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序章 異世界転移編
第8話 白き狩人
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「何があったの? できるだけ手短に答えて」
ティアが周囲を警戒しながら冒険者の男に問いかける。
いや、いい加減冒険者というのも何だ。
俺は男の名前とスキルを確認する。
――――――――――――――
▼NAME▼
ドレン=バルボア
▼AGE▼
38
▼SKILL▼
・斧術 B+
・格闘 B
・頑丈 C
――――――――――――――
名前はドレンというらしい。
「ドレンさん、敵は近くにいるんですか?」
俺はティアたちに倣って辺りを見渡しながらドレンに声をかける。
ドレンは驚いたようにこちらを見た。
「お、お前何で俺の名前……!?」」
「いいから! どうなんだ?」
「い、いや分からねえ……! こいつは斥候だから、俺たちより少し先行してたんだが、急に倒れ込んだと思ったらその有様だった……! 他の仲間も同じようににやられちまって……」
よく見ると、少し離れたところで同じように白い杭でハリネズミのようになっている2つの死体が転がっていた。
「フガク、行くよ」
ドレンからの話を聞くなりティアはミユキを伴って森の奥に進もうとする。
その様子を見て、俺もドレンも驚き慌ててその背に向かって声を投げかけた。
「ま、待ってよティア、さすがに無謀じゃない?」
「お、おうそうだぜ……! 俺の話聞いてたかよ!? お前らもああなっちまうぞ!」
変なところで息が合ってしまった。
しかし、ティアはこちらをチラリと一瞥して告げる。
口元には相変わらず微笑が張り付いているが、その目から笑みが消えていた。
「彼らが殺されたのが今しがたなら、敵もまだ近くにいるってことでしょう? ここは森の入口から近い。変に奥に逃げ込まれるより、ここで仕留めた方がいいわ」
「ドレンさんでしたか? あなたはギルドに報告をお願いします。すみませんが、危険なのでご遺体の回収は私達が討伐した後にしてくださいね」
勇敢なのか、あるいは無謀なのか、ティアもミユキも一旦退却する気など毛頭無いらしい。
「フガク、どうする? 思ったより厄介そうな相手だし、今回はそこの彼とキャンプに戻ってもいいよ」
ティアはそう提案してくれた。
しかし俺は、さすがにその提案に乗るわけにはいかない。
「行くに決まってるだろ」
「お、おい……ガキ、お前まで」
「僕はティアのパーティメンバーだ」
先ほど森の奥に進もうとするとき、ティアは「行くよ」と言って俺を足手まとい扱いしなかった。
俺が先ほど示した力が、ミューズとやらにも通用すると考えてくれているのだ。
だからここで尻尾を巻いて逃げ出して、戦いも最後までお任せというのではあまりにも格好が付かない。
駆け寄って隣に並んだ俺に、ティアもミユキも嬉しそうに笑ってくれた。
「よ、よし。ギルドに報告は任せとけ! 死ぬなよ……!」
最後にはドレンも背後からエールを送ってくれた。
俺は腕を上げて応える。
「今度は冗談も練習も無しよ。会敵したらまずはミユキさんに任せて。それが一番勝率が高いから」
「え、そうなの? 分かったけど……ミユキさんは、それで大丈夫なの?」
「もちろんです。お任せください」
ミユキはそう言って、自らの大きな胸に手を当てて笑いかける。
手に持った大剣が無ければ楚々としたお嬢さんなのに、死地においてはこれ以上なく頼もしい笑顔だ。
「逆に言うと、ミユキさんが危険と判断したら有無を言わず即退却。それが私たちのパーティの最優先事項だからよく覚えておいてね」
俺にはミユキの力の底など知る由も無いが、ティアからの信頼は絶大だ。
確かに、昨日もミユキは魔獣の群れを一人で壊滅させている。
ミユキならば余裕の相手なのか?
