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序章 異世界転移編
第5話 銀鈴を君に
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翌朝、前日の疲れもありしっかりと寝坊した俺は、ドアをノックするティアの声で目覚め、かなり真面目なお説教を食らう羽目になった。
母親が子供を諭すような口調で、遅刻がなぜだめなのかということを優しく微笑みながら滔々と説明された。
俺は無駄に長い髪のせいで大爆発している寝癖を整える暇も無いまま、着替えもそこそこに宿を出発する。
幸い、旅支度はティアとミユキが整えていたので特に問題はないようだ。
何から何まですみませんね。
朝から叱られてしょんぼりしながら、ティアが手配した馬車の中で朝食の固いパンをかじっている俺。
エルルの街から敷かれた街道の周囲には、昨日の荒野とはうってかわって草原が広がっていた。
「これから向かうのは、エルルの北に数時間ほど行ったところにある森ね。手前でギルドのキャンプがあるから、そこを拠点にして森の調査を行うわ」
ガタガタと揺れる荷馬車の中で、ティアがエルルの街近辺の地図を広げながら、俺とミユキに今日のお仕事内容を説明していく。
俺はムグムグとパンを咀嚼しながら頷いた。
道すがらミユキに聞いたが、俺が今いるのは大陸の中央やや北寄り、『ゴルドール帝国』という国の領内らしい。
大陸内には六つの大国といくつかの小国があり、ティアは大陸北西部にある『ウィルブロード皇国』という国から旅を続けているとのこと。
全く覚えられる気がしないので、とりあえず話の続きを聴くことにする。
「ティアちゃん、依頼内容は調査なんですか? 魔獣の討伐などではなく?」
朝からバッチリ身だしなみが整っているミユキが問いかけると、ティアは首肯した。
「あくまで森の調査ね。ただ、調査に向かった何組かの冒険者が、敵の襲撃を受けて死亡しているらしいから、危険度はAランクになってる。Bランク以下の冒険者は参加すらできないよ」
「じゃあ僕ダメじゃない? ていうかティアたちのランクは?」
俺は昨日ティアからもらった冒険者登録証を見せる。
自慢じゃないが、立派な『E』という最底辺の冒険者ランクが輝いている。
「フガクは私たちのパーティーメンバーに登録してあるから大丈夫。私はBランクだし、ミユキさんなんかAランク冒険者だから、大抵のクエストには参加できるよ」
「A!? っていうと、だいぶ上のほうだよね?」
「Sの一つ下なので、上の方ではありますね。ただ、Aランク冒険者はそんなに珍しいものではありませんよ」
思わず驚嘆の声を上げる。
隣で苦笑いしているミユキが、そんなにすごい冒険者だったとは。
「話戻して良い? とにかく、私たちの仕事は森に入って原因の調査ね」
「何か手がかりや、公開されている情報はありますか?」
「死体には矢が刺さっていたみたいね。ただ、矢羽根の無い特殊なもので、真っ白い杭のようなものだったって」
「ああ、それは臭いですね」
「でしょ」
二人のやり取りを聞いても何を言っているのかさっぱり分からない俺。
臭い、ということは心当たりでもあるのだろうか?
話の腰を折るのも何なので、ある程度説明が終わったのを見計らって問いかける。
「臭いってどういうこと?」
「ミューズの可能性が高いってこと」
広げていた地図を畳みながら、ティアが答えた。
「何で?」
「まあ大したことじゃないんだけど、ミューズは全体的に青白いっていうか、とにかく見たらすぐに分かるくらい白いのよ」
なるほど。
真っ白い、しかも矢羽根のある人工の矢を使っていない時点でかなり怪しいということか。
しかし、矢を引き絞って放ってくるとは、魔獣と考えても知能はかなり高そうだ。
「あ、そういえばティア、剣とか余ってない? 僕の剣術スキルC+って書いてあったから、使った方がいいのかなって」
というか丸腰は不安過ぎる。
昨日は拳でベヒーモスをぶっ飛ばしているが、また同じことができるのかも分からないわけだし。
石畳で整備された街道だからなのか、道中も特に魔獣が現れる気配もなく、腕試しができないのも俺の不安を加速させていた。
このままでは、自分の実力値が分からないまま危険な戦場に殴りこむことになるからだ。
「ええ? 街を出る前に言ってくれる? 素手で戦うスキルでもあるんだと思ってたよ。仕方ないな、今回はこれ貸してあげる」
呆れ顔で、ティアは馬車に積み込んでいた荷物の中から、一振りの剣を手渡してきた。
鞘まで全て銀色で、複雑な紋様が彫られた儀礼用っぽい剣だ。
鞘から抜いてみると、よく手入れされており刀身は白く輝いていた。
「ありがとう。いいの? 何かすごそうな剣だけど」
「ちゃんと返してね。それ『銀鈴』っていう、私の故郷に二振りしかない国宝級の剣だから」
剣の重さが急に5倍くらい増した気がする。
どえらいものを渡されてしまった。
銀鈴という名前の通り、柄の装飾が動かす度に高い音を鳴らしている。
「傷つけないようにします」
「駄目よ。剣がもったいなくて使わず死んだなんてことになったら、全然笑えないんだから」
微笑を称えたまま、ティアが実にもっともなことを言う。
だがその言葉には大いに意味があったらしく、剣の重さは少しマシになった気がする。
