思い出に花を、君に唄を

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今までと違うこと

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 「嘘……?」
 「はい。一度言ってみたかったんですよ」
 さっきまでの顔つきは何処かに言ってしまったように、医者は笑顔で言った。
 「結構重傷だったんですよ。刺されていたり、撃たれていたりと。一体何をどうしたらこの平和な国であんなことになるのか、是非聞きたいくらいですね」
 医者は軽く重傷だったことを伝えては来るが、余り実感はない。
 試しに、体に力を入れてみる。
 「うっ」
 予想異常だった。
 腹から痛みが広がり、それが全身に行き渡る。
 この痛みを我慢しろと言われても、到底無理だろう。
 「あぁ、無理なさらないでください。まだ傷すら塞がっていないのですから」
 これ以上何かをするつもりも、痛みに耐える気も無かった俺は、ゆっくりと全身の力を抜いた。
 「しばらくは安静にしていてくださいね」
 医者はにっこりとした後、部屋を出ていった。
 誰もいなくなってしまった部屋はとても静かだ。
 思い返してみれば、こんなに穏やかな気分で過ごすのはいつぶりなのだろうか?
 毎日、家族のためを思って仕事に行った。
 毎日、がむしゃらに夜まで頑張った。
 毎日、家族の文句にも耐えた。
 毎日、一人で寂しい朝を過ごした。
 思い返せば、辛かったことばかりを思い出す。
 いつからなのだろう?こんなにも自分を押し殺して過ごすようになってしまったのは。
 いつからなのだろう?周りの名前を呼ばなくなったのは。
 いつからだろう?自分を見失ってしまったのは。
 今だからこそ気付ける。
 自分がどんな状態だったのか。
 自分が周りとどう接してきたのか。
 自分が自分自身をどうしていたのか。
 だが、もう苦しまなくていい。悩まなくていい。
 大抵のことは、この腹の痛みに比べればいくらかマシだ。
 今はそんな風に思える。
 それが、今回巻き込まれた奇妙な事件で得られた数少ない。それでも価値があると思える。小さな思いだった。
 「パパ……」
 一人で思いにふけっていると、一番聞きたかった声が聞こえてきた。
 「お前たち……」
 開かれた扉には、俺の愛娘である真理が立っていた。
 その後ろには、いつもと同じように怒った顔の妻もいた。
 「あなたって人は……」
 妻はやはり怒っている。
 だが、いつもとは違う。
 俺は、死ぬような、奇妙な体験をした。それが俺を変えてくれたのだから。
 だから、俺は行った。心を込めて。
 「参観日に行けなくて……悪かったな」
 妻はさっきまでの怒り顔が噓のように、驚いた顔をしていた。
 あろうことか、泣き出してしまう始末だ。
 今まで本当に申し訳ないことをしたな。と我ながら思う。
 「貴方って人は……8年ぶりに目覚めた一言目がそれなの。おかしな人」
 妻は泣きながらそんなことを言った。
 「え?」
 流石に声が出てしまった。
 今まで、穏やかな気分になり、もう自分は変わったのだと満足していた。その上、会いたかった家族とも再会できた。
 俺にとっては、申し分ないハッピーエンドだ。
 それでも、妻のいった強烈な一言が全てを破壊した。
 ハッピー何て言っていられなくなってしまった。
 「嘘ではなく……俺は本当に8年間眠っていたのか?」
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