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アインティークの章
第58話 言い訳
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「おはよう」
「おお 時間通りだな」
「早く寝たし 色々と気が気でないから……」
「どうした?」
「…いや 言い訳するのに ああ…怒られる」
「暴れん坊の圭吾も形無しだな ガハハハ」
俺は、朝の五時半には着替えを済ませ出かける準備をしていた。由佳もお袋もすやすや眠っている。なるべく、音を立てないように準備を済ませると静かに玄関へ行き靴を履いた。すると、後ろから声がした。
「……行くの? 気をつけてね」
「ああ 行ってくるよ 由佳のスマホ頼んだ」
「……わかった ちゃんとご飯食べるんだよ」
「…ああ」
お袋が起きて声をかけてきた。寝てればいいのに…… 睡眠もしっかり取った俺は中学校の用務員室へ向かった。外は、すっかり明るくなって空気がひんやりしてるのが判る。これから、どんどん寒くなっていくのだろう。
「よし 行くか?」
「その前に これ預かっといてくれ」
俺は以前と同様に長島さんにスマホを預けた。
「今回は充電器も置いていくから 電源だけ入れといて欲しいんだ 出来れば電話に出て用件なんかも聞いといてくれると助かるんだが」
「そうか わしで良けりゃ電話取るぞ」
「ありがとう これで安心するだろう 俺の留守中に何度も電話したみたいだ」
「なるほどな わしは会社の電話番かなんかでいいのか?」
「いや 飯炊きにしといてくれ 不味い飯を作る飯炊きって設定だ」
「不味い飯炊きって…… なんだそりゃ?」
「ハハハッ 俺が美味そうに飯と味噌汁食ってるの見て 心配して聞いてくんだよ お袋と由佳が 『異世界』で米を食ってなかったから美味くてさ 米が。それで飯場の飯炊きがいるけど不味くて食えないって話にしといたんだよ」
「…なんじゃ そういう事か」
「ああ 悪いけど頼むよ」
俺は、不味い飯炊きの話を終えるとあっちで使っているポーチを装着して着替えを詰め込み真ん中のロッカーに入り込んだ。
ガシャン バタン
「…ほんと 狭いよな 鉄臭いし」
「我慢してくれ よし いくぞ くれぐれも気をつけてな」
「ああ 頼んだよ 長島さん」
バタン ガチャ
ロッカーが閉まり鍵が掛かる音がした。 ……段々と、ロッカーの中に差し込む部屋の灯りが薄くなり目の前が暗くなっていく、俺は目を閉じて転送に備えた…… スウゥ……意識が無くなりそうになる。
フゥッ……
外気が肌に触れる感じが判る。そっと、目を開けると『トヨスティーク』で転送した大きな石の根元にいた。俺は外門に向かい厩舎の横にある小屋を尋ね、小窓を叩いた。
コンコン ガラガラ
中から男が顔を出した。
「おはよう 『アインティーク』まで頼める?」
「おはようござ… あ お客さん先日はどうも いいですけど…まだ時間早いですよ 二時間後になりますね」
「オッケー 払っておくよ 銀貨五枚だっけ?」
「はい じゃ領収書書きますね どうです『アインティーク』の仕事は」
「ああ なんとかなってるよ」
「そいつは良かったですね はい 領収書 あっ! そういえば連れの女の人が昨日尋ねてきましたよ? 馬に乗った男の人と」
「えっ!? まじで?」
「ええ まじです 先日お客さんが一緒に予約した時に隣にいた女の人です」
「……あう テレジアだな」
「男の人は細くて こう後ろの髪を束ねていましたけど」
「…ああ カーティスだな絶対それ」
「…どうしました? お客さん?」
「…あ いや 別に…… ありがとう… 教えてくれて」
「いえいえ では二時間後に!」
以前『トヨスティーク』から『アインティーク』へ向かった時の御者ぎょしゃであった。どうやらテレジアがカーティスを連れて探しにきたようだ……そういえば、カーティスに三日くらい留守にすると確かに言った。俺は言い訳を考えながら朝飯を食おうと惣菜屋に向かった。
(……これは絶対まずいぞ!ヤバい!ヤバい! どうする… どうする俺!?)
