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第2話 早朝の事件
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「おい! 遅いぞお前ら! 先に行くぞ!」
後輩達に檄を飛ばし、早朝、もうすぐ太陽が昇り始めようかという、薄暗い学校の校庭を駆け抜けて行く。
部活を引退して、少しばかり手持ち無沙汰になった藤本 達樹は今だにサッカー部の朝練に顔を出していた。
引退した自分が一番に部室から飛び出し、走り始めたこの状況に……この先、こんなんで大丈夫なのかよ。と不安と不満を、所属していたサッカー部に募らせる。
学校の校門を出て外周およそ千メートルを二周ほどランニングするのが朝練の最初のメニューだ。外周のコースは学校と隣接している公民館がある為、大きくグルリと周らなければならない。藤本も一年生の頃は「こんなのなけりゃもっと楽なのに」とよく思ったものだった。
秋の澄んだ空気の中、深呼吸をし、次の進路のことを考えながら、軽快なステップで進んでいく。
「サッカーで食って行くってのもなぁ……」
藤本は進路について悩んでいた。サッカーで進学するか、プロになるか。
サッカーは好きだし自分の特技だ。だからと言って、ここでスパっと決めてしまっていいのだろうか。プロから誘いがあった時は確かに喜んだし、それを目標にもしてきたが……いざ決めるとなると尻込みしてしまう自分がいる。
挙げ句「いいよな。進学一択のヤツは」と自分の贅沢な悩みを棚に上げ、周りを羨んだ。
考えが煮詰まると藤本はペースを上げた。思考がズルズルと後退し自分に付いてこれなくなり、見えなくなるまで突き放す。こうして毎日悩みを彼方に追いやってしまうので、いつまで経っても悩みがなくならないのだった。
いつものように、公民館の裏にある大きなケヤキの木を通り過ぎようとした時、ふと視界の端に違和感を覚えた。見上げると、ケヤキの太い枝に、何かがぶら下がっているのが見えたのだ。
最初は、鳥の巣でも落ちているのかと思ったが、よく見ると、それは明らかに人間の形をしていた。
朝から木にでも登ってんのか? と思い、近づいてよく見ると、それは首吊って自殺をした人のようだった。
藤本は、その光景に言葉を失った。
真っ青な顔をした死体は、まるで眠っているように静かに吊り下がっていた。
恐怖よりも、まず、この状況を理解できないという混乱が彼を襲う。
しばらくの間、その場に立ち尽くしていた藤本だが、我に返る。
「で、電話……110番」
震える手でポケットをまさぐりスマホを取り出そうとするが、朝練をこなす為に貴重品を全て部室に置いてきたことを思い出した。
引き返して人を呼んで来なければ。
そう思っても藤本は現場から離れることができずにいた。
「なんでこんなところで……」「一体、何が……」
頭の中は、疑問でいっぱいだった。
若く、活気や希望に満ち満ちている藤本には死というものは、あまりにも現実味がなく、簡単に受け入れることができなかった。ましてやこんな……
藤本は改めて首吊りの死体を見た。
ロープで締め付けられた首は、青紫色に変色し、血管が浮き出ている。 舌が飛び出し、口からは白い泡がこぼれていた。
風が死体を揺らしロープの擦れる音だけがまるですぐ側で囁くように耳に残った。
ブルッと体が震える。
普段は少年達の笑い声が聞こえてくる賑やかな通学路は、その静けさとぶら下がっている首吊りの死体のせいで藤本にまったく違う表情を見せていた。
もうすぐ後輩達がここに来る事を思い出す。
早く戻らねば、あいつらがここ来てコレを目にしてしまう。そう思い、藤本は来た道を急いで引き返すのだった。
後輩達に檄を飛ばし、早朝、もうすぐ太陽が昇り始めようかという、薄暗い学校の校庭を駆け抜けて行く。
部活を引退して、少しばかり手持ち無沙汰になった藤本 達樹は今だにサッカー部の朝練に顔を出していた。
引退した自分が一番に部室から飛び出し、走り始めたこの状況に……この先、こんなんで大丈夫なのかよ。と不安と不満を、所属していたサッカー部に募らせる。
学校の校門を出て外周およそ千メートルを二周ほどランニングするのが朝練の最初のメニューだ。外周のコースは学校と隣接している公民館がある為、大きくグルリと周らなければならない。藤本も一年生の頃は「こんなのなけりゃもっと楽なのに」とよく思ったものだった。
秋の澄んだ空気の中、深呼吸をし、次の進路のことを考えながら、軽快なステップで進んでいく。
「サッカーで食って行くってのもなぁ……」
藤本は進路について悩んでいた。サッカーで進学するか、プロになるか。
サッカーは好きだし自分の特技だ。だからと言って、ここでスパっと決めてしまっていいのだろうか。プロから誘いがあった時は確かに喜んだし、それを目標にもしてきたが……いざ決めるとなると尻込みしてしまう自分がいる。
挙げ句「いいよな。進学一択のヤツは」と自分の贅沢な悩みを棚に上げ、周りを羨んだ。
考えが煮詰まると藤本はペースを上げた。思考がズルズルと後退し自分に付いてこれなくなり、見えなくなるまで突き放す。こうして毎日悩みを彼方に追いやってしまうので、いつまで経っても悩みがなくならないのだった。
いつものように、公民館の裏にある大きなケヤキの木を通り過ぎようとした時、ふと視界の端に違和感を覚えた。見上げると、ケヤキの太い枝に、何かがぶら下がっているのが見えたのだ。
最初は、鳥の巣でも落ちているのかと思ったが、よく見ると、それは明らかに人間の形をしていた。
朝から木にでも登ってんのか? と思い、近づいてよく見ると、それは首吊って自殺をした人のようだった。
藤本は、その光景に言葉を失った。
真っ青な顔をした死体は、まるで眠っているように静かに吊り下がっていた。
恐怖よりも、まず、この状況を理解できないという混乱が彼を襲う。
しばらくの間、その場に立ち尽くしていた藤本だが、我に返る。
「で、電話……110番」
震える手でポケットをまさぐりスマホを取り出そうとするが、朝練をこなす為に貴重品を全て部室に置いてきたことを思い出した。
引き返して人を呼んで来なければ。
そう思っても藤本は現場から離れることができずにいた。
「なんでこんなところで……」「一体、何が……」
頭の中は、疑問でいっぱいだった。
若く、活気や希望に満ち満ちている藤本には死というものは、あまりにも現実味がなく、簡単に受け入れることができなかった。ましてやこんな……
藤本は改めて首吊りの死体を見た。
ロープで締め付けられた首は、青紫色に変色し、血管が浮き出ている。 舌が飛び出し、口からは白い泡がこぼれていた。
風が死体を揺らしロープの擦れる音だけがまるですぐ側で囁くように耳に残った。
ブルッと体が震える。
普段は少年達の笑い声が聞こえてくる賑やかな通学路は、その静けさとぶら下がっている首吊りの死体のせいで藤本にまったく違う表情を見せていた。
もうすぐ後輩達がここに来る事を思い出す。
早く戻らねば、あいつらがここ来てコレを目にしてしまう。そう思い、藤本は来た道を急いで引き返すのだった。
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