騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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思い出のトリュフ

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 レジナルドの父がビューロー侯爵に話を通してくれたことは聞いていた。侯爵家のチョコレートクッキーを食べたいとうるさく言い続けていた成果だ。それなのに侯爵家から届いたのはトリュフチョコレート…。何か行き違いがあったのだろうか。
 目の前にはジークフリートが絶対にその口には入れないトリュフチョコレートが置いてある。
「もう、9年もたつのか…。」
「ん?あぁ、そうだね。それくらいになるな。」
「私はあれからチョコレートは食べれない…。レジーは…気にならないのか?」
「気にならない訳じゃない、むしろ気になっていたからこそジークより先に口にするようになったんだ。」
「…」
「最初は確かに怖かった、毒が仕込んであったらって思って。今じゃそんなこと考えもしないけどね。」
 ジークフリートはなおも固まったようにじっとチョコレートを見続けている。

 9年前──ジークフリートの7歳の誕生日に行われた茶会の席で、レジナルドの母であるバトラー公爵夫人は王妃の毒見役としてトリュフチョコレートを口にし、幼い王子と息子の目の前で倒れたのだった。公爵夫人は一命をとりとめたもののそれが原因で体調を崩し、心を病んでやがて自ら命を絶ってしまった。それ以来ジークフリートはチョコレートを決して口にしようとはしない。一方レジナルドはいつの間にか母親の代わりを務めるとでもいうように毒見をするようになってしまった。
「私は今でも食べることができない。それに、母上もあれからずっと声を失ったままだ…」
「あぁ…。王妃様の声、もう思い出せないな。とても優しい声だった気もするが、あれは母上だったのかもしれない。」
「…私も思い出せない。」
「俺と母は結果的に王妃様を守ることができなかった…。」
「それは違う!」
 二人の間に長く重たい沈黙が落ちる。

 結局チョコレートに毒を仕込んだ犯人が判ったのは、その者たちが逃亡した後だった。母親が亡くなってからしばらくの間、幼いレジナルドは王宮でリーナとジークフリートと共に育てられることになった。公爵は騎士団の仕事で王宮に寝泊まりしていたし、何よりも王妃がそれを望んだからだ。
 あのころの王宮ではジークフリートにどこの家から娘を嫁がせるのか、異常なほどの醜い争いが起こっていた。結果としてジークフリートは自らの意志ですべての婚約者候補を拒否し続け、その中から選ばれる娘は出なかったのだが──。

「このチョコ、せっかくもらったんだからリア様も呼んで食べようか?」
「…それはそれで私が精神的にクルのだが…。」
 ジークフリートのその言葉にベッドの上で横たわるセシリアの姿を思い出し、レジナルドは眉を顰めた。
「そういえば、確認したかったんだけどさ?」
「?」
「フェルナンド王太子が来た時言ってたこと、あれ嘘だろ?」
「フェルナンドに?」
「リア様がお前の腕の中で一晩中──」
「あ!あれはその…嘘というか。ほんの少し誇張しただけだ。」
「ほんの少し?」
「……いや、だいぶ。でも、私のことを慕っていると言ってくれたのは間違いない。すまない。」
 何に対する謝罪なんだよ!と思いつつレジナルドは目の前のトリュフチョコレートを一つ口に入れた。ジークフリートは驚いた様子でそれを見ている。
「ほら、俺が毒見したから…後はリア様に持っていきなよ。侯爵家のチョコレート食べたことないはずだよ?」
「…なんでお前がそんなことを知ってるんだ?」
「気になる?」
 レジナルドはジークフリートの不満そうな顔を久しぶりに見ることができたことに満足し、意味深な笑みを浮かべた。
 ビューロー侯爵夫人は商家から来た後妻だと聞いた。ならば9年前の茶会以来ジークフリートがトリュフチョコレートを決して口にしないことを知らなかった可能性は高い。しかし侯爵家の料理人はおそらく違うだろう。ジークフリートが決して口にしないトリュフチョコレートにわざわざ媚薬を仕込んだ。その意味するところをレジナルドは考えていた。
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