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宿場町の行列
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王都から離宮まで馬で移動すれば一日半、馬車ではまる二日の旅だ。晴天に恵まれ、先導する騎士達の表情も明るい。レジナルドは併走する馬車にちらりと目をやるとすぐに後悔した。馬車の中ではジークフリートとセシリアが二人きり、顔を寄せ合い何やら楽しそうに語り合っている様子が窺えた。
レジナルドは前を行く騎士の背中を見つめると小さく溜息をついた。しょうがない、学園でも王宮でもジークフリートとセシリアが完全に二人きりになれる時間は本当に僅かしかない──主に自分が二人の邪魔をしているという自覚はあった。
「レジー殿、次の街で休憩に入りますが宜しいですか?」
「次というとダーラですか?分かりました。」
毎年夏になると北の離宮に通っていたレジナルドとジークフリートにしてみれば街道沿いの宿場町の情報など全て頭に入っている。
──ダーラで休むのならばやはりアレを食べるしかないだろう。
げんきんなものでレジナルドの思考は早くもダーラの街中へと飛んで行った。
「一年ぶりかな?ダーラの街も。」
「そうだな、相変わらず何も無い街だが……変わらないな、あの店の行列は。」
「本当に、あの店の前だけ凄い人ですね!」
馬車に揺られても全く疲れた様子も見せず、大きな目でキョロキョロと街を見回していたセシリアだが、ジークフリートの指さした先に行列を見つけると途端にソワソワしはじめた。
「どうした?リア?」
「あの……」
「分かった、列に並んで待つのが嫌なんじゃない?大丈夫、俺が行ってくるよ?」
セシリアは一人で店先に並ぼうとするレジナルドを慌てて引き止めた。
「違います!そうではなくて……並びたいのです、是非!」
「ん?」
「並びたい?」
ジークフリートとレジナルドは目を見合わせ合点した。
「なるほど、そうだったな。」
「ごめんごめん、一緒に行こうか。」
ビューロー侯爵家の深窓のご令嬢にしてみれば何もかもが初めての経験となる今回の旅だ。その願いを全て叶えてあげるのも役目の内、つい忘れるところだった。
その店はダーラで最も人気のある串焼き屋だった。メニューも豊富でいつ立ち寄っても一人四、五本は買い求め余裕で食べ切ってしまう。列の最後尾に律儀に三人で並ぶとレジナルドは看板に書かれたメニューを指差しながらセシリアに力説しはじめた。
「俺のオススメはマシュマロとポテトかな?ポテトは絶対に一度は食べるべきだよ!」
「串焼きでマシュマロにポテトですか?」
セシリアは看板にあるメニューの多さを見て完全に圧倒されているようだ。この店の大半の客は並びながらメニューを決めるので待つ時間が苦にならないという訳だ。
「私が何時も頼むのは鳥とチーズだな。」
「マシュマロとポテトと鳥とチーズ……」
「他に気になるものがあったら幾らでも頼んでいいよ?」
「……」
真剣な眼差しでメニューを見つめるご令嬢と、それを楽しそうに見守るいかにも身分の高そうな二人の青年。誰もがその正体に気付いていながら遠巻きに眺めるだけで決して邪魔をしてこない、離宮に続くこの小さな宿場町での暗黙のルールだった。
「ポテト、中にチーズが入っているんですね?」
「そう、イモを潰してからチーズ入れて丸めてるんだって。」
「美味しいです、さすがレジー様のおすすめ。」
レジナルドは自分もポテトを口にするとうんうんと頷いた。
「それにしても、これは何だ?」
ジークフリートは一本の串を手に取ると、鼻を近付けた。
「……甘い匂いがするな。」
「あ、リア様が最後に注文したやつじゃない?」
「そうかも知れません!」
「そうなのか?」
ジークフリートは何を思ったのか一瞬口元に悪い笑みを浮かべると、串を手にしたままセシリアの口元にそれを近付けた。セシリアが手を伸ばそうとするとさっと串を遠ざける。
「……」
レジナルドは視界の片隅にそれを見ながらも気付かない振りをして放置する事にした。下手に口を出すとこちらにも火の粉が飛んできかねない。危ない危ない。
「どうした?食べないのか?」
二度ほど繰り返した所でようやくジークフリートの意図に気がついたセシリアは、周りの目を気にして声を潜めた。
「ジーク様の意地悪!」
レジナルドが余りの居心地の悪さにモゾモゾと身悶えしているとジークフリートが隣でドっと机に肘を着くのが分かった。どうしたのかと恐る恐る目を向けると──頭を抱えている様だ。
「……何?自分で仕掛けといて逆にやられちゃった?」
ジークフリートは頭を抱えたまま黙って頷くと串をそっと差し出した。
「もうどうにでもしてくれ。」
「いや、それむしろ俺が言いたい……」
レジナルドはジークフリートが差し出したその串を手から取ると、セシリアにおずおずと返した。
「なんて言うか……ごめんね?」
セシリアはふふっと笑うとレジナルドが差し出した串を受け取った。
