異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ

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過保護な優しさ

「お願い!」
「……ちょっと、考える時間をくれない?」
「え……」

 王宮からダニエルが帰宅するのを待ち構えていた凛花は、すぐに理由を説明して商人に会わせて欲しいと直訴した。理由を説明したらダニエルもすぐに許可してくれるものだと疑いもしなかったのに、たった今、回答を保留されてしまった所なのだ。

「ごめん、それより今日は雨に濡れてて…。後でまたゆっくり話を聞くから。」

 そう言うなりダニエルは凛花に背を向けると部屋の方へ去って行った。

──そうだった。私ったら自分のことばかり考えてた…。ダニエルは今日一日王宮でアオイの件とか色々大変だったはずなのに…。帰ってきていきなりこんな事言われても困るよね…。

 その後の夕食の席にもダニエルは現れず、凛花はこの邸に来てから初めて一人で夕食をとることになった。

──ダニエル、一体どうしたんだろう…?

 一人で食べる夕食はまるで味がしないかのようだった。口に運ぼうとしたフォークをそのまま皿に戻すと、凛花は席を立った。
「リンカ様…?」
「ごめん、リリー。私ダニエルの様子が気になるからちょっと見に行ってくるわ。申し訳ないけど食事は下げて構わないから。」

──風邪でも引いちゃったのかな……。ダニエル今日は王宮から出ないって言ってたのに。

 ダニエルの部屋の扉の前に立つとひと呼吸置いてからノックをする。
「ダニエル?大丈夫?」
 扉越しに声を掛けるとすぐにダニエルの声がした。
「凛花?」
「うん、入っていい?」
「……どうぞ。」

 ダニエルは帰ってきた時のままの姿で薄暗い部屋のソファーに座っていた。
「雨に濡れて風邪でもひいたの?大丈夫?」
 部屋に入ってきた凛花を見上げたダニエルの表情からは何も読み取れない──顔に張り付いていたのは例の無表情だった。

──何?どうして……。

 ソファーに近寄りダニエルの額を触ろうと手を伸ばすとその手をすっと掴み拒絶された。やっと凛花と視線を合わせたダニエルは、掴んだ手を下ろすと首を横に振った。
「風邪はひいてない。熱もない。」
「そうだったの?じゃあ、どうして?」
「……凛花も座って。」

 ダニエルはじっとしたままで凛花が座るのを見届けると、大きくため息をついた。
「……」
「どうして何も言わない?」
「え?私?」
 いきなりの怒ったような問いかけに凛花は一瞬混乱した。何かダニエルに言わなければならないような事があっただろうか…?

──そうだった、今日はフィルが来たんだった!……でも、まさかプロポーズされましたなんて言えないし。

 恐る恐るダニエルを見上げると、凛花の答えを待っているようにこちらを見ている。
「……フィルが来たんだった。」
「それで?」
「アオイの話の続きを聞かれたの。」
「あぁ、それは俺も聞いた。隣国に逃げたんだろうって。まだ確認させている最中だ。」
「そうなんだ。隣国には今王子居ないんだってね。」
「ねぇ凛花?フィルは他にも何か言ってきたんだろ?」
「……」
「凛花?」

──どうしよう。これ、絶対ダニエルはフィルから聞いてる言い方だ…。

「何で断った?」
「え?」
「フィルが求婚したのに何で断ったりしたんだ?」
「何でって…」

 凛花はダニエルの放った言葉が信じられずに答えに詰まった。

「相手は王太子だぞ?この国のたった一人の王位継承者だ。」
「そう…だけど…。」
「俺よりも情報も知識も権力も金も…何もかも持ってる。」
「……」
「凛花が望めばフィルは何でも言う事を聞いてくれるだろう。東の小国の情報を集める事も、日本に帰る方法を考える事も。」
「……何が言いたいの?」
「凛花は日本に帰りたいんだろう?諦めないと、そう言ったじゃないか?」

 ソファーに座った凛花の頬を気がついた時には静かに冷たい涙が伝っていた。

「日本に帰るためにダニエルを捨てて、その上フィルを利用しろとでも言うの?」
「……そうだ。」
「じゃあダニエルとの約束は?私ダニエルが望んでくれる限りは傍にいるって、諦めないって約束したよ?」
「俺は……」
「もう私の事なんか必要ない?アオイは国外に逃げ出したし、カテリーナ殿下から逃げる事もやめて第一騎士団に行く気になった?」
「違う!凛花と婚約をしたのはそんな事の為じゃない!」
「じゃあどうしてフィルとの婚約を受けろだなんて言うの?」

 ダニエルは視線を泳がせると小さな声で呟いた。

「……凛花が……大切だから。一番望む事を叶えてやりたい。」

──ダニエル…。何も分かってない!

 凛花は乱暴に涙を指で拭うと真っ直ぐにダニエルの顔を見上げた。

「私だってダニエルが大切なの。ダニエルが一番望む事を叶えてあげたい。」
「俺が一番望む事は……」
「今更順位変更は認めないからね?」
「……」
「私の一番は日本に帰る方法を知る事じゃない。ダニエルの隣にいる事。」

 凛花はソファーから立ち上がるとそのまま座っているダニエルの首に飛び付くように抱きついた。

「凛花?」
「もう日本に帰ることは諦めたの!だから──」

 ダニエルは突然の事に一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに凛花の頭を支えると口を塞ぐかのように唇を重ねた。

「!」

 驚いてキツく閉じた目をゆっくりと開けると目の前にはまだ琥珀の瞳が笑みを浮かべてこちらを見つめている。

「全部凛花が言うつもり?」

 小さく首を振る凛花に向けてダニエルは言い聞かせるように耳元で囁いた。

「俺が一番に望む事は今でも変わらない。君に傍にいて欲しい。凛花、愛してる。」
「うっ…。……私も…です。」

──危うく鼻から心臓飛び出すとこだった!何この幸せ…このまま死んじゃいそう…。
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