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序章 異世界転移編
第16話 転移者たるもの
しおりを挟む「うわー………まじか」
俺はワイルドバニーの巣がある場所まで赴くと、思わずげんなりした独り言を吐いてしまった。
受付嬢はそんなに数は多くないと言っていたが、どう見ても30匹くらいはいる。
群れで襲われたら危険とかも言ってなかったっけ?
外壁沿いの地面に穴を掘っているようで、俺が近づく前から巣穴の周りにたむろしていた。
ワイルドバニーは黒と白のまだら模様の体毛に、鋭い爪と牙を生やした巨大なウサギだった。
体長は聞いていた通り80cm程度だろうか、もはや小動物ではないし、顔も凶悪で全然可愛くない。
「さて、やるか」
俺はとりあえず奴らのスキルを確認してみる。
――――――――――――――
▼NAME▼
ワイルドバニー
▼SKILL▼
・ハイジャンプ B
――――――――――――――
これといって恐ろしいスキルは無さそうだ。
俺は足元に落ちていた大きめの石を手に取ると、それをワイルドバニーの群れの中に投げつけた。
奴らの黒く鋭い目が一斉にこちらを向く。
「お前たちには悪いけど、害獣駆除だってさ!」
俺が声をかけると、ワイルドバニーたちは一斉にこちらに襲い掛かってきた。
銀鈴を抜き、奴らを迎え撃つ。
手始めに、最初に飛び掛かってきた3体を銀鈴で薙ぎ払って切り捨てる。
奴らはあくまでこちらに向かって飛び掛かってくるだけだ。
少しずつ後ずさりながら斬っていけば、囲まれることなく対処できるだろう。
銀鈴と俺のスキルのおかげで、一太刀で1体は討伐できている。
だがいかんせん数が多い。
少しでも気を抜けば囲まれて押しつぶされそうだった。
「ちっ!」
既に10体以上斬ったが、こちらも多少は傷を負った。
小型の魔獣とはいえ80cmの体長は決して小さくない。
体重もおそらく数十キロはあるだろう。
そいつらが爪をむき出しにして勢いよく突撃してくるのはそれなりに危険だ。
俺は4体同時に飛びかかってきたワイルドバニーの下をくぐり抜けて、背後から一気に薙ぎ払う。
すぐさま後続が来るので、振り返り様にも切りつける。
「よし、いける……!」
残り10体程度だ。
知能の高い魔獣ではないのか、退くといったこともせず闇雲に向かってきている。
俺は、銀鈴を構え突進してくる残りの群れに突っ込んで、一体ずつ確実に仕留めていった。
「あー、ボスもいたかー……」
ワイルドバニー約30体を、かすり傷を負いつつも倒した俺の前に、巣穴の中からひときわ巨大な魔獣が姿を現した。
俺は戦闘になる前にスキルを発動する。
――――――――――――――
▼NAME▼
グランドバニー
▼SKILL▼
・ジャイアントクロー B+
・ハイジャンプ B
――――――――――――――
グランドバニーという、3メートル近い体長のある巨大なヒグマのようなウサギだ。
いや、もはやかろうじて耳が長いだけであとはほぼヒグマだ。
殴られたらさすがに一撃で大けがを負いそうな爪を振り上げて、奴はウサギの脚力で飛び掛かってきた。
「こいよ、相手してやる……!」
俺にとってこれはティアたちと旅に出る前の、最後の確認だと思っている。
ベヒーモスを倒し、ブラッドボアを倒し、ノエルも倒した
ここまでくれば、俺は十分魔物と渡り合えることは分かっている。
だが、そのいずれもミユキやティアがいたからやれたのだ。
俺は一人でも戦えるようになりたい。
俺が弱いままでは、ミユキが変に気を使って判断を誤るかもしれない。
俺が怪我をしたことで自らを責めるかもしれない。
ミユキにとって、俺はまだ庇護の対象でしかないのだ。
昨日、ノエルからの襲撃を受けたとき。
俺はミユキに引きずられるようにして助けられ、庇われた。
俺の頭の中で、昨日の俺の情けない姿がチラつく。
「……冗談じゃない……!」
ブォン!と風を切って振るわれたグランドバニーの爪を交わし、俺は奴の腕に銀鈴を突き刺して切り裂いた。
「ギャォオオオオオオオンンンン!!!!!!」
グランドバニーの咆哮が辺りに木霊し、俺はそのまま奴の首元に銀鈴の刃先を押し当てた。
せっかく異世界に転移したのに、弱くて守られるだけの存在で居続けるなんてまっぴらごめんだ。
刃を引き。グランドバニーの首から大量の血しぶきが舞う。
巨体が地面に横たわり、砂埃を舞い上げた。
「はぁ……はぁ……よし」
俺は肩で息をしながら、銀鈴に着いた血を払う。
昨日ミユキが俺に謝罪したことが、俺は自分で思う以上にショックだったのかもしれない。
大丈夫だ、やれると思った。
ミユキの力がどれほど高みにあるのか分からないが、ミューズの巨体を吹き飛ばした様子からは俺の想像の及ばぬ極地にいるのだろう。
でも俺は、二度と彼女に俺の弱さのために謝らせたくないのだ。
どうせ異世界で生きていくしかないのなら、俺はミユキと共にティアの双剣として並べるだけの強さを手に入れる。
俺は銀鈴を鞘に戻して、決意を胸に先ほどティアに買ってもらったナイフで討伐の証を採取することにした。
―――
その後宿に戻った俺だったが……。
「ねえフガク。私さー、あなたに時計も買ってあげなくちゃダメかなー?」
「はい……ごめんなさい」
俺は今、ティアとミユキの部屋で床に正座しながらお説教を受けていた。
「明日はさ、朝4時に起きて馬車の受け取りに行かないといけないんだよね。
でさ、お昼も食べてないし、早めに夕食済ませてさ、今日くらいはゆっくり休んで明日に備えたかったんだよね。
明日からは交代で見張りもしないといけないから、二人にもしっかり寝てほしいなって思ってそうしたんだよね。
優しいよね、私」
ティアはベッドの上に足を組んで座り、わざとらしい口調でそう言った。
「面目次第もございません……」
「優しいよね? わ・た・し」
「はい……お優しいです」
「いいよねーフガクは。今日は2回もお風呂に入ってさ。私たちはもう、次は2日後に帝都まで入れないのかーって嘆き悲しんでいるというのに。
旅程のどこで水浴びできるか気が気でないというのに」
はぁあ~とこれ見よがしのため息をつきながら、ティアは明後日の方向を見て嘆き悲しむフリをしている。
「テ、ティアちゃんもうそのへんで……」
「ミユキさんは黙ってて」
「はい……」
なぜ俺がティアにネチネチ怒られているのかというと、クエスト達成証明のために牙や角を採取したり、ギルドに報告に戻ったりしているうちに、ティアが指定した門限を大幅にオーバーしたからだ。
しかもそれだけならまだいいが、泥やら血で汚れた俺が宿に戻るなり、ギョッとした顔をしたティアにすぐに風呂屋に行って洗ってこいと怒られた。
結果、俺が再び宿に戻るころにはすっかり日も暮れ、予定ではもう夕食もとっくに済ませて休んでいる時間帯になってしまったのだ。
完全なる時間配分ミスのうえ、部屋まで汚したのでティアは大層ご立腹だった。
もしかしたら昨日の朝遅刻したことや、今朝森からエルルへの帰路でティアの話を全然聞かずに寝ていたことも理由に含まれるかもしれない。
あれ? 俺怒られても仕方ない?
かくして俺は、本日2回目の公衆浴場で血と汗を流し、ダッシュで宿に戻るなりスライディング土下座をキメてティアの部屋に滑り込んだ。
「で、何してたの?」
ようやく話を聞いてくれる体勢に入ったようだ。
正座で肩を落とし俯いていた俺は、チラリとティアを見上げる。
ベッドに脚を組んで腰掛けているため、ちょうど正面にティアのスカートから伸びる太ももが見えてしまった。
「あっ……!」
「何?」
「何でもない!」
俺はあわてて視線を逸らす。
何がとは言わないが、うっすら見えたそれはティアのいつも羽織っているケープと同じ水色だった。
「えーと、ギルドでちょっとクエストを受けてたんだよ」
「何で?」
「なんでって……」
まあ腕試しと言えばそれまでだ。
俺には俺なりに色々と葛藤もあるわけだが、それは言うまい。
「早くティア達の役に立ちたくて……」
俺は自分の強くなりたいという目的は素直に話してみた。
半ば強制的に始まった旅ではあるが、どうせなら良いものにしたい。
ティアの目的のために力になれる方がお互い利になるだろう。
「ふぅん。もう結構役に立ってくれてると思うけど?」
ティアは当たり前のようにそう言った。
「そうですよ。旅はまだまだこれからです。焦らず頑張りましょう」
ミユキも優しくフォローしてくれる。
俺は改めて、良い仲間を持ったなと思った。
このままハートフルに話が終わってくれれば良かったのだが、残念ながらそうはならないようだ。
「ま、それと遅刻は別だけどね」
キッとティアの大きな眼が吊り上がる。
「まあまあティアちゃん。フガクくんも反省してることですし、そろそろ許してあげましょう」
「ダメ! それにさっきフガク私の下着見たよね? 気付いてるからね」
バレていたようだ。
それによく考えれば、この部屋って数日ティアとミユキが寝泊まりした部屋だ。
なるほど、この二人が数日同じ部屋で生活するとこんなにフローラルな香りがするのかと、余計なことまで考え始めてしまった。
「ミユキさん! フガクがいやらしいこと考えてる! そういう顔してる!」
「してないよ! そ、それにさっきのはわざとじゃ……あ!」
「やっぱり見てた! フガクは晩御飯無し」
「フガクくん、そういうのはダメだと思います」
ミユキにも若干マジなトーンで諌められた。
とほほ、と一昔前のアニメのように肩を落とす俺。
その後ティアのお説教はもうしばらく続き、ミユキも助け舟を出してくれなくなった。
結局俺たちは3人でしっかり夜更かししてしまい、翌朝の起床時間を大幅に遅れて仲良く遅刻することに。
時計を見たときのティアの唖然とした顔やミユキの苦笑いなど、俺たちは変な一体感を感じて宿を発つのだった。
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