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旅立ちの前に
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「興味のない相手とのお遊び?」
彼女は首を大きく縦に振って頷くとそのまま俯いた。
「流石に鈍い私でも気付いてました……からかわれてるだけなんだろうなって。先輩はどうして私と付き合うことにしたんですか?」
彼女は俯いていた顔を上げると少しだけ不安そうな表情を見せた。きっと俺が嘘をついていないかどうか見極めたいんだろう。
「前にも言ったと思うけど、俺椙山が2年間何も行動に移さなかった事知ってたから。だから卒業式の日に告白してそれできっぱり忘れようとか、そういう事なんだと思ってた。でも違った。だからちょっと興味が湧いて。」
「……」
「それで、1週間俺と付き合う事で椙山の中で結論が出るならいいかなと思って付き合う事にした。」
「20点です。」
「……え?何、赤点?」
彼女は泣きそうな顔で笑っていた。
「厳しいでしょ?私も。だってそれ嘘です。最初のきっかけはそうだったのかもしれないですけど。一番最初の公園デートの時に私先輩に言いましたよ?やっぱりそれなしにして欲しいって。それなのに気が付かないふりしたのは先輩の方です。違いますか?」
「……」
「正解?」
「分かんないよ、そんなの。正解とか間違いとか……あの時自分が何考えてあんな事したのかとか。」
前かがみになって膝の上に両手を置くと項垂れた。今まで自分の中でも何度も考えた問題だった。あの時何を考えていたのか、どうしたかったのか、今自分はどうしたいと思っているのか。
──あぁ、もう全部めんどくせぇ。
「一緒です、私も。先輩と同じ。……いろいろぐるぐる考えれば考えるほど、正解とかどうしたらいいのかとか分からなくなって。結局結論なんて出なかったから。」
「分かる。何て言うか……遅すぎたな、全部。」
「でも、私後悔はしてないんです。本当に。」
「マジで?俺なんか後悔しまくりの3年間なんですけど。」
「……楽しい思い出、やっぱり一個も思い出せないですか?」
彼女に伝え忘れていたことを一つ思い出し、ようやく笑みがこぼれた。これだけはちゃんと言っておく必要があった。
「忘れるとこだった。それ、卒業式の日でしょ?ヒロト達としゃべってたやつ。」
「はい……多分。」
「あれ嘘だから。マジにとられても困る。」
「え?」
「後輩のいる手前イキってあんな風に言っちゃっただけで……あ、椙山がまた固まった。」
「……」
「なんか、これ言っちゃうと卒業式の日に椙山がとった行動を全否定しちゃうような気がしてなかなか訂正できなかった……ごめんね。」
「ちょっと待ってください……私ホント何て言ったら──」
「何も言わなくていいから、もう一個聞いて?」
「はい?」
風でブランコが揺れてキーっと音を立てた。1本向こうの通りをひっきりなしに車が通る音がする。それ以外はなにも邪魔する物がない暗くなった3月の公園。
すぐ隣に座っているのに、彼女の表情は陰になっていてこちらからはよく見えない。
「俺、椙山のこと好きだよ。楽しかった。この1週間いろいろありがとう。」
「先輩……!?」
「先の事は今考えても何も分からないから約束はできないけど。今日で俺との事、全部区切りをつけようとか、結論を出さなきゃとかそういうの一人で勝手に考えこまないで欲しい。」
ベンチから立ち上がると手を差し出した。彼女の冷たい左手が重ねられるのをじっと待つ。
「言ってもらわないと分かんないから、そうやって一人で悩まないで。」
「でも、先輩はもうすぐここからいなくなっちゃうじゃないですか?」
「うん。それは……自分で決めた事だし今更どうしようもない。でもスマホもあるし。」
「東京は……遠いです。」
「それなんだけどさ。」
「?」
「俺、実家こっちにある訳だし、普通に帰って来るよ?5月の連休とか長期休暇とか大学って休み多いみたいだし。それよりも椙山は受験生でしょ?俺より忙しいかもよ?気が付いたら1年なんてあっという間だよ、多分。」
彼女はまだ完全には納得がいっていないようだったが、それでも頷きながら左手をそっと差し出してくれた。小さくて冷たい手がぎゅっとしがみついて来る。
ベンチから立ち上がった彼女と向い合せで立つと握手をする形になった。黙ったまま俯く彼女が口を開くのを待てるほど、自分には余裕がなかった。
「他には?何か言う事ない?そっちから好きって言ってくれないとハグもできないんだけど?」
腕の中にすっぽりとおさまった彼女はもういつかみたいに逃げたりはしなかった。
「言う前にしてるじゃないですか!」
「何?聞こえない。」
「──ちゃんと好きです!先輩よりもずっと前から……。」
「もう一回。」
「無理です、もう限界まで頑張りました、私。」
「うん、知ってた。」
