異世界契約 ― ROCKERS ―

一水けんせい

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アインティークの章

第51話 冒険者登録

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―― 冒険者組合で登録する日の昼……
すでに午前中、一匹のマジックボアを卸したケイゴ達は宿にカインを迎えに行って飯屋に入り注文するところだった。

「俺は鶏肉定食」
「オッケー 皆同じでいいわね?」
カインもオットー達も同じ物を注文し食事となった。

「マジックボアの契約はあと三日ある その後は少し仕事が空きになるかな」
「すいません 続けて遺跡調査に入れれば良かったのですが まだ少しだけ痛むので……」
「あと一週間は大人しくしていた方がいいかもね」
「ああ 気にしないでいいよ カインさん」

今後の予定を話しながら食事を終わらせると『アインティーク冒険者組合』に俺達は向かった。俺はオットーにロバの荷台から話しかけた。

「なあ オットー達も中に入るか?」
「いえ 僕等は表で待っています 他のポーターの様子をチェックしときます」
「ほほう チェックかね」
「…あ いえ 少しでも情報を仕入れた方が自分の為になるんだと テレジアさんにも言われたので」
「なるほど」

オットーは少し照れ臭そうに答えた。

(テレジアがロバの荷台でしゃべったりしていたのは そういう事か……)

ロバが組合前に着いたので俺達は荷台を降り、組合の入り口に向かった。組合の前では何時ものようにポーターやサポーター、数名の冒険者が総勢五十~六十名程が商談や情報交換をしていた。

「どうも西の店でマジックコートの生け捕りを再開したらしいぜ」
「へえ どこの冒険者がやってんだろうな」
「サポーター馬車持ちです 魔法レベル2のサポーターに何かありませんか?」
「おーい! ポーター一人『魔獣』狩りでこれるのいるか?」
「話し聞かせて下さい!」
「あ 僕にも話し聞かせて下さい」

俺達は組合の扉を開けて中に入った。カインが真っ直ぐ受付カウンターに行き身分証を出し確認を促した。後ろについてた俺達にカインが言う。

「ケイゴくん テレジアさん 冒険者登録の用紙を貰い必要な項目を書き込んで下さい その間に私の身分確認も終わるでしょう」
「オッケー! さあケイゴ いよいよ冒険者よ! 興奮してきたわ」
「……」
「すいません! 冒険者登録用紙二枚お願いします」
「はい こちらです」

カウンターに居た受付のお姉さんが、用紙を二枚テレジアは手渡されると、一枚を俺に渡し言った。

「名前だけよ あとは保証人の欄にカインさんが名前を書いて登録料を収めておしまいよ 晴れて今日からあたし達は冒険者の仲間入りよ!」

テレジアは満面の笑みで俺に言う。俺は言われたとおり名前を書き込みカインに用紙を渡した。

「あとは頼むよ カインさん」
「あたしのもね」
「ええ わかりました」
「あ 登録料か いくらだった?」
「一人 金貨十枚ね こっちから出しておくわ」
「ああ 頼む あっ ついでに『魔石』換金しちゃうか」
「そうね ゴツゴツして背中痛いでしょ フフ」
「さすがに四つもショルダーポーチに入れておくとな これお願いします」

俺は、全ての『魔石』をカウンターに備え付けられていた箱の中に入れて換金を頼んだ。カウンターのお姉さんが驚いた顔で尋ねてきた。

「もしかして マジックボアの『魔石』じゃないですか?」
「ああ そうだよ」
「凄いですね しかも今日から冒険者なんて大型新人さんの登場ですね ふふ では少しお待ち下さい」

受付のお姉さんは金貨を取りに奥の事務室へ向かった。そのやり取りを聞いていたのか近くの冒険者が話しかけてきた。

「よっ 兄さん もしかして『生け捕り』やってるのって兄さん達?」
「ああ そうだよ」
「ほほう 人手は足りてる? 二人や三人ならすぐ集めるよ?」
「あ いや 今のところ間に合っているんだわ」
「なんだそうか…… もし何かあれば頼むよ じゃあ」

そう言うと男は組合の外へ出て行った。

「ケイゴくん 保証人書きましたよ 私の身分も確認取れたので提出すれば身分証が貰えます」
「サンキュー カインさん」
「ありがとう! カインさん フフ」

テレジアは二枚の冒険者登録書をカウンターに提出した。

「お待たせしました 『魔石』の換金 金貨六十枚になります 身分証の方はもう少し時間がかかりますので そちらに座ってお待ち下さい」
「あ 政府発行の依頼書ニ枚お願いします」
「はい こちらになります」

俺は換金した金を預かり指定された椅子で待つ事にした。カインは政府で発行する依頼書で契約をする為に用紙を貰い椅子に座った。

「では 待っている間この用紙に今回の依頼内容を書き写しますね」
「ああ 任せたよ カインさん」
契約の写しを半分くらい書いたところで俺とテレジアはカウンターのお姉さんに呼び出された。身分証が出来たのだろう。

