Lostland-Adventure 蘇る巨神伝説

レトロマンズ・ガイ

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時空の楽園編

第三話 【大人の違和感】

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【よし、行くぞ!!!】



ジンドウ、ファインガー、グレートガウランG。

3体の巨大な巨神が、海を覆い尽くす禍々しい影とヒトツメの軍団に立ち向かっいく背中を私とユザナちゃんは見守る事しか出来なかった。

何度目だろうか。
私は異形の存在に立ち向かっていくジンドウの背中を観る度に、心の中で

"頑張れ、リクトくん"

と囁く。


彼の無事を願っているから。
彼が帰ってくるのを待っているから。


きっとそれは、ユザナちゃんも同じ。

勿論、ガウランのマスターもハレルヤさんも、皆が無事で居て、帰ってきて欲しい。


皆の勝利を信じて居る。

だが、今回はいつもと違う。

今までよりもずっと恐ろしく、禍々しく、強大な存在が現れたのだ。


未知なる恐怖が私達を包み込む。


それでも、リクトくん達はこの世界を守る為、正面から立ち向かっていくのだった。


願いを込めて、ユザナちゃんと私は3人の背中を見送る。

そして、私達にもまだやらねばならない事がある。


おじいさんとおばあさんを無事に避難させる事。

ユザナちゃんと目を合わせて、互いに意志を通わせる。


「リクトくん達は必ず帰ってくるから、私達も私達の戦いに立ち向かう、ユザナちゃん」


「うん!これが終わったらHappyFineで黒蜜白玉きな粉ソフト皆で食べに行こうね!おじいちゃんもおばあちゃんも一緒にだよ!」

ユザナちゃんはニコッと笑ってそう言った。

先程の治癒の力の使用で、身体にはまだ負荷の影響が残っているのに、それをも跳ね返す様な明るく眩しい笑顔で発するユザナちゃんの言葉は私に勇気をくれた。

おじいさんとおばあさんも勇気付けられた様で、こんな状況ではある物の場の空気が和んだ。





さて。



この先のお話をする前に、少し過去のお話に遡りましょう。

時間を千年遡って。



この先の戦いの話をまたするのは、少し先になっちゃうけど、その前に私達がどうやってこの千年後の世界にやって来たのかを話さないとね。


ユザナちゃんやリクトくんとの出会いと、ロストランドでの皆との出会い。


それを見たら、またこの続きを話します。


それでは千年前、現代の沼津へ…。

























202X年、冬の沼津。











「う…うぅん…」

魂の安らぎと静寂をかき消すけたたましい騒音とでも言うべき耳障りな音が部屋中に鳴り響く。

その音は細やかな心身の休息に終わりを告げる終末の鐘の様な絶望感さえ秘めているのでは無いだろうか。






いや、それは大袈裟。

只のアラームの電子音だ。


でも誰だって朝に鳴り響くアラームの音は嫌だろう。

眠りから強制的に覚まされて、否応なしに1日をスタートさせられてしまうのだから。

自分の意志で自由に1日のスタートを切れたらどれだけ良い事か、と脳内で何度も叫びを上げても無駄だ。

そんな脳内サミットを繰り広げている内にも耳障りで機械的な電子音は鳴り続けている。

カチッ。


私は布団から全力を振り絞って手を伸ばし、まだ目を閉じたままアラームのスイッチを切った。

さぁ、これで1日が始まる。

そして目を開けると、そこは見慣れた天井だった。

カーテンの隙間からはあまり心地よいとは言えない日差しが舞い込んでいる。

朝だ。


季節は極寒の冬の真っ最中、1月も後半。

この時期の朝に布団から出るのがどれだけ過酷な事なのか、全ての人類と気持ちが1つになる瞬間だと私は思う。


「あぁぁー…目が痛い…」

朝起きて最初の一言目がこれだ。

