カナリアボックス〜あなたに会えてよかった〜

本田すみれ

文字の大きさ
25 / 37

ROCKET DIVE

しおりを挟む
Zoomでその女性DTMerの『澤井水絵』と初対面した。
「私、北海道住みだから会いに行けなくてごめんなさい。前々から笑可さんの才能に惚れてたので私にギャランティ払って依頼しようとしてくれてるのは嬉しいんですけど、それならそのお金被害者団体に寄付してください」
「いいんですか!?」

「その代わり、カナリアボックスを歌ってくれませんか?
オケはこちらが作るので」

耳コピの上手い人なんだろう。
カナリアボックスはスゴくいい曲なのに、曲のコード進行を載せるサイトには未登録でボクはハーモニカでは少ししかメロディを奏でられない。

「それで猫の歩く時って新曲のデモ音源と完成してるボーカルのみのMP3を水絵さんに送りますね」
「わかった。私に任せてほしい。絶対いい曲にしてみせるから。今片耳で聴いてみてるけど、とてもポップで明るくてでも暖かい気分になれる歌だね」

「カナリアボックスの明るさを参考にしてみました。ループさせたリミックスを作っても違和感ないように、循環コードでネコネコネコネコって歌い続けるパートも用意してます」
「SEKAI NO OWARIみたいに動物団体に寄付するのアリかもね。2バージョンほどリミックス作るからそれを動物愛護団体に寄付して、通常盤は性被害の被害者団体に寄付するってのはどうかな」

「それいいですね。でも本当に私お金払わなくていいんですか?」
「笑可ちゃんからお金は取れないよ。それならMVとかにお金回してもらって」

水絵さんは音楽系の専門学校を卒業した後、仲間とバンド組んだりしたものの、男女関係のもつれや音楽性の違いで解散してそこからDTMをやり始めたという経緯を持つ。
人気Vtuberへの楽曲提供などを務めているから実力は折り紙つきだろう。

「私もDTMやってみたいんですよね」
「んー。ギター弾けるなら編集程度に使うくらいでいいかも。笑可ちゃんはこれからメジャー目指すんでしょ?   それならしっかりしたアレンジャー付くし、DTMは地獄だよ」
「……地獄ですか?」
「君たちと仲良くしてる山沢さんならわかってくれそうだけど、ソフトによって使い方が違いすぎるのと楽器がメチャクチャ弾ける人がうらやましくなるってのはあるよね」

「具体的には?」
「BPM(リズム)の調整とか訳分からん。いちいち数字いじって早くしたり遅くしたりするのめんどくて、たまにデフォルトの数値で出力しかける。
キーを自在に変えられるから、気軽に転調する歌を作るとかはできるけど」

「そうなんですね。ラストのサビに転調する歌とかどんなメロディに変わるかわからないので、そういう時は水絵さん頼っていいですか?」
「もちよ。ジャンジャン頼って。私は笑可ちゃんみたいな立派な理由で音楽やってる人間じゃないから」

水絵さんが音楽作る理由を笑可が聞くと、好きなバンドのギタリストに惚れているという反応が返ってきた。
なかなか俗物な理由で、逆にわかりやすくていい。

「私、オルガンの音好きなのでどこかのパートに入れてください」
そうリクエストした笑可にわかったと返す水絵さん。
画面に突如映る猫。
白いモフモフの猫だ。
「あっ、もうすみれってば。暴れん坊なんだから。じっとしててったら。この子時々家で走り出すの」
水絵さんが説明する。

猫好きな笑可は画面に釘付けだ。
「くふぅ……猫ちゃんかわいい!   水絵さん、なんであまり猫ちゃんの写真Xに貼らないんですか」
「自分だけのものにしてたいのと、Xにタグ付けて投稿するのめんどいからかな」

「それじゃdiscordかLINE交換して、貼り続けてください」
「私ゲーマーだからディスコでいい?   笑可ちゃんの作曲の原動力になるなら貼るよ」

ガッツポーズまでする笑可。
どうやら彼女の猫愛は本物すぎた。

「猫の鳴き声とかサンプリングしたいけど、なかなか鳴かないのよねこの子。
無口な猫ちゃんなの」
すみれをテーブルに乗せ、会話に戻る水絵さん。

「2月22日にはなんとか動画上げたいけど、間に合わなそうだよね。3月の最初とか確かその日も猫の日だったかな」
「そうなんですね」
「ずっと猫の日に何かアクション起こすためにも、笑可ちゃん。死んだら許さないよ」
「わかりました。ありがとうございます」

会う女性ほぼ全員が笑可が自殺しないか気にかける。
魂の殺人をされた女性はそのまま自らのタマシイを物理的にも自ら殺してしまう。
そんな最悪のパターンを知人にいたのかわからないけど、玖蘭さんも彼女も心配する。

なんとなくスマホをいじってたところ、YouTubeをタップしてしまいROCKET DIVEが流れ出す。
「バンド仲間がXやhideのファンだったな」
ぽつり、水絵さんが言った。

「私、1人きりでひたすら音楽作ってたけど寂しくなって色んなDTMerとかと接点持つようにしたんだ。
そしたら意外と温かい人たちばかりで、孤独に生きてきたのがバカらしくなったよ。
笑可ちゃんもどんどん音楽仲間増やすといいよ。
最初は女性限定に絞ってもいいから」

「そうですね、そうします」
水絵さんは猫のエサ買ってくるからこの辺でと締めくくり、打ち合わせは終わった。

そろそろ笑可にはメジャーを受けるかどうかを考えてもらわなければならない。
実はもう2件だけオファーが来ていて、大手と微妙な知名度のレコード会社の育成部門から声がかかっている。

最初は中堅なレコード会社からスタートして、やがて大手に行けばいいのでは?
そんなことを思った。
「笑可、相談あるんだけど」
「なに?」
「どこのレコード会社に入るんだ?」
「さだまさしさんと同じレコード会社がいい」

意外と彼が所属してる会社までは知らなかったので、今度調べとこう。
「じゃ、そこに決めよう。落ちたら別の会社かインディーズレーベル受けてみるのも悪くないはず」
「玖蘭さんと同じ会社ってのはプレッシャーあって」
「確かにね」
天才肌で境遇も似てるし、彼女と同じ会社に所属してしまうと何かと比べられることになる。
それは不幸な選択にしかならないだろう。

笑可の判断は正しいように思う。

後々、さださんが所属してるのは木村カエラさんや及川光博さん(ミッチー)、レキシが所属する大手だと知る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...