店の前で、蒸かし芋と惣菜を食いながら考えていると声がしてきた。
「でよ 俺が言ってやったんだよ 調子に乗ってるなってな ギャハハハ」
「ああ すぐ調子に乗るからな あいつら」
「勉強代だな ハハハハ」
「……う うう …う」
「ああ あんまり無理すんなよ まだしゃべるの辛いだろ?」
俺は顔を上げ、そいつらを見ると見た事のあるやつらだった……四人組!?あっ!思い出した。因縁をふっかけてくる四人組を叩きのめした事を……
「おい お前ら 怪我の具合はどうだ?」
「はあ!? あっ… ああああっ! 出た… 出たああああ!」
「ヒィヒィイイイイイイ!」
「フゴッ! フゴゴゴッッ!」
「た たっ 助けてえええええ!」
異常なほどに怯えていた。
「おおっ お前ら まっ待て!落ち着けって…… そんなでかい声出しやがって 人を殺人鬼か何かみたいに扱いやがって…」
「ヒッヒィイイ! 勘弁して下さい! 金なら置いていきます!」
「だから でかい声出すんじゃねえよ」
「……ヒィィ! はい……」
「お前ら 勉強代って何の事だ?」
「…いえ おっ 俺達は仕事あるとポーター使ってやるんです… 駆け出しのポーターを使って勉強代だと言って 払わない事がたまにあるって話なんです」
「ポーター? 勉強代で払わない?」
(そういやオットーが『アインティーク』に来る前は『トヨスティーク』でポーターしてたって言っていたな 勉強代とかも言ってたような……もしかしてこいつらオットーにも勉強代しやがったのか? いや……それより この件は使えるな! よし これでなんとかしよう!)
「はーい お前ら全員そこに正座」
俺は地面を指差した。
「えっ!?」
「えっ じゃねえよ 聞こえなかったのかな?」
「いえ! 正座ですね はい!」
四人組は並んで正座をした。
「よし お前ら全員自分の名前書け」
「えっ!?」
「えっ じゃねえよ 耳が悪いのか? お前らの耳に何か詰まってるか見てやろうか? ああ!?」
「ヒッヒイイィ! 書きます! 書かせてもらいます!」
俺は四人に自分の名前を書かせ質問をはじめた。
「よし 次は質問タイムだ いいか? 一度しか言わないからな 良く聞けオットーという妹を連れたロバ荷台持ちのポーターだ 妹の名前はソフィアだ 知っているな? 答えろ」
「…フゴッ」
俺に大剣を振り下ろし四人組の仲間を謝って切りつけた男が反応した。顎あごを砕いてやったのでしゃべるのが不自由そうだった。俺はこいつを利用する事にした。
「よし お前は中々正直者だ 立っていいぞ」
「…フゴッ!?」
顎を砕いた男は何の事か戸惑いながらも言われた通りに立ち上がった。
「うんうん わかった オットーに勉強代と言って支払いをしなかったんだな」
「フゴッ!? フゴフゴッ!」
「ん?…… ああ そうだろうな ここにいたやつら全員いたんだな? うん 何? 俺はちゃんと払おうと言った? ああそうだろうな お前は他のやつに比べて正直者だからな ん? 是非 払いたい? そうだろそうだろ」
「…あ あのう 俺も払います……」
「あっ!? 俺もです! 払います」
「払います……」
「フゴッ!?」
「うんうん そうか 利息と迷惑料も一緒に払いたいので今持っている金を全部払いたい そうか! お前は人間が出来てるな」
「フッフッフゴオオッ!? フゴゴゴッ!」
俺は、そんな事言ってないとばかりに慌てて変な動きをしている。
「ハハハ そうかそうか みんなの分も回収してきますか 偉いぞ 率先して罪滅ぼしとか 中々出来る事じゃないぞ! 俺はお前達を見直した!」
そう言うと顎を割られてしゃべれない男が他の仲間達から財布を回収して俺の前に持ってきた。正座してるやつらは下を向き震えている。俺は財布を預かり正座しているやつらに言った。
「俺はいつでもお前達の前に現れるからな それだけは忘れるなよ いいな?」
「……はい」
俺は顎を砕いた男の肩をポンと叩くとビクッしながら俺の目を見た。顔が青くなり冷や汗をかいてるのが分かる。
