騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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お年頃のナッツクッキー

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「レジー、これはお前に。」
 すっと差し出されたのは見覚えのある包み、そうビューロー侯爵家のいつもの包み紙だ。
「チョコレートクッキー?何?もしかしてリア様が侯爵に頼んでくれたの?」
 喜んで包みを開けるとそれはレジナルドが喉から手が出る程求めていたチョコレートクッキーではなくナッツ入りのクッキーだった。
──いつもの事ながら侯爵家の土産には振り回されっぱなしである…。

「リアが頼んだのではない、それは例の妹からお前にだそうだ。」
「え~と、何ていう子だったっけ?派手な美人の妹…」
「レイラ嬢だ…。」
 ナッツクッキーにもう一度目をやる。ジークフリートの婚約者候補から外されたレイラはそれ以降目立った動きをしてこなかった。今頃になって自分にクッキーを届けさせるとは一体何事だろうか…。
「これ、本当に俺に?」
「あぁ、私の次の狙いは公爵子息にしたのだろう。毒見はしてあるとビューロー侯爵が言っていた。」
「…そう、なの?」
 何となく手を付けるのをためらってそのまま机の上に戻す。
「最近レジーの方が贈り物をよく貰うな。」
「ジークに婚約者が決まっちゃったら次は誰しも公爵子息の婚約者の座を狙うだろうからね。」
「それにお前は王太子の側近で幼馴染の騎士団団長の息子だ、これ以上ない優良物件だな。」
「俺、表向きは恋に破れたばかりの可哀そうな哀愁の騎士様なんだからね…。まるでオオカミに囲まれた子羊の気分だよ。」
「私は子羊に守られる気はないのだが…。」
 ちょっとふざけ過ぎたかと反省してコホンと一つ咳をする。
「ついこの前父上にも言われたんだよね、早く相手見つけないとジークの子供と俺の子供同級生にできないぞって。」
「…もう孫の話か?いくらなんでもそれは早すぎないか?まだ16だぞ?」
「そうなんだけどね。この前王都でも知らない子供に『騎士様は結婚してるんだ』とか言われたしさ。」
「それは…。でもまぁお前は相手が見つかれば直ぐに結婚できるのだからいいじゃないか。」
「王太子殿下は18になるまで結婚できないんだったよね?リア様との婚姻まで早くても後2年か…。」
「その間にレジーにもいい話があるかも知れないな。」
「──学園を卒業するまでもあと2年か…。」
「…」
「──まだ入学して半年たってないんだもんな…。」
「…わざと聞こえない振りをしてるな?」
「いいじゃん!でもさ、ジーク達見てて俺つくづく思うんだよね。何て言うか、そういう相手って出会ってしまえばあっという間…なんだろうなって。」
「それはまぁ…敢えて否定はしない…。」
「じゃあ、俺はまだその相手に出会ってないんだ──ということは。」
 ナッツクッキーを一枚手に取り齧る。
「うん、うまい。レイラ嬢とはもう出会っちゃってるからね『残念でした』ということで。あ~でもやっぱり侯爵家のクッキーはチョコレートの方がよかったかな~。」
「…」

 ナッツクッキーを一枚食べ終わると手についた粉を拭きながらジークフリートに以前から気になっていたことを聞いてみる。
「ところでジークはさ、レイラ嬢の処分なんであんなに軽くしたの?侯爵夫人もだけど。」
「その話か…。」
 ジークフリートは膝の上で組んでいた両手に顎を載せた。
「二人の処分を重くしたらリアが自分を責めると分かっていたからな。リアにまで何かしらの罰を与えるつもりははじめからなかった。」
「俺、よく分からないけど。リア様は夫人とレイラ嬢にいいように使われてただけだろう?」
「だが二人は一応リアの家族だ。リアが侯爵家の一員としての責任を感じて自分も処分を受けると申し出てもおかしくないだろう?」
「う~ん、そういうもの?」
 家の為だとか家族の連帯責任だとかいう感覚はレジナルドにはピンと来ないようだった。
「そういうお前は公爵家の跡継ぎとしての肩書きをどうしてそんなに軽く見ているんだ?」
「え?軽く見てるように見える?ちゃんと考えてるよ?」
「私には騎士団の団長になる方を重んじている気がしてならないのだが。お前も私も家を継ぐ者として次代を育てる責任を負っている事に変わりはないだろう?」
「確かに俺達が子を持たないと面倒な事になる…。でも王家と公爵家では違うからな。公爵家なら親戚からでも、なんなら養子をとってでもを継がせることは出来る。」
「騎士団団長の地位は実力が必要だからそうは行かないと言いたいか?」
「そう、それにもう少しで手に入りそうだから頑張ろうと思える。俺の場合公爵の地位は黙っていても付いてくるからなぁ…。」
 紅茶を一口飲むと、ジークフリートはふと何かに気がついたようにレジナルドの顔を見た。
「どうかした?」
 視線を感じつつも二枚目のナッツクッキーに手を伸ばす。
「スコール団長に頑張って弟を作ってもらうというのは…?そうすれば弟が公爵家を継ぎ、レジーは何も考えずに団長を継げるじゃないか。」
 一瞬落ちた静寂の後、ザクッとクッキーを齧るいい音が響き渡る。
「そういうのは父上に直接言ってくれ。そしたら少しは考えてくれるかもよ?」
「──駄目か…。スコール団長もレジーも話は沢山あるのに本人にはその気が全くないのだからな…。」
 クッキーの最後の一口を口に放り込むと、レジナルドは疲れたように大きく伸びをしてソファーに音を立ててもたれかかった。
「考えれば考える程無駄な事のような気がする…。」
「無駄ではないだろう…。お前にとってもスコール団長にとっても…。」
 奥歯に挟まったナッツの方が今のレジナルドにとっては気になる存在だった。
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