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命の恩人
しおりを挟む移動には最高峰の馬車を使用しても数日かかった。なにせわざわざ山を登ってから私を捨てるのだ。
それならいっそのこと死刑にすればいいのに。
私はそう思いつつも、馬車に揺られていた。
「降りろ」
そしてついにその時はやって来た。
一面雪景色の極寒の世界で私は下ろされ、馬車は引き返していく。
服は用意してくれたけれど、他には何もないのだ。
「寒い……」
私は寒空の下、震えながら歩いた。
聖女の力があってもお腹は膨れない。傷を癒しても身体は何度だって傷ついていくし、私が行使できる魔力にも限界がある。
消耗するのなんてあっという間だった。
「私は……ここで死ぬんだ……」
心も身体も衰弱し、雪の中に倒れ込む。
生きていたってもういいことなんてない。
「グルル……」
ここを住処とする生物が私を見つけたのか、近寄って来る。
狼か、熊か……アンガス山脈にはそういった凶暴な魔物が住んでいると本で読んだことがある。
一生無縁だと思っていたけれど、こんなこともあるんだ……
でも、良かったかもしれない。
彼らの血肉となって生きるのであれば。
私、役に立てたのかな……?
そう心の中で瞳を閉じた瞬間、
「はああああっ!」
誰かが私と魔物の間に入って来た。こんな山奥にいるなんてあり得ない。それこそ、冒険者か何かでなければ……。
そう思って顔を上げると、もこもこの衣服に身を包み、剣を携えた青年がいた。
「君、大丈夫? いや、そんなわけないか。おーい、来てくれ!」
せっかく話しかけてきてくれたのだけれど、私は返事をする気力すらなく。
他にも何人かやって来たのを確認してから、気絶してしまった。
「……はっ!?」
それから体感で一時間くらい経過してから私は目を覚ました。
身体を起こすと、私を包んでいたのは冷たい雪ではなく温かい毛布だと気が付く。さっきの青年がかけてくれたのだろう。
今すぐにでもお礼を言いたかった。
「お、起きたのか」
「貴女は……?」
が、上半身を起こした先にいたのは女性だった。
ドレスなんかは着ておらず、おへそや太もも、腕を大きく露出させている女性。そんな恰好でいたらメイドに叱られる!
そう思ったけれど、ここは城の中――ましてや私の元居た国ではないことを思い出した。
「あたしはライラ。誰だって顔してるな? お前を助けた男の仲間だよ」
「あの方のお仲間……?」
「ああ。ちょっと待ってろ、呼んでくるから」
物騒な顔に似合わず、親切にしてくれる女性を見送り、私は待ち続ける。
まだ上手く身体が動かせないらしい。
立ち上がろうとしたが、立ち眩みがしたのですぐにベッドに腰かけてしまった。
「おっと。まだ立ち上がらない方がいい」
「あ」
するとタイミング悪く、私を助けてくれた声の持ち主が入って来た。
黒い短髪の青年。
優し気な表情とは裏腹に、身体はがっしりとしていた。
私はしばらく彼の言う通りに休むことにした。
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