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第一話 始まり
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「フォトプロス侯爵令嬢カシア! 私エウスタティオスは、そなたとの婚約を破棄する!」
前々から噂されていた通り、エウスタティオス王太子殿下は学園の卒業パーティが始まった途端に私との婚約破棄を宣言なさいました。
パーティの後半から参加予定の国王陛下ご夫妻のお姿は会場にありません。
そっと目の端で見回しましたが、殿下の親友で従兄でもある大公家のご令息クリサフィス様のいつもの物静かなお姿もないようです。
殿下の隣にはペルサキス伯爵令嬢のフィズィ様がいらっしゃいます。
会場の照明を浴びて光り輝くおふたりは、太陽と星のようでした。
フィズィ様の背後には彼女の親友だというピクラメノス子爵家のご令嬢がいらっしゃいます。
「そして私はこの、私の真実の愛の相手であるピクラメノス子爵令嬢フィズィを婚約者とする!」
宣言なさった後で、エウスタティオス殿下の青い瞳が私を映しました。
そこには黒い髪に赤い瞳、どんなに妃教育を頑張ってもなにも変わらなかった陰気で冷たい印象の少女がいます。おふたりが太陽と星ならば、私は闇の底の汚泥です。
顔色は悪く、手足は棒のようにやつれ果てた化け物染みた娘なのです。
わかっています。
自分のせいです。
自分が殿下に相応しくないとわかっていながら、婚約者という立場にしがみつき身を引かなかった私が悪いのです。
嫉妬という邪悪な心を捨てきれなかった私が、その邪悪に飲み込まれただけです。
今もエウスタティオス殿下に見つめられているというだけで、心のどこかで喜んでいる未練がましい私が愚かなのです。
それでも私は初めて会ったときからずっと、光り輝く太陽のような殿下を求めずにはいられなかったのです。
「これでやっと真実の愛が報われるのね。なんて素晴らしいのかしら」
「あんな化け物のような女が王太子殿下の婚約者だったことがおかしかったんだ」
「化け物は真実の愛の前に敗れ去るものですわ」
殿下とフィズィ様を祝福し、無様な私を嘲る声が周囲から漏れ聞こえてきます。
この王国の貴族子女が通う学園で同世代だった方々は、形だけの婚約者に過ぎない私よりも殿下と真実の愛で結ばれたフィズィ様のほうを応援なさっていたのです。
エウスタティオス殿下は続けておっしゃいました。
「醜い姿だな。枯れ枝のようなその姿は我が愛しのフィズィを呪い、清らかなフィズィと私の真実の愛によって呪いを返されたせいであろう? そなたの体には今も邪悪な情念が渦巻いている。この国のためにも、そなたのような人間を野放しにしておくわけにはいかぬ。一刻も早くこの国から出て行くが良い!」
学園でも噂されていたのですけれど、呪いをかけたことなどありません。
ですがもしかしたら、嫉妬する心が無意識に呪いという形になっていたのかもしれません。
どちらにしろ、王太子殿下の元婚約者などという存在がこのまま王国に居座れるとも思えません。
「……エウスタティオス王太子殿下のお望みのままに」
そう言って頷いて、私は──
前々から噂されていた通り、エウスタティオス王太子殿下は学園の卒業パーティが始まった途端に私との婚約破棄を宣言なさいました。
パーティの後半から参加予定の国王陛下ご夫妻のお姿は会場にありません。
そっと目の端で見回しましたが、殿下の親友で従兄でもある大公家のご令息クリサフィス様のいつもの物静かなお姿もないようです。
殿下の隣にはペルサキス伯爵令嬢のフィズィ様がいらっしゃいます。
会場の照明を浴びて光り輝くおふたりは、太陽と星のようでした。
フィズィ様の背後には彼女の親友だというピクラメノス子爵家のご令嬢がいらっしゃいます。
「そして私はこの、私の真実の愛の相手であるピクラメノス子爵令嬢フィズィを婚約者とする!」
宣言なさった後で、エウスタティオス殿下の青い瞳が私を映しました。
そこには黒い髪に赤い瞳、どんなに妃教育を頑張ってもなにも変わらなかった陰気で冷たい印象の少女がいます。おふたりが太陽と星ならば、私は闇の底の汚泥です。
顔色は悪く、手足は棒のようにやつれ果てた化け物染みた娘なのです。
わかっています。
自分のせいです。
自分が殿下に相応しくないとわかっていながら、婚約者という立場にしがみつき身を引かなかった私が悪いのです。
嫉妬という邪悪な心を捨てきれなかった私が、その邪悪に飲み込まれただけです。
今もエウスタティオス殿下に見つめられているというだけで、心のどこかで喜んでいる未練がましい私が愚かなのです。
それでも私は初めて会ったときからずっと、光り輝く太陽のような殿下を求めずにはいられなかったのです。
「これでやっと真実の愛が報われるのね。なんて素晴らしいのかしら」
「あんな化け物のような女が王太子殿下の婚約者だったことがおかしかったんだ」
「化け物は真実の愛の前に敗れ去るものですわ」
殿下とフィズィ様を祝福し、無様な私を嘲る声が周囲から漏れ聞こえてきます。
この王国の貴族子女が通う学園で同世代だった方々は、形だけの婚約者に過ぎない私よりも殿下と真実の愛で結ばれたフィズィ様のほうを応援なさっていたのです。
エウスタティオス殿下は続けておっしゃいました。
「醜い姿だな。枯れ枝のようなその姿は我が愛しのフィズィを呪い、清らかなフィズィと私の真実の愛によって呪いを返されたせいであろう? そなたの体には今も邪悪な情念が渦巻いている。この国のためにも、そなたのような人間を野放しにしておくわけにはいかぬ。一刻も早くこの国から出て行くが良い!」
学園でも噂されていたのですけれど、呪いをかけたことなどありません。
ですがもしかしたら、嫉妬する心が無意識に呪いという形になっていたのかもしれません。
どちらにしろ、王太子殿下の元婚約者などという存在がこのまま王国に居座れるとも思えません。
「……エウスタティオス王太子殿下のお望みのままに」
そう言って頷いて、私は──
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