卒業からの1週間

ゆみ

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一年前の後悔

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 長い、長い、長い1日だった気がする。でもまだ土曜日、3月9日まであと6日……と言っても、学校がある平日には先輩と会う事はできない。

「そっか、1週間じゃなくなったんだった……。」

 どうしてそういう話になったんだったかとぼんやりと考えていると、ある事が気になり始めベッドの上でがばっと起き上がる。慌てて机の上のカレンダーに手を伸ばした。

「卒業式が3月2日……引っ越しはその10日後って言ってたから、3月12日?月曜日なんだ……平日、か。」

 3月9日までだった期限が3日間だけ延長されたという事ならば、最後にもう1度一緒に週末を過ごすことが出来るかもしれないと気が付いた。きっとそれが最後──。

「あ、今日ひな祭りだったんだ……全然気が付かなかった。」

 ベッドの枕元に置いたスマホから鈍い音がした。先輩からのメールだろうか?
 数日前までは着信があろうがメールが来ようが気が向くまでスマホを放置していた自分が、スマホの鳴らす音に妙に敏感になっていることが寂しくも笑えた。

” 美優、明日暇? ”

「幸?──ていうか何これ、漢字だらけじゃん。」

” 暇じゃないけど、何? ”
” 暇じゃないならいいや ”
” 何それ?逆に気になる ”
” 部室の鍵持ってるよね?ちょっと忘れ物。急ぎじゃないから月曜でもいいんだけど ”

「あー。鍵か。」

” いいよ、明日取りに来る? ”
” 助かる。午前中家にいる?9時くらいに取りに行く ”
” OK ”

 幸太の家は一つ先のバス停近くだったと思う。中学校が別だったから知らなかったけれど、お互いに意外と家が近い場所だった事が分かった時は随分と驚いた記憶がある。それ以来、幸は部活帰りにバスが同じになったりすると家の前まで送ってくれることもあった。
 それきり会話は終わったものだと思っていたら、しばらくして幸の方から着信がきた。

『 ごめん、今いい? 』
「うん、いいよ。どうした?」
『 明日さ、美優も一緒に行く? 』
「学校?忘れ物取りに行くんでしょ?鍵なら月曜日に学校に持って来てくれればいいから。」
『 月曜の朝はムリ。俺朝は部室に顔出さない主義なの知ってるでしょ? 』
「あ…そうでした。」
『 何か予定があるの?明日。 』
「ううん、特には……」

 少し棘を含んだ幸の物言いにもやっとしながら時計に目を向ける。まだ夜の8時だ。先輩は夕方から用事があると言っていたからもしかしたらまだ帰って来ていないかもしれない。

──そういえば、先輩と何も約束できなかったな。明日も休みなのに。

 幸には今まで散々相談にのってもらってきたというのに、卒業式後先輩との間に起きたことに関してはまだ何も話せていなかった。電話で話すような内容でもないし、明日直接幸に会って話すのがいいかもしれない。

『 じゃあ一緒に来いよ。 』
「うん……分かった。」
『 明日9時ね。 』


 その後、何度スマホをチェックしてみても、先輩からの連絡は来ていなかった。

──ノープランのままこっちから連絡とるのも気まずいけど、貴重な休日をもやもやしたまま過ごしたくないし。もう少ししたら、私の方から連絡してみよう。

 そう考えるものの自分の行きたい場所もなければ先輩を連れて行きたい所も一緒にしたいことも何一つとして思い浮かばなかった。とにかく、口実は何でもよかった。──ただ先輩に会えればそれだけで。
 机の上には広げたままのノートが放置されている。高2の3学期もあと少しで終わりというこの時期に一体自分は何を新しく始めようとしているんだろう。
 とにかく時間がない、焦る気持ちは強かった。もう少し動き出すのが早かったら……1年前だったら状況は違っていたかもしれない。部活終わりに話をしながら一緒に帰るだけで、週末にぽっかりと空いた少しの時間で連絡を取り合うだけで──普通に幸せを感じていただろうか?
 でも、1年前の私は何もしなかった。自分が何かを行動に移すことによって、今の状況が壊れるのが怖かった。先輩をこっそりと目で追いかける事すらできなくなるくらいなら何もしたくなかった。

──今はもう何をどう頑張ったって会えなくなるのが分かってるから、あの時とは違う。


” 会いたいです ”

 このシンプルなたった6文字を送ろうかどうしようか……。文字を打って消しての繰り返しでどんどん時間が過ぎていく。

「あー駄目だ、無理。とりあえずお風呂入ってからにしよう。」

 立ち上がろうとスマホを置いたところで、着信のバイブが響いた。
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