騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

文字の大きさ
56 / 59
5

たまにはくだらない話も

しおりを挟む
「それで、結論は出そうなのか?」
 聞いた本人はたいして興味もなさそうな様子で頬杖をついている。
「いや……多分今日は無理かな。」
「私もそう思います。もう少し考える余地がある気もしますから……」
 セシリアはレジナルドに同意すると尚も何かを考えているようだった。
 考えることを放棄したレジナルドは疲れたようにため息を一つついた。
「それじゃ、今日の所は……オレンジということで。」
「え?桃という話でしたよね?」
「そうだったっけ?」

 ジークフリートは半分閉じそうな目をしてセシリアを眺めていた。どうしてこういう話になってしまったのか今ではよく分からないが、先ほどからレジナルドとセシリアは凍らせた時に一番おいしい果物は何かという議論を重ねている。離宮の冬は寒くて湖に分厚い氷が張るというような話から派生していったのだったか……。

「二人ともよくそんな話で真剣に議論できるな。」
「そう?くだらないこと真面目に考えるのもたまにはいいもんだよ?」
「ん?あぁ……そうだな。真剣に悩んでいるリアも可愛い……」
「ジーク様?」
「…」
「……寝てない?お~い?」
 レジナルドが目の前でひらひらと手を動かすもののジークフリートは目を閉じたまま動かない。セシリアは突然の事に驚いたのかジークフリートを見たままこちらも凍りついたように動かない。
「頬杖をついたまま眠るなんて器用ですね。」
「久しぶりに馬車で移動して疲れたんだろうね。俺後で部屋まで運ぶからさ、ジークはこのままにしとこう。リア様も疲れたでしょ?部屋まで送るよ。」
 セシリアは目を閉じたジークフリートをじっと見つめていたが、レジナルドの言葉に振り向いた。
「あの……」
「ん?」
「レジー様お一人で二階までどうやって運ぶんですか?」
「すぐに目を覚ますだろうから。きっと自分で部屋まで歩くと思うよ?起きなかったらまぁ…担ぐしかないけど。」
「それじゃ、それまでレジー様は?」
「俺?」
 レジナルドはセシリアの聞きたいことがよく分からずに首を傾げた。
「ジーク様が起きるまでここで待っているんですか?」
「あぁ、そういうこと?リア様を部屋まで送ったらまた戻ってくるつもりだけど?」
「それじゃ、私ももう少しだけここにいます。」
「……そっか。うん。」
 レジナルドは何と言えばいいのか分からず頬をポリポリとかいた。くだらない議論の続きはまた今度にすることにして、今は話などせずにジークフリートを起こさないよう静かにしておくべきなのだろう…。
 セシリアの様子をこっそりと窺う。柔らかく微笑みながら見つめる視線の先にはいつの間にか腕を枕に眠っているジークフリートの姿がある。
「……あのさ、もしかして俺いない方がいいかな?とか思ったりするんだけど?」
 少しだけ声を小さくしたレジナルドは申し訳なさそうに呟いた。
「駄目です、レジー様もいて下さらないと。未婚の男女が二人きりになってしまいますから。」
 レジナルドは思わず微笑むとセシリアの視線を追うようにジークフリートの寝顔を見つめた。
「いいの?ジーク寝てるから俺とリア様二人きりみたいなもんだよ?」
「寝ていても、三人ですからいいんです。」
「……」
「レジー様、お気付きでしたか?私、ジーク様の寝顔を見るのもはじめてなんです。」
 レジナルドはその言葉でセシリアが食い入る様にジークフリートの寝顔を見ている訳をようやく理解した。
「そっか、そうだよね。俺なんかしょっちゅう見てるけど。」
「私なんかよりレジー様の方がずっとジーク様のことを知っていらして……ちょっぴり羨ましいです。」
「でも、俺はジークが女の子に向って可愛いなんて言うようなヤツだってこと、今まで知らなかったよ?」
 セシリアは嬉しそうに笑うと手を伸ばし、ジークフリートの髪に優しく触れた。
「そうでしたか。私はよく聞きますよ?」
「え~?そうなの?二人きりの時にはよくそんなこと言ってるの?」
「はい。レジーは可愛いやつだっていつもおっしゃってます。」
「……」
 その時、寝ていたはずのジークフリートが髪を撫でていたセシリアの手をがっしりと掴んで目を開けた。
「ひっ!お、おはよう、ジーク……」
「リア?私はそんなこと言った記憶はないけど?」
「そうでしたか?」
「私が可愛いと口に出して言うのはリアにだけだ。」
「それじゃ、きっと口に出されなくても態度に現れていたんですね。」
 セシリアは手を掴まれたままで身動きがとれず、助けを求めるようにチラッとレジナルドの方を見た。レジナルドは何やら怪しくなってきた雰囲気に眩暈を覚えた。……一体ジークフリートはどの辺りから起きていたのだろうか?変なことは口走っていないはずだが──。
「……お、俺そろそろ眠くなってきたな~、部屋に戻ろうかな~?」
 わざとらしく欠伸をすると立ち上がり背を向けるレジナルドに二人が同時に声を掛けた。
「レジー様?」
「おやすみ、レジー」

