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第六話 運命の恋を諦めない③<二度目の伯爵令息>
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「お父様、なんのご用事かしら?」
馬車の中、俺の向かいに座ったイザベルが複雑そうな表情で首を傾げている。
なんとなく見覚えのある表情だった。
遠い昔、子どものころ、うなされた悪夢の中で見たような気がする。
「たぶんロクでもないことだろうな」
「まあ酷い」
そう言いながら、イザベルは苦笑した。彼女に父親の男爵から知らせが来て、俺達は学園を早退中なのだ。
男爵令嬢のイザベルは、俺の愛しい婚約者。
出会った瞬間に一目惚れして、それからずっと大切にしてきた。
いや、俺が彼女に大切にされてきた。
彼女が勉強を見てくれるおかげで、俺はこの国の貴族子女が通う学園でそれなりの成績を修めている。
彼女がいなかったら、再追試どころか再々々追試を受け続けていた自信がある。
「男爵がなにを言おうとも、俺はイザベルの婿になる。男爵家の婿になるか商会の婿になるかの違いだけだ」
「騎士爵は目指さないのですか?」
「俺が騎士をやって君が商会を経営していたら生活がすれ違ってしまうじゃないか。君が商会を始めた以上、俺は用心棒になる。男爵家なら領民のために両立するのは仕方がないけれど」
この国の騎士爵は領地を持たない。騎士爵を授与してくれた貴族家の騎士団で働くことで俸禄をもらって生活するのだ。
イザベルは幼いころ、男爵夫人である母親と共同で商会を立ち上げていた。
今度の男爵夫人はイザベルととても仲が良い。……今度? ときどき浮かんでくる妙な違和感に首を傾げたとき、馬車が乱暴に停められた。
「嫌な気配のお出ましだ。……イザベルは外に出ないでくれ」
「……はい」
俺は馬車の外へ出た。
ならず者達に取り囲まれている。
こちらはふたりの護衛と御者、イザベルの侍女だけだ。
「思っていたよりも数が少ない?」
ならず者達は十人もいなかった。隠れているのかもしれないが、それはこちらも同じこと。
俺は少し離れたところで見張りをしている、プロスティトゥタによく似た見張りの男を確認した。
……プロスティトゥタ? だれだ、それは? ああ、イザベルの異母妹と称している女だ。ん? 俺は名前を知っていたか?
戦いに関係のない疑問を頭から投げ捨てて、俺は叫んだ。
「出て来い!」
近くの路地や家の中から、俺がイザベルの商会で用心棒をして稼いだ金で雇った傭兵達が現れる。
子どものころに悪夢から目覚めて以降、ずっと嫌な気配を感じていた。
イザベルを喪う日が来るのではないかと怯えていた。そんな日に備えて雇い、秘密裏に護衛させていたのが彼らだ。
俺の心配が過剰だったのか、傭兵達はならず者達の倍以上いる。
嬉しい誤算だ。
戦いは数だよな、兄上!
「そこの見張り以外は殺していい! 首ひとつにつき契約の報酬以外に報奨金を出すぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──傭兵達は圧勝した。俺が怪我をすることもなかった。
生き残ったならず者達は男爵の愛人親娘に頼まれたと証言をし、役者崩れだったという見張りの男はプロスティトゥタの実父だった。
俺は学園を卒業次第、イザベルと結婚する。そしてイザベルは男爵家の当主となる。この国は女性でも正当な血筋なら家を継げるのだ。
幼い日に内容も覚えていない悪夢を見てから、ずっと感じていた嫌な気配は消えた。
幸せいっぱいの俺だが、ひとつだけ悩みがある。
男爵家の入り婿となったら、もう商会で用心棒は出来ない。傭兵達に報奨金を払うためにイザベルに借りた金、どうやって返そうか? 俺の愛しいイザベルは、金にだけはうるさいんだよなあ。
「お金は大事、ですよ?」
まあ、そんなしっかり者のところも好きなんだけど。
馬車の中、俺の向かいに座ったイザベルが複雑そうな表情で首を傾げている。
なんとなく見覚えのある表情だった。
遠い昔、子どものころ、うなされた悪夢の中で見たような気がする。
「たぶんロクでもないことだろうな」
「まあ酷い」
そう言いながら、イザベルは苦笑した。彼女に父親の男爵から知らせが来て、俺達は学園を早退中なのだ。
男爵令嬢のイザベルは、俺の愛しい婚約者。
出会った瞬間に一目惚れして、それからずっと大切にしてきた。
いや、俺が彼女に大切にされてきた。
彼女が勉強を見てくれるおかげで、俺はこの国の貴族子女が通う学園でそれなりの成績を修めている。
彼女がいなかったら、再追試どころか再々々追試を受け続けていた自信がある。
「男爵がなにを言おうとも、俺はイザベルの婿になる。男爵家の婿になるか商会の婿になるかの違いだけだ」
「騎士爵は目指さないのですか?」
「俺が騎士をやって君が商会を経営していたら生活がすれ違ってしまうじゃないか。君が商会を始めた以上、俺は用心棒になる。男爵家なら領民のために両立するのは仕方がないけれど」
この国の騎士爵は領地を持たない。騎士爵を授与してくれた貴族家の騎士団で働くことで俸禄をもらって生活するのだ。
イザベルは幼いころ、男爵夫人である母親と共同で商会を立ち上げていた。
今度の男爵夫人はイザベルととても仲が良い。……今度? ときどき浮かんでくる妙な違和感に首を傾げたとき、馬車が乱暴に停められた。
「嫌な気配のお出ましだ。……イザベルは外に出ないでくれ」
「……はい」
俺は馬車の外へ出た。
ならず者達に取り囲まれている。
こちらはふたりの護衛と御者、イザベルの侍女だけだ。
「思っていたよりも数が少ない?」
ならず者達は十人もいなかった。隠れているのかもしれないが、それはこちらも同じこと。
俺は少し離れたところで見張りをしている、プロスティトゥタによく似た見張りの男を確認した。
……プロスティトゥタ? だれだ、それは? ああ、イザベルの異母妹と称している女だ。ん? 俺は名前を知っていたか?
戦いに関係のない疑問を頭から投げ捨てて、俺は叫んだ。
「出て来い!」
近くの路地や家の中から、俺がイザベルの商会で用心棒をして稼いだ金で雇った傭兵達が現れる。
子どものころに悪夢から目覚めて以降、ずっと嫌な気配を感じていた。
イザベルを喪う日が来るのではないかと怯えていた。そんな日に備えて雇い、秘密裏に護衛させていたのが彼らだ。
俺の心配が過剰だったのか、傭兵達はならず者達の倍以上いる。
嬉しい誤算だ。
戦いは数だよな、兄上!
「そこの見張り以外は殺していい! 首ひとつにつき契約の報酬以外に報奨金を出すぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──傭兵達は圧勝した。俺が怪我をすることもなかった。
生き残ったならず者達は男爵の愛人親娘に頼まれたと証言をし、役者崩れだったという見張りの男はプロスティトゥタの実父だった。
俺は学園を卒業次第、イザベルと結婚する。そしてイザベルは男爵家の当主となる。この国は女性でも正当な血筋なら家を継げるのだ。
幼い日に内容も覚えていない悪夢を見てから、ずっと感じていた嫌な気配は消えた。
幸せいっぱいの俺だが、ひとつだけ悩みがある。
男爵家の入り婿となったら、もう商会で用心棒は出来ない。傭兵達に報奨金を払うためにイザベルに借りた金、どうやって返そうか? 俺の愛しいイザベルは、金にだけはうるさいんだよなあ。
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