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魔物討伐隊 立入制限区域レベル6にて
聖剣使いの実習生 2
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「俺、その時に隊長と一緒に現場に居たんです。一人が足をやられてしまって、そいつを助けるために俺は戻れって言われて…怪我人を連れ帰ったあと、隊長も瀕死状態で運ばれたけど、治療士によって助けられたって…その治療士がノエル・リンデジャックさんだって教えてもらいました」
ランドルフがS級レベルの魔物と闘って瀕死状態になったことと、ノエルがランドルフを治療したことは、正式に発表があるまでは言わないようにと、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインの側近であるフェルナン・ルシアノからきつく言い含められていた。
イスタの深い青色の目が、ノエルを見つめる。
「あの…ありがとうこざいました。俺はあの時、本当に無力で…怪我人を連れて戻れっていう命令に従うしかなかったんです。でも、拠点に戻りながら、ずっと後悔してて、隊長と一緒に残ったほうが良かったんじゃないかって…。そのあと、治療士の方に助けられたって聞いて、あの時、本当に心から感謝したんです」
ノエルは、イスタの感謝の言葉に気恥ずかしくなった。
「それは…治療士の仕事をしたまでで…」
「人一人の命を救うって、その人だけじゃなく、周りの他の何人もの心を救うことになるんですよね。治療士の仕事ってすごいですよね」
イスタは、キラキラとした目でノエルを見る。
それは、朝、ラボの前でかけられた言葉とは全く逆の、治療士として受け入れられて感謝される温かい言葉だった。
ノエルは心から励まされた気持ちがした。
「…ありがとうございます」
ノエルはイスタに向かって微笑んだ。
「っ…!!この距離でその笑顔…破壊力あるな…」
イスタは、顔を赤らめながら、口元を抑える。
そしてすぐに誤魔化すように、んんっと咳払いをして、
「ノエル・リンデジャックさん、敬語はいらないです。俺はあなたより年下ですから」
「えっ…?」
今年学校を卒業して新人として配属された自分よりも年下とはどういうことなのか?ノエルは軽く首を傾げた。
そして、何気なく視線を向けたイスタのマントの上に、王立魔術師団学校のエンブレムが目にはいる。ブロンズ色の実習生のバッチだ。
「俺、魔術師団学校の3年生なんです。聖剣使いが少ないとかで、特例でこの討伐部隊が実習先になったんです」
聖剣とは、精霊の加護をうけた聖樹を用いて精製された剣で、体力があり戦闘力に優れた高潔な者にしか使い手の適性がないと言われている。選ばれた者のみ、聖剣を扱うことができるのだ。
聖樹の枝や葉の採取は、聖剣を用いて行われるため、聖剣使いはどの魔物討伐部隊でも重用される。
「そっか、今3年生なんだ。実習先が前線ってすごいな…しかも、魔力も高いし、聖剣も扱えるとなると、立派な即戦力になるね」
ノエルはそう言いながら、イスタの左腕に治癒魔術をかける。
先ほどから、イスタの左腕に絡みついていた数本の細い糸状になった黒い点が気になっていた。魔力を使ったことで、病魔ストレスが溜まっていたようだ。
症状が軽いため、すぐに黒い点は霧散されていく。ノエルは最後にイスタの身体全体に、体力回復の魔術をかけた。
「これで大丈夫。戻る時、体力回復用に、エナジードリンクを物資供給棟から受け取って」
ノエルはマントから小さなメモ帳とペンを取り出し、エナジードリンクの種類を書きつけ、そのページを切り取ってイスタに渡した。
「すごい早業だ…!俺、利き腕がもともと左で、両利きになるようにして訓練したんですけど、聖樹の枝の切り落としとか、細かい作業はつい左でやってしまうんですよね。言ってもないのに、たくさん使った腕を真っ先に無詠唱の治療魔術をつかって治してくれて…すごいな」
イスタは再びキラキラした目で前のめりでノエルを見つめる。
「エイブラムス君…ちょっと近いかも…」
ノエルが恥ずかしさもあってそう伝えると、イスタはぱっと両手を開いて、ノエルから少し距離をとった。
「あっ、ごめんなさい。つい、感動して。あと、イスタって呼び捨てで大丈夫です。俺の家名、言いにくいんで。名前のほうが呼びやすいんです」
