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八岐大蛇

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 朝食後に、デルタが急に倒れた。これについては、封印している“力”の消費が激しくなり始めたことで、その消費が激しくなった事によるものだそうだ。一時的な気絶で、命に別状は無いらしい。…封印が解けるのが思ったより早い。
封印が解けるのは確定事項だったが、それでも後2週間ほどは別段何も無い筈なのに。

「さて、これからどうしようかなぁ?デルタは“力”の回復が使用量に優っているから今の所危険はないけど…八岐大蛇の抵抗によってはちょっと不味いかもね。一応デルタと封印の接続は、私が今切ることもできるけど……封印が壊されるのが格段に早くなるだろうね。」
「…そうだな。いっそ切ってしまおうか。このままでも、いつかは戦わないとだろうし。明日に切ることはできるな?」
「もちろん。じゃあ、決行は明日という事で…じゃ、私は今できる限りの力を取ってくる。“力”は周囲に広がってる物を回収すればもう少し増やせる筈だから!」

 そう言って何処かへ行くルーを見送り、俺自身も修練に向かった。…と言っても、やる事は少しでも戦闘が上達する様にすることだけなんだがな。
  
 決行は明日だ。


______神獣アルファside______

 鬱陶しい。最近、俺の領域に楽園が増えた気がする。早くデルタの手伝いに行ってやりたいんだが………今になって、俺への総攻撃の様なことが起こっている様だ。このレベルの敵に不覚は取らんが、ここを離れるとなると少し不味い状況にある。ベータ序列二位ガンマ序列三位に行って欲しいが…あの二人は無いだろうな。あの二人は二人で使命があるからなぁ…オメガ無限の可能性の鳥でも言ってくれれば…と思っている間に行っている様だな。…しかも、化物が一人いるなぁ。ま、八岐大蛇大化物を倒し得るなら大歓迎なんだが……。む、なんか妙に大きい力を使ったな。…うわぁ、これはひどい。

 …まぁ、そっちオメガの近くにいる化物には何か別の神がいるらしいな。これは、一生のお願いというヤツだ。どうか八岐大蛇を倒してくれ。じゃなければ、昔の厄災が始まってしまう。頼む____!

 あぁ、また来やがった。こいつら…もしかしてまた何かたくらんでいたりせんよな。最近の勢いは何か普通と違う所がある。八岐大蛇も有ると言うのに……まさか、封印が解けそうなのは、こいつらのせいか?その可能性が高そうだな。ちっ、第一位と言われているのに、不甲斐ない。もう、あいつらに祈るしか無いな。

 そんな事を考えながら、まだまだ来ている厄介者楽園の下っ端に対処するために、俺はまた戦闘術式を展開すると同時に起動した。なるべく早くあっちの戦いに行けるように。


______星野蓮斗side______

 決戦の日が来た。俺は、自分の中にある神話の時代の怪物八岐大蛇との戦いに対する緊張で、朝早く起きることになった。そして、外に知っている気配があるのに気付いた。全く、安静にしないといけないと言うのに。

「やぁ、来ると思ったよ。星野蓮斗君。」
「はぁ、安静にしておかないとダメだろ、デルタ。またぶっ倒れたらどうするつもりだ?l

 そう、外にいた気配の持ち主は、あの時壮大な星空を見上げた時と変わらぬトーンで話しかけて来たデルタだった。…こいつ、また調子崩したらどうするつもりだんだろう?下手したらルーに布団に括り付けられかねない気がするんだが。

「いやぁ、つい外に出たくなってね。星でも見ようかなと思ったけど…曇っているんだよねぇ。って、星野君?何するつもり?」
「…吹っ飛ばすんだよ。これはなんか不吉だろ?【散れ】。」
「いや、言霊くらいで散るわけが…えぇ…。」

 この山を覆っていた厚い雲を【コトノハノコトワリ】で消すと、なんか変な声を出された。…これ、そんなにおかしい事なのだろうか?

「うわぁ…雲の奥は綺麗だなぁ…。」
「そうだな。すごい量の星が輝いている。」
「うん…ねぇ、明日は気を付けてね。元々僕の力及ばぬで起こった事だし…。」
「いやいや、あれは仕方なかったんだよ。ここからでもあいつ八岐大蛇の力を感じれる。あれは正真正銘怪物だ。むしろ、この時代までお前一人で封印できた事が凄いんだよ。」
「それでも…いや、じゃ、約束だ。戦いが終わったら三人で星を見よう。絶対だよ。」
「いいな、それ。わかった。約束だな。【俺らは全員で生き残る】。」
「…言霊でそんな事が、普通は叶うわけがないんだけど…君のならなんか意味がある気がする。」

 叶うさ。絶対生き残ってみせる。いつの間にか、俺の心を埋めていた緊張が綺麗に消えていた。


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