少し緊張が解けてきたと思ったそのとき。
「フガクくん!」
的確に俺の頭部に向け、一筋の矢が放たれた。
が、何とそれをミユキは空中で掴み取った。
「え、ええー……」
次元の違う反射神経に感心や感謝を通り越して若干引く俺。
どうやら既に俺たちは敵に捕捉されているらしい。
「2時の方向ですね。フガクくん、こちらに隠れましょう」
ミユキに手を引かれ、俺たちは太い木の幹にしゃがみこんで身を隠す。
ティアも別の木の陰から周囲の様子を伺っていた。
俺も木の陰からチラリと矢が飛んできたと思しき方向を見る。
深緑の木々を風が時折揺らすだけで、敵の姿は見えない。
「フガクくん! ぐぅッ……!」
「えっ……!」
傍らにいたミユキから、呻き声が上がる。
そちらを見ると、俺の頭のすぐ横に彼女の掌があり、白い矢が貫通している
やじりの先端は俺の頭部スレスレまで届いてた。
「ミユキさん! 大丈夫!?」
「大丈夫です……! でも矢は逆方向から飛んできましたね……!」
「敵が複数いるってこと!?」
「分かりません!」
ミユキは掌を貫いた矢を勢いよく抜き取る。
俺の頬に、彼女の血が飛び散った。
「っ!!」
間髪入れず、今度はミユキが俺を抱きかかえて木の幹の側から飛び出る。
俺たちは、地面に倒れ込むが、その一瞬後には、今まで俺たちが隠れていた木の幹に数本の白い矢が立て続けに突き刺さった。
「ティアちゃん! 少し下がります!」
「分かった!」
ミユキは俺の腕を抱えたまま、引きずるようにして元来た道を後退していく。
すると、また森の奥から白い矢が数本飛んできた。
「ちっ!!」
前を走るティアが俺たちの方に手をかざすと、淡く青白い光が一瞬周囲を取り囲んだ。
俺は空いた手で銀鈴を抜き、飛来する矢を弾き落とす。
ミユキもまた大剣でそれらを薙ぎ払うが、全ては払いきれず1本は俺の脇腹を掠め、もう
1本はみゆきの左肩に突き刺さった。
「つっ!」
一瞬顔をしかめるが、そのままスピードを緩めず後退し続ける。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫です! 矢に返しが無いのですぐ抜けます!」
そういうことではないのだが、ミユキの表情にはまだ幾分余裕がある。
俺たちは敵の姿を見つけることもできないまま、やがて先ほどドレンと別れたあたりまで戻ると、矢はもう飛んでこなくなった。
俺たちは呼吸を整えながら、お互いの状態を確認する。
ティアは無傷で、俺は矢が掠めた程度。
一番重傷なのはミユキだ。
掌と肩に矢が直撃し、左肩には未だ矢が突き刺さっている。
「ミユキさん、傷見せて」
ティアが駆け寄り、ミユキを座らせて掌をまず確認する。
腰のポーチからポーションを取り出して傷口にかける。
傷口が洗い流され、痛々しい裂傷が露わになる。
ティアがヒーリングを使わないのは、先ほど言っていた傷の限度を超えているからだろう。
と思っていたら一応ヒーリングをかけているのか、ティアの指先が青白く光っていた。
「フガクくん、お願いがあるんですが」
「あ、うん。何?」
ティアの治療を受けながら、ミユキが自らの左肩に突き刺さった矢を指差した。
「抜いてもらえませんか。手が治療中なもので、申し訳ないのですが」
ノースリーブから剥き出しの素肌に、痛々しく突き刺さった矢を、俺に抜けと言っているようだ。
「わ、わかったよ。痛くない?」
「とても痛いと思うので、一思いにお願いします」
返しが無いとはいえ、15cmくらいは突き刺さっているだろうか、これを抜くのはかなりの痛みを伴うことは間違いない。
だが。ミユキの負傷は完全に俺のせいだ。
俺を守って彼女は掌に風穴を開けられ、俺を引きずって逃げるさなかで傷を受けたのだ。
さすがに怖気付いてできないなんて言えるわけがない。
「いくよ?」
「はい……」
俺はミユキの柔らかな素肌に手を添え、もう一方の手で白い矢を握る。
ミユキは奥歯を噛み締めている。
そして彼女の言うように、一気に真っ直ぐに引き抜いた。
「うぁッ……!!」
ミユキの呻くような声が響いた。
苦しそうに眉を顰めているが、すぐに持ち直した。
