異世界の孤児院でただ平和に暮らしたいだけだった。

汐桜

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一章【なんとか平和に暮らしたい】

【一話目 在り来り?な異世界転生】

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【一話目  在り来り?な異世界転生】


私は七町楓。
歳は二十六で現在無職。

元孤児で施設で育った。
そこは思い出したくもない腐った沼のような場所だ。

そんな人間の働く場所も糞だと決まっていたのかもしれない。

春。
マンションの自室の窓辺で新生活に希望を抱くスーツ姿の人々を見ながらお茶を啜って居た時だ。
桜が鬱陶しい程舞っていたのを記憶している。

その時のお茶は酷く苦かった。

そして心臓が発作を起こし、私は__七町楓は死亡した。

+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

「__うゎあーん!_うわぁーん!」

赤ちゃんの甲高い泣き声がする。

「よしよしルイ。もう大丈夫よ」

優しそうな女性な声がする。
暖かな陽に包まれているような…

「サテン姉様、もう赤ちゃん用の寝床が足りません…」

今度の声は先程の女性より少し若い声だ。

「あら…この前の子でいっぱいになっちゃったのね。仕方ないから、今日は私と寝ましょ」

何の話をしているのかよく分からないが、この感覚はとても心地好い。
微睡みに落ちていくような、そんな感覚だ。
どこか懐かしいこの感覚は一体なんだろう_?


心臓を何者かに握り締められているようだ。
息ができなくて、苦しい。
床に倒れるように横たわると血が逆流するような感覚に陥る。
苦しい、痛い、辛い___

あ、死んだ。


目が覚めた。
感じていたはずの苦しみや痛みは無くなっていた。
その代わり、喉が痛い。
声を出しているつもりは無いのに叫ぶ時のような痺れと痛みが喉を襲っている。
そして視界も暗い。
身体は思うように動かない。
そして赤子の泣く声が聞こえる。

今度は一体、なんだと言うんだ。

「あら、ルイ起きちゃった?ふふ…良く泣くいい子ね」

ルイ?さっきから聞こえる声の本人だろうか。
そして話しかける女性の声…どこか聞き覚えがあるような。

「うわぁーん!あわぁん!」

「お腹空いたでしょう?ミルクを用意するわね。エリシア、ミルクを持ってきて」

「はい!ただいま!」

エリシア、とは返事をした少女の名前だろうな。

「ルイ、さっきから目を開けないわね…泣き止んで、また眠ってしまったの?」

気が付くと赤子の泣き声は消えていた。
そして喉の痛みも治まってきた。
段々、体の感覚が出てきた。
痛みと聴覚以外にも重力の感覚や、平衡感覚が出てきた。

そう言えば私は一体どうなってしまっているのだろう。
未だに視界は明けない。

「持ってきました、サテン姉様」

「ありがとう、エリシア。さ、ルイ。ミルクの時間よ」

エリシアと言う少女が戻って来たようだ。
ここには私以外にルイという赤子とサテン姉様と呼ばれる女性、エリシアと呼ばれる少女が居るようだ。

「あう!」

声が出た。
口の中に突然生暖かい液体が入ってくるのを感じた。

「あらあら、美味しくなかったかしら?」

その時、初めて瞼が持ち上がった。

「初めての事にびっくりしたのかも知れませんね」

「ええ。ほら、目を開けたわ。綺麗な金色の瞳ね」

久しぶりの瞳に映るのは、真白な髪で薄く微笑む女性と、哺乳瓶だった。

あれ、これってもしかして…

「暴れちゃダメだよ、ルイ」

「なぁうあうー!!」

もしかしなくても私、赤子になっちゃった?
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