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最終話 婚約を解消したふたりは
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学園を卒業して、もう一年が経ちます。
たった一年なのに、随分いろいろなことがありました。あ、エルネスト様との婚約を解消したのは、卒業の半年前くらいでした。
まず卒業後すぐ、北の山に棲み付いたドラゴンの討伐作戦が決行されました。もしこの世界が乙女ゲームと同じで、私がゲームの内容を覚えていたら役に立てたのでしょうけど──体験版しかダウンロードしてない上にほとんどスキップしちゃってましたからね。あの体験版のゲームのタイトルすら思い出せていませんし──当然なんの力にもなれませんでした。
エルネスト様との婚約は解消していたので、ドラゴンを倒す必要も死んだ振りで逃げる必要もなかったので私は参加自体しませんでした。
あ、ベアトリーチェ様は参加なさいました。私へのこれまでの対応を謝罪してくださったので、今では一番のお友達なのですよ。
まあエルネスト様との婚約解消前は私も精いっぱい尖がってましたしね。
結局私もベアトリーチェ様も冒険者ギルドには登録していないのですが、ドラゴン討伐の際は多くの冒険者が活躍しました。
ドラゴンに薬草をぶつけるとマタタビを嗅いだ猫状態になるなんてことをご存じとは、さすがギルドマスターの娘さんです。ギルマスの息子さんのお嫁さんでしたかしら。ギルマスの奥さんの娘さんだから、やっぱり娘さん?
ともあれ彼女の薬草に関する知識のおかげで、死者を出すことなくドラゴンは討伐出来たのでした。
ドラゴンに止めを刺したのは、なにを隠そうベアトリーチェ様でした。
彼女はドラゴン退治のご褒美に、実家のマルティネッリ侯爵家との絶縁と第二王子カルロ殿下との婚約解消を国王陛下にお願いして、どちらも快諾していただけました。
今はドラゴンを退治した魔法使いとして、卒業した学園で教鞭を取っています。在学時に私達が置かれていたような状況が再発しないよう、生徒達の関係性には目を光らせるとおっしゃっていました。もしこの世界が乙女ゲームだったとしても、彼女が学園にいる限り婚約破棄や断罪は起こらないことでしょう。
そして私は──
「いらっしゃいませ、エルネスト様」
「こんにちは、アリーチェ。光の魔法で楽しい幻劇を見せる研究は進んでいるかい?」
「はい。お見せして感想をいただきたいのですがよろしいでしょうか」
「もちろんだよ」
王都のロセッティ伯爵邸で暮らしています。
ときどき訪ねてきてくださるエルネスト様は、今はもうモレッティ公爵家の跡取りではありません。出生のことは明らかになっていないのですが、ご自身が継承権を放棄されたのです。
独身でいらした末の姉君が公爵になると名乗りを上げて、上のおふたりと公爵夫人が力を合わせてエルネスト様の父君に引退を勧めています。モレッティ公爵は男性の跡取りにこだわっていらしたようですけれど、この国では女性でも爵位は継げるのです。
「あ、エルネスト様」
「やあ、お土産に冒険者ギルド発祥の珍しいお菓子を持ってきたよ。一緒に食べながら、君の姉君の素敵な魔法を見よう」
「はい!」
婚約していたときのエルネスト様がうちにいらっしゃることはあまりなかったのですが、今は足繁く通ってこられて、弟ともすっかり仲良くなりました。
「ではお茶の用意をしますね。おふたりとも中庭で待っていてください」
「ありがとう。……今日も縦ロールが素敵だね、アリーチェ」
モレッティ公爵家の継承権を放棄なさった後、エルネスト様はドラゴン討伐に参加して武勲を挙げ、騎士爵を授与されました。
今は我が家の騎士団に所属なさっています。
婚約していたころのことを思うといろいろ複雑な気持ちにもなるのですが、
──考えてみたら、僕は君より三ヶ月年上だよ。
ドラゴン討伐に参加して騎士爵になったし、腹筋もむっつ以上に割れている。
僕を君の新しい縁談相手に選んでもらえないかな? どうしても黒髪じゃないとダメ?