「お前ほどの正直者はそうはいないぞ…… 仲間は選べよ わかったな?」
「フッフゴッ……」
「よしよし お前が率先してあいつらを更正させてやれ いいな?」
「……フッ フゴゴッ?」
「ハハハ 本当いいやつだなお前は また近いうち様子見に来るからな」
「フゴッ!?」
「それまでに更正させないと 大変だぞ?」
「フッゴォォォ!」
俺は四人組を放置してそのまま馬車に乗り込み『トヨスティーク』を後にした。
(よし! これで言い訳が出来た オットーに勉強代をかました四人組から賃金を取り返し逆に勉強代までいただいた 危ない目に合わせたくなかったので黙って『トヨスティーク』に来た うん 完璧な言い訳だ 証拠品もあるし俺は天才だな あいつらにはかわいそうな事したけど テレジアに怒られたくないからな俺も……背に腹は代えられないのだよ…)
―― 夕方『アインティーク』に到着した俺は、まずはカーティスの店に寄ってみた。店からは作業している音がする。俺は小さな声でカーティスを呼ぶ。
「おーい… カーティス 居るんだろ?」
「ん!? あっ ケイゴ! お前何処に行ってたんだ テレジアちゃんがどれだけ心配したのかわかってんのか!」
カーティスが作業場から飛び出し怒っている。
「ああ すまん テレジア怒っていたか?」
「……まったく 初めは凄かったよ とっちめてやる!って でも お前が見つからなくて 怒るより心配になり 最後には自分に何も言ってくれないって落ち込んでいた…… 可愛そうに」
「……そうか カーティスが馬で『トヨスティーク』まで一緒だったのか?」
「なんで知ってるんだ?」
「御者のおっちゃんに聞いたよ」
「ああ 夜中に作業してたら突然来てな お前が三日くらい留守にするって話をしたら馬を出せって…… まあ俺も用事合ったからいいんだけどよ だけどこれからは出かける時はちゃんと言ってから出かけろよ もう心配かけんな」
「……ああ すまんかった」
「とにかく すぐ戻ってやれ」
「ああ ありがとう カーティス」
俺は宿に向かった。少し緊張するが謝れば許してくれるだろう……と、思う。そっと自分が借りていた部屋を空けると誰も居なかった。俺は、部屋を出てカインの部屋に行ってみた。
コンコン
「カインさん居るか?」
「はい ケイゴくん!? ケイゴくん一体どうしてたんですか? みんな心配してましたよ!」
「ああ すまん テレジア達は山?」
「ええ 今日は山に行ってます そろそろ帰る頃だと思います」
「……そっか 足の具合は?」
「だいぶ良くなりました」
「そっか それなら予定通り再調査行けそうだね」
「ええ それより何かあったんですか? 突然居なくなって」
「うん まあ みんなには 心配かけてすまなかったとしか言えんけど」
「そうですか…」
すると、階段を数人が上がってくる足音がした。
タンタンタンタンタン
外で話し声が聞こえた。
「じゃあ 少し経ったら調合はじめましょ」
「はい テレジアさん」
テレジアの声がした。俺はカインの部屋を出て、後ろ向きのテレジアに話しかけた。
「よ よう… テレジア おかえり」
振り向いたテレジアは一瞬声を詰まらせて驚いた顔をした。
「……ケイゴ! 一体… 何が『おかえり』よ!」
「すまん 黙って出かけて」
俺はテレジアの手を掴み自分達の部屋に入った。
「……すまなかった」
「……もう ケイゴ!」
テレジアは泣きながら俺に抱きついてきた。俺はそのままテレジアを抱かかえるように抱だきしめた。
「グスッ 良かった ケイゴが帰ってきて……」
「黙って居なくなったりするはずないだろ 俺達パートナーだぜ」
「黙って居なくなったじゃない……」
「ちゃんと帰ってきてるだろ 今回のは ちょっと留守にしただけだ」
「もう もう黙って居なくならないでね……」
「……ああ わかった 約束する」
俺達は、しばらくそのまま抱き合っていた…… テレジアは落ち着いたのか俺に何処に行っていたのか問い詰め始めた。
「何処行ってたの?」
