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耳に残るのは君の声
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その日、十時を回った頃になってようやく幸人から着信があった。
『マユ?』
「うん。」
『どうした?そっちから連絡欲しいとか言うの珍しいじゃん。』
「とぼけないでよ、だいたい分かってるくせに。」
『あー、ね。』
耳元に届く幸人の声は直哉よりも低くて。周りを気にするようにボソボソと話す声がいつもとは別人のようだった。
「健人さんから少しだけ聞いた。結構ひどい事故だったらしいじゃん。」
『……健人が大袈裟なだけ、ちょっと引っ掛けられただけだし。』
「でも自転車ぺちゃんこだったって。」
『まぁ、それはそれなりに。』
静かな部屋に自分の声だけが響く。私には幸人に直接確かめないといけないことがあった。
「事故の前、ナオの家に行ってたって本当?」
『……』
「ねぇ、もしかして私のせいなんじゃないの?あの日、駅で私と二人で話した後サイはナオの所に行ってくれたんだよね?」
『マユのせいじゃないって。事故は事故、たまたま。』
「でも私がサイに相談したりしなかったら、あの日はナオの家行かなかったでしょ?」
『……いや、それはどうかな。』
「ほんと、私自分の事しか考えてなくてごめんなさい。サイがもう少しで死んじゃうとこだったなんて──」
『ばーか、勝手に殺すなよ。』
幸人がばーかと囁く低い声が優しく耳に残る。自然と涙が溢れてきた。
『ナオからもすげー怒られたし、その倍くらい謝られた。だからもう十分。ありがとな、心配してくれて。』
「……」
『何だよ、泣いてんの?』
「……泣くさ。怖かったもん。」
『どんだけひどい事故想像したのよ?』
「事故だけじゃないよ。いや、もちろん事故も怖いけど。」
立ち上がると机の上にあるティッシュに手を伸ばす。
『何?俺がいなくなるのそんなに怖いワケ?』
「……」
『いや、今の間は何なん?』
「怖い。私幸人がいなくなるの怖いよ?当たり前じゃん。」
『まぁ──友達だもんな。』
一度スマホを置くと鼻をかむ。幸人が何かを話している声が小さく聞こえた。
『──いんだけど。』
「あ、ごめん。鼻かんでたから聞こえなかった。」
『マユお前な……』
「ごめんって。で、何?」
『だから……あぁ、もういいよ!結局マユは卒業するまで直哉の友達ごっこに付き合ってやるつもりなんだろ?』
「え?いきなり話飛び過ぎじゃない?」
『いいんだよ。』
「その……ナオからもう全部話聞いたんでしょ?好きだとかそういう気持ちだけでどうにかなる問題でもなさそうだし。でも今更友達に戻れるのかって言われたら正直自信ない。」
『じゃあさ、俺も卒業するまでは協力してやるよ。お前たちの思い出作り。』
「思い出作り?」
『おう。』
涙と鼻水はとっくにおさまっていたけれど、なんとなくティッシュをもう一枚引き出した。
「友達としてのいい思い出って今更必要?」
『それは……どうなんだろうな。でも直哉は喧嘩別れみたいな後味の悪い形にしたくないって言ってたんだろ?』
「うん、多分そんな感じのこと言ってた。」
『だったら少なくともアイツには必要なんだろうよ。』
「……」
『何?俺また何か泣かすようなこと言った?』
「違う、泣いてない。ちょっと考えてただけ。明日から私普通に話せるかな、とか。」
『ナオと?無理しなくてもいいと思うよ。』
「違うよ、サイとだって。突然泣いちゃったりしてなんか恥ずかしいし。怪我した足見たら事故のこととかまたいろいろ考えちゃうだろうし。」
『……じゃ、存分に意識しちゃってよ。俺ニヤニヤしながら見とくから。』
「……最低。やっぱりさっきの涙返して。」
『それは、断る。じゃあ、健人がさっきから横でうるせーからそろそろ切るわ。』
『繭ちゃーん、明日の朝彼氏の車で迎えに行くから待っててねー。』
「健人さん!?」
『お前彼氏じゃねーし。』
『お?』
スマホのスピーカー越しに聞こえる兄弟の楽しそうな会話に、思わず笑いがこぼれた。
直哉と私は理由はどうあれもう別れた。頭では十分に分かっているつもりだったけれど、やっぱり納得が出来た訳ではなかった。
どうして直哉は卒業まで待ってくれなかったのか。恋愛や友達関係で悩んでいるよりも受験勉強に集中したかっただけなのかもしれないし、他にも何か理由があったのかもしれない。
でもこうなった以上、今はお互いに前を向いて頑張るしかなかった。
スマホを両手で握りしめ、しばらくぼーっとしていた。
「ん?そういえば、健人さん明日の朝迎えに来るって言ってなかった?どういうこと?」
幸人が怪我が治るまでしばらくの間健人さんに送ってもらうのは分かる。でも何で私まで一緒に登校することになっているのだろうか?
「クラス同じだからかな。まぁ三年になってナオだけ離れちゃったもんね。」
直哉は今この時間も勉強をしているのだろうか?
