騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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茶会に現れた派手な美人さん

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「そういえば、また侯爵夫人が来ていたな。あのピンク色のヒラヒラの娘と。」
「何?リーナ様の茶会の話?」
「あぁ。お前は出なかったんだな。」
「誘われたんだけどさ、リーナ様に。美味しいお菓子も用意したからって。でもリーナ様の隣に席が用意してあるって侍女が言ってたから…。」
「もしかして逃げたのか?」
「違います!近くに騎士と一緒に控えてるのはいいけど座りたくないって言ったんだよ。」
「…レジーは最近妙に騎士らしく振舞おうとするんだな。」
「もうそろそろ子供のままでは居られないことくらい分かってるだろ?」
「…ケーキとタルト、プリンにクッキー。他には…。果物もあったなぁ。」
「お菓子なら料理人に作ってもらえるから、釣られたりしないんだからね!」
 ジークフリートは何かを思い出しているかのように遠い目になった。
「そういえば、王宮の料理人の一人が近々変わると父上が言っていた…。」
「え?そうなの?」
「夏頃新しい者が来るそうだ。」
「へぇ~何かやらかしちゃったのかな?王宮の料理人辞めたらその後どうするんだろうね。王都の店に勤めるのかな?」
「さぁ…そこまでは──。」

 その時、二人が座っていたベンチに向かって遠くから手を振るピンク色の人影が見えた。
「…ほら、ジークに手振ってるよ?呼ばれてるんじゃない?」
「最近視力が落ちたのかな?私には何も見えないようだ。」
「うわ!王太子殿下がそんなんでいいの?あの娘、あれだろ?ビューロー侯爵家の。確か同級生だったよね?」
 ジークフリートは顎に手をやると遠くで手を振るご令嬢を視界から消すかのようにレジナルドの方へ顔を向けた。
「それが、茶会で聞いた話によるとビューロー侯爵家にはもう一人ご令嬢がいるらしい。しかも同級生だそうだ。」
「え?双子だったの?そんな話なら前に聞いたことがあっても良さそうだけど。」
「前のビューロー侯爵夫人の子供だそうだ。だから双子ではない。」
「…」
「『良かった 』と顔に書いてある。」
「ジークだってちょっと双子想像してみただろ?」
 二人はお腹をおさえると顔を背けて笑い出した。
「失礼な奴だな!」
「お互い様だろう?」

「随分と楽しそうですのね?」
 弾むような声が近くから聞こえてきた。早足で急いでここまでやって来たビューロー侯爵令嬢だ。
「殿下に何か御用ですか?」
 レジナルドは緩んだ口元を引き締めながら一応型通りの騎士を気取ってみせた。
「いえ…殿下が茶会の席から立たれて随分時間が経ちましたので心配して探しに参りました。」
「姉上にはきちんと言っておいたのだが…。探させたのなら申し訳なかった。」
 ジークフリートは再び肩を震わせているレジナルドをこっそりと小突くと王太子殿下の笑顔の仮面を貼り付けた。
 ご令嬢は俯いてジークフリートから次の一言を掛けられるのを待っている。お詫びにエスコートして茶会の席に戻るとでも言って欲しいのだろう。あわよくば庭園を案内してもらおうという所だ…。
「では、私はがありますのでこれで失礼します。レジー行くぞ?」
「はい。」
 ベンチから立ち上がり王宮の回廊を歩き出す。次の曲がり角が見える頃になるとどちらからともなく小走りになっていた。
「急用って何だよ?」
「私に聞くな、そんなこと!」
 ジークフリートの執務室まで全力で駆け上がると、二人でソファーにどっと倒れ込んだ。息が上がって暫くは話す気にもなれない。
「で?結局何て名前だったっけ?」
「…ビューロー侯爵令嬢だ。」
「それはさっき聞いた。」
「じゃあ、ビューロー侯爵令嬢のピンクの方。」
「次会う時は赤かもしれないだろ?だから派手な方でいいんじゃない?」
「もう一方も派手ならどうする?」
「その時は…ジークが名前を聞けばいい。」
「駄目だ、ジャンケンだ。」
「分かった。もう一方が派手でないことを祈っとくよ。」
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