13 / 17
第十三話 イロイダ
しおりを挟む
ペリクレスは口を噤み、セオフィラスは行方不明になった。
後にセオフィラスの靴と服の切れ端が河辺で見つかって、なにかの事故で河に落ちて亡くなったのだということで収まった。
ペリクレスが疑われることはなかった。そもそもペリクレス自身もあのときの真実がわかっていない。
「セオフィラスのことを思い出すと怖くて、眠れなくなって、私はそれまで恋愛ごっこをしているだけだった取り巻き達と体を重ねるようになった」
カンバネリス公爵家跡取りのセオフィラスがいなくなったことで、サヴィナを守る存在が消えた。
ペリクレスの行動は、イロイダの視線をサヴィナから逸らすためのものだったのかもしれない、とヤニスは思う。
もっとも本命のためだとしても、ほかの女性を玩具にするような真似が許されることはないのだけれど。
「……ヤニス殿下。イロイダが貴方に擦り寄るようになって、私はとても安堵した。あの女の執着が私から離れたことが、そうなった以上私の想い人に危害を加えないだろうことが、本当に嬉しくてならなかったんだ。だから、あの莫迦げた婚約破棄事件にも加担した。冤罪を着せられたカッサンドラ嬢には悪かったけれど、あの女が殿下に執着しているのなら、殿下から離れたほうが彼女のためにもなると思ったんだ」
そこまで話して、ペリクレスの瞳から光が消えた。
「しかしあの女の狙いは私のままだったんだ。私を手に入れるために王太子妃の座を手に入れたんだ」
それはヤニスの心を抉る残酷な言葉だった。
なのに心のどこかで、ヤニスはペリクレスの言葉が真実だと察していた。
イロイダはいつも愛らしかった。儚げな見かけだけではなく、彼女の言動すべてに庇護欲をそそられ放っておけなかった。幼いころから未来の王太子妃として育てられたカッサンドラでさえ疲労困憊のときには見せていた負の感情を、イロイダがヤニスに見せることはなかった。
(本当の自分を見せたい相手は俺ではなかったということなのだろうな)
これまでヤニスが見ていたイロイダは、ペリクレスを手に入れるためにヤニス好みの女を演じていただけなのだ。
「あの女が王太子妃になって、私とサヴィナの結婚が決まって……言われたんだ」
──アナタの欲しいものをあげたんだから、アタシのものになってくれるわよね?
どこまでがイロイダの手のうちだったのかはわからない。
偶然でも、なんの関わりもなかったとしても、イロイダは状況を上手く利用出来る女だ。
ペリクレスは自分からサヴィナと距離を置いた。
学園時代の取り巻きや家のメイドと関係を結んでもイロイダは反応しなかったが、本命のサヴィナと結ばれてもなにもしないとは思えない。
サヴィナとは形だけの結婚だと匂わせて、あえてイロイダと関係を持った。
彼女と離縁したら離縁したで、そこまで大切に想っているのだとイロイダの嫉妬を買うような気がしたからだ、とペリクレスは語った。
「香り? へえ、ヌメリウス帝国の呪香だったのか。ううん、私が用意したわけではないよ。たぶんロウバニスがどこかで手に入れてきたんじゃないかな。ロウバニスは、あの女のためならなんでもするから」
「そうか……」
この後ペリクレスは、専門の近衛騎士によって改めて尋問される予定だ。
とはいえ、今の発言に嘘はないとヤニスは確信していた。
(おそらくイロイダはロウバニスの前では、ロウバニスの望む女性を演じていたのだろうな。ほかの男に近づくための道具として使われても気付かないくらい、さまざまな犯罪に加担させられてもかまわないと思うくらい、ロウバニスを虜にしていたのだ。そして、俺も……)
そう思い、ヤニスは深い溜息をついた。
後にセオフィラスの靴と服の切れ端が河辺で見つかって、なにかの事故で河に落ちて亡くなったのだということで収まった。
ペリクレスが疑われることはなかった。そもそもペリクレス自身もあのときの真実がわかっていない。
「セオフィラスのことを思い出すと怖くて、眠れなくなって、私はそれまで恋愛ごっこをしているだけだった取り巻き達と体を重ねるようになった」
カンバネリス公爵家跡取りのセオフィラスがいなくなったことで、サヴィナを守る存在が消えた。
ペリクレスの行動は、イロイダの視線をサヴィナから逸らすためのものだったのかもしれない、とヤニスは思う。
もっとも本命のためだとしても、ほかの女性を玩具にするような真似が許されることはないのだけれど。
「……ヤニス殿下。イロイダが貴方に擦り寄るようになって、私はとても安堵した。あの女の執着が私から離れたことが、そうなった以上私の想い人に危害を加えないだろうことが、本当に嬉しくてならなかったんだ。だから、あの莫迦げた婚約破棄事件にも加担した。冤罪を着せられたカッサンドラ嬢には悪かったけれど、あの女が殿下に執着しているのなら、殿下から離れたほうが彼女のためにもなると思ったんだ」
そこまで話して、ペリクレスの瞳から光が消えた。
「しかしあの女の狙いは私のままだったんだ。私を手に入れるために王太子妃の座を手に入れたんだ」
それはヤニスの心を抉る残酷な言葉だった。
なのに心のどこかで、ヤニスはペリクレスの言葉が真実だと察していた。
イロイダはいつも愛らしかった。儚げな見かけだけではなく、彼女の言動すべてに庇護欲をそそられ放っておけなかった。幼いころから未来の王太子妃として育てられたカッサンドラでさえ疲労困憊のときには見せていた負の感情を、イロイダがヤニスに見せることはなかった。
(本当の自分を見せたい相手は俺ではなかったということなのだろうな)
これまでヤニスが見ていたイロイダは、ペリクレスを手に入れるためにヤニス好みの女を演じていただけなのだ。
「あの女が王太子妃になって、私とサヴィナの結婚が決まって……言われたんだ」
──アナタの欲しいものをあげたんだから、アタシのものになってくれるわよね?