「ケイゴさん テレジアさん 冒険者登録完了と身分証が発行されました。おめでとうございます こちらは組合からの粗品です」
俺とテレジアは席を立ちカウンターに行くと渡されたのは身分証と登録完了書と組合からの粗品だった。

粗品とはセーブストーンを入れる『ストーンホルダー』一つだった。いずれ使う事もあるかもしれないし貰っといても邪魔にはならないだろう。俺達は席に戻り一呼吸入れた。

「ふう… やっと終わったか登録 これで遺跡に入れるな? ん? どうしたテレジア!?」

テレジアを見ると目に涙を浮かばせてウルウルしているではないか。夢が叶い感極まってしまったのだろう、カインもテレジアの様子に気付いてペンを止めニッコリと一言だけ言った。

「……テレジアさん おめでとうございます」
「…グスッ ありがとう カインさん」
「……テレジア 良かったな おめでとう」
「もう! ケイゴまでそんな事言って! あたしを泣かせたいの!?」
テレジアは鼻の頭を赤くしてニッコリ笑いながら俺に言った。

「……こんなもんですかね ケイゴさん テレジアさん確認して下さい」
カインは依頼書の写し書きをよこした。

「俺はテレジアに任せるから テレジアが読んでオッケーならそれでいいよ」
「わかった 確認するわ」
「これは個人の依頼と政府の依頼 何が違うんだ?」
「簡単に言えば信用度の違いと 支払いが私からじゃなく政府からの支払いとなります 組合で支払いをしてくれるという事です」
「なるほどね」
「ただ 完了確認後の支払いになるので お金は一~三日かかる場合があるので了承しといて下さい」
「ああ 事前にわかっていれば問題ないさ」

テレジアが小声でカインに尋ねた。

「カインさん 例の条件は?」
「ご安心を それには記載しませんよ 違法になりますからね」
「どうするの?」
「個人依頼のほうで書き込んでお渡ししますよ そこは信用の問題になります私を信用してくれとしか言いようが無いんですよ… 実際」
「オッケー 例の法律の文言も書き足されていたし 他に問題は無いわ そこに名前を書けばいいのよね?」
「そうです 請負人の欄に名前を書いて下さい ケイゴさんもお願いします」
「わかった」
「その下にさっき貰った身分証の番号がありますよね? それも書き込んで下さい」
「ほほう なるほどね」

(『異世界』なのに割と堅い契約書なんだな 本人確認か)

「契約トラブルを少しでも無くす配慮なんでしょうね 個人契約の方もついでです 契約しちゃいましょうか?」
「そうね まだ時間あるわよね?」
「ああ 見つければすぐ『生け捕り』は出来るしな」

俺達は、それぞれ名前を書きカインとの個人契約を完了させた。この契約には日当という記述は無かった。遺跡で新層を発見出来て、尚且つ財宝があった場合にのみ効力を発する不思議な契約書だ。

「なあ 聞きたいんだけど オットー達の契約はどうなるんだ?」
「それは あたし達が契約する 雇うという形になると思うわ 遺跡に入れるのは冒険者のあたし達だけだし」
「そうか 契約書作ったほうがいいか?」
「うーん どちらでも構わないけど オットー達に聞いてみたら?」
「そうだな あとで聞いてみるか とりあえず午後の分の捕獲行くか」
「そうね! さくっと終わらせて 今日は冒険者登録祝いよ! 宴よ!」
「おっ! いいね 飲み会か」

俺達は組合を出て、表で待っていたオットー達と合流するとカインを宿に降ろしマジックボア捕獲に向かった。道中、テレジアは今日の予定をオットー達に伝えていた。すると、オットーが話しかけてきた。

「ケイゴさん 表で待っている間 『アインイーグル』の話を聞きました」
「『アインイーグル』? なんだっけそれ」
「もう! オットー達を殴ったやつらが言ってたやつでしょ!」
「あ 思い出した そういや言ってたな そんな事」
「なんでも最近出来た冒険者集団らしいんです」
「冒険者集団?」
「はい パーティーとして行動してるらしいのですが『アインイーグル』はパーティーの枠を超え 冒険者同士がもっとシステムを効率良く活用して情報も皆で共有していく趣旨で立ち上がった集団らしいです」
「はあ? 聞いて呆れるぜ 雇ったが銭は払いません とか抜かすやつらが大層な事言うなって」
「…本当ね あたしも初めて聞いたわ 冒険者集団なんて 他には?」
「それ以上の情報は聞けませんでした」
「まあ この間の件もあったし これ以上関わってくるなら……」
「そうね あんなやつらに冒険者を語って欲しくないわね」

(……冒険者登録したテレジアは 何処か頼もしく見え… うん 見えた)

俺達は午後の捕獲作業を終わらせるとカインを拾い町へ宴会をしに向かった。
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