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たまにはくだらない話も
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「それで、結論は出そうなのか?」
聞いた本人はたいして興味もなさそうな様子で頬杖をついている。
「いや……多分今日は無理かな。」
「私もそう思います。もう少し考える余地がある気もしますから……」
セシリアはレジナルドに同意すると尚も何かを考えているようだった。
考えることを放棄したレジナルドは疲れたようにため息を一つついた。
「それじゃ、今日の所は……オレンジということで。」
「え?桃という話でしたよね?」
「そうだったっけ?」
ジークフリートは半分閉じそうな目をしてセシリアを眺めていた。どうしてこういう話になってしまったのか今ではよく分からないが、先ほどからレジナルドとセシリアは凍らせた時に一番おいしい果物は何かという議論を重ねている。離宮の冬は寒くて湖に分厚い氷が張るというような話から派生していったのだったか……。
「二人ともよくそんな話で真剣に議論できるな。」
「そう?くだらないこと真面目に考えるのもたまにはいいもんだよ?」
「ん?あぁ……そうだな。真剣に悩んでいるリアも可愛い……」
「ジーク様?」
「…」
「……寝てない?お~い?」
レジナルドが目の前でひらひらと手を動かすもののジークフリートは目を閉じたまま動かない。セシリアは突然の事に驚いたのかジークフリートを見たままこちらも凍りついたように動かない。
「頬杖をついたまま眠るなんて器用ですね。」
「久しぶりに馬車で移動して疲れたんだろうね。俺後で部屋まで運ぶからさ、ジークはこのままにしとこう。リア様も疲れたでしょ?部屋まで送るよ。」
セシリアは目を閉じたジークフリートをじっと見つめていたが、レジナルドの言葉に振り向いた。
「あの……」
「ん?」
「レジー様お一人で二階までどうやって運ぶんですか?」
「すぐに目を覚ますだろうから。きっと自分で部屋まで歩くと思うよ?起きなかったらまぁ…担ぐしかないけど。」
「それじゃ、それまでレジー様は?」
「俺?」
レジナルドはセシリアの聞きたいことがよく分からずに首を傾げた。
「ジーク様が起きるまでここで待っているんですか?」
「あぁ、そういうこと?リア様を部屋まで送ったらまた戻ってくるつもりだけど?」
「それじゃ、私ももう少しだけここにいます。」
「……そっか。うん。」
レジナルドは何と言えばいいのか分からず頬をポリポリとかいた。くだらない議論の続きはまた今度にすることにして、今は話などせずにジークフリートを起こさないよう静かにしておくべきなのだろう…。
セシリアの様子をこっそりと窺う。柔らかく微笑みながら見つめる視線の先にはいつの間にか腕を枕に眠っているジークフリートの姿がある。
「……あのさ、もしかして俺いない方がいいかな?とか思ったりするんだけど?」
少しだけ声を小さくしたレジナルドは申し訳なさそうに呟いた。
「駄目です、レジー様もいて下さらないと。未婚の男女が二人きりになってしまいますから。」
レジナルドは思わず微笑むとセシリアの視線を追うようにジークフリートの寝顔を見つめた。
「いいの?ジーク寝てるから俺とリア様二人きりみたいなもんだよ?」
「寝ていても、三人ですからいいんです。」
「……」
「レジー様、お気付きでしたか?私、ジーク様の寝顔を見るのもはじめてなんです。」
レジナルドはその言葉でセシリアが食い入る様にジークフリートの寝顔を見ている訳をようやく理解した。
「そっか、そうだよね。俺なんかしょっちゅう見てるけど。」
「私なんかよりレジー様の方がずっとジーク様のことを知っていらして……ちょっぴり羨ましいです。」
「でも、俺はジークが女の子に向って可愛いなんて言うようなヤツだってこと、今まで知らなかったよ?」
セシリアは嬉しそうに笑うと手を伸ばし、ジークフリートの髪に優しく触れた。
「そうでしたか。私はよく聞きますよ?」
「え~?そうなの?二人きりの時にはよくそんなこと言ってるの?」
「はい。レジーは可愛いやつだっていつもおっしゃってます。」
「……」
その時、寝ていたはずのジークフリートが髪を撫でていたセシリアの手をがっしりと掴んで目を開けた。
「ひっ!お、おはよう、ジーク……」
「リア?私はそんなこと言った記憶はないけど?」
「そうでしたか?」
「私が可愛いと口に出して言うのはリアにだけだ。」
「それじゃ、きっと口に出されなくても態度に現れていたんですね。」
セシリアは手を掴まれたままで身動きがとれず、助けを求めるようにチラッとレジナルドの方を見た。レジナルドは何やら怪しくなってきた雰囲気に眩暈を覚えた。……一体ジークフリートはどの辺りから起きていたのだろうか?変なことは口走っていないはずだが──。
「……お、俺そろそろ眠くなってきたな~、部屋に戻ろうかな~?」
わざとらしく欠伸をすると立ち上がり背を向けるレジナルドに二人が同時に声を掛けた。
「レジー様?」
「おやすみ、レジー」
──ごめんね、逃がしてあげられなくて。でも、もう少しだけここに居るって決めたのは俺じゃなくてリア様だからね?