この時点で最悪の1日のスタートを切ってしまった様な気がして私は気持ちがどんよりした。

「うーん、と。目のマッサージ沢山したけどあんま効果ないなぁ…」

私は目の周りの痛みを訴えた。
瞼の上からおでこにかけてがキリキリと痛む。

眼精疲労だ。

原因は明白で、それは前日夜遅くまでPCに向かい仕事の作業をしていたからだ。

気がつくと深夜の2時を超えるまで私は作業をしていた。

ここ最近ずっとそんな感じで夜遅くまでPCに向かっている。

流石に不味いと思いのそのまま眠りについたが今は朝の6時30分。

殆ど4時間程度しか眠れてない。

身体が危険信号を発しているのがよく分かる。


「さぁ支度しなきゃ。今日は仕事行く前にコーヒー飲むから早く起きたんだし」


いつもより少しだけ早く起きた。

私は仕事に行く前にたまに近くのコンビニでホットコーヒーを飲んでから出社する事がある。

別にお洒落な喫茶店のコーヒーとかでは無い。
なんて事のない普通のコンビニのコーヒーだ。

私が住んでいるマンションの前にバス停があって、職場の前にもバス停があるので私はバス通勤をしているのだが、最近運動不足も重なりデスクワークも多めなので、体の健康を考えて1週間の内定期的に1つ隣のバス停まで歩いてバスに乗る様にしている。

その際にコンビニでホットコーヒーを買って飲みながら散歩感覚で歩くのが好きで、仕事をこなす上でモチベーションを上げる為の楽しみの1つだったりする。

私はベッドから少しよろめきながら立ち上がると、朝の支度を始める。

顔を洗い、歯を磨き、ブラッシングをして、化粧をして身支度を整えていく。

そして迎える朝食の時間。
朝食はしっかり取る事を意識している。

歳を重ねる度に、健康や体力に少しずつ気を使って行かねばと関心を抱いていく中で、やはり朝食とは1日のエネルギーを蓄える大事な食事だ。

出来るだけ美味しく、良い物を食べる様にしたいとは思いつつも時間は限られている為、前日に用意した簡単な物と冷凍で保存したスープを温めて食べる程度に留まっているのだが。

そして冷凍庫のドアを開けて冷凍してあった手作りのスープの袋を取ると、ある事に気づいた。

「あちゃー、スープのストックもうこれで無いの忘れてた。帰りに材料買ってこなきゃ…」

仕事で忙しい日々の中で、スーパーへの買い物に行くのは割と手間でつい行くのを後回しにしてしまう物だ。

反省を抱きつつ手を動かし、調理を開始する。

パンを焼きトーストを用意し、目玉焼きを焼いてそこに厚切りにしたハムを拘りの調味料で味付けして焼いてお皿に盛り、パプリカをメインにしたサラダを添えて温めたスープと共に並べて朝食セットの完成だ。

朝食をテーブルに運び私はテレビを着けた。

集中して観る訳ではなくBGM程度の感覚で朝のニュースを流す。

「頂きまーす」

パンを手に取る。

「このみかんジャム美味しいんだよね」

私はパンにジャムを塗る。

沼津のみかんを使って作られたみかんジャム、これが凄く美味しい。

仕事先で知り合った地元住民の農家の方から差し入れで頂いた物なのだが、あまりにも美味しくて貰ってまだ数日しか経ってないのだが既に瓶の底が見え始めている。

サクッとしたパンにしっとりとした食感のジャムが合わさり、口の中に濃密な幸せが溢れていく。

自分の作った物が美味しいと感じるのは凄く嬉しい事で、また楽しくもある。

料理は好きだ。

私は趣味でよく料理をする。

創作料理が基本で特にこれと言ったレシピを元にする事は無い。

幼い頃から多忙で家を留守にする事が多かった両親に代わり自ら最低限の料理をする様になって行ったら、自分で言うのもなんだが気が付いたらそれなりに腕が付いていた。

いつからかそれが唯一の趣味となった。


私はパンとスープを交互に食べながら、目玉焼きとハムとサラダも口にする。

するとふとテレビの音が耳に入る。







「戸田…直ぐ近くだ」




?