俺は四人組をとっちめに黙って『トヨスティーク』に行った事にした。少し疑ってはいたが何とか嘘で、その場を凌いだ。今回はどうにかなったが次からはテレジアに出かける事を伝えなくては……これ以上、泣かせたくなかった。
だが、出かける事を話しても、嘘を付く事に変わりはないのだが……
「おお 時間通りだな」
「早く寝たし 色々と気が気でないから……」
「どうした?」
「…いや 言い訳するのに ああ…怒られる」
「暴れん坊の圭吾も形無しだな ガハハハ」
俺は、朝の五時半には着替えを済ませ出かける準備をしていた。由佳もお袋もすやすや眠っている。なるべく、音を立てないように準備を済ませると静かに玄関へ行き靴を履いた。すると、後ろから声がした。
「……行くの? 気をつけてね」
「ああ 行ってくるよ 由佳のスマホ頼んだ」
「……わかった ちゃんとご飯食べるんだよ」
「…ああ」
お袋が起きて声をかけてきた。寝てればいいのに…… 睡眠もしっかり取った俺は中学校の用務員室へ向かった。外は、すっかり明るくなって空気がひんやりしてるのが判る。これから、どんどん寒くなっていくのだろう。
「よし 行くか?」
「その前に これ預かっといてくれ」
俺は以前と同様に長島さんにスマホを預けた。
「今回は充電器も置いていくから 電源だけ入れといて欲しいんだ 出来れば電話に出て用件なんかも聞いといてくれると助かるんだが」
「そうか わしで良けりゃ電話取るぞ」
「ありがとう これで安心するだろう 俺の留守中に何度も電話したみたいだ」
「なるほどな わしは会社の電話番かなんかでいいのか?」
「いや 飯炊きにしといてくれ 不味い飯を作る飯炊きって設定だ」
「不味い飯炊きって…… なんだそりゃ?」
「ハハハッ 俺が美味そうに飯と味噌汁食ってるの見て 心配して聞いてくんだよ お袋と由佳が 『異世界』で米を食ってなかったから美味くてさ 米が。それで飯場の飯炊きがいるけど不味くて食えないって話にしといたんだよ」
「…なんじゃ そういう事か」
「ああ 悪いけど頼むよ」
俺は、不味い飯炊きの話を終えるとあっちで使っているポーチを装着して着替えを詰め込み真ん中のロッカーに入り込んだ。
ガシャン バタン
「…ほんと 狭いよな 鉄臭いし」
「我慢してくれ よし いくぞ くれぐれも気をつけてな」
「ああ 頼んだよ 長島さん」
バタン ガチャ
ロッカーが閉まり鍵が掛かる音がした。 ……段々と、ロッカーの中に差し込む部屋の灯りが薄くなり目の前が暗くなっていく、俺は目を閉じて転送に備えた…… スウゥ……意識が無くなりそうになる。
フゥッ……
外気が肌に触れる感じが判る。そっと、目を開けると『トヨスティーク』で転送した大きな石の根元にいた。俺は外門に向かい厩舎の横にある小屋を尋ね、小窓を叩いた。
コンコン ガラガラ
中から男が顔を出した。
「おはよう 『アインティーク』まで頼める?」
「おはようござ… あ お客さん先日はどうも いいですけど…まだ時間早いですよ 二時間後になりますね」
「オッケー 払っておくよ 銀貨五枚だっけ?」
「はい じゃ領収書書きますね どうです『アインティーク』の仕事は」
「ああ なんとかなってるよ」
「そいつは良かったですね はい 領収書 あっ! そういえば連れの女の人が昨日尋ねてきましたよ? 馬に乗った男の人と」
「えっ!? まじで?」
「ええ まじです 先日お客さんが一緒に予約した時に隣にいた女の人です」
「……あう テレジアだな」
「男の人は細くて こう後ろの髪を束ねていましたけど」
「…ああ カーティスだな絶対それ」
「…どうしました? お客さん?」
「…あ いや 別に…… ありがとう… 教えてくれて」
「いえいえ では二時間後に!」
以前『トヨスティーク』から『アインティーク』へ向かった時の御者ぎょしゃであった。どうやらテレジアがカーティスを連れて探しにきたようだ……そういえば、カーティスに三日くらい留守にすると確かに言った。俺は言い訳を考えながら朝飯を食おうと惣菜屋に向かった。
(……これは絶対まずいぞ!ヤバい!ヤバい! どうする… どうする俺!?)
