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上へ下への大騒ぎ
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「ダニエル、婚約とは一体どういう事だ?」
「しかも既に書類まで揃えているとは何を考えている?」
ダニエルは翌朝早速書類を整え、朝一番で国王宛に婚約届を提出した。国王は決裁をする際重要な書類には一応目を通すことになっている。しかし今回の届出は片方の身元が怪しいという事で国王の元に届く前に差し戻されたということだった。
それも寄りによって騎士団宛に差し戻されるとは。裏で誰かが糸を引いているのは間違いなかった。
「書類に不備はなかったと思いますが、何故差し戻されたのでしょうか?」
ダニエルの機嫌が悪いのを見てとると、団長二人はお互いに目配せをし合いどちらが相手をするのかと揉め始めた。
「…流石に昨日発見されたばかりの身元不明で記憶喪失の女性と婚約を結ぶのは無理だ、そうだろう?」
「そ、その通りだ。第一お前にも立場と言うものがあるのだしな。」
ダニエルは冷めた目で二人を眺めると、差し戻された書類に手を伸ばした。
「この国に彼女の籍がない事は既に分かっています。陛下の許可が下りればそれで問題はないはずですが?」
第一騎士団の団長が渋い顔をして腕を組んだ。
「それであのお方から逃げきるつもりか?ここまで待たせておいて。」
「待たせるも何もあのお方が一方的にダニエルに言い寄って──」
第二騎士団団長は小さい眼鏡に触ると小さく咳払いをした。
「とにかく、今日の所は差し戻された。冷静になって考え直すのだな。」
ダニエルは団長二人の言葉を静かに聞いていたが、話が終わると直ぐに騎士団本部を後にした。
そのまま馬車で向かった先は王宮の今朝書類を提出に行った場所とは別のとある場所だった。
同じ頃、凛花は侯爵邸の与えられた部屋で一人ぼーっと過ごしていた。実を言うと昨夜はあの後いろいろな事を考え過ぎて眠る事ができず、結局寝たのかどうか分からないうちに朝を迎えたのだ。
「はぁ……。あんな時間にバルコニーに出なきゃ良かった。」
今朝目が覚めると邸にはもうダニエルの姿はなかった。代わりに凛花の枕元には一通の手紙が置いてあっただけ。
凛花はテーブルの上に置いてある封筒を横目でちらっと見た。もちろん既に中身は確認している。
「ダニエルの意地悪…」
凛花にはこの国の文字が読めないという事を分かっていてわざとこんな事をしたのだろうか。置き手紙の内容の予想がつかないため迂闊に誰かに読んでもらう訳にもいかず、凛花はまるでお手上げ状態だった。
「そういえば、昨日のあの紙どうしたんだっけ…。」
凛花は昨日騎士団本部でダニエルから貰った例の走り書きのメモの存在を思い出した。
確か帰り際に服の胸ポケットに入れてそのままだ。服は昨日の夜に着替えたのだから今頃は……。
「もしかして、捨てられちゃった?」
ダニエルはもう必要のない物だからと凛花にくれたのだがどうしようか──。
その時、ドアを小さくノックして部屋に侍女が入って来た。ソバカスのある20歳くらいのその侍女は、昨日から凛花の身の回りの世話をしてくれている。
「リンカ様、こちらがお洋服から出てまいりましたので……。」
侍女が俯いて差し出したのは、今まさに凛花が探していたメモだ。
「あ!ちょうど今探していた所だったの……」
凛花が思わずほっとした様子でメモを受け取ると、侍女は顔を赤らめてエプロンの縁をギュッと握りしめた。
──これ、絶対に中身読んだよね?誤解してるよね?
メモの内容が内容なだけに侍女に誤解だと弁解するのもおかしいかと凛花がぐっと堪えていると、何を勘違いしたのか嬉しそうに話しかけられた。
「無事に見つかって良かったですね。そんなに大切にされていたのですから。」
「……違うの、ただこれはダニエルから貰っただけで……」
「まぁ、やはりそうでしたか。あのダニエル様がこんなに熱烈に愛を囁かれるだなんて……」
──う、私今墓穴掘った?大丈夫?