ここ数日、頻繁に報道されるニュース。
それは静岡県の東部地域で集中的に土偶や勾玉が出土したと言う物だ。

歴史的に大発見であるとされて様々な分野から注目が集まっているそうで、最初はローカルニュース番組で取り上げられるに留まっていたが今では全国ニュースで大々的に取り上げられている。

勿論凄い事なのは分かるし、歴史的な発見である事も分かるが、全国メディアで連日大々的に報道がなされる事なのだろうか?と言う気持ちも最初はあった。

しかし問題のその土偶の形状を見ると、確かに何か凄い物を感じてしまう。


何かの王冠の様な物を被った人?の形をした土偶。

元々土偶自体、人間からかけ離れた様な見た目と体型の物が多いので異形の物が出てきてもそこまで驚く事は無いのだが、連日発見される土偶は共通して皆同じ王冠を被っている様な頭部を持っていた。

他にも出土した土器等にもその王冠の様な形状が象られているのだ。

その事から、同じ時代の文明の物である事が分かる。

そして同時に発見される勾玉。

これも古の時代に作られた物とは思えぬくらい艷やかに美しく、傷一つ無い様な輝きを纏っているのだ。

最新技術で正に今作られた出来立ての物である、と言われても全く疑い様の無いその輝きは確かに異質であるとしか言えない。

そもそも勾玉自体、何の為に作られたのかは諸説あるのだが、どれも仮説に過ぎず決定的な答えは今の技術を持ってしても判明していないのが現状だ。

そこでこの多くの発見は、現代に更なる謎を深める要因となっている。


「綺麗な勾玉…画面越しに見てるだけなのに何か気持ちが落ち着くなぁ。それにあの王冠みたいな形の土偶…何かに似てるような気がするんだよね」


気がつくと私は、連日報道されるこの話題に強い関心を抱くようになっていた。

出土した土偶や勾玉を映像で見る度に何か不思議な気持ちになるのだ。

「何だろうこの感じ…昔遊びに行った田舎のおばあちゃん家の近くの景色を思い出す様な…何か懐かしい感じ。」

自分でも何を言ってるのか分からないが、とにかく何か懐かしい様な気持ち。

気がつくと毎日そんな事を考えてしまう。



「いけない、ゆっくりしてられないや!」

テレビに夢中になり時間をすっかり忘れかけていた。

これでは早起きした意味が無くなってしまう。

私は急いで朝食を食べ終えると、仕事着を着て長い髪を後ろで一つに纏め、冬の凍てついた空気の外へと出ていった。








「ホットコーヒーを一つお願いします」




家の近所のコンビニでコーヒーを頼んで、口にしながら少し離れた隣のバス停まで歩き始める。

凍てついては居るものの、いざ外に出れば澄んだ朝の空気は最高に心地良い物だ。

コーヒーを飲んだ後に口から白い息がゆらゆらと放たれるのは何だか気持ちいい。

絵に描いた様に小鳥のさえずりが優しく鳴り響き、ワクワクする様な感覚になる。

だからたまに歩くこのルーティーンが1週間には必要なのだ。

1つだけ気になる事があるとすれば、後ろの騒ぎ声。


先程のコンビニで若者の男の子が4人、入り口のドアの横でたむろしながら話している光景が目に入った。

風体は割と爽やか目に纏めているが声も大きく、あまり柄が良いとは思えない。学生だろうか。

少し嫌な感じがしたので私はコーヒーを買い直ぐにその場から立ち去ったのだが、行き先が同じだったのか、バス停まで着いてきたのだ。

別に私には関係ないし、相手にもしないから良いのだが折角の良い気分だったのでやはり少し気になる。

程なくしてバス停に着いた。
まだバスは来ておらず、到着まで時間がある。

余裕を持って出てきてるのでそうなるのは分かっていた。

いつもはそれで良いのだが今日はついていない。
例の四人組も同じバス停で止まったのだ。

騒がしい声が私の直ぐ後ろで発せられている。


「はやくバス来ないかな…」

と私は心の中で呟き、腕時計を見るとあと5分程時間に余裕があった。

いつもならあっという間の5分だが、今は果てしなく長く感じてしまう。

モヤモヤしてると、嫌な意味で予想外の出来事が起こった。


4人組の内の3人が私に声を掛けてきたのだ。


「ねぇねぇお姉さん、ちょっと良いすか?」

爽やかそうな顔をした若者が話しかけてきた。
今風の若者の典型の様な風体ではあるが、ピアスが沢山着いてたりとやはり何処となく柄は悪い。

「…何ですか?」

私は出来るだけ隠そうとしたのだが、嫌悪感を顔に出しながら返答してしまう。

「いやー、あの実はね、ほらコイツ。」

親指で後ろに控えていたもう1人を刺して男が言う、

「コイツがね、お姉さんが凄いタイプなんだって。めちゃくちゃ綺麗だもんねお姉さん。んで話しかけたいんだけどコイツうぶな奴でさ、声掛けられないって言うから。だから着いてきちゃってそこは凄く失礼なのは承知の上で、申し訳無いんだけどさぁ、」

「辞めてくださいよ先輩!確かにタイプですけどそんなハッキリ言ったら気まずいじゃないですか!」

3人の後ろに居た青年が叫んだ。
かなり大きい声で。自転車で通りかかる通行人が不意に振り向くくらいには大声だ。

「バーカ、だからお前ダメなんだよ。ごめんねお姉さん。家近いの?もし良かったら今度遊ぼうよ、連絡先とか教えてくれない?」

「何で先輩がナンパしてんすか!俺が狙ってるのに!お姉さん!彼氏居ますか?居ないなら俺と遊び行きません?」


大声で笑いながら喋るその光景は不快以外の何でも無い。折角の良い朝が台無しにされた私は言い返さずには居られなかった。


「彼氏は居ませんよ。」



「マジ!?よっしゃ!!じゃあ連絡先教えてよ!俺良い店知ってるから今度行こう!?何なら今から仕事サボっちゃいなよ!」




「彼氏は居ません、作る気もありません、私は仕事が忙しいんです。それに、あなた達いくつですか?若者でしょうけど、初対面の人間にいきなりタメ口で話し掛けるなんて、その歳で礼儀も分からない勉強不足の男の人と関わるなんて御免です。」


「えぇ、そんなごめんごめん!嫌な気分にさせたなら謝るよ!でも気になる女の子に声かけるの勇気が居るんだよ?それくらいお姉さんに本気だよ!」

私がタイプだと言った青年が言い返してきた。
うぶとは言っていたが、明らかなにうぶな人から出てくる様なセリフではない積極的な口調で。


「本気?私と話したの今が始めてですよね?それで何に本気になれるんですか?本気ってそんな簡単になれる物じゃ無いですよ?少し礼儀を勉強してから女の人に声を掛けなさい。私はあなたと関わる気なんてありません」

「おいなんだよちょっと言いすぎじゃね?コイツなりに頑張ったのにさ、それにガキ扱いしてくれるけどアンタも別に歳いってないだろ?そんな歳も変わらないくせに少し上から目線過ぎねぇか?俺ら23だぜ?」

先輩と言われていた男が少し高圧的に言い返して来て、自慢げに年齢を言ってきたので私は食い気味に

「私30歳ですけど?」


えっ?

