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第二話 犯人は私
窓の外で雷光が煌めく。
その一瞬、窓の向こうに人の顔が見えたような気がした。
お爺様の部屋は一階にあるので外に人がいてもおかしくないが、今日は雷鳴轟く豪雨だ。
室内にいる人間の顔が窓の玻璃に映っただけだろう。
前世の記憶が戻ってみると、こんな酷い天気の日に一族を集めるなよ、と思わずにはいられない。
跡取りとして王都のオルティス侯爵邸で暮らしていた私カルロータと入り婿の父エウヘニオ、夫に先立たれて戻ってきた母の妹で三女のホアナ叔母様とその息子のベンハミンはともかく、豪商のところへ嫁いだ次女のイレーネ叔母様とその息子のアレハンドロはお仕事忙しいのに呼びつけられて。
これじゃ泊りがけになって、明日の仕事に差し障るじゃない。……なに考えてんだろ私、もしかして前世で社畜だったのかな。
まあお爺様は暴君クソ爺なので仕方がない。
父への愛に溺れて私を遺して逝ってしまったお母様だけど、私のために個人遺産を残してくれていた。
イレーネ叔母様が運用して増やしてくれているから、侯爵家と絶縁しても一生遊んで暮らせると思う。とはいえ遊んで暮らすのには抵抗があるから、イレーネ叔母様に良い商会を紹介してもらえないかしら(洒落じゃないよ)。貴族令嬢として跡取りとして読み書き計算は学んでいるし、先日卒業した学園で人脈も作ってるから役に立てると思うんだ。
昨日蘇った前世の記憶だけど、少女漫画『愛の鐘を鳴らして~オルティス侯爵家殺人事件~』以外のことは、はっきりしない。
すごく便利な世界だったことだけうっすら、個人情報はほとんど思い出せない。
でも前世の父が今世の父より真面だったことは間違いない。うん、愛人とかいなかったし、前世の私のことも大切にしてくれていた。前世の祖父も、今目の前の寝台で体を起こしている赤毛の暴君クソ爺の五千倍くらい良い祖父だった。
ちらりと部屋の隅を見る。
そこには異母妹フェティチェがいた。
騎士のように彼女に寄り添う私の婚約者のクリストバルもいる。暴君クソ爺がフェティチェを自分の孫だと思っているなんて彼は知らないので、頼れる人間のいない可哀相な彼女を守っているつもりなのだ。脳みそ腐ってんのか?
ただ彼については前世の婚約者のほうがマシだったとは思えない。
前世の婚約者がクリストバル以上のクズだったというわけではなく……前世の私、婚約者いなかったんじゃないかと思う。
喪女ってやつだ。こんな言葉ばっかり思い出すなあ。
「わしの死後、オルティス侯爵家を継ぐのは、そこにおるフェティチェだ」
「「「え?」」」
意外そうな声を上げるのは、フェティチェ本人とクリストバル、我が父エウヘニオの三人だけだ。
王都のオルティス侯爵邸にある愛の鐘で山賊団の頭に情報を送っていたということからわかるように、暴君クソ爺の愛人はこの家で囲われていたのだ。
当然お母様もイレーネ叔母様もホアナ叔母様も愛人の顔を知っている。お母様が雨の中愛の鐘を鳴らそうとしていたのは、長女としてお婆様の苦悩をだれよりも知っていたからこそ、自分の母親を苦しめた人間そっくりな少女が夫の庶子として現れたことに衝撃を受けたからかもしれない。
「フェティチェはわしがただひとり愛した女性、エチソの孫だからじゃ。ひと目見たときにわかった」
「……お爺様?」
戸惑うように暴君クソ爺を見つめるフェティチェ、彼女を瞳に映して微笑む私の父と婚約者。
なおお母様はお爺様にそっくりだった。私はお母様に似ている。
父も婚約者も赤毛は嫌いらしい。暴君クソ爺見るたびに怯えてるしね。
少女漫画では私カルロータがここで憤怒の形相で叫び出す。
そりゃそうだ。
幼いころから父親の愛情も得られず、憎い正妻の産んだ娘とその子が自分そっくりなことが気に入らない祖父に疎まれて、そのくせオルティス侯爵家の跡取りとして厳しい教育を受けてきたんだよ?
