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第十話 運命の恋よりも③<二度目の男爵夫人>
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「私に隠居しろと言うのか?」
男爵の言葉に、私達は頷く。
彼の妻である私と彼の娘であるイザベル、そして彼の義理の息子になる予定のカルロスだ。
王都男爵邸の応接室で、彼を見つめる私達三人は怒っていた。
男爵はならず者を雇ってイザベルを殺し、自身の愛人の娘プロスティトゥタを家に入れようとしていたのだ。
厳密にいえば、ならず者を雇ったのは男爵本人ではない。
彼は、イザベルを排除する良い手段を思いついたと言うプロスティトゥタに金を渡しただけだ。私が男爵家を運営し、イザベルが商会を経営して稼いだ金を。
婚約者を殺されかけて、一番怒っているカルロスが男爵に言う。
「主犯のプロスティトゥタとその母親、実行犯のプロスティトゥタの父親は貴族家の馬車を襲った罪ですでに処刑済みです。貴方の関与があったというプロスティトゥタの証言書は俺の手の中にあります。……公表されたくはないでしょう?」
「なっ……そんなもの!」
「貴方は男爵家の正当な当主ですが、イザベルもまた正当な跡取りです。国に認められた跡取りを理不尽な理由で排除しようとしたとなれば、男爵家自体が罪に問われて取り潰しになるでしょう」
「っ!……だ、男爵家が無くなればお前達だって……」
「俺はなにがあろうともイザベルの婿になります」
「私には商会があります」
「私の実家は領地一番の稼ぎ頭です。男爵家が無くなったとしても、新しい領主に受け入れてもらえるでしょう。そう簡単に奪ったり盗んだり出来る技術ではありませんしね」
男爵は俯いた。
自分でも私達の提案を受け入れるしかないとわかっているのだろう。
私は彼に微笑んだ。
「大丈夫ですわ、旦那様。隠居して一室に閉じ込められても、貴方には思い出がありますもの」
「思い出?」
「ええ。私とイザベルを放置して、あの親娘の家に入り浸っていたじゃありませんか。愛人の本当の夫が書いた脚本で幸せな家庭だと思い込まされていたのでしょう? 本当の父親に操られたあの娘に父と慕われて喜んでいたのでしょう? その思い出さえあれば、孤独など感じることはありませんわ」
よくある話だけれど、男爵の愛人には本命がいた。きちんと籍も入れた夫だ。
ならず者に落ちぶれた元役者のその男は、愛人の娘にそっくりだった。
夫はずっと騙されていたのだ。騙されて婚約者との婚約を解消し、騙されて金目当てで愛してもいない女と結婚し、騙されて実の娘を殺す計画に金を出したのだ。
「それに、もうあの親娘はいませんわ。貴方が彼女達を囲っていた家を離れた途端、莫迦にして嘲笑っていた人間は、もうどこにもいないのですもの。これからは好きなだけ思い出に浸り夢を見ていられますわよ」
「っ! あああぁぁあああっ!」
真実が受け入れられなかったのか、夫は両手で顔を覆い奇声を放った。
……私は貴方を愛そうと努力をしたのよ?
金目当てで娶られたとわかっていても、子どものためにも最低限の愛と尊敬を分かち合いたいと思っていたのよ?
貴方はなにをしたの?