全員が驚いた様な顔をして沈黙が流れる。


「年齢知った途端腰が引けて、それで何が本気なの?情けない。もっと若くて綺麗な女の子に声を掛けて来たら?」

私も大人気なく口調が高圧的になってしまったが、後悔は無い。

その後若者達はブツブツと何か言っていたが、いいタイミングでバスが来てくれた。

プシュッとドアが空いて、行く手を阻むように佇んで居た4人の真ん中を通り、

「どいて。」


と一言浴びせて私はバスに乗った。


良い気分だった朝の雰囲気は、どこか遠くへ行ってしまった様な気持ちになった。

たまたまバスの席に座れた私は、はぁっと大きなため息を着く。

「彼氏、かぁ。もうあれから4年経つんだ…」

バスの窓の外の景色を見ながら、ふと私は思い出したくない過去の事を思い出してしまった。

私も30歳となった。
独身で恋人の類も全くない。

仕事一筋、と言われても仕方ない程に多忙な毎日を過ごして居てそれどころではない。

むしろ、そうする事で自分を恋愛や結婚と言った物から意図的に遠ざけているのかもしれない。

年齢的に、結婚について周囲からとやかく言われる事は尽きない。

正直それがかなりのストレス。

なぜ周囲や世間体の価値観に合わせて、自分の生涯のパートナーを選ぶ最大の行事を強制的に決めなければならないのか。

自分にとって生涯を共にする大切な人を選ぶ事くらい自分のタイミングでしたいものだ。

「もう誰かを好きになったりとか、そう言うの、無いな。」

ボソッと呟いた。

声に出したつもりは無いが、無意識に言葉で出てしまって居たのか、隣の席に座っていたお爺さんと目が合ってしまい私は急いで視線を逸らした。



今はその時ではない、と自分で思っている時に無理やり周りの人に押されて結婚相手を見つけては、その先に良い事など無いと私個人は思っている。

そんな同調圧力で結婚して、お互いが幸せなのか。

勿論結婚の価値観なんて人それぞれだし、正解なんて無い。

でもだからこそ、私の人生の価値観を他人に決められるのは正直かなり嫌だ。

勿論結婚だってしたい、と思った事も無いわけでは無い。

むしろ、親に言われるがまま結婚する直前まで話が進んでいた事があった。

相手は両親と深い交流がある家庭の息子で、同い年で私の大学の同期だった。

先に結論から言うとこの縁談は破局したのだが。

時代的に珍しくお見合いの様な形で交際が始まり、同じ大学に通いながら学生時代はそれなりに彼とは恋人として過ごしていた。

就職して結婚を前提に同棲を始めてから暫く、多忙となりお互いが触れ合う時間も減って行き、長く続く交際期間もあったせいか、互いに関心が薄れていたのも何となく感じていた。