などと真剣な表情で言われると、なんとなく胸がざわめくのを感じてしまいます。
今の彼となら王都の社交界に出る必要はありませんし(ドラゴン討伐に参加したとはいえ騎士爵相当の武勲ですので)、私が周囲と必死で戦うようなことがあれば気づいて支えてくださると思うのです。
せっかく蘇った前世の記憶があまり役に立ってないような気はしますけれど、とりあえずあの日の婚約破棄のおかげで人生が変わったのは事実のようです。
あ、ベアトリーチェ様に捨てられたカルロ殿下は、学園の教員採用試験に向けて勉強中だそうです。学園の教員に王族特別枠はないのです。
廃嫡とかはされてません。元々第二王子のあの方は王太子でもありませんでした。
ベアトリーチェ様の異母妹に婿入りしてマルティネッリ侯爵家を継ぐというお話は断ったという噂ですが……エルネスト様と違ってカルロ殿下は浮気なさってましたし、ベアトリーチェ様が周囲との関係に苦しんでいたことを気づいた上での放置でしたから、一度婚約解消したくらいでベアトリーチェ様とやり直せるとは思えませんけれどね。
たった一年なのに、随分いろいろなことがありました。あ、エルネスト様との婚約を解消したのは、卒業の半年前くらいでした。
まず卒業後すぐ、北の山に棲み付いたドラゴンの討伐作戦が決行されました。もしこの世界が乙女ゲームと同じで、私がゲームの内容を覚えていたら役に立てたのでしょうけど──体験版しかダウンロードしてない上にほとんどスキップしちゃってましたからね。あの体験版のゲームのタイトルすら思い出せていませんし──当然なんの力にもなれませんでした。
エルネスト様との婚約は解消していたので、ドラゴンを倒す必要も死んだ振りで逃げる必要もなかったので私は参加自体しませんでした。
あ、ベアトリーチェ様は参加なさいました。私へのこれまでの対応を謝罪してくださったので、今では一番のお友達なのですよ。
まあエルネスト様との婚約解消前は私も精いっぱい尖がってましたしね。
結局私もベアトリーチェ様も冒険者ギルドには登録していないのですが、ドラゴン討伐の際は多くの冒険者が活躍しました。
ドラゴンに薬草をぶつけるとマタタビを嗅いだ猫状態になるなんてことをご存じとは、さすがギルドマスターの娘さんです。ギルマスの息子さんのお嫁さんでしたかしら。ギルマスの奥さんの娘さんだから、やっぱり娘さん?
ともあれ彼女の薬草に関する知識のおかげで、死者を出すことなくドラゴンは討伐出来たのでした。
ドラゴンに止めを刺したのは、なにを隠そうベアトリーチェ様でした。
彼女はドラゴン退治のご褒美に、実家のマルティネッリ侯爵家との絶縁と第二王子カルロ殿下との婚約解消を国王陛下にお願いして、どちらも快諾していただけました。
今はドラゴンを退治した魔法使いとして、卒業した学園で教鞭を取っています。在学時に私達が置かれていたような状況が再発しないよう、生徒達の関係性には目を光らせるとおっしゃっていました。もしこの世界が乙女ゲームだったとしても、彼女が学園にいる限り婚約破棄や断罪は起こらないことでしょう。
そして私は──
「いらっしゃいませ、エルネスト様」
「こんにちは、アリーチェ。光の魔法で楽しい幻劇を見せる研究は進んでいるかい?」
「はい。お見せして感想をいただきたいのですがよろしいでしょうか」
「もちろんだよ」
王都のロセッティ伯爵邸で暮らしています。
ときどき訪ねてきてくださるエルネスト様は、今はもうモレッティ公爵家の跡取りではありません。出生のことは明らかになっていないのですが、ご自身が継承権を放棄されたのです。
独身でいらした末の姉君が公爵になると名乗りを上げて、上のおふたりと公爵夫人が力を合わせてエルネスト様の父君に引退を勧めています。モレッティ公爵は男性の跡取りにこだわっていらしたようですけれど、この国では女性でも爵位は継げるのです。
「あ、エルネスト様」
「やあ、お土産に冒険者ギルド発祥の珍しいお菓子を持ってきたよ。一緒に食べながら、君の姉君の素敵な魔法を見よう」
「はい!」
婚約していたときのエルネスト様がうちにいらっしゃることはあまりなかったのですが、今は足繁く通ってこられて、弟ともすっかり仲良くなりました。
「ではお茶の用意をしますね。おふたりとも中庭で待っていてください」
「ありがとう。……今日も縦ロールが素敵だね、アリーチェ」
モレッティ公爵家の継承権を放棄なさった後、エルネスト様はドラゴン討伐に参加して武勲を挙げ、騎士爵を授与されました。
今は我が家の騎士団に所属なさっています。
婚約していたころのことを思うといろいろ複雑な気持ちにもなるのですが、
──考えてみたら、僕は君より三ヶ月年上だよ。
ドラゴン討伐に参加して騎士爵になったし、腹筋もむっつ以上に割れている。
僕を君の新しい縁談相手に選んでもらえないかな? どうしても黒髪じゃないとダメ?
などと真剣な表情で言われると、なんとなく胸がざわめくのを感じてしまいます。
今の彼となら王都の社交界に出る必要はありませんし(ドラゴン討伐に参加したとはいえ騎士爵相当の武勲ですので)、私が周囲と必死で戦うようなことがあれば気づいて支えてくださると思うのです。
せっかく蘇った前世の記憶があまり役に立ってないような気はしますけれど、とりあえずあの日の婚約破棄のおかげで人生が変わったのは事実のようです。
あ、ベアトリーチェ様に捨てられたカルロ殿下は、学園の教員採用試験に向けて勉強中だそうです。学園の教員に王族特別枠はないのです。
廃嫡とかはされてません。元々第二王子のあの方は王太子でもありませんでした。
ベアトリーチェ様の異母妹に婿入りしてマルティネッリ侯爵家を継ぐというお話は断ったという噂ですが……エルネスト様と違ってカルロ殿下は浮気なさってましたし、ベアトリーチェ様が周囲との関係に苦しんでいたことを気づいた上での放置でしたから、一度婚約解消したくらいでベアトリーチェ様とやり直せるとは思えませんけれどね。
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