3月9日──卒業式から丁度1週間後の約束の日。彼女の口から告げられたその一言で、俺の長かった高校生活はやっと終わりの日を迎える事ができた。
彼女は首を大きく縦に振って頷くとそのまま俯いた。
「流石に鈍い私でも気付いてました……からかわれてるだけなんだろうなって。先輩はどうして私と付き合うことにしたんですか?」
彼女は俯いていた顔を上げると少しだけ不安そうな表情を見せた。きっと俺が嘘をついていないかどうか見極めたいんだろう。
「前にも言ったと思うけど、俺椙山が2年間何も行動に移さなかった事知ってたから。だから卒業式の日に告白してそれできっぱり忘れようとか、そういう事なんだと思ってた。でも違った。だからちょっと興味が湧いて。」
「……」
「それで、1週間俺と付き合う事で椙山の中で結論が出るならいいかなと思って付き合う事にした。」
「20点です。」
「……え?何、赤点?」
彼女は泣きそうな顔で笑っていた。
「厳しいでしょ?私も。だってそれ嘘です。最初のきっかけはそうだったのかもしれないですけど。一番最初の公園デートの時に私先輩に言いましたよ?やっぱりそれなしにして欲しいって。それなのに気が付かないふりしたのは先輩の方です。違いますか?」
「……」
「正解?」
「分かんないよ、そんなの。正解とか間違いとか……あの時自分が何考えてあんな事したのかとか。」
前かがみになって膝の上に両手を置くと項垂れた。今まで自分の中でも何度も考えた問題だった。あの時何を考えていたのか、どうしたかったのか、今自分はどうしたいと思っているのか。
──あぁ、もう全部めんどくせぇ。
「一緒です、私も。先輩と同じ。……いろいろぐるぐる考えれば考えるほど、正解とかどうしたらいいのかとか分からなくなって。結局結論なんて出なかったから。」
「分かる。何て言うか……遅すぎたな、全部。」
「でも、私後悔はしてないんです。本当に。」
「マジで?俺なんか後悔しまくりの3年間なんですけど。」
「……楽しい思い出、やっぱり一個も思い出せないですか?」
彼女に伝え忘れていたことを一つ思い出し、ようやく笑みがこぼれた。これだけはちゃんと言っておく必要があった。
「忘れるとこだった。それ、卒業式の日でしょ?ヒロト達としゃべってたやつ。」
「はい……多分。」
「あれ嘘だから。マジにとられても困る。」
「え?」
「後輩のいる手前イキってあんな風に言っちゃっただけで……あ、椙山がまた固まった。」
「……」
「なんか、これ言っちゃうと卒業式の日に椙山がとった行動を全否定しちゃうような気がしてなかなか訂正できなかった……ごめんね。」
「ちょっと待ってください……私ホント何て言ったら──」
「何も言わなくていいから、もう一個聞いて?」
「はい?」
風でブランコが揺れてキーっと音を立てた。1本向こうの通りをひっきりなしに車が通る音がする。それ以外はなにも邪魔する物がない暗くなった3月の公園。
すぐ隣に座っているのに、彼女の表情は陰になっていてこちらからはよく見えない。
「俺、椙山のこと好きだよ。楽しかった。この1週間いろいろありがとう。」
「先輩……!?」
「先の事は今考えても何も分からないから約束はできないけど。今日で俺との事、全部区切りをつけようとか、結論を出さなきゃとかそういうの一人で勝手に考えこまないで欲しい。」
ベンチから立ち上がると手を差し出した。彼女の冷たい左手が重ねられるのをじっと待つ。
「言ってもらわないと分かんないから、そうやって一人で悩まないで。」
「でも、先輩はもうすぐここからいなくなっちゃうじゃないですか?」
「うん。それは……自分で決めた事だし今更どうしようもない。でもスマホもあるし。」
「東京は……遠いです。」
「それなんだけどさ。」
「?」
「俺、実家こっちにある訳だし、普通に帰って来るよ?5月の連休とか長期休暇とか大学って休み多いみたいだし。それよりも椙山は受験生でしょ?俺より忙しいかもよ?気が付いたら1年なんてあっという間だよ、多分。」
彼女はまだ完全には納得がいっていないようだったが、それでも頷きながら左手をそっと差し出してくれた。小さくて冷たい手がぎゅっとしがみついて来る。
ベンチから立ち上がった彼女と向い合せで立つと握手をする形になった。黙ったまま俯く彼女が口を開くのを待てるほど、自分には余裕がなかった。
「他には?何か言う事ない?そっちから好きって言ってくれないとハグもできないんだけど?」
腕の中にすっぽりとおさまった彼女はもういつかみたいに逃げたりはしなかった。
「言う前にしてるじゃないですか!」
「何?聞こえない。」
「──ちゃんと好きです!先輩よりもずっと前から……。」
「もう一回。」
「無理です、もう限界まで頑張りました、私。」
「うん、知ってた。」
3月9日──卒業式から丁度1週間後の約束の日。彼女の口から告げられたその一言で、俺の長かった高校生活はやっと終わりの日を迎える事ができた。
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