空気の様な存在になっていたんだと思う。

しかし、親の手前何とかうまくやらねばと言う使命感みたいな物もあって。

決して相手は悪い人じゃ無いし、多彩な才能を持ったエリートの様な人だった。

結婚したら、きっとそれなりの安定があるのだろうなと素直に思っていた。

でも何か、情熱と言うか、人間的な何かが少し足りないような人でもあると私は感じていたのだ。

それを感じ始めた頃から気づいておくべきだったのだろう。

どれだけ長く同じ時間を過ごしても、人には知らない一面がある物だ…。


「あれから何か…作業で毎日生きてるみたい。気がつくとあっという間に時間が経つし、なんか毎日に質感が無い様な…なんか現実感が無い様な違和感があるな…」



そんな考え事をしながら窓の外をボーっと眺めていると、次のバス停が職場前である事をすっかり忘れてた私は我に返り慌てて降車ボタンを押しす。

バス停は目前で、降りる人は誰も居なくて危うく通り過ぎる所だった。


「すいません!降ります!!」


急いで私はバスを降りた。



やっぱり今日はついてない。

これから1日が始まると言うのに…。







【おはようございます】

会社の入り口から事務室に入り、朝の挨拶を交わす。


さぁ仕事の始まりだ。

私の仕事、それは記者兼編集者。

ピクトウェーブと言う、ウェブニュースの配信やローカル雑誌を発行する小さな編集社が私の職場だ。


沼津で起きた様々な出来事を記事にして配信をするWEBメディアの制作等をしながら取材を行う。

「イザナミー、ちょっと来て」

出社早々に私は編集長に呼ばれ、大きめの少し高級感のあるテーブルに鎮座する彼の前まで赴いた。

そして編集長の口から放たれて私に舞い込んできた今日の仕事は、思わぬ話題の取材だった。



「えっ、最近出土してる土偶と勾玉の取材ですか!?」



「そうそう、戸田までちょっと行って取材して来てよ。今日中にウェブニュースの記事にして欲しいんだよね」

この坊主頭のガタイの良い中年の男性は、佐田編集長。

どうにもやる気と言うか、そう言った物が欠落しているような脱力感を纏ったどこか頼りない男性だ。

何事にも効率的な行動を優先する為、仕事のパフォーマンスは決して悪くはないしこう見えて腕も立つ。

しかし私とは少し反りが合わない部分もあり、あまり得意なタイプではい。

仕事の方向性で対立する事もたまにあったりする。

何かと面倒な仕事を私に押し付けて来る節もある。

今日のこの取材もハッキリ言って面倒な仕事の類ではある。


今日中に…取材自体もかなり時間が掛かるしここから戸田までは同じ県内とは言えど少し遠い。

かなりのハードスケジュールだ。

他にもやらなきゃ行けない仕事もある。
後輩の書いた記事の修正やチェックもある。

しかし幸いまだ朝早い時間。

今直ぐに動き出せば残業は何とか回避できる筈だ。

「分かりました。直ぐに現地に向かいます。」


「即答じゃん、良いね。なんか気合入ってる?」


思いの外拒絶反応が無くすんなりと受け入れた私の返答に、編集長は困惑した様にも見えた。


確かにこの仕事、今の私には持って来いの案件ではある。

毎日の様に気になっていたあの土偶の現場に直に触れられる。

あの土偶から感じていた違和感の正体ももしかしたら判明するかもしれない、そんな期待感もある。


「現地に考古学研究所の人達が居てアポ取ってあるから、その人達と地元住民の人達に適当に取材頼むね。あとこれ、一応最近見つかった最新の土偶の資料だって。目を通しておいて」

編集長はそう言うと、印刷された数枚の紙を束ねた資料を渡してきた。


私は簡単に目を通すと、先日のニュースで報道されていた土偶の詳細な写真が何枚か写っており、少し気持ちが高ぶる。

すると私は、ある1枚の写真が気に止まった。

「あれ?これ…?」


「どうした?」


「いえ、この土偶だけニュースでまだ見たこと無い物だなぁと」

ニュースではまだ報道されていない新しい土偶の写真がそこにはあって、私はそれを見て何か見覚えのある様な変な気持ちになった。


「あーそれね、なんか昨日見つかったばかりの新しいやつなんだってさ、よく分かんないけど。そんな興味あんの?そう言うの好きなんだっけイザナミは」


「いえ…特にそう言う訳では…でも何かこれ…?」

やはりこれ、どこかで見たことがある様な気がするのだ。

たぶん何かに似ているんだ。
きっと比較的多くの人がそれを知っている筈だ。

編集長や他の人もこれを見て何も思い出さないのだろうか?


私はそこに変な違和感さえ感じた。


「ん?何よ?」

「何でもないです。じゃあ私早速現地に向かいます。車のキー借りてきますね」

何もピンときて無い様な編集長のリアクションを見て、私はこれ以上彼に追求しても無駄な様に感じたのでそのまま言葉を押し留めて、編集長から会社の車のキーを受け取るとオフィスを後にする。


