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料理の腕で差を見せつけられ、打ちのめされたあたしは、ますます躍起になった。
そもそも、日本で作る料理とは材料からして違いすぎるのだ。
せめて、醤油と砂糖があれば、多少はマシな料理ができるのに。
(って、醤油なんてあるわけないな。砂糖なら、あるいは……)
今のところ、キッチンには窓から吊るされたにんにくと玉ねぎとハーブ、塩、干し肉、ラードっぽい何か(うっすらとチーズみたいな乳製品の味がするが、温めると透明になるので、脂には違いなさそうだ)、あとはワインのような香りの酒くらいだ。
あまりに調味料のレパートリーがない。
この世界ではこれが当たり前なのかもしれないが、砂糖か、それがなくても蜂蜜くらいは欲しいところだった。
「ねえ」
思い切って話しかけてみる。
あたしは言葉遣いに気を使うのはやめていた。あまりペコペコと卑屈な態度も良くないだろうという判断である。
はじめは、言葉遣いや態度を見咎められて、生意気だと思われるかもしれないなどと考えていたが、どう考えてもこの男はそんなことを気にしない––––というか、あたしについての一切合切を気にしていない。
きっと「死ななきゃいいだろう」くらいに思われているに違いない。
それはさておき。
「あの……砂糖ってないですか」
男に反応がないので、気にせず続ける。
料理のレパートリーを増やすためにも、ジャム以外の甘みが欲しいところだ。
ジャム付きの肉料理も慣れると悪くないのだが、どれも同じ味になるのだ。酸味もあるし、正直調味料としては使いづらい。
「あたしの故郷の料理では、砂糖と……大豆から作ったソースをよく使っていて、美味しいんです。ソースは無理でも、砂糖があるだけでも多少はマシな料理が作れると……あ、砂糖じゃなくて、蜂蜜でも、なんでもいいですけど」
すると、男は珍しく本から目を離し、キッチンに向かう。
そして食器棚の上にある壺を取り出して、まな板の横置いた。
(壺……? 砂糖……?)
(あたしの言葉に反応するなんて、珍しいこともあるもんだ)
そして、他にも酒瓶、香水瓶みたいな瓶、おろし金みたいな道具やらを置いて、また自分の席に座った。
あたしはなんと言ったらいいかわからず、とりあえずキッチンに向かう。
壺を開けると、焦げ茶色の塊が入っていた。
(この匂いは、黒砂糖?)
石みたいな塊だが、おそらくおろし金ですりおろして使うのだろう。
(あたしのために用意してくれた?)
「あの、ありがとうございます」
男に声をかける。
言うまでもなく、一切の反応無し。
(お礼を無視されるのって、けっこう堪えるな)
だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
男は間違いなくあたしの安全を守り、かつ養ってくれている。
対してあたしは何の役にも立っていないのだ。こんな状況で、男の態度に腹を立てるのは、どう考えても人として間違えている。
(まぁ、それでも無視する人間のことを好意的に見ることはできないんだけど)
(慣れよう。こういうものなのだと思おう)
せめて、男の態度を責めたり、返事がないことに腹を立てたりするのはやめようと決心する。
(で、だ)
(この瓶、なんだろう)
ここに置かれたということは、使ってもいいということだろう。
瓶の蓋を取る。
(これは、なんだろう、焼酎みたいな匂いがする。うーん、まぁとにかくお酒?)
(こちらは、ちょっとスパイシーな……うん、ちょっとウスターソースに似てるかも?)
そして。
「これって……!?」
それは、どこか醤油に似た香りの液体だった。
正確に言うと、ちょっと古くなって悪くなった醤油に、スパイスかハーブを漬け込んだような香りだった。
まぁ、実際は明らかに醤油ではないのだが、なめてみるとしょっぱくて、若干の酸味と、醤油に似た渋みと甘みがある。
(これなら、醤油の代用になるんじゃない?)
(じゃがいもに似た芋もあるし、イノシシの肉も、玉ねぎもある)
(なら、作るのは一つしかない)
肉じゃがを作ろう!