矢が刺さっていた穴からは、ドロドロと血が溢れ出している。
「フガク、ポーションかけて消毒と止血して。多分ヒーリングで傷は塞がらないから、私のバッグにあるガーゼで傷口を押さえながら布で縛って」
俺はティアの指示通りに、自分のポーションを傷口にかけて洗い流す。
ティアの腰に巻いてあるバッグから布とガーゼを取り出して、応急処置を行った。
傷口が痛むのか、時おり呻く吐息が聞こえる。
ミユキを傷つけたのは俺だ。
彼女一人であれば、矢を叩き落として攻勢に転じられたかもしれないのに。
「ありがとうございます。ティアちゃんも」
ミユキは何でもなさそうに微笑んだ。
「剣は持てそう?」
「はい、問題ありません。ありがとうございます」
ミユキは立ち上がり、大剣を奮ってみせた。
なるほど、掌に執拗にヒーリングをかけていたのは、ミユキが再び武器を持てるようにするためだったのか。
その後、一応肩口にもヒーリングをかけてだめ押しの治療を施している。
「フガクもケガしてるね。見せて」
「いや、僕は大丈夫だよ。それよりティア、これからどうする?」
そう言った俺に、ティアは目を丸くさせた。
何かおかしなことを言っただろうか。
「ティア?」
「ああ、ごめん。一回退却しようとか言われるものだと思ってたから」
まあ本音ではそうしたいところだった。
が、こんな危険な魔獣を野放しにするわけにはいかない。
今はまだ森の中を根城としているようだが、こいつが人里に現れたら、一体どんな被害が出るか。
何より、ミユキをあれだけ傷つけられておめおめ逃げるのも癪だ。
「逃げるのも策のうちだけど、今回はまだその段階じゃないわね。でも敵の姿が見えないから慎重に行きたいところだけど……」
額に指を当てて考え始めるティア。
確かに、森の木々のせいでこちらが敵を視認できない状態から矢を放たれるのは厄介だ。
せめて相手の姿が見えればミユキに勝算がある気がするが。
しかし、どう奴に近づけばいいかは思い浮かばなかった。
「私に考えがあります」
すると、ミユキが肩を押さえながら手を挙げる。
その目には確かな闘志がみなぎっている。
彼女もまた、諦めるつもりなど微塵もないようだった。
<TIPS>
ティアが周囲を警戒しながら冒険者の男に問いかける。
いや、いい加減冒険者というのも何だ。
俺は男の名前とスキルを確認する。
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▼NAME▼
ドレン=バルボア
▼AGE▼
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▼SKILL▼
・斧術 B+
・格闘 B
・頑丈 C
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名前はドレンというらしい。
「ドレンさん、敵は近くにいるんですか?」
俺はティアたちに倣って辺りを見渡しながらドレンに声をかける。
ドレンは驚いたようにこちらを見た。
「お、お前何で俺の名前……!?」」
「いいから! どうなんだ?」
「い、いや分からねえ……! こいつは斥候だから、俺たちより少し先行してたんだが、急に倒れ込んだと思ったらその有様だった……! 他の仲間も同じようににやられちまって……」
よく見ると、少し離れたところで同じように白い杭でハリネズミのようになっている2つの死体が転がっていた。
「フガク、行くよ」
ドレンからの話を聞くなりティアはミユキを伴って森の奥に進もうとする。
その様子を見て、俺もドレンも驚き慌ててその背に向かって声を投げかけた。
「ま、待ってよティア、さすがに無謀じゃない?」
「お、おうそうだぜ……! 俺の話聞いてたかよ!? お前らもああなっちまうぞ!」
変なところで息が合ってしまった。
しかし、ティアはこちらをチラリと一瞥して告げる。
口元には相変わらず微笑が張り付いているが、その目から笑みが消えていた。
「彼らが殺されたのが今しがたなら、敵もまだ近くにいるってことでしょう? ここは森の入口から近い。変に奥に逃げ込まれるより、ここで仕留めた方がいいわ」
