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最終話A 大公は二度目の恋をする
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あれから──ボリス様との婚約解消を決意してから何ヶ月が過ぎたでしょうか。
私は隣国に来ていました。
祖国の学園は辞めて、隣国の学院へ通っています。学年はひとつ上がりました。
この国の大公家のご子息とギリオチーナ王女殿下の婚約が解消されたため、その代わりとして私が大公家の人間に嫁ぐことになったのです。
今は学院に通うかたわら、ポリーナ様の遠縁に当たるこの国の伯爵夫人のお世話になって礼儀作法を教えていただいています。
どうして私が、と思うことばかりですが、おそらくほかにほど良い年ごろで相手のいない貴族令嬢がいなかったのです。
私はボリス様と婚約解消したばかりでしたし、それも言ってみれば王女殿下に起因することでしたから、前よりも高い身分の嫁ぎ先を用意することが祖国の王家からの償いだったのかもしれません。
もしかしてイヴァン様に……そうです、隣国のアダモフ大公家のご子息とはイヴァン様のことでした。子爵子息というのは仮のお姿だったのです……好かれていたのかもと思ったりもしたのですけれど、自国の学院を卒業した彼は大公家の跡を継ぐためのお勉強が忙しいらしくて、滅多にお会いすることができません。
子爵子息と偽装して短期留学で王女殿下の状況を確かめようとしていたほどなので、本当は婚約者だった殿下を想っていらっしゃったのかもしれません。
学習要綱の違いを理由に下の学年の教室に入ったのは、殿下に気づかれたくなかったからでしょう。
失恋は辛いですよね。もう吹っ切ったつもりだった私も、ふっと大切にしてくださったころのボリス様のことを思い出して、胸が締め付けられるのを感じるときがあります。
「リュドミーラ様、アダモフ大公家からお迎えがいらっしゃいましたよ」
「はい、行ってまいります」
お世話になっている伯爵夫人は夫を亡くされてからずっとひとりだったとおっしゃって、私のことを実の孫のように可愛がってくださっています。
祖国の祖母と同年代の伯爵夫人は、この国での私の礼儀作法の先生です。元の国で学んでいたのと同じときもありますし、大きく違っていたり少しだけ違っていたりするので難しいです。
今日は学院の授業がない日、礼儀作法のお勉強も休んで町へ甘味を食べに行きます。
「久しぶりですね、リュドミーラ嬢。今日もとても愛らしくていらっしゃる。妖精のお姫様が現れたのかと思いましたよ」
「ありがとうございます」
多忙なイヴァン様に代わって、私をエスコートしに来てくださったのはアダモフ大公殿下です。初めてお会いしたときは勘違いをしていて、大変失礼をしてしまいました。
息子に騙されていたのだから仕方がないと笑ってくださいましたが、今でも思い出すと少し顔が熱くなります。
子爵子爵と連呼されて、大公殿下はどんなお気持ちだったのでしょうか。
「ご多忙なのに、いつも私に付き合ってくださってありがとうございます、大公殿下」
「ヴィクタルでかまいませんよ、リュドミーラ嬢。貴女と過ごす時間は私にとって至福なのですから。あなたのほうこそ、こんなオジサンと一緒で退屈していらっしゃいませんか?」
甘味処でお礼を告げると、大公殿下は不安げな琥珀の瞳に私を映しておっしゃいました。
「そんな! 大公殿下と過ごす時間は私にとっても……しふ、至福です」
なんだか胸の動悸が激しくなっていきます。
私が嫁ぐのは大公家の人間とだけ言われていますし、大公殿下は随分前に奥方を亡くされて独り身でいらっしゃいますし、大公殿下は父と同じ年代とは思えないほど若々しくて魅力的な方ですが……でもそんなことあり得ませんよね。
とりあえず私はイヴァン様にお手紙を差し上げたときには思いもよらなかった今を受け入れて、生きていこうと考えています。
ボリス様やギリオチーナ王女殿下もお幸せでいてくださると良いのにと、今は思っています。
あのおふたりのことを思い出すと、ちょっと腹が立つときもありますけれどね。
思い出し怒りで頬が熱くなったので、私はこの甘味処の新製品、果物と氷菓を美しく飾った芸術品のようなお菓子を口に運びました。口腔に甘酸っぱさが広がって思わず緩んだ顔を大公殿下に見つめられて、なんだかさらに頬が熱くなった理由はまだわかりません。
私は隣国に来ていました。
祖国の学園は辞めて、隣国の学院へ通っています。学年はひとつ上がりました。
この国の大公家のご子息とギリオチーナ王女殿下の婚約が解消されたため、その代わりとして私が大公家の人間に嫁ぐことになったのです。
今は学院に通うかたわら、ポリーナ様の遠縁に当たるこの国の伯爵夫人のお世話になって礼儀作法を教えていただいています。
どうして私が、と思うことばかりですが、おそらくほかにほど良い年ごろで相手のいない貴族令嬢がいなかったのです。
私はボリス様と婚約解消したばかりでしたし、それも言ってみれば王女殿下に起因することでしたから、前よりも高い身分の嫁ぎ先を用意することが祖国の王家からの償いだったのかもしれません。
もしかしてイヴァン様に……そうです、隣国のアダモフ大公家のご子息とはイヴァン様のことでした。子爵子息というのは仮のお姿だったのです……好かれていたのかもと思ったりもしたのですけれど、自国の学院を卒業した彼は大公家の跡を継ぐためのお勉強が忙しいらしくて、滅多にお会いすることができません。
子爵子息と偽装して短期留学で王女殿下の状況を確かめようとしていたほどなので、本当は婚約者だった殿下を想っていらっしゃったのかもしれません。
学習要綱の違いを理由に下の学年の教室に入ったのは、殿下に気づかれたくなかったからでしょう。
失恋は辛いですよね。もう吹っ切ったつもりだった私も、ふっと大切にしてくださったころのボリス様のことを思い出して、胸が締め付けられるのを感じるときがあります。
「リュドミーラ様、アダモフ大公家からお迎えがいらっしゃいましたよ」
「はい、行ってまいります」
お世話になっている伯爵夫人は夫を亡くされてからずっとひとりだったとおっしゃって、私のことを実の孫のように可愛がってくださっています。
祖国の祖母と同年代の伯爵夫人は、この国での私の礼儀作法の先生です。元の国で学んでいたのと同じときもありますし、大きく違っていたり少しだけ違っていたりするので難しいです。
今日は学院の授業がない日、礼儀作法のお勉強も休んで町へ甘味を食べに行きます。
「久しぶりですね、リュドミーラ嬢。今日もとても愛らしくていらっしゃる。妖精のお姫様が現れたのかと思いましたよ」
「ありがとうございます」
多忙なイヴァン様に代わって、私をエスコートしに来てくださったのはアダモフ大公殿下です。初めてお会いしたときは勘違いをしていて、大変失礼をしてしまいました。
息子に騙されていたのだから仕方がないと笑ってくださいましたが、今でも思い出すと少し顔が熱くなります。
子爵子爵と連呼されて、大公殿下はどんなお気持ちだったのでしょうか。
「ご多忙なのに、いつも私に付き合ってくださってありがとうございます、大公殿下」
「ヴィクタルでかまいませんよ、リュドミーラ嬢。貴女と過ごす時間は私にとって至福なのですから。あなたのほうこそ、こんなオジサンと一緒で退屈していらっしゃいませんか?」
甘味処でお礼を告げると、大公殿下は不安げな琥珀の瞳に私を映しておっしゃいました。
「そんな! 大公殿下と過ごす時間は私にとっても……しふ、至福です」
なんだか胸の動悸が激しくなっていきます。
私が嫁ぐのは大公家の人間とだけ言われていますし、大公殿下は随分前に奥方を亡くされて独り身でいらっしゃいますし、大公殿下は父と同じ年代とは思えないほど若々しくて魅力的な方ですが……でもそんなことあり得ませんよね。
とりあえず私はイヴァン様にお手紙を差し上げたときには思いもよらなかった今を受け入れて、生きていこうと考えています。
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