気になってスマホの連絡先から直哉の番号を探し出し、しばらく考えた後で何もせずにそのまま閉じた。用はないけれどなんとなく連絡を取って勉強の邪魔をしていいのは付き合っている時限定だろう。
「頑張れ。私も……頑張る。」
『マユ?』
「うん。」
『どうした?そっちから連絡欲しいとか言うの珍しいじゃん。』
「とぼけないでよ、だいたい分かってるくせに。」
『あー、ね。』
耳元に届く幸人の声は直哉よりも低くて。周りを気にするようにボソボソと話す声がいつもとは別人のようだった。
「健人さんから少しだけ聞いた。結構ひどい事故だったらしいじゃん。」
『……健人が大袈裟なだけ、ちょっと引っ掛けられただけだし。』
「でも自転車ぺちゃんこだったって。」
『まぁ、それはそれなりに。』
静かな部屋に自分の声だけが響く。私には幸人に直接確かめないといけないことがあった。
「事故の前、ナオの家に行ってたって本当?」
『……』
「ねぇ、もしかして私のせいなんじゃないの?あの日、駅で私と二人で話した後サイはナオの所に行ってくれたんだよね?」
『マユのせいじゃないって。事故は事故、たまたま。』
「でも私がサイに相談したりしなかったら、あの日はナオの家行かなかったでしょ?」
『……いや、それはどうかな。』
「ほんと、私自分の事しか考えてなくてごめんなさい。サイがもう少しで死んじゃうとこだったなんて──」
『ばーか、勝手に殺すなよ。』
幸人がばーかと囁く低い声が優しく耳に残る。自然と涙が溢れてきた。
『ナオからもすげー怒られたし、その倍くらい謝られた。だからもう十分。ありがとな、心配してくれて。』
「……」
『何だよ、泣いてんの?』
「……泣くさ。怖かったもん。」
『どんだけひどい事故想像したのよ?』
「事故だけじゃないよ。いや、もちろん事故も怖いけど。」
立ち上がると机の上にあるティッシュに手を伸ばす。
『何?俺がいなくなるのそんなに怖いワケ?』
「……」
『いや、今の間は何なん?』
「怖い。私幸人がいなくなるの怖いよ?当たり前じゃん。」
『まぁ──友達だもんな。』
一度スマホを置くと鼻をかむ。幸人が何かを話している声が小さく聞こえた。
『──いんだけど。』
「あ、ごめん。鼻かんでたから聞こえなかった。」
『マユお前な……』
「ごめんって。で、何?」
『だから……あぁ、もういいよ!結局マユは卒業するまで直哉の友達ごっこに付き合ってやるつもりなんだろ?』
「え?いきなり話飛び過ぎじゃない?」
『いいんだよ。』
「その……ナオからもう全部話聞いたんでしょ?好きだとかそういう気持ちだけでどうにかなる問題でもなさそうだし。でも今更友達に戻れるのかって言われたら正直自信ない。」
『じゃあさ、俺も卒業するまでは協力してやるよ。お前たちの思い出作り。』
「思い出作り?」
『おう。』
涙と鼻水はとっくにおさまっていたけれど、なんとなくティッシュをもう一枚引き出した。
「友達としてのいい思い出って今更必要?」
『それは……どうなんだろうな。でも直哉は喧嘩別れみたいな後味の悪い形にしたくないって言ってたんだろ?』
「うん、多分そんな感じのこと言ってた。」
『だったら少なくともアイツには必要なんだろうよ。』
「……」
『何?俺また何か泣かすようなこと言った?』
「違う、泣いてない。ちょっと考えてただけ。明日から私普通に話せるかな、とか。」
『ナオと?無理しなくてもいいと思うよ。』
「違うよ、サイとだって。突然泣いちゃったりしてなんか恥ずかしいし。怪我した足見たら事故のこととかまたいろいろ考えちゃうだろうし。」
『……じゃ、存分に意識しちゃってよ。俺ニヤニヤしながら見とくから。』
「……最低。やっぱりさっきの涙返して。」
『それは、断る。じゃあ、健人がさっきから横でうるせーからそろそろ切るわ。』
『繭ちゃーん、明日の朝彼氏の車で迎えに行くから待っててねー。』
「健人さん!?」
『お前彼氏じゃねーし。』
『お?』
スマホのスピーカー越しに聞こえる兄弟の楽しそうな会話に、思わず笑いがこぼれた。
直哉と私は理由はどうあれもう別れた。頭では十分に分かっているつもりだったけれど、やっぱり納得が出来た訳ではなかった。
どうして直哉は卒業まで待ってくれなかったのか。恋愛や友達関係で悩んでいるよりも受験勉強に集中したかっただけなのかもしれないし、他にも何か理由があったのかもしれない。
でもこうなった以上、今はお互いに前を向いて頑張るしかなかった。
スマホを両手で握りしめ、しばらくぼーっとしていた。
「ん?そういえば、健人さん明日の朝迎えに来るって言ってなかった?どういうこと?」
幸人が怪我が治るまでしばらくの間健人さんに送ってもらうのは分かる。でも何で私まで一緒に登校することになっているのだろうか?
「クラス同じだからかな。まぁ三年になってナオだけ離れちゃったもんね。」
直哉は今この時間も勉強をしているのだろうか?
気になってスマホの連絡先から直哉の番号を探し出し、しばらく考えた後で何もせずにそのまま閉じた。用はないけれどなんとなく連絡を取って勉強の邪魔をしていいのは付き合っている時限定だろう。
「頑張れ。私も……頑張る。」
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