店の前で、蒸かし芋と惣菜を食いながら考えていると声がしてきた。
「でよ 俺が言ってやったんだよ 調子に乗ってるなってな ギャハハハ」
「ああ すぐ調子に乗るからな あいつら」
「勉強代だな ハハハハ」
「……う うう …う」
「ああ あんまり無理すんなよ まだしゃべるの辛いだろ?」
俺は顔を上げ、そいつらを見ると見た事のあるやつらだった……四人組!?あっ!思い出した。因縁をふっかけてくる四人組を叩きのめした事を……
「おい お前ら 怪我の具合はどうだ?」
「はあ!? あっ… ああああっ! 出た… 出たああああ!」
「ヒィヒィイイイイイイ!」
「フゴッ! フゴゴゴッッ!」
「た たっ 助けてえええええ!」
異常なほどに怯えていた。
「おおっ お前ら まっ待て!落ち着けって…… そんなでかい声出しやがって 人を殺人鬼か何かみたいに扱いやがって…」
「ヒッヒィイイ! 勘弁して下さい! 金なら置いていきます!」
「だから でかい声出すんじゃねえよ」
「……ヒィィ! はい……」
「お前ら 勉強代って何の事だ?」
「…いえ おっ 俺達は仕事あるとポーター使ってやるんです… 駆け出しのポーターを使って勉強代だと言って 払わない事がたまにあるって話なんです」
「ポーター? 勉強代で払わない?」
(そういやオットーが『アインティーク』に来る前は『トヨスティーク』でポーターしてたって言っていたな 勉強代とかも言ってたような……もしかしてこいつらオットーにも勉強代しやがったのか? いや……それより この件は使えるな! よし これでなんとかしよう!)
「はーい お前ら全員そこに正座」
俺は地面を指差した。
「えっ!?」
「えっ じゃねえよ 聞こえなかったのかな?」
「いえ! 正座ですね はい!」
四人組は並んで正座をした。
「よし お前ら全員自分の名前書け」
「えっ!?」
「えっ じゃねえよ 耳が悪いのか? お前らの耳に何か詰まってるか見てやろうか? ああ!?」
「ヒッヒイイィ! 書きます! 書かせてもらいます!」
俺は四人に自分の名前を書かせ質問をはじめた。
「よし 次は質問タイムだ いいか? 一度しか言わないからな 良く聞けオットーという妹を連れたロバ荷台持ちのポーターだ 妹の名前はソフィアだ 知っているな? 答えろ」
「…フゴッ」
俺に大剣を振り下ろし四人組の仲間を謝って切りつけた男が反応した。顎あごを砕いてやったのでしゃべるのが不自由そうだった。俺はこいつを利用する事にした。
「よし お前は中々正直者だ 立っていいぞ」
「…フゴッ!?」
顎を砕いた男は何の事か戸惑いながらも言われた通りに立ち上がった。
「うんうん わかった オットーに勉強代と言って支払いをしなかったんだな」
「フゴッ!? フゴフゴッ!」
「ん?…… ああ そうだろうな ここにいたやつら全員いたんだな? うん 何? 俺はちゃんと払おうと言った? ああそうだろうな お前は他のやつに比べて正直者だからな ん? 是非 払いたい? そうだろそうだろ」
「…あ あのう 俺も払います……」
「あっ!? 俺もです! 払います」
「払います……」
「フゴッ!?」
「うんうん そうか 利息と迷惑料も一緒に払いたいので今持っている金を全部払いたい そうか! お前は人間が出来てるな」
「フッフッフゴオオッ!? フゴゴゴッ!」
俺は、そんな事言ってないとばかりに慌てて変な動きをしている。
「ハハハ そうかそうか みんなの分も回収してきますか 偉いぞ 率先して罪滅ぼしとか 中々出来る事じゃないぞ! 俺はお前達を見直した!」
そう言うと顎を割られてしゃべれない男が他の仲間達から財布を回収して俺の前に持ってきた。正座してるやつらは下を向き震えている。俺は財布を預かり正座しているやつらに言った。
「俺はいつでもお前達の前に現れるからな それだけは忘れるなよ いいな?」
「……はい」
俺は顎を砕いた男の肩をポンと叩くとビクッしながら俺の目を見た。顔が青くなり冷や汗をかいてるのが分かる。
「お前ほどの正直者はそうはいないぞ…… 仲間は選べよ わかったな?」
「フッフゴッ……」
「よしよし お前が率先してあいつらを更正させてやれ いいな?」
「……フッ フゴゴッ?」
「ハハハ 本当いいやつだなお前は また近いうち様子見に来るからな」
「フゴッ!?」
「それまでに更正させないと 大変だぞ?」
「フッゴォォォ!」
俺は四人組を放置してそのまま馬車に乗り込み『トヨスティーク』を後にした。
