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第二章:浸透
レイジへの借り(2)
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今日の帝国議会は、いつにもまして緊張感があった。
それは、ステラリアが議会に参加して帝国の発展のために議論したからだろう。
俺が発した「帝国のために生きてきた時期は貴殿らの方が長い。来たばかりの者に負けないよう議論を尽くすように」という言葉も、これまで多数に乗じていただけの貴族に届くものがあったと思う。
久々に議会が白熱し、少し閉会が遅くなってしまったが、相応の収穫があった。
それを思えば、この疲労も心地よいものだ。
俺はステラリアの議会での姿を思い起こしながら皇太子宮の玄関にたどり着き、護衛が扉を開ける。そこには――
「おかえりなさいませ、殿下」
あまりにも、あまりにも美しいステラリアが俺を出迎える姿があった。
パーティー用に用意したきらびやかなドレスを身にまとい、おそらくクラリスの手によって緻密に編み上げた髪がステラリアの金色の瞳を際立たせ、鮮烈な輝きを放っている。
なぜ、と思うより早く、思考が彼女に支配されてしまう。
この女性が俺の婚約者なんだ。そう思うだけで、たまらない幸福感が胸を焦がす。
「……殿下?」
ステラリアの呼びかけで、俺は現実に引き戻される。
「す、すまん。出迎えありがとう、ステラリア」
言いながら、俺は駆け出しそうになる足をなんとか抑えて彼女に歩み寄る。
今すぐにでも抱きしめてしまいたい気持ちを抑え込んで。
「どうしたんだ、急にこんなに気合を入れて」
「私が殿下をお迎えしようかと言ったら、急にクラリスが気合を入れ始めて……」
ステラリアは憮然とした表情でクラリスに視線を送る。
それにあわせて俺がクラリスに視線を送ると、どうだと言わんばかりの笑顔で礼をよこしてきた。
「……そうか。ならば、俺も相応の格好をしなければならないな」
「別に、私は気にしないけれど」
「それでもだ。すぐに着替えてくるから、先に食堂で待っていてほしい」
「……ええ、わかったわ」
パーティードレスを身にまとっていても、中身は間違いなくステラリアだ。
くだけた口調の彼女には違和感も不快感もない。
俺は彼女のそばを離れることを惜しみながら自室へと戻り、早く彼女の姿を目に焼き付けるべく着替えるのだった。
---
「大成功ですね、お嬢様」
レイジ殿下が自室に戻ったのを見送ると、クラリスがぐっと拳を握りしめた。
「そう? いつもどおりに見えたけれど……」
「いやあ、あれは無理にそう装っていますね。私にはわかります」
「どうして?」
「私は男社会の騎士団で生き抜くために他の騎士の表情から心理を読む努力をしていましたから。おそらく、本当に平静だったらもっと長く、気安く接していたと思いますよ」
クラリスは得意げにそう語る。
表情から心理を読むなど、簡単に身に付くものではない。
きっとそうせざるを得なかったもので、決して望んだものではなかったはずだ。
それでも、彼女は笑顔で、胸を張ってそれを語っている。
ならば、私からそれ以上言及するべきではないだろう。
「そう。そうだったらいいわね」
私が着飾ることで、殿下が心から喜んでくれるのなら。
生き延びるために、できることはやっておいていいのかもしれない。
今日の帝国議会は、いつにもまして緊張感があった。
それは、ステラリアが議会に参加して帝国の発展のために議論したからだろう。
俺が発した「帝国のために生きてきた時期は貴殿らの方が長い。来たばかりの者に負けないよう議論を尽くすように」という言葉も、これまで多数に乗じていただけの貴族に届くものがあったと思う。
久々に議会が白熱し、少し閉会が遅くなってしまったが、相応の収穫があった。
それを思えば、この疲労も心地よいものだ。
俺はステラリアの議会での姿を思い起こしながら皇太子宮の玄関にたどり着き、護衛が扉を開ける。そこには――
「おかえりなさいませ、殿下」
あまりにも、あまりにも美しいステラリアが俺を出迎える姿があった。
パーティー用に用意したきらびやかなドレスを身にまとい、おそらくクラリスの手によって緻密に編み上げた髪がステラリアの金色の瞳を際立たせ、鮮烈な輝きを放っている。
なぜ、と思うより早く、思考が彼女に支配されてしまう。
この女性が俺の婚約者なんだ。そう思うだけで、たまらない幸福感が胸を焦がす。
「……殿下?」
ステラリアの呼びかけで、俺は現実に引き戻される。
「す、すまん。出迎えありがとう、ステラリア」
言いながら、俺は駆け出しそうになる足をなんとか抑えて彼女に歩み寄る。
今すぐにでも抱きしめてしまいたい気持ちを抑え込んで。
「どうしたんだ、急にこんなに気合を入れて」
「私が殿下をお迎えしようかと言ったら、急にクラリスが気合を入れ始めて……」
ステラリアは憮然とした表情でクラリスに視線を送る。
それにあわせて俺がクラリスに視線を送ると、どうだと言わんばかりの笑顔で礼をよこしてきた。
「……そうか。ならば、俺も相応の格好をしなければならないな」
「別に、私は気にしないけれど」
「それでもだ。すぐに着替えてくるから、先に食堂で待っていてほしい」
「……ええ、わかったわ」
パーティードレスを身にまとっていても、中身は間違いなくステラリアだ。
くだけた口調の彼女には違和感も不快感もない。
俺は彼女のそばを離れることを惜しみながら自室へと戻り、早く彼女の姿を目に焼き付けるべく着替えるのだった。
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「大成功ですね、お嬢様」
レイジ殿下が自室に戻ったのを見送ると、クラリスがぐっと拳を握りしめた。
「そう? いつもどおりに見えたけれど……」
「いやあ、あれは無理にそう装っていますね。私にはわかります」
「どうして?」
「私は男社会の騎士団で生き抜くために他の騎士の表情から心理を読む努力をしていましたから。おそらく、本当に平静だったらもっと長く、気安く接していたと思いますよ」
クラリスは得意げにそう語る。
表情から心理を読むなど、簡単に身に付くものではない。
きっとそうせざるを得なかったもので、決して望んだものではなかったはずだ。
それでも、彼女は笑顔で、胸を張ってそれを語っている。
ならば、私からそれ以上言及するべきではないだろう。
「そう。そうだったらいいわね」
私が着飾ることで、殿下が心から喜んでくれるのなら。
生き延びるために、できることはやっておいていいのかもしれない。
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