騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

文字の大きさ
55 / 59
5

宿場町の行列

しおりを挟む
 王都から離宮まで馬で移動すれば一日半、馬車ではまる二日の旅だ。晴天に恵まれ、先導する騎士達の表情も明るい。レジナルドは併走する馬車にちらりと目をやるとすぐに後悔した。馬車の中ではジークフリートとセシリアが二人きり、顔を寄せ合い何やら楽しそうに語り合っている様子が窺えた。
 レジナルドは前を行く騎士の背中を見つめると小さく溜息をついた。しょうがない、学園でも王宮でもジークフリートとセシリアが完全に二人きりになれる時間は本当に僅かしかない──主に自分が二人の邪魔をしているという自覚はあった。

「レジー殿、次の街で休憩に入りますが宜しいですか?」
「次というとダーラですか?分かりました。」
 毎年夏になると北の離宮に通っていたレジナルドとジークフリートにしてみれば街道沿いの宿場町の情報など全て頭に入っている。
──ダーラで休むのならばやはりを食べるしかないだろう。
 げんきんなものでレジナルドの思考は早くもダーラの街中へと飛んで行った。

「一年ぶりかな?ダーラの街も。」
「そうだな、相変わらず何も無い街だが……変わらないな、あの店の行列は。」
「本当に、あの店の前だけ凄い人ですね!」
 馬車に揺られても全く疲れた様子も見せず、大きな目でキョロキョロと街を見回していたセシリアだが、ジークフリートの指さした先に行列を見つけると途端にソワソワしはじめた。
「どうした?リア?」
「あの……」
「分かった、列に並んで待つのが嫌なんじゃない?大丈夫、俺が行ってくるよ?」
 セシリアは一人で店先に並ぼうとするレジナルドを慌てて引き止めた。
「違います!そうではなくて……並びたいのです、是非!」
「ん?」
「並びたい?」
 ジークフリートとレジナルドは目を見合わせ合点した。
「なるほど、そうだったな。」
「ごめんごめん、一緒に行こうか。」

 ビューロー侯爵家の深窓のご令嬢にしてみれば何もかもが初めての経験となる今回の旅だ。その願いを全て叶えてあげるのも役目の内、つい忘れるところだった。
 その店はダーラで最も人気のある串焼き屋だった。メニューも豊富でいつ立ち寄っても一人四、五本は買い求め余裕で食べ切ってしまう。列の最後尾に律儀に三人で並ぶとレジナルドは看板に書かれたメニューを指差しながらセシリアに力説しはじめた。
「俺のオススメはマシュマロとポテトかな?ポテトは絶対に一度は食べるべきだよ!」
「串焼きでマシュマロにポテトですか?」
 セシリアは看板にあるメニューの多さを見て完全に圧倒されているようだ。この店の大半の客は並びながらメニューを決めるので待つ時間が苦にならないという訳だ。
「私が何時も頼むのは鳥とチーズだな。」
「マシュマロとポテトと鳥とチーズ……」
「他に気になるものがあったら幾らでも頼んでいいよ?」
「……」
 真剣な眼差しでメニューを見つめるご令嬢と、それを楽しそうに見守るいかにも身分の高そうな二人の青年。誰もがその正体に気付いていながら遠巻きに眺めるだけで決して邪魔をしてこない、離宮に続くこの小さな宿場町での暗黙のルールだった。
 
「ポテト、中にチーズが入っているんですね?」
「そう、イモを潰してからチーズ入れて丸めてるんだって。」
「美味しいです、さすがレジー様のおすすめ。」
 レジナルドは自分もポテトを口にするとうんうんと頷いた。
「それにしても、これは何だ?」
 ジークフリートは一本の串を手に取ると、鼻を近付けた。
「……甘い匂いがするな。」
「あ、リア様が最後に注文したやつじゃない?」
「そうかも知れません!」
「そうなのか?」
 ジークフリートは何を思ったのか一瞬口元に悪い笑みを浮かべると、串を手にしたままセシリアの口元にそれを近付けた。セシリアが手を伸ばそうとするとさっと串を遠ざける。
「……」
 レジナルドは視界の片隅にそれを見ながらも気付かない振りをして放置する事にした。下手に口を出すとこちらにも火の粉が飛んできかねない。危ない危ない。
「どうした?食べないのか?」
 二度ほど繰り返した所でようやくジークフリートの意図に気がついたセシリアは、周りの目を気にして声を潜めた。
「ジーク様の意地悪!」
 レジナルドが余りの居心地の悪さにモゾモゾと身悶えしているとジークフリートが隣でドっと机に肘を着くのが分かった。どうしたのかと恐る恐る目を向けると──頭を抱えている様だ。
「……何?自分で仕掛けといて逆にやられちゃった?」
 ジークフリートは頭を抱えたまま黙って頷くと串をそっと差し出した。
「もうどうにでもしてくれ。」
「いや、それむしろ俺が言いたい……」
 レジナルドはジークフリートが差し出したその串を手から取ると、セシリアにおずおずと返した。
「なんて言うか……ごめんね?」
 セシリアはふふっと笑うとレジナルドが差し出した串を受け取った。
「さぁ、早く食べて出発しましょう!ね?」
 セシリアは串焼きにパクリとかじりつくと「甘い」と小さく声に出して笑った。
「で、それ結局何の串?」
「……何でしょう?よく分かりません。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

慈悲深い天使のテーゼ~侯爵令嬢は我が道を征くつもりだ

あとさん♪
恋愛
王太子の婚約者候補に名を連ねながら、政権争いに敗れ、正式任命されなかった侯爵令嬢パトリシア。 彼女には辺境伯家との縁組が命じられた。辺境伯は毛むくじゃらの天をつくような大男で、粗野で野蛮人だと王都では噂されている。さらに独立して敵国に寝返るかもしれないと噂される辺境伯家に嫁いだら、いったいどうなるの? いいえ、今まで被り慣れた巨大な猫を、この際、盛大に開放させましょう。 わたくしは過去の自分を捨て、本来のわたくしに戻り、思うまま生きてやります! 設定はゆるんゆるん。なんちゃって異世界。 令嬢視点と辺境伯視点の2話構成。 『小話』は、2人のその後。主に新婚さんの甘々な日常。 小説家になろうにも掲載しております。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

処理中です...