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第一話 賞金稼ぎなのですわ!
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天国のお母様、いかがお過ごしでしょうか。
卒業を一ヶ月後に控えた私は、学園から王都の伯爵邸まで徒歩で帰宅中でございます。ウリャフト伯爵家の馬車は、婚約者のイリスィオ様と貴女の死後に父が連れ込んだ愛人の娘アポティヒアが、ふたりだけで乗って帰ってしまいました。
御者にはあのふたりに言われたら私を置いて帰って良いと言っております。下手に逆らって前の御者のように辞めさせられたら気の毒ですものね。
この国の貴族子女が通う学園から伯爵邸のある貴族街までは、比較的安全な地域と言われています。
とはいえ、それは馬車で行き来すればの話。
学園に通う裕福な生徒を狙う誘拐犯、言いがかりをつけて金目のものを奪おうとしている強盗犯、抵抗出来ない女性を標的にしたい変質者などが、道のそこかしこに隠れているのがわかります。
まあ、それを見越して通学路の途中に王国騎士団の詰所があるのです。
この国では衛兵が事件を予防し、王国騎士団の騎士様が起こった事件を解決、ということになっています。
三年前に起きたお母様の事件はまだ解決していただいていませんけれど、結局のところ犯人と被害者に直接のつながりのない、行きずりに近い犯行が一番難しいのですよね。……ええ、お母様が伯爵邸に連れ込んだ情夫に殺されたなんて噂が真実のはずがありません。
従来なら一番怪しい夫である父とその愛人親娘が事件時にべつの場所で目撃されているので、捜査は難航しています。
というより、もう捜査をしていないのかもしれません。
それも仕方がないことだと思っております。だって、騎士様方にも生活があるのですもの。ほかの事件もありますしね。
などと思いながら、私は騎士団詰所を訪れました。
小まめに存在を知らしめておかないと、いつ行方不明にされてしまうかわかりませんものね。
入り婿予定の侯爵家三男イリスィオ様を篭絡した今、父であるウリャフト伯爵代理と愛人親娘にとって、私は邪魔者なのですから。殺されてニセモノに立場を乗っ取られたとしても、本当の私を知る方がいれば仇は取ってもらえるでしょう。もらえると嬉しいですわ。
「こんにちは、騎士様」
「メリサちゃーん、また徒歩ー? 危ないよー」
間延びした口調で答えてくださったのは、この詰所の所長騎士トゥリホマス様です。
濡れたような黒髪に潤んだ青い瞳、長いまつ毛。男女問わず胸をざわめかせる危険な美貌の持ち主です。
声も甘く艶やかで、耳から体内に染み込んでいくような感じがいたします。
本当は王太子殿下の専属近衛騎士だったのに、いろいろあって王国騎士団で市井の事件を担当することになったそうです。……いろいろあったのでしょうね。
彼は応接室へ私を案内して、椅子を勧めてくださいました。
これからのことで時間がかかるとわかっているので、私はお言葉に甘えて椅子に座ります。
「馬車はイリスィオ様とアポティヒアに乗り逃げされてしまったので、徒歩で帰るしかないのです。それよりいつもの通報です。指名手配の強盗ふたり、変質者ひとりを近くの路地まで誘導しています」
「あいよー。懸賞金はいつも通りー?」
「はい、こちらで預かっていてください。伯爵邸へ持ち帰ると、お母様の形見のドレスやアクセサリーのように壊されたり奪われたりしてしまいますから」
「あー。メリサちゃんも大変だよねー。とりあえず捕縛が終わるまでお茶でも飲む? いつものじゃなくて王太子殿下が送って来てくれたヤツがあるよー」
「いただきますわ」
いつもの騎士団詰所のお茶は味も香りもない色水なんですよね。
指名手配中の賞金首を自力で捕縛出来たら懸賞金が全額いただけるのですが、通報だけでも一割はいただけます。
もちろん誤報でなければ、ですし、指名手配中でなくても危なそうな方は通報いたしますけれどね。
お母様が亡くなって父が愛人親娘を伯爵邸に連れ込んでから、私はこの賞金稼ぎの仕事をするようになりました。
まずはお金がないとなにも出来ないのですもの。
