漕ぎ手なしの小舟を借りて下町まで下って、偶然見つけたクリミナーレさんに声をかけようとしたら、彼女は……」
頬に傷がある男と一緒に歩いていて、私はその男を知っていました。
直接会ったことはありません。
父が叫んでいたのです。お母様に雇われて自分を襲った強盗一味の頭領の特徴だと。その男のせいで自分は男でなくなり、愛しい女性と結ばれることが出来なくなったのだと。
お母様がそんなことをするはずありませんが、危険な男であることは間違いありません。
私は踵を返し、ジータと一緒に逃げようとしたのですけれど、クリミナーレさんに気づかれてしまいました。
貴族令嬢が下町で侍女とふたりきり、お忍びで来たことを一目で悟ったのでしょう。彼女は頬傷の男に言いました。
「……父さん、その女を捕まえて。そうしたらアマート侯爵家が手に入るわよ、と」
捕まったら酷い目に遭わされていたことでしょう。最終的には命も奪われていたに違いありません。
幸いまだ船着き場が、王都を流れる川が近くにありました。
漕ぎ手付きでも漕ぎ手なしでも小舟を借りる余裕などなく、私とジータは春のまだ冷たい川に飛び込んだのです。男の魔手から逃れるために。流されている途中で頭を打って記憶を失ったというのは、お母様とジータに聞いた通りです。お母様とジータは、真実をすべて伝えることで私が傷つくのではないかと案じて、ところどころ嘘を交えていたのでしょう。
「思い出してくれたんだね、ヴィオレッタ」
ガウリエーレは、私の義弟は悲しげに微笑みました。
そうなのです。
ガウリエーレは私の義弟なのです。ロンバルディ伯爵家の跡取りにするために、父が分家から引き取って養子にした方なのです。
──幼いころ、確かに私達は婚約者でした。
私がロンバルディ伯爵家の跡取りで、彼は当主となった私に婿入りする予定だったのです。
でも父が私を不貞の子と罵り、お母様と一緒に家から追い出したときに婚約は解消されました。なぜかすぐに連れ戻された後は、私の婚約者は目の前で杖を持った青年ダミアーニ様になったのです。
アマート侯爵家へ嫁入りする私の代わりに、分家の人間だったガウリエーレが父の養子にされて義弟となりました。
「この声は……それに、ヴィオレッタだって?」
船着き場の男性と話していたダミアーニ様が振り返りました。
「ダミアーニ様……」
彼と見つめ合う私の肩を隣に立つガウリエーレが抱き寄せました。
ジータは怒りを抑えきれない顔をしてダミアーニ様を睨みつけています。
彼女がダミアーニ様を憎んでいるのは、それは──
「ああ、ヴィオレッタ探したよ。僕が悪かった。もう君を愛さないなんて言わない。初めから君を愛していれば……ロンバルディ伯爵?」
「……ガウリエーレ、手を離してください。私はダミアーニ様の婚約者です」
これまで感じていた不安の理由がわかりました。
私の婚約者はガウリエーレではないのです。父が、先代ロンバルディ伯爵がそれを決めたのです。
たとえ一度は婚約者だったことがあったとしても今は違うのです。彼を愛してはいけないのです。
「違う。ヴィオレッタは僕の婚約者だ。……アマート侯爵が結婚をした時点で、彼と君との婚約は解消されている」
「え?」
どういうことなのでしょう。
ダミアーニ様を見ると、怯えたような表情で視線を逸らします。
いいえ、そもそも私はどうして記憶を失ったのでしょう。なにがあったのでしょう。川遊びをしていて、はしゃぎ過ぎたわけではなさそうです。
「それは……僕がクリミナーレと結婚したのは、ヴィオレッタが彼女を花嫁として寄越したから……」
「私が? いくらダミアーニ様に愛されないとわかっていても、そんなことはしません。私は彼女と話し合って、彼女がダミアーニ様を愛しているのなら私は三年間の白い結婚の後で離縁すると……」
告げに行ったのです。そして、それから?
「この船着き場で漕ぎ手なしの小舟を借りて下町まで下って、偶然見つけたクリミナーレさんに声をかけようとしたら、彼女は……」
頬に傷がある男と一緒に歩いていて、私はその男を知っていました。
直接会ったことはありません。
父が叫んでいたのです。お母様に雇われて自分を襲った強盗一味の頭領の特徴だと。その男のせいで自分は男でなくなり、愛しい女性と結ばれることが出来なくなったのだと。
お母様がそんなことをするはずありませんが、危険な男であることは間違いありません。
私は踵を返し、ジータと一緒に逃げようとしたのですけれど、クリミナーレさんに気づかれてしまいました。
貴族令嬢が下町で侍女とふたりきり、お忍びで来たことを一目で悟ったのでしょう。彼女は頬傷の男に言いました。
「……父さん、その女を捕まえて。そうしたらアマート侯爵家が手に入るわよ、と」
捕まったら酷い目に遭わされていたことでしょう。最終的には命も奪われていたに違いありません。
幸いまだ船着き場が、王都を流れる川が近くにありました。
漕ぎ手付きでも漕ぎ手なしでも小舟を借りる余裕などなく、私とジータは春のまだ冷たい川に飛び込んだのです。男の魔手から逃れるために。流されている途中で頭を打って記憶を失ったというのは、お母様とジータに聞いた通りです。お母様とジータは、真実をすべて伝えることで私が傷つくのではないかと案じて、ところどころ嘘を交えていたのでしょう。
1,370
あなたにおすすめの小説
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
殿下の婚約者は、記憶喪失です。
有沢真尋
恋愛
王太子の婚約者である公爵令嬢アメリアは、いつも微笑みの影に疲労を蓄えているように見えた。
王太子リチャードは、アメリアがその献身を止めたら烈火の如く怒り狂うのは想像に難くない。自分の行動にアメリアが口を出すのも絶対に許さない。たとえば結婚前に派手な女遊びはやめて欲しい、という願いでさえも。
たとえ王太子妃になれるとしても、幸せとは無縁そうに見えたアメリア。
彼女は高熱にうなされた後、すべてを忘れてしまっていた。
※ざまあ要素はありません。
※表紙はかんたん表紙メーカーさま
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
記憶が戻ったのは婚約が解消された後でした。
しゃーりん
恋愛
王太子殿下と婚約している公爵令嬢ダイアナは目を覚ますと自分がどこにいるのかわからなかった。
眠る前と部屋の雰囲気が違ったからだ。
侍女とも話が噛み合わず、どうやら丸一年間の記憶がダイアナにはなかった。
ダイアナが記憶にないその一年の間に、王太子殿下との婚約は解消されており、別の男性と先日婚約したばかりだった。
彼が好きになったのは記憶のないダイアナであるため、ダイアナは婚約を解消しようとするお話です。
旦那様、離婚してくださいませ!
ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。
まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。
離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。
今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。
夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。
それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。
お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに……
なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる