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黒髪の赤子
しおりを挟むこちら、別で連載中のBL小説『深窓の異世界転移者2世(聖女の息子)は未だ愛を知らない』の主人公ノエルの母親カレンのスピンオフとなっております!
よければ、『深窓の~』もチェックしてみてください^^♪
※ゆっくり更新予定ですm(__)m※
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――私は、この子の母親だから…この子を全力で守る義務がある
三日月型をした大陸と星島と呼ばれる島から成り立つその国の名は、パラビナ王国といった。
この国は、50年から100年に一度くらいの割合で、ニホンという異世界から、黒髪・黒目をした人間が転移をしてくる。
異世界人は総じて、国を救う異能を有していた為、転移してきた女性のことを『聖女』、男性のことを『聖人』と呼んで敬い、国に大切に保護される存在であった。
その『聖女』とよばれる楠木カレンは、雨の中、白い布で覆われた何かを大事そうに両手で抱え、長い黒の髪の毛を濡らしながら、今にも倒れそうな状態で、星島とよばれるタースル地方の奥地にあるアーサー・リンデジャックが所有する屋敷の門の前に立っていた。
そして、隣でカレンの身体を支えながら立っているのは、カレンの侍女ハンナ・レフィージャだ。カレンよりも少し幼い顔立で、薄い桃色の髪の毛を1つに結んでいる。
ドタドタと大きな足音がして、ガチャリと門の扉が開く。扉が開いたところには、血相を変えたアーサーが、信じられないものを見るかのように薄茶色の目を見開いて立っていた。
榛色の髪の毛が何の手入れもされていない状態で、肩甲骨のあたりまで伸び切っている。
「――生きていたのか!?……報告では君は死んだと…」
「リンデジャック師団長、お願いです!このように雨も降っております。どうか中に、入れてください!」
ハンナは、扉を開いたまま、茫然と立ちすくむアーサーに向かって、無礼を承知の上で声を張り上げる。肩は小刻みに震えていた。
アーサーは、ハンナの声でやっと気を取り戻して、2人を門から建物の中に迎え入れる。
アーサーが建物の扉を閉めた時、ハンナに支えられて青い顔をしたカレンが、絞り出すように声を出した。
「ごめんなさい…頼れるのは貴方しかいないの…この子を何としても守らないと…」
カレンは、腕に抱えている白いお包みを少し開いて、中の様子を確認する。カレンの腕の中には、産まれたばかりの赤子がすやすやと寝息を立てていた。
「……子供?まさか、君の子供だと言うのか…!?」
アーサーは、カレンと同じくらい青い顔をして、かなり動揺している。死んだと報告を受けた聖女が生きていて、そして自分の子供だと言う子を抱いているのだ。
「アーサー、近くにきて。この子を…見て」
カレンの言葉に誘われるように、アーサーは恐る恐るとカレンに近付いた。そして、カレンの腕の中を覗く。そこには、短い黒い髪の毛を持った赤子が寝ていた。
「――っ!!黒い髪…まさか…本当に君の子供なのか!?そんなはずは…これまでの記録では異世界からやってきた聖女や聖人は子を為せないと…」
「正真正銘、カレンさんの子です!私が出産に立ち会いました!」
すっかりと気が動転してしまっているアーサーに、ハンナは明確にそう断言する。
アーサーは、再び黒髪の赤子に目を向けた。すると、タイミングよく子供が目を覚まし、ゆっくりと小さな瞼を開いた。
「薄茶色に緑……アイツの瞳…!!じゃあ、本当に…?」
アーサーが、ほとんど叫ぶようにそう言った後、カレンはふらりと身体を傾けた。
アーサーは咄嗟に、腕の中の子供ごとカレンを抱きとめた。そしてハンナに向かって言った。
「――っ!!カレンの状態は、危険だ。こちらで休ませよう。子供を一緒に連れてきてくれないか?」
アーサーの言葉に、ハンナは力強く頷き、カレンの腕から赤子を引き取る。
アーサーは、カレンを横抱きにすると、休ませるための寝室へと急ぎ向かった。アーサーの腕の中で、既に意識を手放しかけているカレンは、言った。
「…ありがとう…アーサー……あの子の名前はノエルって言うの。男の子だ…よ…」
そしてカレンは意識を失った。
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