魔王、いいから力を寄越せ!~転生した俺が美人勇者と復讐聖女を救うまで~

裏の飯屋

文字の大きさ
9 / 19
序章 異世界転移編

第8話 白き狩人

しおりを挟む
「何があったの? できるだけ手短に答えて」

 ティアが周囲を警戒しながら冒険者の男に問いかける。
 いや、いい加減冒険者というのも何だ。
 俺は男の名前とスキルを確認する。

――――――――――――――
▼NAME▼
ドレン=バルボア

▼AGE▼
38

▼SKILL▼
・斧術 B+
・格闘 B
・頑丈 C
――――――――――――――

 名前はドレンというらしい。

「ドレンさん、敵は近くにいるんですか?」

 俺はティアたちに倣って辺りを見渡しながらドレンに声をかける。
 ドレンは驚いたようにこちらを見た。

「お、お前何で俺の名前……!?」」
「いいから! どうなんだ?」
「い、いや分からねえ……! こいつは斥候だから、俺たちより少し先行してたんだが、急に倒れ込んだと思ったらその有様だった……! 他の仲間も同じようににやられちまって……」

 よく見ると、少し離れたところで同じように白い杭でハリネズミのようになっている2つの死体が転がっていた。

「フガク、行くよ」

 ドレンからの話を聞くなりティアはミユキを伴って森の奥に進もうとする。
 その様子を見て、俺もドレンも驚き慌ててその背に向かって声を投げかけた。

「ま、待ってよティア、さすがに無謀じゃない?」
「お、おうそうだぜ……! 俺の話聞いてたかよ!? お前らもああなっちまうぞ!」

 変なところで息が合ってしまった。
 しかし、ティアはこちらをチラリと一瞥して告げる。
 口元には相変わらず微笑が張り付いているが、その目から笑みが消えていた。

「彼らが殺されたのが今しがたなら、敵もまだ近くにいるってことでしょう? ここは森の入口から近い。変に奥に逃げ込まれるより、ここで仕留めた方がいいわ」
「ドレンさんでしたか? あなたはギルドに報告をお願いします。すみませんが、危険なのでご遺体の回収は私達が討伐した後にしてくださいね」

 勇敢なのか、あるいは無謀なのか、ティアもミユキも一旦退却する気など毛頭無いらしい。

「フガク、どうする? 思ったより厄介そうな相手だし、今回はそこの彼とキャンプに戻ってもいいよ」

 ティアはそう提案してくれた。
 しかし俺は、さすがにその提案に乗るわけにはいかない。

「行くに決まってるだろ」
「お、おい……ガキ、お前まで」
「僕はティアのパーティメンバーだ」

 先ほど森の奥に進もうとするとき、ティアは「行くよ」と言って俺を足手まとい扱いしなかった。
 俺が先ほど示した力が、ミューズとやらにも通用すると考えてくれているのだ。
 だからここで尻尾を巻いて逃げ出して、戦いも最後までお任せというのではあまりにも格好が付かない。
 駆け寄って隣に並んだ俺に、ティアもミユキも嬉しそうに笑ってくれた。

「よ、よし。ギルドに報告は任せとけ! 死ぬなよ……!」

 最後にはドレンも背後からエールを送ってくれた。
 俺は腕を上げて応える。

「今度は冗談も練習も無しよ。会敵したらまずはミユキさんに任せて。それが一番勝率が高いから」
「え、そうなの? 分かったけど……ミユキさんは、それで大丈夫なの?」
「もちろんです。お任せください」

 ミユキはそう言って、自らの大きな胸に手を当てて笑いかける。
 手に持った大剣が無ければ楚々としたお嬢さんなのに、死地においてはこれ以上なく頼もしい笑顔だ。

「逆に言うと、ミユキさんが危険と判断したら有無を言わず即退却。それが私たちのパーティの最優先事項だからよく覚えておいてね」

 俺にはミユキの力の底など知る由も無いが、ティアからの信頼は絶大だ。
 確かに、昨日もミユキは魔獣の群れを一人で壊滅させている。
 ミユキならば余裕の相手なのか?
 少し緊張が解けてきたと思ったそのとき。

「フガクくん!」

 的確に俺の頭部に向け、一筋の矢が放たれた。
 が、何とそれをミユキは空中で掴み取った。

「え、ええー……」

 次元の違う反射神経に感心や感謝を通り越して若干引く俺。
 どうやら既に俺たちは敵に捕捉されているらしい。

「2時の方向ですね。フガクくん、こちらに隠れましょう」

 ミユキに手を引かれ、俺たちは太い木の幹にしゃがみこんで身を隠す。
 ティアも別の木の陰から周囲の様子を伺っていた。

 俺も木の陰からチラリと矢が飛んできたと思しき方向を見る。
 深緑の木々を風が時折揺らすだけで、敵の姿は見えない。

「フガクくん! ぐぅッ……!」
「えっ……!」

 傍らにいたミユキから、呻き声が上がる。
 そちらを見ると、俺の頭のすぐ横に彼女の掌があり、白い矢が貫通している
 やじりの先端は俺の頭部スレスレまで届いてた。

「ミユキさん! 大丈夫!?」
「大丈夫です……! でも矢は逆方向から飛んできましたね……!」
「敵が複数いるってこと!?」
「分かりません!」

 ミユキは掌を貫いた矢を勢いよく抜き取る。
 俺の頬に、彼女の血が飛び散った。

「っ!!」

 間髪入れず、今度はミユキが俺を抱きかかえて木の幹の側から飛び出る。
 俺たちは、地面に倒れ込むが、その一瞬後には、今まで俺たちが隠れていた木の幹に数本の白い矢が立て続けに突き刺さった。