「ドレンさんでしたか? あなたはギルドに報告をお願いします。すみませんが、危険なのでご遺体の回収は私達が討伐した後にしてくださいね」
勇敢なのか、あるいは無謀なのか、ティアもミユキも一旦退却する気など毛頭無いらしい。
「フガク、どうする? 思ったより厄介そうな相手だし、今回はそこの彼とキャンプに戻ってもいいよ」
ティアはそう提案してくれた。
しかし俺は、さすがにその提案に乗るわけにはいかない。
「行くに決まってるだろ」
「お、おい……ガキ、お前まで」
「僕はティアのパーティメンバーだ」
先ほど森の奥に進もうとするとき、ティアは「行くよ」と言って俺を足手まとい扱いしなかった。
俺が先ほど示した力が、ミューズとやらにも通用すると考えてくれているのだ。
だからここで尻尾を巻いて逃げ出して、戦いも最後までお任せというのではあまりにも格好が付かない。
駆け寄って隣に並んだ俺に、ティアもミユキも嬉しそうに笑ってくれた。
「よ、よし。ギルドに報告は任せとけ! 死ぬなよ……!」
最後にはドレンも背後からエールを送ってくれた。
俺は腕を上げて応える。
「今度は冗談も練習も無しよ。会敵したらまずはミユキさんに任せて。それが一番勝率が高いから」
「え、そうなの? 分かったけど……ミユキさんは、それで大丈夫なの?」
「もちろんです。お任せください」
ミユキはそう言って、自らの大きな胸に手を当てて笑いかける。
手に持った大剣が無ければ楚々としたお嬢さんなのに、死地においてはこれ以上なく頼もしい笑顔だ。
「逆に言うと、ミユキさんが危険と判断したら有無を言わず即退却。それが私たちのパーティの最優先事項だからよく覚えておいてね」
俺にはミユキの力の底など知る由も無いが、ティアからの信頼は絶大だ。
確かに、昨日もミユキは魔獣の群れを一人で壊滅させている。
ミユキならば余裕の相手なのか?
少し緊張が解けてきたと思ったそのとき。
「フガクくん!」
的確に俺の頭部に向け、一筋の矢が放たれた。
が、何とそれをミユキは空中で掴み取った。
「え、ええー……」
次元の違う反射神経に感心や感謝を通り越して若干引く俺。
どうやら既に俺たちは敵に捕捉されているらしい。
「2時の方向ですね。フガクくん、こちらに隠れましょう」
ミユキに手を引かれ、俺たちは太い木の幹にしゃがみこんで身を隠す。
ティアも別の木の陰から周囲の様子を伺っていた。
俺も木の陰からチラリと矢が飛んできたと思しき方向を見る。
深緑の木々を風が時折揺らすだけで、敵の姿は見えない。
「フガクくん! ぐぅッ……!」
「えっ……!」
傍らにいたミユキから、呻き声が上がる。
そちらを見ると、俺の頭のすぐ横に彼女の掌があり、白い矢が貫通している
やじりの先端は俺の頭部スレスレまで届いてた。
「ミユキさん! 大丈夫!?」
「大丈夫です……! でも矢は逆方向から飛んできましたね……!」
「敵が複数いるってこと!?」
「分かりません!」
ミユキは掌を貫いた矢を勢いよく抜き取る。
俺の頬に、彼女の血が飛び散った。
「っ!!」
間髪入れず、今度はミユキが俺を抱きかかえて木の幹の側から飛び出る。
俺たちは、地面に倒れ込むが、その一瞬後には、今まで俺たちが隠れていた木の幹に数本の白い矢が立て続けに突き刺さった。
「ティアちゃん! 少し下がります!」
「分かった!」
ミユキは俺の腕を抱えたまま、引きずるようにして元来た道を後退していく。
すると、また森の奥から白い矢が数本飛んできた。
「ちっ!!」
前を走るティアが俺たちの方に手をかざすと、淡く青白い光が一瞬周囲を取り囲んだ。
俺は空いた手で銀鈴を抜き、飛来する矢を弾き落とす。
ミユキもまた大剣でそれらを薙ぎ払うが、全ては払いきれず1本は俺の脇腹を掠め、もう
1本はみゆきの左肩に突き刺さった。
「つっ!」
一瞬顔をしかめるが、そのままスピードを緩めず後退し続ける。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫です! 矢に返しが無いのですぐ抜けます!」
そういうことではないのだが、ミユキの表情にはまだ幾分余裕がある。