「イザナミ先輩おはようございます!あれ、まだこんな時間なのに取材ですか!?」

オフィスの外に出ると、正に今出勤して来た後輩の女の子が私に挨拶をしてきた。

この子は新人のミキ・リサ。

元気が良く活発な女の子で、何かとパワフルな子だ。

一応この子の直属の上司が私になる。


「おはようミキちゃん。そうなの、今からちょっと戸田まで取材。」


「うーわ、ちょっと遠いですね。まーた編集長、先輩に面倒事押し付けて…自分はいつもタバコ吸って昼寝してるだけじゃないですか」

ミキちゃんはバッサリと編集長の愚痴をこぼす。

まぁ、私も普段から感じている事ではある物の口には出せない事だから代弁してくれてる様で少しスッキリする。

「あはは、そうだね。でも今回の取材は私自身も気になってた事だから少し楽しみなの」

「そうなんですか?何の取材で?」


「土偶だよ。最近毎日ニュースで見るでしょ」


「土偶…?毎日流れてるんですか??」


ミキちゃんはアッサリと言い捨てた。

どうやら全く関心がないのか、知らないらしい。

それにしてもあれだけ報道されているニュースを知らないとは…編集社勤めとしてそれはかなりアウトなのでは…?と正直思ってしまう。

「ま、まぁそう言う話題もあるのよ。たまにはニュース見てみなさいね…」

「はーい!それより聞いてくださいよ先輩!今日私、彼氏との記念日なんです♪」

ミキちゃんは私の話題を完全に跳ね返し、陽気な話題をぶち込んで来た。

全く…楽しそうで何よりだが。

「そうなんだ、おめでとう。じゃあ今日はデートするんだね」

少し返答に困ったが、当たり障りない祝辞を送りつつ質問してみた。

「はい!今日は良いお店予約してあるんで早く仕事終わらせて何としても定時に帰ります!!」


キラキラと輝く彼女の瞳は今の私には眩しすぎた。


「そうなのね、なら頑張らないとだね。しっかり仕事片付けて。じゃあ私は行くね」

「はーい!先輩も頑張って下さいね!」

早めに会話を切り上げたいと言う私の内心がバレる前に何とか場を収めて私はその場を後にした。

すると背後から大きな声が聞こえてきた。
編集長の怒った声だ。

ふと振り向いて見ると、出社早々にミキちゃんが編集長に怒鳴られている様子が目に入った。

何をしたのだろうか。
新人故にミスも沢山あるだろう。

仕方ない事ではあるが、直前のあの幸せムードからいきなり怒鳴られては流石にミキちゃんが可哀想でいたたまれない。


しかし私も仕事の時間だ。
可哀想ではあるが私は取材に向かった。




駐車場に停めてある会社の車に乗り、助手席に荷物を乗せていざ出発と言う時に、私は改めて先程の資料に目を通し、何かに似ていると感じた物の答えに辿り着いた。



「これ…火星の人面岩そっくりだ…」


恐らく多くの人が知っているとは思う火星の人面岩。

都市伝説界隈では定番の物で、現在でも多くの議論が成されている火星の人面岩。

人の顔をした巨大な岩が火星にあるとして、様々な説が浮上した事は有名だろう。

火星の古代文明の遺産、と言う見方が当時の主流だった。

実際に火星に存在している物である事は間違いないのだが、現代になりあれは自然に出来た物であるとし、古代文明説は否定されている。

それでも尚、この人面岩の存在は多くの人のロマンを掻き立てる物として、一部の人達からの関心が未だに強い。

私自身も、こういった宇宙のミステリー的な物は関心がある。


広大な宇宙、どこまであるのかも分からない未知の無限の空間で、私達の知らない文明があってもおかしくない。

人間が文明を築いてからの時間というのは、この宇宙から見れば瞬きの如く一瞬である。


これから取材する土偶も、そんな瞬きの刹那に産み落とされた痕跡の1つだ。


「火星の人面岩に似てる土偶が地球で…ふふ、まさかね」


私はまるで少年の様な童心に少し火がついた様な気持ちになったが、直ぐ様その気持ちに蓋をして仕事モードに切り替えて車のエンジンを着けた。

すると次の瞬間、一瞬だけ鋭い頭痛が頭全体に走った。


「痛っ!」






「何この頭痛…何か聞こえた様な…」


一瞬の痛みで何かの音を幻聴と聞き間違えたのだろう。


「気のせいか…眼精疲労で頭痛がしたんだろうな…行く前に栄養剤買ってこう」

連日の眼精疲労と疲労で頭痛がしたのだろう。

痛みも一瞬で治まり、特に私は気にする事もなく車を走らせた。












つづく。

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