「……」
「ダニエル様が、昼前には迎えに戻るからそれまではゆっくりと身体を休めて欲しいとそう仰っておりました。」
凛花は侍女の言葉にはっと我に返った。この侍女が今朝ダニエルに会ったということはこの手紙をここに置いたのも彼女なのだろうか。
「……そう、ダニエルは早く出かけたの?」
侍女ははいと頷くとまたもや頬を染めた。
「私がこの部屋に来た時にはまだリンカ様の隣に寝ていらっしゃいましたが…。」
「は?」
──落ち着け凛花、落ち着くのよ。
思わず鼻息が荒くなり顔も熱くなる。そんなはずはないのだ。自分は今朝方まで一人で眠れないとゴロゴロしていたのだから。明け方近くにようやく少しだけ寝たのだが、勿論ダニエルを部屋に入れた記憶などない。
──そういえば朝になってもまたこの世界で目を覚ましたんだ、私。
「夢じゃなくて現実…?」
思わず零れてしまった自らの言葉にハッとして口を押えた凛花に、侍女は優しく微笑んだ。
「はい、心よりお慶び申し上げます。」
「あ、違うの!そうじゃなくて!誤解、誤解なのよ!ダニエルとは何も……。」
「ダニエル様は朝一番で婚約届を提出されたと伺っております。」
「あ…そう、そうなの。」
「しかも既に書類まで揃えているとは何を考えている?」
ダニエルは翌朝早速書類を整え、朝一番で国王宛に婚約届を提出した。国王は決裁をする際重要な書類には一応目を通すことになっている。しかし今回の届出は片方の身元が怪しいという事で国王の元に届く前に差し戻されたということだった。
それも寄りによって騎士団宛に差し戻されるとは。裏で誰かが糸を引いているのは間違いなかった。
「書類に不備はなかったと思いますが、何故差し戻されたのでしょうか?」
ダニエルの機嫌が悪いのを見てとると、団長二人はお互いに目配せをし合いどちらが相手をするのかと揉め始めた。
「…流石に昨日発見されたばかりの身元不明で記憶喪失の女性と婚約を結ぶのは無理だ、そうだろう?」
「そ、その通りだ。第一お前にも立場と言うものがあるのだしな。」
ダニエルは冷めた目で二人を眺めると、差し戻された書類に手を伸ばした。
「この国に彼女の籍がない事は既に分かっています。陛下の許可が下りればそれで問題はないはずですが?」
第一騎士団の団長が渋い顔をして腕を組んだ。
「それであのお方から逃げきるつもりか?ここまで待たせておいて。」
「待たせるも何もあのお方が一方的にダニエルに言い寄って──」
第二騎士団団長は小さい眼鏡に触ると小さく咳払いをした。
「とにかく、今日の所は差し戻された。冷静になって考え直すのだな。」
ダニエルは団長二人の言葉を静かに聞いていたが、話が終わると直ぐに騎士団本部を後にした。
そのまま馬車で向かった先は王宮の今朝書類を提出に行った場所とは別のとある場所だった。
同じ頃、凛花は侯爵邸の与えられた部屋で一人ぼーっと過ごしていた。実を言うと昨夜はあの後いろいろな事を考え過ぎて眠る事ができず、結局寝たのかどうか分からないうちに朝を迎えたのだ。
「はぁ……。あんな時間にバルコニーに出なきゃ良かった。」
今朝目が覚めると邸にはもうダニエルの姿はなかった。代わりに凛花の枕元には一通の手紙が置いてあっただけ。
凛花はテーブルの上に置いてある封筒を横目でちらっと見た。もちろん既に中身は確認している。
「ダニエルの意地悪…」
凛花にはこの国の文字が読めないという事を分かっていてわざとこんな事をしたのだろうか。置き手紙の内容の予想がつかないため迂闊に誰かに読んでもらう訳にもいかず、凛花はまるでお手上げ状態だった。
「そういえば、昨日のあの紙どうしたんだっけ…。」
凛花は昨日騎士団本部でダニエルから貰った例の走り書きのメモの存在を思い出した。
確か帰り際に服の胸ポケットに入れてそのままだ。服は昨日の夜に着替えたのだから今頃は……。
「もしかして、捨てられちゃった?」
ダニエルはもう必要のない物だからと凛花にくれたのだがどうしようか──。
その時、ドアを小さくノックして部屋に侍女が入って来た。ソバカスのある20歳くらいのその侍女は、昨日から凛花の身の回りの世話をしてくれている。
「リンカ様、こちらがお洋服から出てまいりましたので……。」
侍女が俯いて差し出したのは、今まさに凛花が探していたメモだ。
「あ!ちょうど今探していた所だったの……」
凛花が思わずほっとした様子でメモを受け取ると、侍女は顔を赤らめてエプロンの縁をギュッと握りしめた。
──これ、絶対に中身読んだよね?誤解してるよね?
メモの内容が内容なだけに侍女に誤解だと弁解するのもおかしいかと凛花がぐっと堪えていると、何を勘違いしたのか嬉しそうに話しかけられた。
「無事に見つかって良かったですね。そんなに大切にされていたのですから。」
「……違うの、ただこれはダニエルから貰っただけで……」
「まぁ、やはりそうでしたか。あのダニエル様がこんなに熱烈に愛を囁かれるだなんて……」
──う、私今墓穴掘った?大丈夫?
「……」
「ダニエル様が、昼前には迎えに戻るからそれまではゆっくりと身体を休めて欲しいとそう仰っておりました。」
凛花は侍女の言葉にはっと我に返った。この侍女が今朝ダニエルに会ったということはこの手紙をここに置いたのも彼女なのだろうか。
「……そう、ダニエルは早く出かけたの?」
侍女ははいと頷くとまたもや頬を染めた。
「私がこの部屋に来た時にはまだリンカ様の隣に寝ていらっしゃいましたが…。」
「は?」
──落ち着け凛花、落ち着くのよ。
思わず鼻息が荒くなり顔も熱くなる。そんなはずはないのだ。自分は今朝方まで一人で眠れないとゴロゴロしていたのだから。明け方近くにようやく少しだけ寝たのだが、勿論ダニエルを部屋に入れた記憶などない。
──そういえば朝になってもまたこの世界で目を覚ましたんだ、私。
「夢じゃなくて現実…?」
思わず零れてしまった自らの言葉にハッとして口を押えた凛花に、侍女は優しく微笑んだ。
「はい、心よりお慶び申し上げます。」
「あ、違うの!そうじゃなくて!誤解、誤解なのよ!ダニエルとは何も……。」
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「あ…そう、そうなの。」
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