「ティアちゃん! 少し下がります!」
「分かった!」

 ミユキは俺の腕を抱えたまま、引きずるようにして元来た道を後退していく。
 すると、また森の奥から白い矢が数本飛んできた。

「ちっ!!」

 前を走るティアが俺たちの方に手をかざすと、淡く青白い光が一瞬周囲を取り囲んだ。
 俺は空いた手で銀鈴を抜き、飛来する矢を弾き落とす。
 ミユキもまた大剣でそれらを薙ぎ払うが、全ては払いきれず1本は俺の脇腹を掠め、もう
1本はみゆきの左肩に突き刺さった。

「つっ!」

 一瞬顔をしかめるが、そのままスピードを緩めず後退し続ける。

「だ、大丈夫!?」
「大丈夫です! 矢に返しが無いのですぐ抜けます!」

 そういうことではないのだが、ミユキの表情にはまだ幾分余裕がある。
 俺たちは敵の姿を見つけることもできないまま、やがて先ほどドレンと別れたあたりまで戻ると、矢はもう飛んでこなくなった。

 俺たちは呼吸を整えながら、お互いの状態を確認する。
 ティアは無傷で、俺は矢が掠めた程度。
 一番重傷なのはミユキだ。
 掌と肩に矢が直撃し、左肩には未だ矢が突き刺さっている。

「ミユキさん、傷見せて」

 ティアが駆け寄り、ミユキを座らせて掌をまず確認する。
 腰のポーチからポーションを取り出して傷口にかける。
 傷口が洗い流され、痛々しい裂傷が露わになる。
 ティアがヒーリングを使わないのは、先ほど言っていた傷の限度を超えているからだろう。
 と思っていたら一応ヒーリングをかけているのか、ティアの指先が青白く光っていた。

「フガクくん、お願いがあるんですが」
「あ、うん。何?」

 ティアの治療を受けながら、ミユキが自らの左肩に突き刺さった矢を指差した。

「抜いてもらえませんか。手が治療中なもので、申し訳ないのですが」

 ノースリーブから剥き出しの素肌に、痛々しく突き刺さった矢を、俺に抜けと言っているようだ。

「わ、わかったよ。痛くない?」
「とても痛いと思うので、一思いにお願いします」

 返しが無いとはいえ、15cmくらいは突き刺さっているだろうか、これを抜くのはかなりの痛みを伴うことは間違いない。

 だが。ミユキの負傷は完全に俺のせいだ。
 俺を守って彼女は掌に風穴を開けられ、俺を引きずって逃げるさなかで傷を受けたのだ。
 さすがに怖気付いてできないなんて言えるわけがない。

「いくよ?」
「はい……」

 俺はミユキの柔らかな素肌に手を添え、もう一方の手で白い矢を握る。
 ミユキは奥歯を噛み締めている。
 そして彼女の言うように、一気に真っ直ぐに引き抜いた。

「うぁッ……!!」

 ミユキの呻くような声が響いた。
 苦しそうに眉を顰めているが、すぐに持ち直した。
矢が刺さっていた穴からは、ドロドロと血が溢れ出している。

「フガク、ポーションかけて消毒と止血して。多分ヒーリングで傷は塞がらないから、私のバッグにあるガーゼで傷口を押さえながら布で縛って」

 俺はティアの指示通りに、自分のポーションを傷口にかけて洗い流す。
 ティアの腰に巻いてあるバッグから布とガーゼを取り出して、応急処置を行った。
 傷口が痛むのか、時おり呻く吐息が聞こえる。

 ミユキを傷つけたのは俺だ。
 彼女一人であれば、矢を叩き落として攻勢に転じられたかもしれないのに。

「ありがとうございます。ティアちゃんも」

ミユキは何でもなさそうに微笑んだ。

「剣は持てそう?」
「はい、問題ありません。ありがとうございます」

 ミユキは立ち上がり、大剣を奮ってみせた。
 なるほど、掌に執拗にヒーリングをかけていたのは、ミユキが再び武器を持てるようにするためだったのか。
 その後、一応肩口にもヒーリングをかけてだめ押しの治療を施している。

「フガクもケガしてるね。見せて」
「いや、僕は大丈夫だよ。それよりティア、これからどうする?」

 そう言った俺に、ティアは目を丸くさせた。
 何かおかしなことを言っただろうか。

「ティア?」
「ああ、ごめん。一回退却しようとか言われるものだと思ってたから」

 まあ本音ではそうしたいところだった。
 が、こんな危険な魔獣を野放しにするわけにはいかない。
 今はまだ森の中を根城としているようだが、こいつが人里に現れたら、一体どんな被害が出るか。
 何より、ミユキをあれだけ傷つけられておめおめ逃げるのも癪だ。

「逃げるのも策のうちだけど、今回はまだその段階じゃないわね。でも敵の姿が見えないから慎重に行きたいところだけど……」

 額に指を当てて考え始めるティア。
 確かに、森の木々のせいでこちらが敵を視認できない状態から矢を放たれるのは厄介だ。
 せめて相手の姿が見えればミユキに勝算がある気がするが。
 しかし、どう奴に近づけばいいかは思い浮かばなかった。

「私に考えがあります」

 すると、ミユキが肩を押さえながら手を挙げる。
 その目には確かな闘志がみなぎっている。
 彼女もまた、諦めるつもりなど微塵もないようだった。

<TIPS>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 そのまま半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。 凛人はその命令を、拒否する。 不死であっても無敵ではない。 戦いでは英雄王に殴り倒される始末。しかし一つ選択を誤れば国が滅びる危うい存在。 それでも彼は、星を守るために戦う道を選んだ。 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...