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悪いのは…
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「とりあえずポールには会ってきたけど。ジャンは寝ていたから…。」
「じゃあやっぱり…?」
「昨日のはジャンだったみたいだ。大きな怪我はなかったらしいけど、顔にあざが少しあるって。」
「その…体は……。無事に、逃げたのか?」
「分からない。今頃父上が犯人から何か聞き出してる頃だろうけど。」
「そうか…。」
ロベールは昼過ぎに屋敷に再び戻って来ると、ポールの家での事をマルセルに報告してくれた。
昨日の夕方ぼろぼろになって帰ってきたジャンの普通ではない様子にポールはすぐに気が付いたという事だった。
「ポールは明日には仕事に戻るそうだ。」
「…ジャンの母親は家にいたか?」
「俺が見た感じではいなかったようだけど。どこかへ行っているのか?」
「実家にいると聞いているが、まだ戻って来ていないのか…。」
「実家?じゃあジャンもしばらくそっちに行くことになるかもしれないな。」
「……いろいろ事情があるようだから、それはないだろう。」
「そう…か。」
ロベールはよく分からないといった様子で首を傾げると、目の前の紅茶を一息で飲み干した。
「でも、マルセルが言った通りジャンの見た目もかなりの…アレだな──目立つ顔だ。お前から男だと聞いてたのにベッドに寝てるのを見た瞬間ドキッとしたよ。」
「あぁ。あれで普通に出歩いていたのでは目立ちすぎるだろうな。」
「顔にあざがあるくらいが丁度いいんだとポールが言っていた。湿布でもして隠すのかな?」
「あざくらいすぐに治るんだろう?今更顔を隠したところで意味がない。そういえば、ジャンは将来騎士になるのが目標だと言っていたな。」
「それはしばらくは止めた方がいいだろうな。アイツが男ばかりの騎士団に放り込まれてみろ…。想像しただけでぞっとするよ。」
「……騎士団でも……そういうものなのか?」
「当たり前だよ。しかも新入りは実力も立場も何もかもが一番弱いんだ。余程の爵位でもない限り危ない事に変わりはないさ。」
「爵位…?」
「爵位を継げない貴族の2男3男が騎士爵欲しさに結構入ってきてるんだよ。そういう奴らでも流石に高位貴族の子には手は出せないだろう?でもポールは貴族じゃない。だったらジャンも爵位がないはずだから立場で言えばかなり下の方になるからな。」
「騎士爵というのは…確か一代限りだったな?子供はそれを継げない。それにそんなに魅力があるのか?」
「いいとこの女の子を嫁にもらうにはそれで十分なんだろう?」
「嫁…か。結局行きつく先はそこなのか。」
「金と地位。トロメリン王国の誰もが望むのは結局そこだよ。」
ロベールとマルセルは顔を見合わせるとどちらからともなく悪い顔で笑った。
「俺たちは例外だ。それが面倒なだけのものだって知ってるんだから。」
「公爵の二男くらいなら丁度いいんじゃないのか?」
「……公爵くらいだなんて口にできるのはお前くらいのもんだろう?こっちだっていろいろと大変なんだよ。面倒くさがり屋の王子様のお相手ばかりでさ。」
「悪かったな…。」
「おまけにお前の顔ばかり見てるせいで、社交界でも評判のご令嬢の顔を見てもなんとも思わなくなってきた。」
「それは私のせいじゃないだろう?」
「マルセルの次はジャンだろ?どうして俺の周りはこうも綺麗な男ばかりなんだ?せめてどっちかが女だったら喜んですぐにでも婚約するのにさ!」
マルセルは一瞬ロベールに鋭い視線を送ると鼻で笑った。
「私もジャンも男で良かった。」
「なんだよ?俺と結婚すれば面倒な王族とは縁が切れるんだぞ?何たって俺には継ぐ爵位がないんだからな!」
「…確かに。そう言えばそうだな。」
ロベールは可笑しそうに笑うとマルセルの目の前に残っていた菓子を手でつまんだ。
「普通俺みたいな男は嫌われるんだぜ?」
「だったらロベールも騎士爵を狙って騎士団に入ればいい。いいとこの女の子が寄って来るさ。公爵の家名も役に立つんだろう?」
「そう簡単に言うなよ。それに騎士爵だって誰もが与えられるような軽いもんじゃない。国に正当に認められた爵位なんだからな。それなりの実績がないと駄目だろ?」
「国に正当に認められた爵位…か。」
──そう言えば…私だって国から正式には王子として認められていないんじゃないか?いや、もしかしたら存在すら認められていないのか?