どこまでがイロイダの手のうちだったのかはわからない。
偶然でも、なんの関わりもなかったとしても、イロイダは状況を上手く利用出来る女だ。
ペリクレスは自分からサヴィナと距離を置いた。
学園時代の取り巻きや家のメイドと関係を結んでもイロイダは反応しなかったが、本命のサヴィナと結ばれてもなにもしないとは思えない。
サヴィナとは形だけの結婚だと匂わせて、あえてイロイダと関係を持った。
彼女と離縁したら離縁したで、そこまで大切に想っているのだとイロイダの嫉妬を買うような気がしたからだ、とペリクレスは語った。
「香り? へえ、ヌメリウス帝国の呪香だったのか。ううん、私が用意したわけではないよ。たぶんロウバニスがどこかで手に入れてきたんじゃないかな。ロウバニスは、あの女のためならなんでもするから」
「そうか……」
この後ペリクレスは、専門の近衛騎士によって改めて尋問される予定だ。
とはいえ、今の発言に嘘はないとヤニスは確信していた。
(おそらくイロイダはロウバニスの前では、ロウバニスの望む女性を演じていたのだろうな。ほかの男に近づくための道具として使われても気付かないくらい、さまざまな犯罪に加担させられてもかまわないと思うくらい、ロウバニスを虜にしていたのだ。そして、俺も……)
そう思い、ヤニスは深い溜息をついた。
320
あなたにおすすめの小説
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
【完結】何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので魔法で言えないようにしてみた
堀 和三盆
恋愛
「ずるいですわ、ずるいですわ、お義姉様ばかり! 私も伯爵家の人間になったのだから、そんな素敵な髪留めが欲しいです!」
ドレス、靴、カバン等の値の張る物から、婚約者からの贈り物まで。義妹は気に入ったものがあれば、何でも『ずるい、ずるい』と言って私から奪っていく。
どうしてこうなったかと言えば……まあ、貴族の中では珍しくもない。後妻の連れ子とのアレコレだ。お父様に相談しても「いいから『ずるい』と言われたら義妹に譲ってあげなさい」と、話にならない。仕方なく義妹の欲しがるものは渡しているが、いい加減それも面倒になってきた。
――何でも欲しがる義妹が『ずるい』とうるさいので。
ここは手っ取り早く魔法使いに頼んで。
義妹が『ずるい』と言えないように魔法をかけてもらうことにした。
【完結】欲をかいて婚約破棄した結果、自滅した愚かな婚約者様の話、聞きます?
水月 潮
恋愛
ルシア・ローレル伯爵令嬢はある日、婚約者であるイアン・バルデ伯爵令息から婚約破棄を突きつけられる。
正直に言うとローレル伯爵家にとっては特に旨みのない婚約で、ルシアは父親からも嫌になったら婚約は解消しても良いと言われていた為、それをあっさり承諾する。
その1ヶ月後。
ルシアの母の実家のシャンタル公爵家にて次期公爵家当主就任のお披露目パーティーが主催される。
ルシアは家族と共に出席したが、ルシアが夢にも思わなかったとんでもない出来事が起きる。
※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います
*HOTランキング10位(2021.5.29)
読んで下さった読者の皆様に感謝*.*
HOTランキング1位(2021.5.31)
あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。
ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」
オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。
「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」
ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。
「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」
「……婚約を解消? なにを言っているの?」
「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」
オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。
「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」
ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる