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夕暮れブラウニー
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「凄いナッツ!何これ?」
「ね?ザクザクでおいしいよね。」
「ブラウニーというのはチョコレートのケーキなのか?」
「そうだね。クリームはのってないけどこれも一種のケーキなのかな~?」
「…重たいな、流石に。」
おいしいおいしいと夢中で食べすすめるリーナとレジナルドを横目で眺めつつ、ジークフリートは目の前の皿にフォークをそっと置いた。
「ジークには甘すぎた?」
レジナルドはフォークをペロリと舐めるとごめんねと小さく呟いた。
午後のお茶には少し遅くなってしまったがリーナは街から二人が戻るのを待っていたようで王宮に戻ると直ぐに庭園のガゼボに連れて来られたという訳だ。
「これがパン屋で売っているなんて、レジーは一体どこからそんなことを聞いたの?」
リーナは一旦紅茶を口にすると感心したように尋ねた。
「侍女だよ、この前パウンドケーキもらったんだ。それが美味しかったから──」
「ちょっと待って、レジー?貴方侍女からお菓子を貰ったことがあるの?しかも受け取ったのね?」
レジナルドは一気に鋭くなったリーナの視線に思わずたじろいだ。
「姉上も知っているだろう?レジーは侍女の間でも人気があるんだ。菓子などしょっちゅう貰っている。」
ジークフリートがレジナルドを庇ってくれているのか生贄に差し出そうとしているのか微妙な援護射撃をしてくる……。
「でもさ、チョコレート系のものは皆くれないんだよね。だから今回は自分でブラウニー買ったんだよ!ジークも丁度リーナ様にお土産買いたいって言ってたしね。美味しいだろ?」
リーナは一応頷いて見せたが、到底納得できないと言った表情のままだ。
「それに……二人だけずるいわ。毎月街に買い物に行けるだなんて。」
「姉上には仕立て屋も宝石商も直接訪ねて来るんだろう?」
リーナは不満そうに大きく溜息をついて見せた。
「そうよ、皆王宮に来るわ。私は籠の中に閉じ込められた鳥なのよ。ここから一歩も出してもらえない。」
レジナルドは黙ってブラウニーを食べていたが鳥と言う言葉に顔を上げた。
「今日さ、そういえば美味しい串焼きの鳥を食べたんだ。今度はそれをお土産にする?」
「レジー」
姉弟が共に残念なものを見る眼差しに変わったのが分かった。
「もう少し女心を理解することも必要ではなくて?」
「それに、あの鳥は焼き立てを食べないと。きっと持ち帰っても美味しくないぞ?」
リーナはキッとジークフリートを睨みつけた。
「ジーク!貴方もね!」
リーナは皿の上に残ったブラウニーを睨みつけたまま立ち上がるとしばらく躊躇していたが、やがて顔を背けるとガゼボを後にした。
残された二人はしばらく黙っていたが、レジナルドがブラウニーの最後の一口を口に入れるとジークフリートが自分の皿を代わりに差し出した。
「姉上の分は後で部屋に持って行かせよう。」
「そうだね……。」
「籠の中の鳥…か。」
ジークフリートは椅子に背中を預けると噴水の方を眺めた。
「リーナ様は服や宝石を選ぶより、街で買い物をしたり串焼きを食べたりしたいんだと思う?」
「どうだろうな。ただ、私達と同じようにくだらない事を話しながら街を歩きたいだけだろう?」
「それって、デートじゃ……?」
ジークフリートは薄ら笑みを浮かべると、噴水から視線を戻した。
「やっと分かったのか?女心が。」
「……」
「鳥が籠の中で囀っているのさ、『私をここから連れ出して!』って。」
「あのさ、女心がそんなによく分かるのに何で自分の縁談は全く受け付けないの?」
「私も菓子くらいなら受け取るさ。レジーと同じだ。」
レジナルドはジークフリートのくれたブラウニーをまた一口フォークで口に運んだ。
「同じじゃないよ、ジークは受け取った菓子を食べないじゃないか?」
「レジーが分けてくれる一口で今は充分なんだ。」
庭園を涼しい風がサッと吹き抜けた。レジナルドの黒髪が風に揺れる。その目はジークフリートの手を見ていた。
「……俺、ジークの『妃の指輪』受け取れないからね?」
「誰がお前にやると言った?」
ジークフリートは自らの手に嵌った金の指輪を夕陽にかざしながら、眩しそうに目を細めた。
「心配するな、私も20歳になるまでには覚悟を決める。」
「心配するでしょ?それ、十分遅いから!」
「ね?ザクザクでおいしいよね。」
「ブラウニーというのはチョコレートのケーキなのか?」
「そうだね。クリームはのってないけどこれも一種のケーキなのかな~?」
「…重たいな、流石に。」
おいしいおいしいと夢中で食べすすめるリーナとレジナルドを横目で眺めつつ、ジークフリートは目の前の皿にフォークをそっと置いた。
「ジークには甘すぎた?」
レジナルドはフォークをペロリと舐めるとごめんねと小さく呟いた。
午後のお茶には少し遅くなってしまったがリーナは街から二人が戻るのを待っていたようで王宮に戻ると直ぐに庭園のガゼボに連れて来られたという訳だ。
「これがパン屋で売っているなんて、レジーは一体どこからそんなことを聞いたの?」
リーナは一旦紅茶を口にすると感心したように尋ねた。
「侍女だよ、この前パウンドケーキもらったんだ。それが美味しかったから──」
「ちょっと待って、レジー?貴方侍女からお菓子を貰ったことがあるの?しかも受け取ったのね?」
レジナルドは一気に鋭くなったリーナの視線に思わずたじろいだ。
「姉上も知っているだろう?レジーは侍女の間でも人気があるんだ。菓子などしょっちゅう貰っている。」
ジークフリートがレジナルドを庇ってくれているのか生贄に差し出そうとしているのか微妙な援護射撃をしてくる……。
「でもさ、チョコレート系のものは皆くれないんだよね。だから今回は自分でブラウニー買ったんだよ!ジークも丁度リーナ様にお土産買いたいって言ってたしね。美味しいだろ?」
リーナは一応頷いて見せたが、到底納得できないと言った表情のままだ。
「それに……二人だけずるいわ。毎月街に買い物に行けるだなんて。」
「姉上には仕立て屋も宝石商も直接訪ねて来るんだろう?」
リーナは不満そうに大きく溜息をついて見せた。
「そうよ、皆王宮に来るわ。私は籠の中に閉じ込められた鳥なのよ。ここから一歩も出してもらえない。」
レジナルドは黙ってブラウニーを食べていたが鳥と言う言葉に顔を上げた。
「今日さ、そういえば美味しい串焼きの鳥を食べたんだ。今度はそれをお土産にする?」
「レジー」
姉弟が共に残念なものを見る眼差しに変わったのが分かった。
「もう少し女心を理解することも必要ではなくて?」
「それに、あの鳥は焼き立てを食べないと。きっと持ち帰っても美味しくないぞ?」
リーナはキッとジークフリートを睨みつけた。
「ジーク!貴方もね!」
リーナは皿の上に残ったブラウニーを睨みつけたまま立ち上がるとしばらく躊躇していたが、やがて顔を背けるとガゼボを後にした。
残された二人はしばらく黙っていたが、レジナルドがブラウニーの最後の一口を口に入れるとジークフリートが自分の皿を代わりに差し出した。
「姉上の分は後で部屋に持って行かせよう。」
「そうだね……。」
「籠の中の鳥…か。」
ジークフリートは椅子に背中を預けると噴水の方を眺めた。
「リーナ様は服や宝石を選ぶより、街で買い物をしたり串焼きを食べたりしたいんだと思う?」
「どうだろうな。ただ、私達と同じようにくだらない事を話しながら街を歩きたいだけだろう?」
「それって、デートじゃ……?」
ジークフリートは薄ら笑みを浮かべると、噴水から視線を戻した。
「やっと分かったのか?女心が。」
「……」
「鳥が籠の中で囀っているのさ、『私をここから連れ出して!』って。」
「あのさ、女心がそんなによく分かるのに何で自分の縁談は全く受け付けないの?」
「私も菓子くらいなら受け取るさ。レジーと同じだ。」
レジナルドはジークフリートのくれたブラウニーをまた一口フォークで口に運んだ。
「同じじゃないよ、ジークは受け取った菓子を食べないじゃないか?」
「レジーが分けてくれる一口で今は充分なんだ。」
庭園を涼しい風がサッと吹き抜けた。レジナルドの黒髪が風に揺れる。その目はジークフリートの手を見ていた。
「……俺、ジークの『妃の指輪』受け取れないからね?」
「誰がお前にやると言った?」
ジークフリートは自らの手に嵌った金の指輪を夕陽にかざしながら、眩しそうに目を細めた。
「心配するな、私も20歳になるまでには覚悟を決める。」
「心配するでしょ?それ、十分遅いから!」
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