カナリアボックス〜あなたに会えてよかった〜

本田すみれ

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二人のアカボシ

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「はじめまして、笑可ちゃん。、とっても会いたかったよ」
茶髪に赤のメッシュに紫のエクステを着けている玖蘭さんが笑可の家の近くのレコーディングスタジオで赤いアコースティックギターを構えつつ迎えてくれた。

彼女は5年前の性被害を乗り越え、コンスタントに歌を作り続ける実力派ミュージシャン。
よくアニメのタイアップなどにも起用されていると言えば凄さがわかるだろうか?

「玖蘭さん知ってからひたすら聴いてました。お会いできて光栄です」
「そんなかしこまらないで。タメでいいよ。私の音楽を聴いてくれたからにはもうRed AVALONの一員だね」

レッドなんちゃらってのは彼女のファンクラブの名前だ。
「さっ、セッションしようか。キーは何が好きなのかな?」
「D#です。フジファブリックのSugar!!のキーなので」
「なるほどね」

玖蘭さんがギターを奏で始める。
笑可は白玉なエレキをクリーントーンで鳴らしていく。
「心の奥底に~確かに~鳴り響くもの~。その手を~離さないで~私たちがいるから」
美しい歌声が響き渡る。
これがプロってやつか!

「ふふ、笑可ちゃんも歌い出してよ」
「わかりまし、わかったわ」
明日への~希望だけを~持っていきたいんだ~

二人の息はピッタリで笑可は笑顔を浮かべながら、
即興で歌い続けた。
2人で4小節ずつかわりばんこに歌う感じだった。
何かが始まろうとしていた。

「それじゃ、まだ未完成の新曲あるけどそのCメロ笑可ちゃん作ってくれるかな?」
唐突な無茶ぶりが始まった。
どうなるんだろう。

笑可はその歌のキーBをBmに転調させ、鮮やかに普段は使わないディストーションでパワーコードで弾いてみせ、その後にギターソロをゆっくり弾いた。

「笑可ちゃんってもうどこかの事務所に所属してるよね?   それくらい上手いんだけど!?    はあ、追い越されそうで怖いな」
「そんなに褒められると恐縮すぎます」

「じゃあ今から笑可ちゃんの歌う曲を即興で書き下ろす。山田ぁ!  準備して」
「はい」

そして笑可に4:21の歌を作って渡したのだった。
しかも最初から歌詞を即興で小説を書くような形で
歌ってみせた。
「小説書くの趣味でひたすら20万文字とか書いてたら、いつの間にか作詞する時弾きながら余裕で歌いながら作詞できるようになってたんだ」
そう玖蘭さんは語ってみせた。
笑可はラララ~やフフフーの鼻歌で歌メロを作ってから慎重に歌詞を書くから真逆だ。

「あのさ、2人で一緒にやりたい歌があるんだ。キンモクセイの二人のアカボシって曲で事件前よく聞いてた。
そこから数ヶ月は男性ボーカルの歌が聴けなかったけどあくまで性加害のゲス男たちと世の中のプロミュージシャンは別物だから、って考えたらまた聴けるようになってた 」

そう言いながら二人のアカボシの最初のコードを弾き続ける玖蘭さん。
「ようこそ音楽の世界へ。再始動してくバンドのように笑可ちゃん!  君もまた蘇生して再生できる。何度でも何度でも私たちは生まれ変わっていける」

どこかミスチルの蘇生じみた語りをメロディに乗せ、二人のアカボシの間奏中に言いまくる玖蘭さんの熱意に笑可は顔を赤らめてたかと思うと泣いて、ギターを弾くのを止めてしまった。

最後のサビを玖蘭ソロで歌いきり、すぐに泣きじゃくる笑可の頭を撫でる彼女。
「大丈夫?   なにかイヤなこと思い出した?」
気遣いもプロ級であった。

「いえ……ぐすっ。玖蘭さんってスゴく優しい方だなって」
「作曲でわからないことあったら、わかりやすく説明したコードの知識とか書いたメモあるから後で山田にコピーさせに行くよ 」
「いいんですか、そんな事までしてもらって」

「何言ってるのよ。私と笑可の仲じゃない」
「恩に着ます。私玖蘭さんに出会えてよかった」

「今からプロポーズするけど、どうしたらいいんだろう」
「へ?」
突然の申し出にビックリして、驚きの表情で固まる笑可。
「レコード会社は別々になるかもだけど、笑可ちゃん私の事務所に来なよ。社長が笑可ちゃんほしいって言って聞かないんだ。
もちろん私が社長に彼女どうですか!?  って君の初ライブの映像見せて売り込んだら乗り気になったんだけどね」

玖蘭の提案に笑可は「私にできるんでしょうか?」と不安げな声で答える。
「ああ。君にならできるよ。一緒に紅白出よう。
それまで体調に気を使ってな」

そしてスタジオを後にしようとするボクに耳打ちした。
「笑可を守ってくれ。私も被害直後から数ヶ月はガチで死のうとしていた。だから本当に彼女の動向に気をつけてくれ。
豹馬くんといったか。君が彼女を今まで手助けしてきたことを知っている。
でもだから彼女が突然命を絶とうとしたら全力で阻止してくれ」

ああ、死なせてなるものか。
玖蘭さんはボクに笑可へ渡しといてくれと金と銀のピックを2枚渡した。
「この銀のは君が笑可彼女と一緒に家でゆっくりギターを弾き合う時に使うといい。
もし笑可が本当に私たちの事務所に入るなら、君はマネージャーってことでいいか?」と聞いてきたのではいと答えた。

気分が悪くなり始めた笑可の背中をさすりながら、
帰った水曜日の帰り道。
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