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第四話 縦ロール仲間
「アリーチェ様、あなたエルネスト様に婚約を破棄されたのですって?」
翌朝、学園の教室でそう絡んできたのはマルティネッリ侯爵家令嬢のベアトリーチェ様でした。
示し合わせたのではありませんが同じ髪型の縦ロール仲間です。
親しいわけではありません。ただ、ベアトリーチェ様は侯爵令嬢でありながら第二王子の婚約者、私は伯爵令嬢でありながら公爵令息の婚約者と身分を飛び越えた状況にあるのでふたりとも周囲に疎まれています。彼女は周囲に認められるため私を貶めて、自分は高位貴族側の人間だと主張していらっしゃるのです。
婚約破棄が知られているのは──学園の裏庭で言われましたからね、だれかが覗いていたのでしょう。
王都の社交界において、情報は最大の武器です。
もう王都の社交界とは無縁になりますので、ベアトリーチェ様に反撃して力を示す必要はありません。でも貶められるに任せるのも嫌な気分です。
ベアトリーチェ様は私を貶めるようなことを言いながら、いつも苦しそうなお顔をなさっています。
楽しそうなのは彼女の後ろにいる取り巻き令嬢と、関係ないような顔をして笑っている周囲の皆様です。高位貴族も低位貴族も、身分の壁を超える人間は嫌いなのです。
それが本人達の望んだことでないとしても。
「そうなんですよ!」
「はい?」
私は目いっぱい能天気な声を上げました。
黒髪のベアトリーチェ様を悪者にするのは嫌なので、私が莫迦になりましょう。
貶められて傷ついたところにネチネチとつけ込まれるよりも、ヤバイ莫迦だと思われて距離を置かれたほうがマシです。
「私、ロセッティ伯爵家のアリーチェはモレッティ公爵家のエルネスト様に婚約を破棄されてしまったんですの! エルネスト様狙いの方々、今が好機ですわよ! 私は年上で黒髪で、王都の社交界に顔を出すような身分ではない方と結婚することになりましたのでお気になさらないでくださいませ!」
実際はまだ新しい縁談のお相手は決まっていません。
婚約破棄自体が、まだ正式におこなわれたわけではありませんしね。
教室の隅でお友達のカルロ殿下とお話されていたエルネスト様が、私の声を聞いて目を丸くしていたような気がしますけれど、婚約破棄を言い出したのはそちらのほうです。むしろ私が来る前に説明不要なくらい教室に広めておいていただきたかったですわ。
「そ、そうですの……」
「婚約破棄されたなんて恥辱をそんなに嬉し気に」
「だから婚約破棄されたのですわ」
「……変なことをお聞きして申し訳ありませんでしたわ」
どんなときでも悪口を忘れない取り巻き令嬢と違い、ベアトリーチェ様は一応謝罪して去っていかれました。
ああ、これからはベアトリーチェ様への風当たりが強くなりそうですね。
お気の毒とは思いますが、私にはどうしようもありません。
もしこの世界が乙女ゲームだったとしたら、一番悪役令嬢の可能性が強いのはベアトリーチェ様です。第二王子殿下の婚約者なのですもの! その上ご自宅では、実の母君が亡くなられた後に入り込んできた侯爵の愛人とその娘──同い年の異母妹に苦しめられているとの噂です。
せめて卒業パーティで断罪なんてことにならないよう、こっそり気を配っておきましょう。
縦ロール仲間ですし、ベアトリーチェ様は高位貴族には珍しく前世を思い出した私にとっては懐かしい黒髪の持ち主でいらっしゃいますしね。
翌朝、学園の教室でそう絡んできたのはマルティネッリ侯爵家令嬢のベアトリーチェ様でした。
示し合わせたのではありませんが同じ髪型の縦ロール仲間です。
親しいわけではありません。ただ、ベアトリーチェ様は侯爵令嬢でありながら第二王子の婚約者、私は伯爵令嬢でありながら公爵令息の婚約者と身分を飛び越えた状況にあるのでふたりとも周囲に疎まれています。彼女は周囲に認められるため私を貶めて、自分は高位貴族側の人間だと主張していらっしゃるのです。
婚約破棄が知られているのは──学園の裏庭で言われましたからね、だれかが覗いていたのでしょう。
王都の社交界において、情報は最大の武器です。
もう王都の社交界とは無縁になりますので、ベアトリーチェ様に反撃して力を示す必要はありません。でも貶められるに任せるのも嫌な気分です。
ベアトリーチェ様は私を貶めるようなことを言いながら、いつも苦しそうなお顔をなさっています。
楽しそうなのは彼女の後ろにいる取り巻き令嬢と、関係ないような顔をして笑っている周囲の皆様です。高位貴族も低位貴族も、身分の壁を超える人間は嫌いなのです。
それが本人達の望んだことでないとしても。
「そうなんですよ!」
「はい?」
私は目いっぱい能天気な声を上げました。
黒髪のベアトリーチェ様を悪者にするのは嫌なので、私が莫迦になりましょう。
貶められて傷ついたところにネチネチとつけ込まれるよりも、ヤバイ莫迦だと思われて距離を置かれたほうがマシです。
「私、ロセッティ伯爵家のアリーチェはモレッティ公爵家のエルネスト様に婚約を破棄されてしまったんですの! エルネスト様狙いの方々、今が好機ですわよ! 私は年上で黒髪で、王都の社交界に顔を出すような身分ではない方と結婚することになりましたのでお気になさらないでくださいませ!」
実際はまだ新しい縁談のお相手は決まっていません。
婚約破棄自体が、まだ正式におこなわれたわけではありませんしね。
教室の隅でお友達のカルロ殿下とお話されていたエルネスト様が、私の声を聞いて目を丸くしていたような気がしますけれど、婚約破棄を言い出したのはそちらのほうです。むしろ私が来る前に説明不要なくらい教室に広めておいていただきたかったですわ。
「そ、そうですの……」
「婚約破棄されたなんて恥辱をそんなに嬉し気に」
「だから婚約破棄されたのですわ」
「……変なことをお聞きして申し訳ありませんでしたわ」
どんなときでも悪口を忘れない取り巻き令嬢と違い、ベアトリーチェ様は一応謝罪して去っていかれました。
ああ、これからはベアトリーチェ様への風当たりが強くなりそうですね。
お気の毒とは思いますが、私にはどうしようもありません。
もしこの世界が乙女ゲームだったとしたら、一番悪役令嬢の可能性が強いのはベアトリーチェ様です。第二王子殿下の婚約者なのですもの! その上ご自宅では、実の母君が亡くなられた後に入り込んできた侯爵の愛人とその娘──同い年の異母妹に苦しめられているとの噂です。
せめて卒業パーティで断罪なんてことにならないよう、こっそり気を配っておきましょう。
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