さよならは君のために

ゆみ

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男女の友情

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 直哉と幸人は中学校の時からの友達なので、家もそれなりに近い場所にある。それなのに直哉が電車、幸人が自転車で通学をしているのは、実は体力作りの一環だったそうで。
 翌朝、予告通りの時間に現れた健人さんは後部座席の幸人の隣に私を乗せると、自分が自転車通学を勧めた張本人だと教えてくれた。

「まぁ部活引退した時点で電車にしても良かったんだけど。なんとなくそのままね。」
「チャリなくなったんだしさ、お前も怪我が治ったらそろそろ大人しく電車通学にすればよ?」
「保険おりるから新しいチャリは買えるけど。しかも金に糸目をつけない新車。」
「うわ、もしかして当たり屋?」
「バカ、死んだら終わりだろ?命がけの賭けはしない主義。」

 幸人と健人さんの途切れることがない会話を聞きながら、私は窓の外を眺めていた。何で自分は今幸人の隣にこうして座っているんだろうと考えながら。

 車がカーブを曲がるとき、幸人がぶつかりそうなほど近くに寄ってきたので咄嗟にシートに手をついた。同時に手をついた幸人と指と指が触れてドキッとするが、幸人の方は顔色一つ変えず健人さんとの会話を続けている。

「ほんともうこれで勘弁してくれよ?俺夜中に警察から電話かかってくるとか。あんな経験するの二度と嫌だからな。」
「……咄嗟に頼れる大人って健人の他に思いつかなかったからさ。」
「まぁな。さすがに親には言えねぇか。」

 信号で車が止まると、ミラー越しに健人さんがニヤリと笑ったのが見えた。

「お前ら二人学校の正門前で下ろしてやろうか?」
「勘弁してよ。」
「じゃ車ん中でいちゃつくなよ、馬鹿。」
「いちゃついてねーし。」
「中学生かよ。こっそり隠れて手つないでるとか。」

 何も言わずにパッと手を離すと、幸人はバレたかと言うようにわざとらしく舌を出した。


 車は学校を一旦通り過ぎると、その先にあるコンビニの駐車場に入って行った。この方向から高校に向かう生徒はまばらで、駅から正門に向けて歩く集団に比べれば随分と数が少ない。
 健人さんは幸人が車から降りるのを見届けると、私に向かってじゃあねと手を振りながらコンビニの中に入って行った。
 幸人はバッグを背負うと松葉杖を使って一人器用に歩きだす。

「マユ、まだ顔赤いよ。」
「え?」

 はっとして立ち止まった隙に先へ行った幸人は、すぐにクラスメイトの集団に追いつくと守られるようにして校舎に向かって行く。二人で一緒に登校しているのを見られるのはまずいと思ったのか、わざと私と距離を置いたのは明らかだった。
 
「おはよ、繭。どうしたの?」
「あ、おはよ。」

 友人がボーっと立っている私に声を掛けると視線の先の幸人を見て笑った。

「幸人くん人気相変わらずだね。でも弱ってる男ってなんかちょっといいよね。」
「弱ってないでしょ、どう見ても。」
「そう?ま、どっちかって言うと今は直哉の方が弱ってるのかもねー。」
「私にそれ言う?」
「ほら、向こうから来たよ、弱ってるあんたの元カレ。」

 訳知り顔の彼女の言うとおり、向こうから歩いて来たのは直哉だった。直哉の後方からは数人の女子が一定距離を保ったまま歩いているのが見える。

「……」
「あーあ、あっちも既にロックオン状態だね。そろそろ別れて一ヶ月くらい?直哉はもう誰かと付き合うつもりないんだろうね。」
「さぁ、どうかな。」

 登校して早々こんなに重い話をふってくる物好きな友人に辟易しながら適当に流した。一番弱っているのは別れ話をされた私の方なのに。

 いつでも直哉と幸人の二人に囲まれて、陰では二股をかけているだとか男にばかりいい顔をする嫌な女だとかいろいろ言われているのは知っていた。その噂だってあながち間違いではない。
 現に二年の途中から私と直哉は付き合い始めた訳だし、三人の関係が最初から恋愛感情抜きで始まったとも言い切れないところがあった。

 健人さんの車の中で手が触れあった時、幸人が無言で指を絡めて来た事を思い出した。

” 好きな人の隣にいるのに触れる事ができないなんて ”

 直哉が守ろうとしていた中学から続く二人の友人関係を壊そうとしている張本人は私だった。

 幸人は何でも相談に乗ってくれていつでも私を助けてくれて笑顔にしてくれる。背の低い私の頭をバスケットボールでも触るかのようにポンポンと撫でるのも、全部知り合った最初から。幸人だけは何も変わっていない。
 直哉の事を意識し始めて、私が最初に相談した相手も幸人だった。私は調子に乗ってその優しさに甘え過ぎて、結果的に直哉まで傷つけて。幸人本人にも誤解されるような曖昧な態度をとってしまっていたのかもしれない。

 直哉はそんな私の態度にずっと戸惑っていたはずだ。もちろん、親友が自分の彼女の事を好きだって事も気が付いていたのだろう。
 自分のわがままを理由に私に別れを告げた風に装っているけれど、本当にわがままで自分勝手なのは私の方だった。

 きっと変わったのは私だけだ。
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