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第二章:浸透

お茶会という名の(4)

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 ステラリアが去った執務室で、ポーラニア帝国の皇太子であるレイジは小さく拳を握りしめた。

「やはり、あのドレスはステラリアに似合っている」

 今日のお茶会でステラリアが着ていたドレスは、レイジがデザインしたものではなく、帝都の人気デザイナーに持ち込ませたカタログから選んだものだった。

 そのほかにもいくつかまとめて注文していたが、レイジは改めて自分の選んだドレスが間違いでなかったことを確信した。

「明日はまた違うドレス姿が見られるのか。楽しみだな……」

 執務机に両肘をついて、組んだ両手に顎を乗せる。
 そうしてうっとりとつぶやいた声をかき消すように、咳払いの音が響いた。

「殿下、私がいるのをお忘れではありませんか?」

「なんだ、セルジュ。お前いたのか」

「最初からいましたよ!」

 見るからに不機嫌な表情を浮かべて、レイジがセルジュをにらむ。

「普通は交流のない令嬢と一対一でお茶会なんてさせないでしょう。いくら殿下がステラリア嬢のドレス姿をたくさん見たいからといって、そのために毎日お茶会をさせるなんて……聞いたことがありませんよ」

「まあ、前例はないだろうな。だが、ステラリアはそれを合理的だと受け入れているぞ?」

「それは令嬢が社交界を知らないからでしょう。いずれバレたら怒られますよ?」

 セルジュの忠告を受けて、レイジは破顔する。

「はっはは。そんなことで怒れる日が来るといいな」

 言って、レイジは目を細める。


 生き残るため必死になっている今のステラリアは、目の前の壁をひとつずつ乗り越えることしかできない。

 彼女が立ち止まってこれまでの歩みを振り返れるほどに余裕ができる日は、はたしていつ来るのだろうか。


「ステラリアは毎日ひとりの令嬢に集中して向き合うことができる。俺はステラリアのドレス姿を毎日見ることができる。完璧な計画だと思わないか?」

「ええ。ステラリア嬢にレイジ殿下の下心がまったく伝わらないところも含めて完璧だと思いますよ」

 皮肉交じりにセルジュは答える。レイジがこんなことを考えているなど、ステラリアは欠片も感じ取っていない。

「なに、時間はまだある。彼女の邪魔にならないように、ゆっくり進んでいければいいさ」

 そういうと、レイジは大きく伸びをしてペンを手に取った。

「さ、無駄話をしている場合ではないな。ステラリアがお茶会で頑張っている姿を見に行けるように努力しよう。セルジュ、お前もサボっていないで手を動かせ」

「なっ、誰のせいだと……!」

 セルジュが反論しようとしたときには、すでにレイジは集中して書類に向かい始めていた。セルジュはあきらめて自分の仕事に戻る。

 さまざまな思惑が絡み合いながら、皇太子宮の時間は過ぎていった。
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