穏やかな婚約者を唯一の心の拠りどころにしてたのに、そいつはそいつでこの王国の貴族子女と裕福な平民が通う学園の入学と同時に現れた異母妹フェティチェに夢中になるし。
そりゃどいつもこいつも殺したくなるって。
そうは言っても今のカルロータは私だ。
前世の記憶が蘇ったからといって、まったくの別人になったわけではない。
でもカルロータの十八年の人生に前世の三十……は行ってなかった? まだギリ二十代だった気がする……年近い記憶が押し寄せてきたのだ。
なんか父や祖父の愛情を求める心も、クリストバルを愛していた気持ちも遠い昔のことのように感じてしまうのだ。
「はい」
私は挙手した。たちまち暴君クソ爺に睨みつけられる。
「なにか文句があるのか?」
「いいえ、べつにオルティス侯爵家なんてどうでも良いです。むしろちょうど良いのでフェティチェが跡取りになるのなら、私を絶縁してください」
暴君クソ爺の眉間に皺が寄る。
少女漫画のときみたいに、私が泣き喚いて反抗するのを期待していたのだろうか。
私の隣にいたアレハンドロが口笛を吹いた。
その一瞬、窓の向こうに人の顔が見えたような気がした。
お爺様の部屋は一階にあるので外に人がいてもおかしくないが、今日は雷鳴轟く豪雨だ。
室内にいる人間の顔が窓の玻璃に映っただけだろう。
前世の記憶が戻ってみると、こんな酷い天気の日に一族を集めるなよ、と思わずにはいられない。
跡取りとして王都のオルティス侯爵邸で暮らしていた私カルロータと入り婿の父エウヘニオ、夫に先立たれて戻ってきた母の妹で三女のホアナ叔母様とその息子のベンハミンはともかく、豪商のところへ嫁いだ次女のイレーネ叔母様とその息子のアレハンドロはお仕事忙しいのに呼びつけられて。
これじゃ泊りがけになって、明日の仕事に差し障るじゃない。……なに考えてんだろ私、もしかして前世で社畜だったのかな。
まあお爺様は暴君クソ爺なので仕方がない。
父への愛に溺れて私を遺して逝ってしまったお母様だけど、私のために個人遺産を残してくれていた。
イレーネ叔母様が運用して増やしてくれているから、侯爵家と絶縁しても一生遊んで暮らせると思う。とはいえ遊んで暮らすのには抵抗があるから、イレーネ叔母様に良い商会を紹介してもらえないかしら(洒落じゃないよ)。貴族令嬢として跡取りとして読み書き計算は学んでいるし、先日卒業した学園で人脈も作ってるから役に立てると思うんだ。
昨日蘇った前世の記憶だけど、少女漫画『愛の鐘を鳴らして~オルティス侯爵家殺人事件~』以外のことは、はっきりしない。
すごく便利な世界だったことだけうっすら、個人情報はほとんど思い出せない。
でも前世の父が今世の父より真面だったことは間違いない。うん、愛人とかいなかったし、前世の私のことも大切にしてくれていた。前世の祖父も、今目の前の寝台で体を起こしている赤毛の暴君クソ爺の五千倍くらい良い祖父だった。
ちらりと部屋の隅を見る。
そこには異母妹フェティチェがいた。
騎士のように彼女に寄り添う私の婚約者のクリストバルもいる。暴君クソ爺がフェティチェを自分の孫だと思っているなんて彼は知らないので、頼れる人間のいない可哀相な彼女を守っているつもりなのだ。脳みそ腐ってんのか?
ただ彼については前世の婚約者のほうがマシだったとは思えない。
前世の婚約者がクリストバル以上のクズだったというわけではなく……前世の私、婚約者いなかったんじゃないかと思う。
喪女ってやつだ。こんな言葉ばっかり思い出すなあ。
「わしの死後、オルティス侯爵家を継ぐのは、そこにおるフェティチェだ」
「「「え?」」」
意外そうな声を上げるのは、フェティチェ本人とクリストバル、我が父エウヘニオの三人だけだ。
王都のオルティス侯爵邸にある愛の鐘で山賊団の頭に情報を送っていたということからわかるように、暴君クソ爺の愛人はこの家で囲われていたのだ。
当然お母様もイレーネ叔母様もホアナ叔母様も愛人の顔を知っている。お母様が雨の中愛の鐘を鳴らそうとしていたのは、長女としてお婆様の苦悩をだれよりも知っていたからこそ、自分の母親を苦しめた人間そっくりな少女が夫の庶子として現れたことに衝撃を受けたからかもしれない。
「フェティチェはわしがただひとり愛した女性、エチソの孫だからじゃ。ひと目見たときにわかった」
「……お爺様?」
戸惑うように暴君クソ爺を見つめるフェティチェ、彼女を瞳に映して微笑む私の父と婚約者。
なおお母様はお爺様にそっくりだった。私はお母様に似ている。
父も婚約者も赤毛は嫌いらしい。暴君クソ爺見るたびに怯えてるしね。
少女漫画では私カルロータがここで憤怒の形相で叫び出す。
そりゃそうだ。
幼いころから父親の愛情も得られず、憎い正妻の産んだ娘とその子が自分そっくりなことが気に入らない祖父に疎まれて、そのくせオルティス侯爵家の跡取りとして厳しい教育を受けてきたんだよ?
穏やかな婚約者を唯一の心の拠りどころにしてたのに、そいつはそいつでこの王国の貴族子女と裕福な平民が通う学園の入学と同時に現れた異母妹フェティチェに夢中になるし。
そりゃどいつもこいつも殺したくなるって。
そうは言っても今のカルロータは私だ。
前世の記憶が蘇ったからといって、まったくの別人になったわけではない。
でもカルロータの十八年の人生に前世の三十……は行ってなかった? まだギリ二十代だった気がする……年近い記憶が押し寄せてきたのだ。
なんか父や祖父の愛情を求める心も、クリストバルを愛していた気持ちも遠い昔のことのように感じてしまうのだ。
「はい」
私は挙手した。たちまち暴君クソ爺に睨みつけられる。
「なにか文句があるのか?」
「いいえ、べつにオルティス侯爵家なんてどうでも良いです。むしろちょうど良いのでフェティチェが跡取りになるのなら、私を絶縁してください」
暴君クソ爺の眉間に皺が寄る。
少女漫画のときみたいに、私が泣き喚いて反抗するのを期待していたのだろうか。
私の隣にいたアレハンドロが口笛を吹いた。
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