「わかったよ…じゃあ、イスタ、お大事にね」
「はい!ありがとうございました!ノエル・リンデジャックさん!」
イスタは頭を下げてお礼を言い、去っていった。
ノエルは自分も名前呼びでいいのに…というかなぜフルネームなのかと問う間もなく、少し離れたところで順番待ちをしていた魔術騎士の治療にあたった。
ランドルフがS級レベルの魔物と闘って瀕死状態になったことと、ノエルがランドルフを治療したことは、正式に発表があるまでは言わないようにと、討伐第2部隊隊長リッツェン・ロイスタインの側近であるフェルナン・ルシアノからきつく言い含められていた。
イスタの深い青色の目が、ノエルを見つめる。
「あの…ありがとうこざいました。俺はあの時、本当に無力で…怪我人を連れて戻れっていう命令に従うしかなかったんです。でも、拠点に戻りながら、ずっと後悔してて、隊長と一緒に残ったほうが良かったんじゃないかって…。そのあと、治療士の方に助けられたって聞いて、あの時、本当に心から感謝したんです」
ノエルは、イスタの感謝の言葉に気恥ずかしくなった。
「それは…治療士の仕事をしたまでで…」
「人一人の命を救うって、その人だけじゃなく、周りの他の何人もの心を救うことになるんですよね。治療士の仕事ってすごいですよね」
イスタは、キラキラとした目でノエルを見る。
それは、朝、ラボの前でかけられた言葉とは全く逆の、治療士として受け入れられて感謝される温かい言葉だった。
ノエルは心から励まされた気持ちがした。
「…ありがとうございます」
ノエルはイスタに向かって微笑んだ。
「っ…!!この距離でその笑顔…破壊力あるな…」
イスタは、顔を赤らめながら、口元を抑える。
そしてすぐに誤魔化すように、んんっと咳払いをして、
「ノエル・リンデジャックさん、敬語はいらないです。俺はあなたより年下ですから」
「えっ…?」
今年学校を卒業して新人として配属された自分よりも年下とはどういうことなのか?ノエルは軽く首を傾げた。
そして、何気なく視線を向けたイスタのマントの上に、王立魔術師団学校のエンブレムが目にはいる。ブロンズ色の実習生のバッチだ。
「俺、魔術師団学校の3年生なんです。聖剣使いが少ないとかで、特例でこの討伐部隊が実習先になったんです」
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聖樹の枝や葉の採取は、聖剣を用いて行われるため、聖剣使いはどの魔物討伐部隊でも重用される。
「そっか、今3年生なんだ。実習先が前線ってすごいな…しかも、魔力も高いし、聖剣も扱えるとなると、立派な即戦力になるね」
ノエルはそう言いながら、イスタの左腕に治癒魔術をかける。
先ほどから、イスタの左腕に絡みついていた数本の細い糸状になった黒い点が気になっていた。魔力を使ったことで、病魔ストレスが溜まっていたようだ。
症状が軽いため、すぐに黒い点は霧散されていく。ノエルは最後にイスタの身体全体に、体力回復の魔術をかけた。
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ノエルはマントから小さなメモ帳とペンを取り出し、エナジードリンクの種類を書きつけ、そのページを切り取ってイスタに渡した。
「すごい早業だ…!俺、利き腕がもともと左で、両利きになるようにして訓練したんですけど、聖樹の枝の切り落としとか、細かい作業はつい左でやってしまうんですよね。言ってもないのに、たくさん使った腕を真っ先に無詠唱の治療魔術をつかって治してくれて…すごいな」
イスタは再びキラキラした目で前のめりでノエルを見つめる。
「エイブラムス君…ちょっと近いかも…」
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「あっ、ごめんなさい。つい、感動して。あと、イスタって呼び捨てで大丈夫です。俺の家名、言いにくいんで。名前のほうが呼びやすいんです」
「わかったよ…じゃあ、イスタ、お大事にね」
「はい!ありがとうございました!ノエル・リンデジャックさん!」
イスタは頭を下げてお礼を言い、去っていった。
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