──ごめんね、逃がしてあげられなくて。でも、もう少しだけここに居るって決めたのは俺じゃなくてリア様だからね?

 ドアを閉めようと目を上げた瞬間チラッと見えたのは艶やかに微笑むジークフリートと、凍り付いたように動けないでいるセシリアの姿だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

慈悲深い天使のテーゼ~侯爵令嬢は我が道を征くつもりだ

あとさん♪
恋愛
王太子の婚約者候補に名を連ねながら、政権争いに敗れ、正式任命されなかった侯爵令嬢パトリシア。 彼女には辺境伯家との縁組が命じられた。辺境伯は毛むくじゃらの天をつくような大男で、粗野で野蛮人だと王都では噂されている。さらに独立して敵国に寝返るかもしれないと噂される辺境伯家に嫁いだら、いったいどうなるの? いいえ、今まで被り慣れた巨大な猫を、この際、盛大に開放させましょう。 わたくしは過去の自分を捨て、本来のわたくしに戻り、思うまま生きてやります! 設定はゆるんゆるん。なんちゃって異世界。 令嬢視点と辺境伯視点の2話構成。 『小話』は、2人のその後。主に新婚さんの甘々な日常。 小説家になろうにも掲載しております。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

【完結】元強面騎士団長様は可愛いものがお好き〜虐げられた元聖女は、お腹と心が満たされて幸せになる〜

水都 ミナト
恋愛
女神の祝福を受けた聖女が尊ばれるサミュリア王国で、癒しの力を失った『元』聖女のミラベル。 『現』聖女である実妹のトロメアをはじめとして、家族から冷遇されて生きてきた。 すっかり痩せ細り、空腹が常となったミラベルは、ある日とうとう国外追放されてしまう。 隣国で力尽き果て倒れた時、助けてくれたのは――フリルとハートがたくさんついたラブリーピンクなエプロンをつけた筋骨隆々の男性!? そんな元強面騎士団長のアインスロッドは、魔物の呪い蝕まれ余命一年だという。残りの人生を大好きな可愛いものと甘いものに捧げるのだと言うアインスロッドに救われたミラベルは、彼の夢の手伝いをすることとなる。 認めとくれる人、温かい居場所を見つけたミラベルは、お腹も心も幸せに満ちていく。 そんなミラベルが飾り付けをしたお菓子を食べた常連客たちが、こぞってとあることを口にするようになる。 「『アインスロッド洋菓子店』のお菓子を食べるようになってから、すこぶる体調がいい」と。 一方その頃、ミラベルを追いやった実妹のトロメアからは、女神の力が失われつつあった。 ◇全15話、5万字弱のお話です ◇他サイトにも掲載予定です

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

処理中です...