「そう言えばお前の母上の墓、国母の文字が刻んであったな?いつから正式に妃として認められたんだ?」
「何も聞いていない。もしかしたら私もいつの間にか国に王子として存在を認められているのかも知れないな。」
「……でも結局王位を継承するのは弟なんだろ?」
「当然だ。それに私はそういう事に興味が無い。」
「お前その言い方……。」
ロベールは呆れたようにマルセルを見つめると、ソファーに倒れこむように背を預けた。
「丁度いい。公爵に私の公式な記録を少し調べるよう頼んでみてくれないか?」
「記録?」
「あぁ。私の記録があるのならば16歳になれば王都の学園へ通うことになる。確かロベールも行くんだろう?」
「貴族の通う学園のことか?まぁ行くようになるとは思うけど。分かった、調べるよう頼んでみるよ。それにしても、マルセルは学園に通いたかったのか?意外だな。」
マルセルは首を傾げると少し考えた。
「単純に勉学に励むことができる環境ならば……。」
「それは…当然無理だろう?」
「王子という肩書がなくても?」
「肩書より問題なのはその見た目だよ!」
「金と地位と見た目か…。面倒な事ばかりだな。」
「全部持ってるお前が言うなよ。」
「じゃあやっぱり…?」
「昨日のはジャンだったみたいだ。大きな怪我はなかったらしいけど、顔にあざが少しあるって。」
「その…体は……。無事に、逃げたのか?」
「分からない。今頃父上が犯人から何か聞き出してる頃だろうけど。」
「そうか…。」
ロベールは昼過ぎに屋敷に再び戻って来ると、ポールの家での事をマルセルに報告してくれた。
昨日の夕方ぼろぼろになって帰ってきたジャンの普通ではない様子にポールはすぐに気が付いたという事だった。
「ポールは明日には仕事に戻るそうだ。」
「…ジャンの母親は家にいたか?」
「俺が見た感じではいなかったようだけど。どこかへ行っているのか?」
「実家にいると聞いているが、まだ戻って来ていないのか…。」
「実家?じゃあジャンもしばらくそっちに行くことになるかもしれないな。」
「……いろいろ事情があるようだから、それはないだろう。」
「そう…か。」
ロベールはよく分からないといった様子で首を傾げると、目の前の紅茶を一息で飲み干した。
「でも、マルセルが言った通りジャンの見た目もかなりの…アレだな──目立つ顔だ。お前から男だと聞いてたのにベッドに寝てるのを見た瞬間ドキッとしたよ。」
「あぁ。あれで普通に出歩いていたのでは目立ちすぎるだろうな。」
「顔にあざがあるくらいが丁度いいんだとポールが言っていた。湿布でもして隠すのかな?」
「あざくらいすぐに治るんだろう?今更顔を隠したところで意味がない。そういえば、ジャンは将来騎士になるのが目標だと言っていたな。」
「それはしばらくは止めた方がいいだろうな。アイツが男ばかりの騎士団に放り込まれてみろ…。想像しただけでぞっとするよ。」
「……騎士団でも……そういうものなのか?」
「当たり前だよ。しかも新入りは実力も立場も何もかもが一番弱いんだ。余程の爵位でもない限り危ない事に変わりはないさ。」
「爵位…?」
「爵位を継げない貴族の2男3男が騎士爵欲しさに結構入ってきてるんだよ。そういう奴らでも流石に高位貴族の子には手は出せないだろう?でもポールは貴族じゃない。だったらジャンも爵位がないはずだから立場で言えばかなり下の方になるからな。」
「騎士爵というのは…確か一代限りだったな?子供はそれを継げない。それにそんなに魅力があるのか?」
「いいとこの女の子を嫁にもらうにはそれで十分なんだろう?」
「嫁…か。結局行きつく先はそこなのか。」
「金と地位。トロメリン王国の誰もが望むのは結局そこだよ。」
ロベールとマルセルは顔を見合わせるとどちらからともなく悪い顔で笑った。
「俺たちは例外だ。それが面倒なだけのものだって知ってるんだから。」
「公爵の二男くらいなら丁度いいんじゃないのか?」
「……公爵くらいだなんて口にできるのはお前くらいのもんだろう?こっちだっていろいろと大変なんだよ。面倒くさがり屋の王子様のお相手ばかりでさ。」
「悪かったな…。」
「おまけにお前の顔ばかり見てるせいで、社交界でも評判のご令嬢の顔を見てもなんとも思わなくなってきた。」
「それは私のせいじゃないだろう?」
「マルセルの次はジャンだろ?どうして俺の周りはこうも綺麗な男ばかりなんだ?せめてどっちかが女だったら喜んですぐにでも婚約するのにさ!」
マルセルは一瞬ロベールに鋭い視線を送ると鼻で笑った。
「私もジャンも男で良かった。」
「なんだよ?俺と結婚すれば面倒な王族とは縁が切れるんだぞ?何たって俺には継ぐ爵位がないんだからな!」
「…確かに。そう言えばそうだな。」
ロベールは可笑しそうに笑うとマルセルの目の前に残っていた菓子を手でつまんだ。
「普通俺みたいな男は嫌われるんだぜ?」
「だったらロベールも騎士爵を狙って騎士団に入ればいい。いいとこの女の子が寄って来るさ。公爵の家名も役に立つんだろう?」
「そう簡単に言うなよ。それに騎士爵だって誰もが与えられるような軽いもんじゃない。国に正当に認められた爵位なんだからな。それなりの実績がないと駄目だろ?」
「国に正当に認められた爵位…か。」
──そう言えば…私だって国から正式には王子として認められていないんじゃないか?いや、もしかしたら存在すら認められていないのか?
「そう言えばお前の母上の墓、国母の文字が刻んであったな?いつから正式に妃として認められたんだ?」
「何も聞いていない。もしかしたら私もいつの間にか国に王子として存在を認められているのかも知れないな。」
「……でも結局王位を継承するのは弟なんだろ?」
「当然だ。それに私はそういう事に興味が無い。」
「お前その言い方……。」
ロベールは呆れたようにマルセルを見つめると、ソファーに倒れこむように背を預けた。
「丁度いい。公爵に私の公式な記録を少し調べるよう頼んでみてくれないか?」
「記録?」
「あぁ。私の記録があるのならば16歳になれば王都の学園へ通うことになる。確かロベールも行くんだろう?」
「貴族の通う学園のことか?まぁ行くようになるとは思うけど。分かった、調べるよう頼んでみるよ。それにしても、マルセルは学園に通いたかったのか?意外だな。」
マルセルは首を傾げると少し考えた。
「単純に勉学に励むことができる環境ならば……。」
「それは…当然無理だろう?」
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「肩書より問題なのはその見た目だよ!」
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「全部持ってるお前が言うなよ。」
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