魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~

裏の飯屋

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序章 異世界転移編

プロローグ とりあえず力もらっといていいですか?

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「おお、哀れな子羊よ。死んでしまうとは情けない……」

 ……はて? 誰が死んだって?

 目を開けた俺の目の前には、真っ赤な玉座と、尊大な態度でこちらを見下ろす白髪の美しい女がいた。
 周りを見渡すと、ただひたすらに真っ黒で先の見えない空間が広がっている。

 再び目の前に視線を移し、女の姿を見る。
 白い髪の毛先は赤く色付いており、目元にも赤いタトゥーのような模様が刻まれていた。
 さて、コスプレイベントでも行われているのだろうか。

「我が名は女神ネム。哀れなおま」
「もう少し待ってくれ」

 こちらの反応が無いことをどう思ったのかは分からないが、俺の返事を待たず、ネムと名乗った女が言葉を続けようとしたのをさえぎる。

 いや分かっている。
 正直なところ、状況も大体読めている。

 だが俺の身にもなってもらいたい。
 何の前触れもなく、突如暗黒空間に招待されたかと思えば、どう見てもまともじゃない女に「お前はもう死んでいる」と言われたのだ。
 状況を整理する時間くらい与えてくれても罰は当たらないだろう。

 だが、もはや自覚する他あるまい。

「僕は死んだんですかね」
 
 そう。どうやら俺は死んだらしい。
 最後の記憶を辿れば、確か家を出て急にめまいがして、突然強烈な頭痛に見舞われた挙句に地面にうずくまったことが思い出された。

 遠くに聞こえる周囲の人々の声や、救急車のサイレンの音を聞きながら、俺の意識は現代日本からおさらばしたということらしい。
 俺の年齢は30代に入ったばかりで、病院で検査したことがあるわけでもないが、持病も特に無かったはずだ。

 突然死かよ。

 車道に飛び出た猫だか子どもだかを迫り来るトラックから守る、せめて誰かの命を守って死んだとかのドラマティックな展開でもあればよかったのに。
 が、とりあえず死んだものは仕方ない。
 まずは状況確認が最優先だ。

「そうだ。もう一度名乗ろう、我が名は女神ネム。哀れなお前に力を」
「とりあえず聞きたいことがあるんですが」
「駄目だ。まずは聞け。我は哀れなお前に力を授け、新たな人生を歩ませてやろう」

 これはもしかすると、という予想は的中。
 ここは死後、異世界に転生する前段階のステージではなかろうか。
 だいぶ頭がクリアになってきたのを感じる。

「なるほど、つまり僕にスキルを与えて新しい世界に転生させてくれるということですかね」
「ほう」

 ここまで冷徹な表情を崩さなかった女神とやらが、初めて感心したように目を丸くさせた。
 もちろん俺がこの状況をすんなり受け入れられたのには理由がある。
 かくいう俺は、生前はVRMMOゲームを愛するラノベ作家だったからだ。
 
 この手の展開は仕事柄飽きるほど読んでいる。何なら書いたこともある。
 え? VRMMOゲームは関係ないじゃないかって?

 いやいや、大体死後に女神様が力くれるって言ってきたら、次に待っているのは異世界かゲームの世界の二択で転生だろう?
 俺が女性だったら乙女ゲー世界という選択肢もあるが、生憎あいにくとプレイした経験がないので多分それはなさそうな気がする。

 というわけで、俺は生前の知識を活用しながら、異世界で無双するチート主人公として新たな生を謳歌おうかしよう。
 果たしてラノベやゲームの知識でどこまでやれるのか甚だ疑問だが。

「では、我が提案を受け入れるか?」
「そうですね女神サマ。とりあえず力もらっといていいですか?」

 さあどんなチート能力かなとワクワクした俺は、つい気軽にそう口走っていた。

「うむ……わかった」

 俺は女神ネムがやや釈然としない表情をしていることに気づき、これはまずいと思った。
 先走り過ぎたかもしれない。
 女神の気が変わったり、怒りに触れたりして変なペナルティでも課せられてはたまったものではない。

 しかしこの女神、確かに美人で人間離れしたスタイルの良さではあるが、目つきは悪いし態度もやけに大きい。
 女神って内面はともかく、外面はもう少しにこやかで清楚なイメージなのだが。
 黒のシースルードレスから覗くおみ足も美しいが、よく見ると両手両足の真っ赤な爪が突き刺さりそうなほど鋭く禍々しい。
 もう少しお姉さん感を出せないものだろうか。

 好みの問題と言われればそれまでだが、これじゃあ女神というよりまるで―――。

「なんだ?」
 
 俺の視線に、女神は怪訝そうな表情を浮かべてねめつけてきた。
 別にいやらしい目で見ていたわけではないので、そんな顔をしないでほしい。
 お胸とおみ足は見たけれども。
 美人だがやたらと迫力があって怖いのだ。

「い、いえ。お綺麗だなと思いまして……」

 取り繕って愛想笑いを浮かべる俺。
 頼むから変な世界には飛ばさないでください女神ネム。
 できればチャラめの、可愛いヒロインとのハーレム展開が待っているようなスローライフ的世界観で頼む。

 せめて夢くらいは見させてくれ。
 チート能力で無双して、美少女と気楽に田舎暮らし。
 ラノベみたいな人生、あれを書いてた俺にもちょっとくらい寄越してくれてもいいだろ。

「もうよい。お前には我が権能の一部を授けるゆえ、く失せよ」
「はい女神サマ。よろしくお願いします」

 すっかりご機嫌斜めなご様子。
 露骨に面倒くさそうな顔をする女神ネムを刺激しないよう、にこやかに応える。
 さて、どのように権能とやらを授けてくれるのか。
 いや待て、その前にどんな力なのかを教えてもらってないぞ。

「そういえば力ってどんな」

 と言いかけたところで、女神は玉座より立ち上がって俺の眼前に右手をかざした。

「お前の活躍に期待するゆえ、私の期待を裏切るなよ」

 掌越しに見えた女神の凄絶な笑顔は怖気おぞけが走るほど美しかった。
 まるで――悪魔が慈愛を語る瞬間を見たような感覚で、俺の脳裏に焼き付いて離れなかった。

 そして――その時、ほんの一瞬だけ。  
 その眼に、何か“俺の運命”を試すような光が宿った気がしたが、俺の記憶はそこまでだった。
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