実は予感がするのです。いつかあの三人──今はイリスィオ様も含めた四人が私に牙を剥くと。
卒業を一ヶ月後に控えた私は、学園から王都の伯爵邸まで徒歩で帰宅中でございます。ウリャフト伯爵家の馬車は、婚約者のイリスィオ様と貴女の死後に父が連れ込んだ愛人の娘アポティヒアが、ふたりだけで乗って帰ってしまいました。
御者にはあのふたりに言われたら私を置いて帰って良いと言っております。下手に逆らって前の御者のように辞めさせられたら気の毒ですものね。
この国の貴族子女が通う学園から伯爵邸のある貴族街までは、比較的安全な地域と言われています。
とはいえ、それは馬車で行き来すればの話。
学園に通う裕福な生徒を狙う誘拐犯、言いがかりをつけて金目のものを奪おうとしている強盗犯、抵抗出来ない女性を標的にしたい変質者などが、道のそこかしこに隠れているのがわかります。
まあ、それを見越して通学路の途中に王国騎士団の詰所があるのです。
この国では衛兵が事件を予防し、王国騎士団の騎士様が起こった事件を解決、ということになっています。
三年前に起きたお母様の事件はまだ解決していただいていませんけれど、結局のところ犯人と被害者に直接のつながりのない、行きずりに近い犯行が一番難しいのですよね。……ええ、お母様が伯爵邸に連れ込んだ情夫に殺されたなんて噂が真実のはずがありません。
従来なら一番怪しい夫である父とその愛人親娘が事件時にべつの場所で目撃されているので、捜査は難航しています。
というより、もう捜査をしていないのかもしれません。
それも仕方がないことだと思っております。だって、騎士様方にも生活があるのですもの。ほかの事件もありますしね。
などと思いながら、私は騎士団詰所を訪れました。
小まめに存在を知らしめておかないと、いつ行方不明にされてしまうかわかりませんものね。
入り婿予定の侯爵家三男イリスィオ様を篭絡した今、父であるウリャフト伯爵代理と愛人親娘にとって、私は邪魔者なのですから。殺されてニセモノに立場を乗っ取られたとしても、本当の私を知る方がいれば仇は取ってもらえるでしょう。もらえると嬉しいですわ。
「こんにちは、騎士様」
「メリサちゃーん、また徒歩ー? 危ないよー」
間延びした口調で答えてくださったのは、この詰所の所長騎士トゥリホマス様です。
濡れたような黒髪に潤んだ青い瞳、長いまつ毛。男女問わず胸をざわめかせる危険な美貌の持ち主です。
声も甘く艶やかで、耳から体内に染み込んでいくような感じがいたします。
本当は王太子殿下の専属近衛騎士だったのに、いろいろあって王国騎士団で市井の事件を担当することになったそうです。……いろいろあったのでしょうね。
彼は応接室へ私を案内して、椅子を勧めてくださいました。
これからのことで時間がかかるとわかっているので、私はお言葉に甘えて椅子に座ります。
「馬車はイリスィオ様とアポティヒアに乗り逃げされてしまったので、徒歩で帰るしかないのです。それよりいつもの通報です。指名手配の強盗ふたり、変質者ひとりを近くの路地まで誘導しています」
「あいよー。懸賞金はいつも通りー?」
「はい、こちらで預かっていてください。伯爵邸へ持ち帰ると、お母様の形見のドレスやアクセサリーのように壊されたり奪われたりしてしまいますから」
「あー。メリサちゃんも大変だよねー。とりあえず捕縛が終わるまでお茶でも飲む? いつものじゃなくて王太子殿下が送って来てくれたヤツがあるよー」
「いただきますわ」
いつもの騎士団詰所のお茶は味も香りもない色水なんですよね。
指名手配中の賞金首を自力で捕縛出来たら懸賞金が全額いただけるのですが、通報だけでも一割はいただけます。
もちろん誤報でなければ、ですし、指名手配中でなくても危なそうな方は通報いたしますけれどね。
お母様が亡くなって父が愛人親娘を伯爵邸に連れ込んでから、私はこの賞金稼ぎの仕事をするようになりました。
まずはお金がないとなにも出来ないのですもの。
実は予感がするのです。いつかあの三人──今はイリスィオ様も含めた四人が私に牙を剥くと。
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