俺たちは敵の姿を見つけることもできないまま、やがて先ほどドレンと別れたあたりまで戻ると、矢はもう飛んでこなくなった。
俺たちは呼吸を整えながら、お互いの状態を確認する。
ティアは無傷で、俺は矢が掠めた程度。
一番重傷なのはミユキだ。
掌と肩に矢が直撃し、左肩には未だ矢が突き刺さっている。
「ミユキさん、傷見せて」
ティアが駆け寄り、ミユキを座らせて掌をまず確認する。
腰のポーチからポーションを取り出して傷口にかける。
傷口が洗い流され、痛々しい裂傷が露わになる。
ティアがヒーリングを使わないのは、先ほど言っていた傷の限度を超えているからだろう。
と思っていたら一応ヒーリングをかけているのか、ティアの指先が青白く光っていた。
「フガクくん、お願いがあるんですが」
「あ、うん。何?」
ティアの治療を受けながら、ミユキが自らの左肩に突き刺さった矢を指差した。
「抜いてもらえませんか。手が治療中なもので、申し訳ないのですが」
ノースリーブから剥き出しの素肌に、痛々しく突き刺さった矢を、俺に抜けと言っているようだ。
「わ、わかったよ。痛くない?」
「とても痛いと思うので、一思いにお願いします」
返しが無いとはいえ、15cmくらいは突き刺さっているだろうか、これを抜くのはかなりの痛みを伴うことは間違いない。
だが。ミユキの負傷は完全に俺のせいだ。
俺を守って彼女は掌に風穴を開けられ、俺を引きずって逃げるさなかで傷を受けたのだ。
さすがに怖気付いてできないなんて言えるわけがない。
「いくよ?」
「はい……」
俺はミユキの柔らかな素肌に手を添え、もう一方の手で白い矢を握る。
ミユキは奥歯を噛み締めている。
そして彼女の言うように、一気に真っ直ぐに引き抜いた。
「うぁッ……!!」
ミユキの呻くような声が響いた。
苦しそうに眉を顰めているが、すぐに持ち直した。
矢が刺さっていた穴からは、ドロドロと血が溢れ出している。
「フガク、ポーションかけて消毒と止血して。多分ヒーリングで傷は塞がらないから、私のバッグにあるガーゼで傷口を押さえながら布で縛って」
俺はティアの指示通りに、自分のポーションを傷口にかけて洗い流す。
ティアの腰に巻いてあるバッグから布とガーゼを取り出して、応急処置を行った。
傷口が痛むのか、時おり呻く吐息が聞こえる。
ミユキを傷つけたのは俺だ。
彼女一人であれば、矢を叩き落として攻勢に転じられたかもしれないのに。
「ありがとうございます。ティアちゃんも」
ミユキは何でもなさそうに微笑んだ。
「剣は持てそう?」
「はい、問題ありません。ありがとうございます」
ミユキは立ち上がり、大剣を奮ってみせた。
なるほど、掌に執拗にヒーリングをかけていたのは、ミユキが再び武器を持てるようにするためだったのか。
その後、一応肩口にもヒーリングをかけてだめ押しの治療を施している。
「フガクもケガしてるね。見せて」
「いや、僕は大丈夫だよ。それよりティア、これからどうする?」
そう言った俺に、ティアは目を丸くさせた。
何かおかしなことを言っただろうか。
「ティア?」
「ああ、ごめん。一回退却しようとか言われるものだと思ってたから」
まあ本音ではそうしたいところだった。
が、こんな危険な魔獣を野放しにするわけにはいかない。
今はまだ森の中を根城としているようだが、こいつが人里に現れたら、一体どんな被害が出るか。
何より、ミユキをあれだけ傷つけられておめおめ逃げるのも癪だ。
「逃げるのも策のうちだけど、今回はまだその段階じゃないわね。でも敵の姿が見えないから慎重に行きたいところだけど……」
額に指を当てて考え始めるティア。
確かに、森の木々のせいでこちらが敵を視認できない状態から矢を放たれるのは厄介だ。
せめて相手の姿が見えればミユキに勝算がある気がするが。
しかし、どう奴に近づけばいいかは思い浮かばなかった。
「私に考えがあります」
すると、ミユキが肩を押さえながら手を挙げる。
その目には確かな闘志がみなぎっている。
彼女もまた、諦めるつもりなど微塵もないようだった。
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