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第三章:潮目
外へ(5)
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陽が傾き、休憩地点となる宿場町に到着した。
私が皇太子の婚約者になったこと、その人物像については帝国の誰が知っていてもおかしくないくらいには広まっている。ここで堂々と顔をさらすわけにはいかない。
とはいえ、クラリスが買出しに行ってしまうと私の周辺は誰もいなくなる。それはレイジが許さなかった。
ではどうするかというと、姿や身分を隠してクラリスと一緒に行動するしかない。つまりは。
「ど、どうかしら?」
「ええ。こう言ってはなんですが……似合っていますよ、お嬢様」
私はクラリスと同じつくりのメイド服を身にまとっていた。この日のために特注したものだ。
「それならいいのだけど……」
「この姿を絵にして殿下にお贈りしたいくらいです」
「それはやめてちょうだい」
髪を結い上げて長髪をごまかし、おでこを出すようにセットすれば、ひと目見ただけでは私だと判断がつかない……はず。
着てみて違和感はとくになく、動きやすい。なるほど、これならクラリスも仕込んだ短剣で身軽に戦えることだろう。
「あと、街で私をお嬢様と呼ばないこと。あくまで同じメイドという立場で出歩くんだから、ステラリアと呼んでもらわないと」
「え、えっと、じゃあ……ステラリア、さん?」
控えめにそう呼びかけられた私は、大げさにため息をついて。
「敬称もいらないわ。クラリスは私の先輩という立ち位置になるんだから、私をあなたの部下だと思ってちょうだい」
「そ、そんな……ええと、ステラ、リア……?」
「はい、クラリス先輩。ご指導よろしくお願いします!」
私が勢いよく頭を下げると、クラリスはさらにわたわたと両手を振って。
「ちょっと、勘弁してくださーい!」
と、悲鳴を上げたのだった。
そんなわけで最低限の買出しを済ませて宿に入った私たちは、ゆっくりと明日の流れを確認する。
「それにしても、ここまで野盗や喧嘩がないなんてずいぶんと治安のよさそうな街ね。人数の割には活気があって、それも安心して商売ができているからのようだし」
「ええ。実はここ最近、この街の治安は急速に改善されていっているようなんです」
「そうなの?」
「はい。今はお嬢様のおかげで各貴族家門は領地発展のためにあらゆる事業を興しはじめています。仕事がなくてやむなく野盗に身を落としていた者、家を持たない者を、住居と仕事を用意する代わりに雇い入れているようなんです」
「なるほど……」
それを狙っていたつもりはない。だけど、私の活動によって新たな雇用が生まれてて治安の改善につながっているのであれば、帝国全体にとって大きな利益となるはずだ。
「レイジはそのことも予想していたのかしら……」
「どうでしょうか。もしかしたら、ありえるのかもしれませんね」
私よりも深く考慮して、私よりも剣術に優れる。レイジの存在は、私にとってうらやましいとも思うけれど、悔しいという想いの方が強い。
(レイジの力を借りなくても、うまくやれるようになりたい……!)
今のままではいられない。改めて、そう思った。
私が皇太子の婚約者になったこと、その人物像については帝国の誰が知っていてもおかしくないくらいには広まっている。ここで堂々と顔をさらすわけにはいかない。
とはいえ、クラリスが買出しに行ってしまうと私の周辺は誰もいなくなる。それはレイジが許さなかった。
ではどうするかというと、姿や身分を隠してクラリスと一緒に行動するしかない。つまりは。
「ど、どうかしら?」
「ええ。こう言ってはなんですが……似合っていますよ、お嬢様」
私はクラリスと同じつくりのメイド服を身にまとっていた。この日のために特注したものだ。
「それならいいのだけど……」
「この姿を絵にして殿下にお贈りしたいくらいです」
「それはやめてちょうだい」
髪を結い上げて長髪をごまかし、おでこを出すようにセットすれば、ひと目見ただけでは私だと判断がつかない……はず。
着てみて違和感はとくになく、動きやすい。なるほど、これならクラリスも仕込んだ短剣で身軽に戦えることだろう。
「あと、街で私をお嬢様と呼ばないこと。あくまで同じメイドという立場で出歩くんだから、ステラリアと呼んでもらわないと」
「え、えっと、じゃあ……ステラリア、さん?」
控えめにそう呼びかけられた私は、大げさにため息をついて。
「敬称もいらないわ。クラリスは私の先輩という立ち位置になるんだから、私をあなたの部下だと思ってちょうだい」
「そ、そんな……ええと、ステラ、リア……?」
「はい、クラリス先輩。ご指導よろしくお願いします!」
私が勢いよく頭を下げると、クラリスはさらにわたわたと両手を振って。
「ちょっと、勘弁してくださーい!」
と、悲鳴を上げたのだった。
そんなわけで最低限の買出しを済ませて宿に入った私たちは、ゆっくりと明日の流れを確認する。
「それにしても、ここまで野盗や喧嘩がないなんてずいぶんと治安のよさそうな街ね。人数の割には活気があって、それも安心して商売ができているからのようだし」
「ええ。実はここ最近、この街の治安は急速に改善されていっているようなんです」
「そうなの?」
「はい。今はお嬢様のおかげで各貴族家門は領地発展のためにあらゆる事業を興しはじめています。仕事がなくてやむなく野盗に身を落としていた者、家を持たない者を、住居と仕事を用意する代わりに雇い入れているようなんです」
「なるほど……」
それを狙っていたつもりはない。だけど、私の活動によって新たな雇用が生まれてて治安の改善につながっているのであれば、帝国全体にとって大きな利益となるはずだ。
「レイジはそのことも予想していたのかしら……」
「どうでしょうか。もしかしたら、ありえるのかもしれませんね」
私よりも深く考慮して、私よりも剣術に優れる。レイジの存在は、私にとってうらやましいとも思うけれど、悔しいという想いの方が強い。
(レイジの力を借りなくても、うまくやれるようになりたい……!)
今のままではいられない。改めて、そう思った。
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