あの愛人との関係を運命の恋だと信じ込んで、現実から目を逸らして夢を見ていただけじゃない。あの親娘との関係が偽りだなんて、もっと早くに気づいていても良かったはずよ。
だれかに都合が良いだけの人間なんていない。それが親でも子でも、運命の恋の相手でも。人間には心があって、自分の幸せのために生きているのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──夫が隠居しても、私とイザベルの生活は変わらなかった。
元からいないのと同じだったのだから当然だ。
男爵領の別荘に軟禁している夫は、温かい食事を見ると奇声を上げるようになったらしい。あの親娘の家で、幸せな家庭の演出として温かい食事が出されていたのだろう。
イザベルとカルロスが学園を卒業して結婚したら、さすがに私の生活も変わると思う。
孫が生まれたら、もっと変化する。
私は運命の恋よりも価値のある、愛しい我が子と出会う運命と巡り合ったのだ。だれの脚本に操られているわけでもない、私が選んだ本当の運命と。
男爵の言葉に、私達は頷く。
彼の妻である私と彼の娘であるイザベル、そして彼の義理の息子になる予定のカルロスだ。
王都男爵邸の応接室で、彼を見つめる私達三人は怒っていた。
男爵はならず者を雇ってイザベルを殺し、自身の愛人の娘プロスティトゥタを家に入れようとしていたのだ。
厳密にいえば、ならず者を雇ったのは男爵本人ではない。
彼は、イザベルを排除する良い手段を思いついたと言うプロスティトゥタに金を渡しただけだ。私が男爵家を運営し、イザベルが商会を経営して稼いだ金を。
婚約者を殺されかけて、一番怒っているカルロスが男爵に言う。
「主犯のプロスティトゥタとその母親、実行犯のプロスティトゥタの父親は貴族家の馬車を襲った罪ですでに処刑済みです。貴方の関与があったというプロスティトゥタの証言書は俺の手の中にあります。……公表されたくはないでしょう?」
「なっ……そんなもの!」
「貴方は男爵家の正当な当主ですが、イザベルもまた正当な跡取りです。国に認められた跡取りを理不尽な理由で排除しようとしたとなれば、男爵家自体が罪に問われて取り潰しになるでしょう」
「っ!……だ、男爵家が無くなればお前達だって……」
「俺はなにがあろうともイザベルの婿になります」
「私には商会があります」
「私の実家は領地一番の稼ぎ頭です。男爵家が無くなったとしても、新しい領主に受け入れてもらえるでしょう。そう簡単に奪ったり盗んだり出来る技術ではありませんしね」
男爵は俯いた。
自分でも私達の提案を受け入れるしかないとわかっているのだろう。
私は彼に微笑んだ。
「大丈夫ですわ、旦那様。隠居して一室に閉じ込められても、貴方には思い出がありますもの」
「思い出?」
「ええ。私とイザベルを放置して、あの親娘の家に入り浸っていたじゃありませんか。愛人の本当の夫が書いた脚本で幸せな家庭だと思い込まされていたのでしょう? 本当の父親に操られたあの娘に父と慕われて喜んでいたのでしょう? その思い出さえあれば、孤独など感じることはありませんわ」
よくある話だけれど、男爵の愛人には本命がいた。きちんと籍も入れた夫だ。
ならず者に落ちぶれた元役者のその男は、愛人の娘にそっくりだった。
夫はずっと騙されていたのだ。騙されて婚約者との婚約を解消し、騙されて金目当てで愛してもいない女と結婚し、騙されて実の娘を殺す計画に金を出したのだ。
「それに、もうあの親娘はいませんわ。貴方が彼女達を囲っていた家を離れた途端、莫迦にして嘲笑っていた人間は、もうどこにもいないのですもの。これからは好きなだけ思い出に浸り夢を見ていられますわよ」
「っ! あああぁぁあああっ!」
真実が受け入れられなかったのか、夫は両手で顔を覆い奇声を放った。
……私は貴方を愛そうと努力をしたのよ?
金目当てで娶られたとわかっていても、子どものためにも最低限の愛と尊敬を分かち合いたいと思っていたのよ?
貴方はなにをしたの?
あの愛人との関係を運命の恋だと信じ込んで、現実から目を逸らして夢を見ていただけじゃない。あの親娘との関係が偽りだなんて、もっと早くに気づいていても良かったはずよ。
だれかに都合が良いだけの人間なんていない。それが親でも子でも、運命の恋の相手でも。人間には心があって、自分の幸せのために生きているのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──夫が隠居しても、私とイザベルの生活は変わらなかった。
元からいないのと同じだったのだから当然だ。
男爵領の別荘に軟禁している夫は、温かい食事を見ると奇声を上げるようになったらしい。あの親娘の家で、幸せな家庭の演出として温かい食事が出されていたのだろう。
イザベルとカルロスが学園を卒業して結婚したら、さすがに私の生活も変わると思う。
孫が生まれたら、もっと変化する。
私は運命の恋よりも価値のある、愛しい我が子と出会う運命と巡り合ったのだ。だれの脚本に操られているわけでもない、私が選んだ本当の運命と。
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