そもそも、日本で作る料理とは材料からして違いすぎるのだ。
せめて、醤油と砂糖があれば、多少はマシな料理ができるのに。
(って、醤油なんてあるわけないな。砂糖なら、あるいは……)
今のところ、キッチンには窓から吊るされたにんにくと玉ねぎとハーブ、塩、干し肉、ラードっぽい何か(うっすらとチーズみたいな乳製品の味がするが、温めると透明になるので、脂には違いなさそうだ)、あとはワインのような香りの酒くらいだ。
あまりに調味料のレパートリーがない。
この世界ではこれが当たり前なのかもしれないが、砂糖か、それがなくても蜂蜜くらいは欲しいところだった。
「ねえ」
思い切って話しかけてみる。
あたしは言葉遣いに気を使うのはやめていた。あまりペコペコと卑屈な態度も良くないだろうという判断である。
はじめは、言葉遣いや態度を見咎められて、生意気だと思われるかもしれないなどと考えていたが、どう考えてもこの男はそんなことを気にしない––––というか、あたしについての一切合切を気にしていない。
きっと「死ななきゃいいだろう」くらいに思われているに違いない。
それはさておき。
「あの……砂糖ってないですか」
男に反応がないので、気にせず続ける。
料理のレパートリーを増やすためにも、ジャム以外の甘みが欲しいところだ。
ジャム付きの肉料理も慣れると悪くないのだが、どれも同じ味になるのだ。酸味もあるし、正直調味料としては使いづらい。
「あたしの故郷の料理では、砂糖と……大豆から作ったソースをよく使っていて、美味しいんです。ソースは無理でも、砂糖があるだけでも多少はマシな料理が作れると……あ、砂糖じゃなくて、蜂蜜でも、なんでもいいですけど」
すると、男は珍しく本から目を離し、キッチンに向かう。
そして食器棚の上にある壺を取り出して、まな板の横置いた。
(壺……? 砂糖……?)
(あたしの言葉に反応するなんて、珍しいこともあるもんだ)
そして、他にも酒瓶、香水瓶みたいな瓶、おろし金みたいな道具やらを置いて、また自分の席に座った。
あたしはなんと言ったらいいかわからず、とりあえずキッチンに向かう。
壺を開けると、焦げ茶色の塊が入っていた。
(この匂いは、黒砂糖?)
石みたいな塊だが、おそらくおろし金ですりおろして使うのだろう。
(あたしのために用意してくれた?)
「あの、ありがとうございます」
男に声をかける。
言うまでもなく、一切の反応無し。
(お礼を無視されるのって、けっこう堪えるな)
だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
男は間違いなくあたしの安全を守り、かつ養ってくれている。
対してあたしは何の役にも立っていないのだ。こんな状況で、男の態度に腹を立てるのは、どう考えても人として間違えている。
(まぁ、それでも無視する人間のことを好意的に見ることはできないんだけど)
(慣れよう。こういうものなのだと思おう)
せめて、男の態度を責めたり、返事がないことに腹を立てたりするのはやめようと決心する。
(で、だ)
(この瓶、なんだろう)
ここに置かれたということは、使ってもいいということだろう。
瓶の蓋を取る。
(これは、なんだろう、焼酎みたいな匂いがする。うーん、まぁとにかくお酒?)
(こちらは、ちょっとスパイシーな……うん、ちょっとウスターソースに似てるかも?)
そして。
「これって……!?」
それは、どこか醤油に似た香りの液体だった。
正確に言うと、ちょっと古くなって悪くなった醤油に、スパイスかハーブを漬け込んだような香りだった。
まぁ、実際は明らかに醤油ではないのだが、なめてみるとしょっぱくて、若干の酸味と、醤油に似た渋みと甘みがある。
(これなら、醤油の代用になるんじゃない?)
(じゃがいもに似た芋もあるし、イノシシの肉も、玉ねぎもある)
(なら、作るのは一つしかない)
肉じゃがを作ろう!
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