ドアを閉めようと目を上げた瞬間チラッと見えたのは艶やかに微笑むジークフリートと、凍り付いたように動けないでいるセシリアの姿だった。
聞いた本人はたいして興味もなさそうな様子で頬杖をついている。
「いや……多分今日は無理かな。」
「私もそう思います。もう少し考える余地がある気もしますから……」
セシリアはレジナルドに同意すると尚も何かを考えているようだった。
考えることを放棄したレジナルドは疲れたようにため息を一つついた。
「それじゃ、今日の所は……オレンジということで。」
「え?桃という話でしたよね?」
「そうだったっけ?」
ジークフリートは半分閉じそうな目をしてセシリアを眺めていた。どうしてこういう話になってしまったのか今ではよく分からないが、先ほどからレジナルドとセシリアは凍らせた時に一番おいしい果物は何かという議論を重ねている。離宮の冬は寒くて湖に分厚い氷が張るというような話から派生していったのだったか……。
「二人ともよくそんな話で真剣に議論できるな。」
「そう?くだらないこと真面目に考えるのもたまにはいいもんだよ?」
「ん?あぁ……そうだな。真剣に悩んでいるリアも可愛い……」
「ジーク様?」
「…」
「……寝てない?お~い?」
レジナルドが目の前でひらひらと手を動かすもののジークフリートは目を閉じたまま動かない。セシリアは突然の事に驚いたのかジークフリートを見たままこちらも凍りついたように動かない。
「頬杖をついたまま眠るなんて器用ですね。」
「久しぶりに馬車で移動して疲れたんだろうね。俺後で部屋まで運ぶからさ、ジークはこのままにしとこう。リア様も疲れたでしょ?部屋まで送るよ。」
セシリアは目を閉じたジークフリートをじっと見つめていたが、レジナルドの言葉に振り向いた。
「あの……」
「ん?」
「レジー様お一人で二階までどうやって運ぶんですか?」
「すぐに目を覚ますだろうから。きっと自分で部屋まで歩くと思うよ?起きなかったらまぁ…担ぐしかないけど。」
「それじゃ、それまでレジー様は?」
「俺?」
レジナルドはセシリアの聞きたいことがよく分からずに首を傾げた。
「ジーク様が起きるまでここで待っているんですか?」
「あぁ、そういうこと?リア様を部屋まで送ったらまた戻ってくるつもりだけど?」
「それじゃ、私ももう少しだけここにいます。」
「……そっか。うん。」
レジナルドは何と言えばいいのか分からず頬をポリポリとかいた。くだらない議論の続きはまた今度にすることにして、今は話などせずにジークフリートを起こさないよう静かにしておくべきなのだろう…。
セシリアの様子をこっそりと窺う。柔らかく微笑みながら見つめる視線の先にはいつの間にか腕を枕に眠っているジークフリートの姿がある。
「……あのさ、もしかして俺いない方がいいかな?とか思ったりするんだけど?」
少しだけ声を小さくしたレジナルドは申し訳なさそうに呟いた。
「駄目です、レジー様もいて下さらないと。未婚の男女が二人きりになってしまいますから。」
レジナルドは思わず微笑むとセシリアの視線を追うようにジークフリートの寝顔を見つめた。
「いいの?ジーク寝てるから俺とリア様二人きりみたいなもんだよ?」
「寝ていても、三人ですからいいんです。」
「……」
「レジー様、お気付きでしたか?私、ジーク様の寝顔を見るのもはじめてなんです。」
レジナルドはその言葉でセシリアが食い入る様にジークフリートの寝顔を見ている訳をようやく理解した。
「そっか、そうだよね。俺なんかしょっちゅう見てるけど。」
「私なんかよりレジー様の方がずっとジーク様のことを知っていらして……ちょっぴり羨ましいです。」
「でも、俺はジークが女の子に向って可愛いなんて言うようなヤツだってこと、今まで知らなかったよ?」
セシリアは嬉しそうに笑うと手を伸ばし、ジークフリートの髪に優しく触れた。
「そうでしたか。私はよく聞きますよ?」
「え~?そうなの?二人きりの時にはよくそんなこと言ってるの?」
「はい。レジーは可愛いやつだっていつもおっしゃってます。」
「……」
その時、寝ていたはずのジークフリートが髪を撫でていたセシリアの手をがっしりと掴んで目を開けた。
「ひっ!お、おはよう、ジーク……」
「リア?私はそんなこと言った記憶はないけど?」
「そうでしたか?」
「私が可愛いと口に出して言うのはリアにだけだ。」
「それじゃ、きっと口に出されなくても態度に現れていたんですね。」
セシリアは手を掴まれたままで身動きがとれず、助けを求めるようにチラッとレジナルドの方を見た。レジナルドは何やら怪しくなってきた雰囲気に眩暈を覚えた。……一体ジークフリートはどの辺りから起きていたのだろうか?変なことは口走っていないはずだが──。
「……お、俺そろそろ眠くなってきたな~、部屋に戻ろうかな~?」
わざとらしく欠伸をすると立ち上がり背を向けるレジナルドに二人が同時に声を掛けた。
「レジー様?」
「おやすみ、レジー」
──ごめんね、逃がしてあげられなくて。でも、もう少しだけここに居るって決めたのは俺じゃなくてリア様だからね?
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