「さぁ、早く食べて出発しましょう!ね?」
セシリアは串焼きにパクリとかじりつくと「甘い」と小さく声に出して笑った。
「で、それ結局何の串?」
「……何でしょう?よく分かりません。」
レジナルドは前を行く騎士の背中を見つめると小さく溜息をついた。しょうがない、学園でも王宮でもジークフリートとセシリアが完全に二人きりになれる時間は本当に僅かしかない──主に自分が二人の邪魔をしているという自覚はあった。
「レジー殿、次の街で休憩に入りますが宜しいですか?」
「次というとダーラですか?分かりました。」
毎年夏になると北の離宮に通っていたレジナルドとジークフリートにしてみれば街道沿いの宿場町の情報など全て頭に入っている。
──ダーラで休むのならばやはりアレを食べるしかないだろう。
げんきんなものでレジナルドの思考は早くもダーラの街中へと飛んで行った。
「一年ぶりかな?ダーラの街も。」
「そうだな、相変わらず何も無い街だが……変わらないな、あの店の行列は。」
「本当に、あの店の前だけ凄い人ですね!」
馬車に揺られても全く疲れた様子も見せず、大きな目でキョロキョロと街を見回していたセシリアだが、ジークフリートの指さした先に行列を見つけると途端にソワソワしはじめた。
「どうした?リア?」
「あの……」
「分かった、列に並んで待つのが嫌なんじゃない?大丈夫、俺が行ってくるよ?」
セシリアは一人で店先に並ぼうとするレジナルドを慌てて引き止めた。
「違います!そうではなくて……並びたいのです、是非!」
「ん?」
「並びたい?」
ジークフリートとレジナルドは目を見合わせ合点した。
「なるほど、そうだったな。」
「ごめんごめん、一緒に行こうか。」
ビューロー侯爵家の深窓のご令嬢にしてみれば何もかもが初めての経験となる今回の旅だ。その願いを全て叶えてあげるのも役目の内、つい忘れるところだった。
その店はダーラで最も人気のある串焼き屋だった。メニューも豊富でいつ立ち寄っても一人四、五本は買い求め余裕で食べ切ってしまう。列の最後尾に律儀に三人で並ぶとレジナルドは看板に書かれたメニューを指差しながらセシリアに力説しはじめた。
「俺のオススメはマシュマロとポテトかな?ポテトは絶対に一度は食べるべきだよ!」
「串焼きでマシュマロにポテトですか?」
セシリアは看板にあるメニューの多さを見て完全に圧倒されているようだ。この店の大半の客は並びながらメニューを決めるので待つ時間が苦にならないという訳だ。
「私が何時も頼むのは鳥とチーズだな。」
「マシュマロとポテトと鳥とチーズ……」
「他に気になるものがあったら幾らでも頼んでいいよ?」
「……」
真剣な眼差しでメニューを見つめるご令嬢と、それを楽しそうに見守るいかにも身分の高そうな二人の青年。誰もがその正体に気付いていながら遠巻きに眺めるだけで決して邪魔をしてこない、離宮に続くこの小さな宿場町での暗黙のルールだった。
「ポテト、中にチーズが入っているんですね?」
「そう、イモを潰してからチーズ入れて丸めてるんだって。」
「美味しいです、さすがレジー様のおすすめ。」
レジナルドは自分もポテトを口にするとうんうんと頷いた。
「それにしても、これは何だ?」
ジークフリートは一本の串を手に取ると、鼻を近付けた。
「……甘い匂いがするな。」
「あ、リア様が最後に注文したやつじゃない?」
「そうかも知れません!」
「そうなのか?」
ジークフリートは何を思ったのか一瞬口元に悪い笑みを浮かべると、串を手にしたままセシリアの口元にそれを近付けた。セシリアが手を伸ばそうとするとさっと串を遠ざける。
「……」
レジナルドは視界の片隅にそれを見ながらも気付かない振りをして放置する事にした。下手に口を出すとこちらにも火の粉が飛んできかねない。危ない危ない。
「どうした?食べないのか?」
二度ほど繰り返した所でようやくジークフリートの意図に気がついたセシリアは、周りの目を気にして声を潜めた。
「ジーク様の意地悪!」
レジナルドが余りの居心地の悪さにモゾモゾと身悶えしているとジークフリートが隣でドっと机に肘を着くのが分かった。どうしたのかと恐る恐る目を向けると──頭を抱えている様だ。
「……何?自分で仕掛けといて逆にやられちゃった?」
ジークフリートは頭を抱えたまま黙って頷くと串をそっと差し出した。
「もうどうにでもしてくれ。」
「いや、それむしろ俺が言いたい……」
レジナルドはジークフリートが差し出したその串を手から取ると、セシリアにおずおずと返した。
「なんて言うか……ごめんね?」
セシリアはふふっと笑うとレジナルドが差し出した串を受け取った。
「さぁ、早く食べて出発しましょう!ね?」
セシリアは串焼きにパクリとかじりつくと「甘い」と小さく声に出して笑った。
「で、それ結局何の串?」
「……何でしょう?よく分かりません。」
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