(よし! これで言い訳が出来た オットーに勉強代をかました四人組から賃金を取り返し逆に勉強代までいただいた 危ない目に合わせたくなかったので黙って『トヨスティーク』に来た うん 完璧な言い訳だ 証拠品もあるし俺は天才だな あいつらにはかわいそうな事したけど テレジアに怒られたくないからな俺も……背に腹は代えられないのだよ…)
―― 夕方『アインティーク』に到着した俺は、まずはカーティスの店に寄ってみた。店からは作業している音がする。俺は小さな声でカーティスを呼ぶ。
「おーい… カーティス 居るんだろ?」
「ん!? あっ ケイゴ! お前何処に行ってたんだ テレジアちゃんがどれだけ心配したのかわかってんのか!」
カーティスが作業場から飛び出し怒っている。
「ああ すまん テレジア怒っていたか?」
「……まったく 初めは凄かったよ とっちめてやる!って でも お前が見つからなくて 怒るより心配になり 最後には自分に何も言ってくれないって落ち込んでいた…… 可愛そうに」
「……そうか カーティスが馬で『トヨスティーク』まで一緒だったのか?」
「なんで知ってるんだ?」
「御者のおっちゃんに聞いたよ」
「ああ 夜中に作業してたら突然来てな お前が三日くらい留守にするって話をしたら馬を出せって…… まあ俺も用事合ったからいいんだけどよ だけどこれからは出かける時はちゃんと言ってから出かけろよ もう心配かけんな」
「……ああ すまんかった」
「とにかく すぐ戻ってやれ」
「ああ ありがとう カーティス」
俺は宿に向かった。少し緊張するが謝れば許してくれるだろう……と、思う。そっと自分が借りていた部屋を空けると誰も居なかった。俺は、部屋を出てカインの部屋に行ってみた。
コンコン
「カインさん居るか?」
「はい ケイゴくん!? ケイゴくん一体どうしてたんですか? みんな心配してましたよ!」
「ああ すまん テレジア達は山?」
「ええ 今日は山に行ってます そろそろ帰る頃だと思います」
「……そっか 足の具合は?」
「だいぶ良くなりました」
「そっか それなら予定通り再調査行けそうだね」
「ええ それより何かあったんですか? 突然居なくなって」
「うん まあ みんなには 心配かけてすまなかったとしか言えんけど」
「そうですか…」
すると、階段を数人が上がってくる足音がした。
タンタンタンタンタン
外で話し声が聞こえた。
「じゃあ 少し経ったら調合はじめましょ」
「はい テレジアさん」
テレジアの声がした。俺はカインの部屋を出て、後ろ向きのテレジアに話しかけた。
「よ よう… テレジア おかえり」
振り向いたテレジアは一瞬声を詰まらせて驚いた顔をした。
「……ケイゴ! 一体… 何が『おかえり』よ!」
「すまん 黙って出かけて」
俺はテレジアの手を掴み自分達の部屋に入った。
「……すまなかった」
「……もう ケイゴ!」
テレジアは泣きながら俺に抱きついてきた。俺はそのままテレジアを抱かかえるように抱だきしめた。
「グスッ 良かった ケイゴが帰ってきて……」
「黙って居なくなったりするはずないだろ 俺達パートナーだぜ」
「黙って居なくなったじゃない……」
「ちゃんと帰ってきてるだろ 今回のは ちょっと留守にしただけだ」
「もう もう黙って居なくならないでね……」
「……ああ わかった 約束する」
俺達は、しばらくそのまま抱き合っていた…… テレジアは落ち着いたのか俺に何処に行っていたのか問い詰め始めた。
「何処行ってたの?」
俺は四人組をとっちめに黙って『トヨスティーク』に行った事にした。少し疑ってはいたが何とか嘘で、その場を凌いだ。今回はどうにかなったが次からはテレジアに出かける事を伝えなくては……これ以上、泣かせたくなかった。
だが、出かける事を話しても、嘘を付く事に変わりはないのだが……
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イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
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楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
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焼飯学生
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
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