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カナルの章

第5話 情報

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「お袋ー 飯にしてくれ 飯ー」
「ああ はいはい、すぐ支度するよ」

ギルベルトは椅子に座り飯がくるのを待つ。座るとミシミシミシッ 今にも壊れそうな音がした。

(そうだ…礼を言わないと…)

「ギルベルトさん 倒れていた俺をここまで担いで助けてくれたそうで ありがとうございました」
「なーに 気にすんな 困った時はお互い様よ それよりなんで俺の名前…ああ お袋に聞いたのか」

俺は軽く頷く。

「ところで、なんだって洞窟なんかにいたんだ? ええーと 名前なんだ?」
「俺は ケイゴ」
「ああ ケイゴっていうのか あの日、俺は釣りしに出かけてたんだが帰りに洞窟を通ると お前が倒れていたんだ」

ギルベルトは出てきたパンとスープに、かぶりつき話を続けた。
「凄い熱だったから心配してたが 本当に良かった」

アバナ婆さんがパンを持って俺にも差し出す。
「もう胃袋も大丈夫じゃろう お食べ」
皺くちゃな顔をニッコリさせそう言った。
「ありがとう」
手渡されたパンに俺もかぶりつく。ギルベルトを見ると食事を済ませたのか席を立つ。

「とにかく気にせず 身体を治せ 俺はまた仕事に行くから無理せず休んでおけよ 夕方戻る」

そう言うとギルベルトは家を出て行った。

(今はどうしようもないな…心苦しいが身体が治るまでお世話になるとしよう……その間に、聞ける情報は聞いておくとするか)

「ギルベルトさんはどんな仕事してるんだい?」
俺はアバナ婆さんに尋ねてみた。
「息子は石切り職人をしてるのさ 若い人を何人か使って良く働く自慢の息子さ」
そう言うとアバナ婆さんから小さな笑みがこぼれた。

(石切り職人か…ある程度、想像はつくが……)

アバナ婆さんが話を続けた。
「ここら辺の石は白くてね 他にも石切場はあるが『カナル』の石は大人気じゃよ」

アバナ婆さんの話では、加工した石を馬車で隣町の鉱山都市『トヨスティーク』や首都『オリオスグラン』へ届けるらしい。『カナル』から『トヨスティーク』までは約二日、首都まで約四日~五日かかるようだ。道中は滅多に『魔獣』も出現しないので安心だという。

(…『魔獣』か 長島さんも言ってたが…『魔獣』ってどんなものなんだろう 気になるな)

「『魔獣』って具体的にどんな感じなの?」
「『魔獣』かい? 『魔獣』は、元々が動物なんじゃが魔力を受け、突然変異を起こしたものが『魔獣』と呼ばれるようになったと聞いておる 何処で魔力を受けたとか詳しい事は わかっとらんみたいじゃな」
「……魔力ねえ…」
「ケイゴもスキルは使えるんじゃろ?」
アバナ婆さんは唐突に言う。

(ここじゃ、スキル? が使える事は当たり前の事なのか? うーん 困ったぞ 困った時は『記憶喪失』だな)

「…あっ いや…その辺どうも記憶が……」
「あら 困ったね 早く思い出すといいんだけどねえ…」

そう言うとベットの脇の腰掛けから立ち上がり
「夕飯の支度するからの ケイゴもそれまで横になっておくんじゃな」
と、身体を横にする手伝いをして竈の方へ向かった。
何時間経ったのだろう俺は何時の間にか寝てしまっていたらしい。耳元で声がした。

「ケイゴ ケイゴ 夕飯出来たよ ほら起きて食べるよ」
アバナ婆さんに起こされた。
自分で身体を起こそうとすると手を添えて手伝ってくれた。
「ほれ 使いな」
「ありがとう」
再び、異世界トレーの出番だ。部屋は薄暗いが明かりが灯されている。四角形の立方体のような物の中から、かなり強い光を放っている。眩しいくらいだ。壁に、等間隔で二ヶ所、テーブルにはロウソクが立ててあった。ギルベルトはすでに飯を頬張っていた。

「ギルベルトさん おかえり」
「おうケイゴ起きたか 飯はきっちり食わないとな 治るもんも治らんからな」
「うん、いただくよ」
「…お袋に聞いた 記憶障害だってな……この辺に医者なんかいないから何とも言えんが…さっき お袋とも話をしたんだが身体が治っても しばらくここに居ていいからな」

ぶっきら棒だが、染みる言葉をかけてくれた。

「…ありがとう ギルベルトさん」
俺は頭を下げた。
(記憶喪失の振りって……辛いな……)

「お袋 『フラッシュ』はまだあるのか?」
「四つだか五つ残ってるよ」
「そうか 五つくらい作っておくか 空をくれ」

『フラッシュ』?一体、何の事なんだ。俺は黙って飯を食い様子を伺う。

アバナ婆さんが笊の様な物を持ってきた。中には何かクリスタル?石の様な物が入っていた。石の様な物は平べったく八~十センチの正方形で、厚さは三~四センチだろうか。ギルベルトは笊から『フラッシュ』と呼んでいた石の様な物を一つ取り出しテーブルに置く。そこに自分の右手を翳し、こう称えた。

「インストール フラッシュ」
すると右手の甲の部分に魔法陣の様なものが現れた。大きさは二十センチ~二十五センチの円形の魔法陣であった。色は白っぽく手を翳している間、魔法陣と『フラッシュ』と呼んでいた其れは淡い光を放つ。

(うわっ!これ魔法だわ! すげーな魔法って…)
俺は目を丸くし声も発さず、じっと見つめた。少し経つと、ギルベルトの右手の魔法陣と『フラッシュ』は光を失っていく。

「よし完了」
そう言うとギルベルトは淡々と同じ作業を繰り返していた。五つ全ての作業が終わる。アバナ婆さんは笊を持ち奥へ運んだ。

「ふうー 終わった終わった 何度やってもインストール作業は疲れるな さあ 風呂だ風呂ー」

そう言うと立ち上がり玄関を出た。風呂は表にあるようだ。そんな事より……
(ここは『異世界』で、間違いない!)

俺は確信した。
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