卒業からの1週間

ゆみ

文字の大きさ
10 / 21

最後だから

しおりを挟む
 大きな音に負けないよう、必要以上に至近距離で会話を続けようとする自称友人たちにイラつくと黙って席を立った。

「ト イ レ」

 口の動きだけでそう伝えるとスマホを片手に部屋から外に出る。これでしばらくは戻らなくてもいいだろう。
 3年間部活が同じだった友人にこれが最後だから付き合えと呼び出され向かった先はカラオケボックスだった。大体の予想はついていたが今回はいつもより人数が多い上に、中には話したことも無いような連中の顔もチラホラあった。

――わざわざ来なくてもよかったかな。

 数時間前に別れたばかりの彼女の事が頭から離れなかった。どうせくだらない話を聞くくらいなら、彼女と少しでも長く一緒にいてやるべきだった――いや、そうしたかったのはむしろ自分の方かもしれない。

『 なしにしてもらえませんか 』

 そう言い出しながら既に泣いているのは向こうの方だった。相手から振られるのはこれで何回目だったか――しかも今回は最短記録になりそうな勢いだった。と言うよりもそれ以前の問題か――まだ告白すらされていないという事実。
 あんな風に泣かれたらこっちだけが悪者になった気分だった。

「なんであんなことしちゃったんだ、俺。」
「なーに、でっかい独り言?」
「……ヒロト。」
「出るか?ココ。」
「いーのかよ、呼び出したのお前じゃないの?」
「アイツラならいーよ、別にまた直ぐに会えるし。県外に行くのなんてお前と安野くらいじゃない?あと誰かいたっけ?」
「……さぁ。」

 廊下をまっすぐ歩いた先にはダーツが数台置かれたスペースがあった。BGMが賑やかに流されてはいるが今は無人だ。なんとなく店外に出るのも気が引けるのでとりあえず椅子を引っ張ってきてそこで二人で座り込むと、ヒロトは向かい側で早速スマホをいじりはじめた。

「ここにいること一応教えとく……かな。」
「そういうとこマメだよな、お前。」
「俺は普通だろ?お前みたいにクールぶっててウケるのが稀なんだよ。」
「……別に、ウケてねーし。」
「そんで?隼くんは何落ち込んでんのさ?」
「は?」
「さっきからスマホばっか気にしてため息ついてんじゃん?当ててやろうか?また女に捨てられたんだろ?」
「残念でした違います。ていうか、またって言い方にかなり悪意がこもってるよね?」
「更に嫉妬を含んでいると思われるな。」

 友人――ヒロトはスマホから目を離さずにイヒヒと小さく笑った。3年も同じ部活で過ごしていればお互いの恋愛事情も少しくらいは分かるものだ。
 ヒロトは2年の時にバスケ部に付き合っている彼女がいたが半年経たないうちに二股をかけられていたことが分かって別れた。それから今まで特定の相手はいなかったはずだ。

「相手は?誰?」
「……お前も知ってる奴。」
「お、意外!誰だろ……。」
「美術部の、あの子。」
「は?みゆちゃん?マジで?お前フラれたの?」
「……だから振られてはない。」
「んじゃ何なの?つーかいつの間に告られた?卒業式でか?うわー、そうだったんか。」
「いや、告られても……ない。」

 ヒロトはスマホから視線を上げるとえ?と言いながら固まった。

「どういう事?いつもなら告られても放置でフラれる感じでしょ?今回は違うバージョン?」
「いや、だから俺もそれがよく分かんないから困ってんじゃん。」
「はぁ?」
「ため息つきたくなるだろ?」
「まぁ、よく分かんねぇけど。でもお前アレだよな、前から俺思ってたんだけど、面倒くさいって言わないのな、みゆちゃんに関しては。」

 ヒロトは再びスマホの画面に戻るとどうでも良さそうに画面を適当にタッチし始めた。暇つぶしにゲームでも始めたのだろう。

「そう……かな。今まで面倒くさいと思うほどの関わりもなかったし。」
「だな。で?」
「……」
「何かあったんでしょ?みゆちゃんと。」
「あぁ……なんか……あったね。」
「何?そんなに気にするくらいならお前の方から連絡とればいいじゃん?」
「……」
「うわ……もしかしてマジなヤツ?どうしたんだ隼?」
「お前ウゼェわ、マジで。」
「何で今頃覚醒した訳?遅すぎじゃね?お前来週には東京――」
「分かってるって!」
「……」
「それは俺自身が一番よく分かってる。」

 ヒロトはいきなり椅子から立ち上がると、スマホを無造作にポケットに突っ込んだ。

「あー。俺、そろそろ戻るわ。隼は?帰るんだろ?」
「……」
「まだ引っ越しまでもう少し時間あるんだしさ、お前よく考えろよ、と。」
「……分かってる。……ありがと。」
「ウワ、今めっちゃ寒気がした。」

 ヒロトはもう一度イヒヒと笑うと、まぁがんばれよと小さな声で言いながら手を振って戻って行った。
 入れ代わるように見知らぬ客が3人大声で騒ぎながらダーツルームに近付いてくる。

──俺こんなとこで何してんだろ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...