ティアから預けられた銀鈴が俺の手によく馴染むのは、剣術スキルのおかげだろうか。
間もなく初陣が始まる。
俺は銀鈴を握りしめ、馬車の後ろから遠くに見えるエルルの街へ心の中で別れを告げた。
母親が子供を諭すような口調で、遅刻がなぜだめなのかということを優しく微笑みながら滔々と説明された。
俺は無駄に長い髪のせいで大爆発している寝癖を整える暇も無いまま、着替えもそこそこに宿を出発する。
幸い、旅支度はティアとミユキが整えていたので特に問題はないようだ。
何から何まですみませんね。
朝から叱られてしょんぼりしながら、ティアが手配した馬車の中で朝食の固いパンをかじっている俺。
エルルの街から敷かれた街道の周囲には、昨日の荒野とはうってかわって草原が広がっていた。
「これから向かうのは、エルルの北に数時間ほど行ったところにある森ね。手前でギルドのキャンプがあるから、そこを拠点にして森の調査を行うわ」
ガタガタと揺れる荷馬車の中で、ティアがエルルの街近辺の地図を広げながら、俺とミユキに今日のお仕事内容を説明していく。
俺はムグムグとパンを咀嚼しながら頷いた。
道すがらミユキに聞いたが、俺が今いるのは大陸の中央やや北寄り、『ゴルドール帝国』という国の領内らしい。
大陸内には六つの大国といくつかの小国があり、ティアは大陸北西部にある『ウィルブロード皇国』という国から旅を続けているとのこと。
全く覚えられる気がしないので、とりあえず話の続きを聴くことにする。
「ティアちゃん、依頼内容は調査なんですか? 魔獣の討伐などではなく?」
朝からバッチリ身だしなみが整っているミユキが問いかけると、ティアは首肯した。
「あくまで森の調査ね。ただ、調査に向かった何組かの冒険者が、敵の襲撃を受けて死亡しているらしいから、危険度はAランクになってる。Bランク以下の冒険者は参加すらできないよ」
「じゃあ僕ダメじゃない? ていうかティアたちのランクは?」
俺は昨日ティアからもらった冒険者登録証を見せる。
自慢じゃないが、立派な『E』という最底辺の冒険者ランクが輝いている。
「フガクは私たちのパーティーメンバーに登録してあるから大丈夫。私はBランクだし、ミユキさんなんかAランク冒険者だから、大抵のクエストには参加できるよ」
「A!? っていうと、だいぶ上のほうだよね?」
「Sの一つ下なので、上の方ではありますね。ただ、Aランク冒険者はそんなに珍しいものではありませんよ」
思わず驚嘆の声を上げる。
隣で苦笑いしているミユキが、そんなにすごい冒険者だったとは。
「話戻して良い? とにかく、私たちの仕事は森に入って原因の調査ね」
「何か手がかりや、公開されている情報はありますか?」
「死体には矢が刺さっていたみたいね。ただ、矢羽根の無い特殊なもので、真っ白い杭のようなものだったって」
「ああ、それは臭いですね」
「でしょ」
二人のやり取りを聞いても何を言っているのかさっぱり分からない俺。
臭い、ということは心当たりでもあるのだろうか?
話の腰を折るのも何なので、ある程度説明が終わったのを見計らって問いかける。
「臭いってどういうこと?」
「ミューズの可能性が高いってこと」
広げていた地図を畳みながら、ティアが答えた。
「何で?」
「まあ大したことじゃないんだけど、ミューズは全体的に青白いっていうか、とにかく見たらすぐに分かるくらい白いのよ」
なるほど。
真っ白い、しかも矢羽根のある人工の矢を使っていない時点でかなり怪しいということか。
しかし、矢を引き絞って放ってくるとは、魔獣と考えても知能はかなり高そうだ。
「あ、そういえばティア、剣とか余ってない? 僕の剣術スキルC+って書いてあったから、使った方がいいのかなって」
というか丸腰は不安過ぎる。
昨日は拳でベヒーモスをぶっ飛ばしているが、また同じことができるのかも分からないわけだし。
石畳で整備された街道だからなのか、道中も特に魔獣が現れる気配もなく、腕試しができないのも俺の不安を加速させていた。
このままでは、自分の実力値が分からないまま危険な戦場に殴りこむことになるからだ。
「ええ? 街を出る前に言ってくれる? 素手で戦うスキルでもあるんだと思ってたよ。仕方ないな、今回はこれ貸してあげる」
呆れ顔で、ティアは馬車に積み込んでいた荷物の中から、一振りの剣を手渡してきた。
鞘まで全て銀色で、複雑な紋様が彫られた儀礼用っぽい剣だ。
鞘から抜いてみると、よく手入れされており刀身は白く輝いていた。
「ありがとう。いいの? 何かすごそうな剣だけど」
「ちゃんと返してね。それ『銀鈴』っていう、私の故郷に二振りしかない国宝級の剣だから」
剣の重さが急に5倍くらい増した気がする。
どえらいものを渡されてしまった。
銀鈴という名前の通り、柄の装飾が動かす度に高い音を鳴らしている。
「傷つけないようにします」
「駄目よ。剣がもったいなくて使わず死んだなんてことになったら、全然笑えないんだから」
微笑を称えたまま、ティアが実にもっともなことを言う。
だがその言葉には大いに意味があったらしく、剣の重さは少しマシになった気がする。
ティアから預けられた銀鈴が俺の手によく馴染むのは、剣術スキルのおかげだろうか。
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